帝国旅行から少し経ち、僕の日常が戻って来て久しい夏の頃だ。日曜学校を卒業している僕はそろそろ、高等学校の事を漠然とでも考えなきゃいけない。選択肢はまあ、ある。それにどこも行かずにウルスラ病院に就職の手もある。…それをしたらお母さんや姉さんに怒られそうだからちゃんと考えるけど。とは言っても悩む事には違いない。選択肢は多いし…どうしたものかなぁ。
「…ハァ、どうしようかなぁ、レミフェリアか帝国か、悩むなぁ」
「……」
「…ハァ、クレイグさんの伝手に頼るのも手かなぁ」
「………」
だから、近くで読書中のロイドにわざとらしく絡む。が、ロイドはめくる手を止めず相手にされなかった。こっちを一瞥もしない奴に僕もぷんすかである。
「ロイドー、人が進路で困ってるのに無視するなぁ」
「…ハァ、…ウルスラ医科大学に行けば良いじゃ無いか。医科大学なんだから」
「え、あー!確かに申し込めばウルスラでも勉強できるか!?」
「…あー、でもエルがなりたいのはセシル姉みたいな看護師だったたな。医科大学じゃ、少し違う感じ何だっけ?詳しくは知らないけど」
「うーんと、そうだね、看護師になるならちょっと違うのかな。最終的には聖ウルスラ医科大学に行きたいけども」
「なら、簡単だな。セシル姉っていう先人がいるんだ、俺に聞くよりも、確実な人に聞けば良いだろ」
「…まあ、そうだよね。そうなんだけどもさ……」
「…迷惑とは思わないと思うからさっさと行く!」
ロイドはそう言うと、ソファに座る僕を立たせる。ロイドに押し切られた僕は、しぶしぶと姉さんの所に向かうのだった。
部屋で読書をしていた姉さんは、進路についてと切り出すと、やっと来たのねと呆れた様な溜息と共に相談に乗ってくれた。結果を言えば、候補は絞れたけど決めきれなかった。そんな僕に、ウルスラ病院に直接行くよりも、外に出て勉強してみても良いかもと姉さんは勧めてくれた。だからクロスベル外にも目を向けて探そうと思う。幸いな事にまだ決めきる時間は有るのが救いかな。
で、これが少し前の話であって、ここからが今日となる。
少し進んだある日の事だ。天気は生憎の雨だったけど僕は外にいた。最近仲良くなったサンサンと遊ぶ約束をしていたからだ。
「ねえ、雨だけど本当に遊ぶの?」
「うん、エルは嫌?家の中なら大丈夫ね」
「あ、うん。良いけど…」
遊んだ感想は外に行きたい欲求が隠せないサンサンに、僕が人形や枕を放って紛らわせていた。
「サンサン、ほら、こっちのポム人形で遊ぼうか?」
「…エル、この子、跳ねないかな」
「に、人形に無茶言うね!?…いや、もしかして…」
遊んだ…いや、まあ新しい発見があったからいいか。でも雨の日はどうしてもやれる事が少なくなる。
「──いった!ちょっと、サンサン、これ君のお気に入りだろ!?」
「ハハッ、エル、髪ボサボサだー!」
「やったなー!それッ!」
「むふふ、あまっ、──いたーい!」
そのせいだろうか、枕投げは想像よりもヒートアップしていた。サンサンには悪いけど僕だって鬱憤がある。でも、僕だって心は大人だ。だから誤魔化す為に強めに放つ、顔には投げないから安心してね。だから、顔を狙うのはやめて痛いから。
七耀歴1198年 7月14日
今日はあいにくの雨だったけどサンサンのお蔭で退屈はしなかった。サンサンとの出合いは割と酷い出会いだったと思うけど、サンサンの人柄なのかすぐに仲良くなった気がする。その時の事を記録しとこうかな。
確か、最初は僕がお使いで東通りに向かった時の事で、お母さんからのお駄賃を手に歩いていた僕にサンサンが声をかけて来たんだ。サンサンは店の売り子として声をかけてたんだけど、僕はその時少し浮かれ気分だった。だって、お使いの駄賃が余ったら小遣いにして良いと言われていたからそれの使い道を妄想していたのだ。気持ちが弾むものだ。だから、サンサンの声に気づかなかった。
まあ、それで話が終わる事だってあるけど、サンサンは何故か諦めずに再度僕にアタックした。というか、物理的に跳びついて来た。僕はそのアタックに耐えれずヘッドスライディングをかました。そこからは、訳がわかってない僕と来てと騒ぐサンサンの図が東通りに完成する。次第に愚図るサンサンにあわあわする僕と周囲の人で2枚目も画かれた。3枚目が描かれる前に《龍老飯店》から迎えが来てその場は解散となった。その後、家に謝罪に来たサンサンと話して仲直り、…仲直りをした。それからはサンサンの人柄に僕が惹かれて友達となったのだ。
明日も遊ぶ仲になった僕ら、これからも仲良く出来たら良いなと思う。でも、今日の枕投げは僕の勝ちだから。
次は時間が跳びます。