年上少女の軌跡より   作:kanaumi

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 前に書いていた物が詰まってしまい息抜きで書いたものです。


プロローグ
3冊目 p100 4月9日  L


 色とりどりの傘を片手に人々はポツリ、ポツリ、と降り出した雨の中を流れるように歩いていた。その流れを遠くから眺める者がいたならば、まるで色とりどりの花が川を流れているように見えるだろう。だが、その者も花に隠れる石には目が行かないだろう。雨の中、道急ぐ人々の目線は前にしか向かず、遠くからの目も届かない。そこに街頭に横たわる少女がいたとしても。

 

 僕は自分の事をほとんど覚えていない。この世界の事、目の前に広がるビルやオブジェ、そんな誰でも知っている事は覚えているのに自分の名前、年齢、育った場所なんかをエルっていう名前以外は覚えてない。ぼやけてるとかじゃなくて、その記憶だけ綺麗に閉まってあるような感じだ。僕自身の事以外はわかるから生きてはいけるけど、自分の事を知らないと帰る場所がない。自分の家がどこにあるかも、家族が誰かもわからない。気がついたらこの場所にいた。帰る場所も家族もわからない、途方に暮れてた僕だけど、今もちゃんと生きている。僕を助けてくれた姉さんのお陰で。

 

 

「あなた、大丈夫?」

 その日は、予報では良く晴れてお散歩日和だった。しかし、天気予報の当たらない大粒の雨の日だった。雨宿りする家も屋根も無かった僕は、全身ずぶ濡れだった。何故か頭も痛く、すごく体がだるかった。その時の僕は、熱とか風邪とかを判断出来なかったから頭痛いな位だった、でも、後に聞いたらとても酷い状態だったそうだ。

「あなた、名前は?」

「……エル」

「そう、エルちゃん、お父さんやお母さんは?」

「………わかんない」

「…そうなの」

 この後、1つ2つ質問して来たが、こっちが答えるたびに顔が引きつっていった。

「………クシュン…」

「…ん?どうしたの?………大変!酷い熱だわ、どうしましょう…」

 僕はこの時、僕の額に手を当てて、困った顔をしているのを黙って見ていた。

「……………」

「……」

 しばらく見つめあっていると、何かを決心したように僕を見つめた。

「……ねぇ、エルちゃん…」

 

 

 

 姉さんに助けられ、家に連れて行かれた。そこで、姉さんが両親に説明して、条件付きで僕を置いて貰えるようにしてくれた。条件は、僕の親が見つかるまでの間だけ預かるっというものだ。姉さんの知り合いの警察官に依頼したけれども、結果として僕の親は見つからなかった。警察の人も一生懸命探してくれたけど見つからなかった。1年経っても見つからなくて姉さんの両親からは見つかるまで家に居て良いと言われたが、申し訳なくて仕方なかった。それから更に数ヶ月経った頃、家に姉さんが依頼した警察官の人が訪ねてきた。

 

