東方月紅夜~Guardian of sorrow spirit~ 作:酔歌
始まりであり、相違点。
*読了後に読むことをお勧めします。
紅魔館にて――
私、レミリア・スカーレットは大図書館に来ていた。理由は単純で、暇を持て余していたからだ。
魔法使いであるパチュリー・ノーレッジは、新しく仕入れた書を読んでいた。メイド長の十六夜咲夜に頼めば、香霖堂の古本をいくらでも購入してきてくれる。私と彼女は「レミィ」と「パチェ」で呼び合う仲ではあるが、決して相思相愛なわけでない。友人だ。
本人の言う事に書の内容は、魔法を使ってあるタイミングの未来を予測する方法を記した物らしい。
パチュリーは早速試すと言い、書を机から退けた。小さな丸鏡を置き、書の通りに詠唱を始めた。魔法を詠唱しているその姿は、真剣そのものだった。もっとも、私には何が書かれていたのか理解できなかったけれど。
「魔移りするわよレミィ」
パチュリーは私に注意を促したが、離れなかった。吸血鬼をなめるんじゃあない。しばらくすると、丸鏡の周りを漂っていた魔法陣が拡大し、一度止まったかと思えば今度は急に縮み始めた。
「わっ!」
丸鏡の中に消え、ある情景が浮かんできた。パチュリーは苦笑いし、「面白いことがあるかも」と私に伝えた。私は笑って、ふーんと言ってやった。
*
どのくらい後だったか。迷いの竹林に住んでいる元月人の永琳とかいう奴がやってきた。
客室に案内して、咲夜に紅茶を用意させた。決して綻ぶことは無かったけれど、覚悟を持った目をしていた。何を言うかと思ったら、「月を侵略してほしい。暁には半月をくれてやろう」と言ってきた。私は笑ってしまった。理由を問ったがそれの意味が解らなかったから、その場はパチュリーに理解を任せた。だから私は「そう」とだけ言った。
月を侵略。その言葉には胸を打たれた。響きではなく、月を侵略できることにだ。月の機動を変えてしまえば、太陽がこの「幻想郷」の地に昇ることは無いだろうし、私達吸血鬼の肌が焼ける心配も無い。本能的にその考えに至った。できるかどうかわからないけど、できるのだろう月人なら。
ただ妥協できなかったのは、そうすると咲夜や離れた所にある博麗神社の巫女、霊夢等人間が日を浴びることが無くなってしまう心配だけだった。冗談交じりの紅茶を飲み、口を潤した。私が笑うと咲夜も笑った。
「蛇の毒で死ぬわけがないわよ」
「客人がいらっしゃるのですから」
元月人は不気味なものを見る顔をしていた。それもヘビを見るように。どちらかというとコウモリだろう。
あくまで彼女は「元」月人なのだ、何か理由があるのだろう。
座っていたソファーをパチェに叩かれそっちを向いた。耳伝いにあの事を説明するように急かされた。
「受けてあげてもいいわ。ただ、一つだけ伝えたいことがあるの。パチェ」
パチュリーに説明を任せた。私が説明するよりもパチェに任せた方が適格だと考えたから。決して面倒くさいわけでは無い。パチュリーは一瞬呆気にとられた後、説明を始めた。