東方月紅夜~Guardian of sorrow spirit~   作:酔歌

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視点:ヒナギ
Google+で連載していた「東方月紅夜 第七話」の内容をほぼそのまま投稿しています。


七話 part2 対鬼酒飲決戦

 九つ時はあっという間に通り過ぎたが、もう時という感覚は忘れていた。酔いの回った瞳に映っているのは暗闇と、月くらいか。いかんせん廊下で胡坐なものだから、木の温かみを感じるよりも早く寒さが寄ってくる。その都度ちょいと足を浮かせて酒を飲めばわからなくなる。

 

「もう終わってしまったのかい?」

 

 突如として発せられた声のする楼の下を向くと、真っ白な上着と赤青入り乱れるスカートの女性。何より一番驚いたのはその金髪を分け生える朱角だ。立ち上がって話した。

 

「あ、宴なら自然と解散しましたよ」

 

 彼女は憂いの表情で、そうかいと言った。だけれど廊下に置かれた瓶を見て、奮起した。

 

「あんたはまだ飲んでるみたいだな」

 

 すぐに上がってくるのかと思ったら、踏ん張って飛び、ついには手すりすら超えてしまった。下駄で着地すれば俺の隣に座って、平手で床を二度鳴らした。

 

「さあ、飲むぜ!」

 

 彼女の、レミリアさんとは違った威圧感に負け、そそくさと胡坐に戻った。彼女は手に持った異様なほど巨大な盃で飲んでいた。その暴飲ぷりたるや鬼にでもあったかのようで…いや、鬼だ。

 

「随分神妙な面で」

 

「いや、そりゃねぇ」

 

 一呼吸置いて話し始めた。

 

「噂にゃ聞いているよ。あんたの事」

 

 俺に向かれた瞳はまっすぐで、何処までも見通せるようだった。またその大盃で飲めば、あっという間に無くなりそうだった。

 

「私は大抵地下にいるもんで」

 

「地下ってことは、さとりさんと同じか」

 

 にやりと笑い、さとりを知っているかと言えば話を元に戻した。

 

「そういうわけだから時々地上に顔を出して、散歩をするんだ。そうすりゃ自然と話が集まってくるもんでね」

 

 地下へは行き来できるのかと多少驚きながらも、彼女の話を信用した。すると、予想していた出来事が起きた。彼女の盃から酒が無くなったのだ。

 

「悪いが、それをもう一本もらえないかい?」

 

 酒に貪欲な人だと思いながら、倉へ取りに行った。開けて彼女へ手渡すと、盃へ注いだ。するとあっという間に透き通り、上質な物へと変換された。魔法か?そんなことを思いながらまた飲み始めた。口へ運ぶと、また月が見える。

 

「俺の記憶は、いつ戻るんだろう」

 

 もう一杯飲むと、彼女がまた話し始めた。

 

「あの月は朝にはどうなっている」

 

 訳の分からないことを言い出したかと思い、隠れると単純に答えれば、その通りだと返ってきた。

 

「酒を飲めば酒が無くなるように、朝が来れば夜が終わる。夜が終われば朝が来るように、月が隠れて太陽が現れる。プラスとマイナスってのは、共存できない運命なんだよ。だから、記憶は時間任せでいい。時が思い出させてくれるさ」

 

 話が終わると、俺は妙に納得した。ここまで的確なアドバイスを、今まで教わったことなど…いや、そういえばさとりさんも同じ様なこと言ってた。

 

「ついでに、私が仕入れたもう一つの噂を提供してやろうか」

 

「聞かせてくれますか」

 

 彼女は得意げに話しだした。

 

「大湖の畔に城建てて暮らしてる奴を知っているか? レムリアだかなんだかっていうやつなんだけど、そいつが何かやらかそうとしているらしい」

 

 紅魔館。レミリア・スカーレット。何故俺を、彼女らは招待したのだろう。

 

「そこに、一度行ったことがあります。招待を受けて」

 

「招待だ? 笑う笑う。正直、地下からしても奴らの行動が怪しいのは丸わかりだ」

 

 見上げると、月が紅い。

 

「あたしは思うんだよ。そこであんた、一本取られてるんじゃないかってね」

 

 紅月は、俺に、一つの、言葉を、思い出させる。

 

「いや、変な噂ばかり話しちゃってすまない。ほら、もう一杯飲もうじゃないか」

 

――「弾幕戦で私に秀でる者はいない、とね」

「あんたとやっている姿は、ただの「殺し合い」に見えるからな」――

 

 脳漿から昇華してくる言葉。

 

「おい、どうした。もうギブアップか?」

 

「あ、いや」

 

 俺は杯を置いて、廊下を進んだ。

 

「酔いが回ってきた。また今度で頼む」

 

「なんだい。じゃ、これ貰うよ。またな」

 

 俺はなぜか、言葉を返せなかった。ただ、去り際に最後に聞こえた一言がこれだ。

 

「ここでプラスになるとはねぇ」


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