「すみません、バニングスですが…」

「…はい、今晩はガイ、どうしたの?もしかして、エルちゃんの事?」

「ああ、セシル、おばさん達は?」

「今、出かけてるわ、エルちゃんの事でしょ?お母さん達には後で話すから教えてちょうだい」

「……わかった」

 姉さんが警察官の人を居間に連れて来た。大きくて見上げないと顔が見えなかった。こちらを見て、元気そうな顔で微笑んでくれた。

「エルちゃん、この人はガイ・バニングスと言って、あなたの両親を探して貰ったの」

「こんにちは、ガイ・バニングスだ、セシルの頼みで君の両親の身元を調査してきた」

「エルです。……それで、どうでした?」

 尋ねると、ガイさんは難しい顔をして眉を落とした。

「あー、何というかだな…」

「…見つからなかったの?」

「……すまない!必死に探したんだが、君の両親の行方はわからなかった………ただ、君の出身地と名前はわかった」

 ガイさんは、頭が机につく位下げて言った。その後、顔を上げて遠くを見ながら黙った。

「………」

「ガイさん?」

 少しして、ガイさんは口を開いた。

「エルちゃん、君は帝国の人間だという事が調べていてわかった」

「帝国って、エレボニア帝国?」

「ああ、君がセシルに助けられた時着ていた服あるだろ?証拠になるかと思ってセシルに見せて貰って調べたんだ。そしたら、その服は帝国のブランドの服だった」

 あの時に着てた服……そういえば、クロスベルの百貨店《タイムズ》では、見たこと無いかも。けれども…

「ガイ、それだけで出身だって決め手にはならないのじゃない?」

「ああ、貿易を活発に行うこのクロスベルじゃあ、帝国のブランドが有ったって珍しい事じゃ無い。だけど、調べたらその服は帝都ヘイムダルでしか売られていない物だった。そこで、帝都の住民票で君の事を探したんだ。そしたら、エル・エルフィミンという少女が見つかった。写真は無かったが、君のエルという名前とセシルに助けられた時期が彼女と一致しているんだ」

「…時期?」

「ああ、彼女は8ヶ月前に行方不明になっているんだ。理由は…帝国からカルバード行きの列車の脱線事故だ」

「脱線事故ってあの?」

「ああ、原因不明の脱線事故でクロスベルタイムズでも取りあげられたあの事件だ。エルフィミン一家含む15人が未だ行方不明だ。…その時乗っていたという女性を訪ねて話を聞いたら、エル君らしき人が列車に乗車していたとの証言を貰った。そこで帝国大使館に問い合わせて、エル・エルフィミンの写真を見てエル君だと判明した」

「そう…なんだ…」

 エル・エルフィミン……それが僕の名前……なぜだかその名前は胸にストンと落ちた。これが自分の名前なのだと言わんばかりに。

「エル・エルフィミン…うん、そうだと思う…フフッ♪」

「エルちゃん…」

 何か、姉さんの目が……恥ずかしい

「……ウウ、…それより、僕の両親は」

「……」

 ガイさんがまた難しそうな顔をした。しばらく何か考えた後、口を開いた。

「……さっきも言った通り、見つかってはいない。ただ、君と同じようにカルバードかその周辺にいるかもしれないと思って捜索を行った。でも、発見する事は出来なかった。脱線事故当時も生存者の確認、捜索も行っているが、国境という場所の問題であまり捜査出来ていなかったのも大きい」

「そうですか……」

「本当にごめんな?でも、必ず御両親は見つけてみせるからな」

 ガイさんは優しく頭を撫でてくれた。撫でてくれるのは嬉しいけど、少し恥ずかしいかな。

「フフッ、エルちゃん嬉しそうね」

「………うう、…」

「…さてと、そろそろ行くとするか」

 そう、言うとガイさんは撫でるのを止めて立ち上がった。頭から手が離れるとつい 「……あっ」っと声が出た。

「それじゃあ仕事に戻るよ、エルちゃんどんな形であっても必ず見つけてみせるからな!…セシルの所で元気にしてるんだぞ?」

「はい、よろしくお願いします」

「ガイ、お仕事頑張ってね」

「ああ!またな」

 そう言って、ガイさんは家を後にした。ガイさんはとても大きくて優しい人だった。今思えば、あの時ガイさんが遠くを見たのは、僕に本当の事言うのが辛かったからなのではと思ってる。

 

 それから1年後、ガイさんの尽力で僕の両親は見つかった。帝国のノルド平原で両親の死体が見つかった。死因は餓死だった。状態も悪く死んでからだいぶ経ったようだった。遺体はクロスベルの大聖堂に運ばれた。葬式は行われなかったがレイテさんにマイルズさん、ガイさんに姉さんのおかげで墓には入れてもらえた。両親の火葬をする前に両親を見せて貰った。

「………この人達が僕の両親、何だね」

「ああ、エルちゃんの両親だ」

「エルちゃん、大丈夫?」

「……多分、です」

 頭の中が真っ白でそれしか言えなかった。

 

 その後、父母を入れた棺桶は火葬され骨を墓に納めた。その帰り道、姉さんと2人で歩いていた。ガイさんとレイテさんとマイルズさんは後処理をかって出てくれたためまだ大聖堂にいる。

「エルちゃん、これを」

「……これは?」

 並んで歩いていると、姉さんが立ち止まり僕に何かのケースを差し出した。差し出されたケースを受け取り、ケース中身を見た。ケースに入ったいたのは朱色の宝石のついた十字架のネックレスだった。

「これは、エルちゃんのお父様のポケットに入っていた物よ、ケースの裏を見てみて」

 言われた通りケースの裏を見て僕は驚いた。そこには小さく[エル・エルフィミンへ]とかかれていた。

「……」

「多分、エルちゃんに渡すために用意された物よ、ガイから葬式の後に渡されたの」

 姉さんが何か言っているけど僕の耳には入って来ない。僕は手に持っているネックレスケースにしか目が行かなかった。ケースから出して手に持ってみると軽くなぜかあったかく感じた。

「…エルちゃん?」

「…きれい…」

 ネックレスは見てると吸い込まれそうなほど綺麗だった。

「…どうしたの?」

 ネックレスは夕日に当たってキラキラと光っている。

「エルちゃん、エルちゃん、どうしたの?」

「……あれ?」

 突然左右に揺らされ僕ははっとした。キョロキョロと周りを見て自分がネックレスを見て意識が飛んでいた事に気がついた。

「大丈夫?」

「だ、大丈夫大丈夫」

「本当?」

「うん、ネックレスがきれいだったから」

「首に掛けてみたらどうかしら?そのままケースに入れて置くのも、多分違うと思うわ」

「わかった」

 かけてみると、懐かしくあったかいと感じた。十字架を少し振ってみると周りの光に反射してキラキラと光っている。2、3回振っていると光のせいなのか、まばたきが増えてきた。もう2、3回振ると目尻が暑くなった。もう、2回振ると暖かいものが頬を伝った。

「…あれ?…」

「…エルちゃん」

 頬を触ると湿っていた。姉さんの方を見て初めて気がついた、自分が涙を流したのだと。

「涙……なんで…だろ?…ハハッ…葬式の時も出なかったのに……なんで…」

「エルちゃん!」

 姉さんが僕を抱きしめる。暖かい、とても暖かい、でも、涙が止まらない何でだろ?

「姉さん、止まらないよ涙」

「良いの、今は泣いて良いのよ」

 その後、僕は泣き続けた、自分が何で泣いてるのかわからなかったけど姉さんの胸で泣き続けた。姉さんは泣いている間ずっと頭を撫でてくれた。しばらく泣き続け泣き疲れて寝てしまった。家族が楽しそうに食卓を囲んで笑っている夢を見た。

 

 

 

 あれから、僕は少し大人になった。背も2センチ伸びて目線が少し高くなった。誤差かも知れないけど。もしあの時姉さんが声をかけてくれなかったらどうなっていたのだろうか?両親の葬式を挙げる事もこうして自分の成長を喜んだりも出来なかったかもしれない。最近になって知ったけど、ここ、クロスベルに孤児院のような場所は無いようで七耀教会も在るけど、子供を預かったりはしていないらしい。僕には姉さんがいるけども、いない子供も多い。旧市街地には、子ども達だけのマンションが在る。場所だけ与えて、後は自分でどうにかしなさいと、大きい女性の人がマンションの鍵だけ置いていったそうだ。雨宿りできる所が在っても、生活が楽になるわけでは無いが帰る場所ができて子ども達はとても喜んでいた。もしかしたら自分もそこにで暮らしていたのかもしれない、だから、姉さんにはとても感謝しているいくら恩返しをしてもし足りないと思うくらい。

 

「エル~、ご飯にしましょー」

「はーい、わかりました、姉さん」

 僕は女性の声に呼ばれて、開いていた日記を閉じた。返事をして声の持ち主の元に向かう。僕を救ってくれたお姉さんの元へ。

 

   七耀暦1197年 4月9日 

拝啓、僕が姉さんに助けられてから3年の月日が流れました。3年間の中で沢山の人に出会ったんだよ、友達もたくさんできたよ。悲しい事も楽しい事もあったよ。姉さんに新しいお父さん、お母さんもいる。寂しくないよ?心配しないでいいよ。お父さん、お母さん、僕はここで元気に生きています。だから、遠くでも見守ってください。

 

 ~エル・エルフィミンより~

        

               

 

 

 




 
続くかわかりませんが、よろしくお願いします。

9月18日一部訂正しました。
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