毎日、特務支援課として支援要請をこなして行く日々、徐々に依頼の数も増えてきた頃。朝のミーティングで俺達は集合していた。しかし、課長の姿が無く、始めるに始めれず困っていた。
「…遅いな、課長」
「おせーな、ロイドは何も聞いて無いのか?」
「聞いてないな、何かあったのだろうか」
と心配していると、玄関から課長が現れた。
「悪いな、遅くなった」
「いえ、課長、おはようございます。では朝のミーティングを――」
「いや、それは後廻しだ。先程、本部から連絡があった。今日はお前らに特別任務を受けて貰う」
「特別任務、ですか?」
「それはどういった物なんですか?」
「俺も知らん。だからまずは、警察本部に行って来い。お前らの客人が待っているはずだ。それが終わったら後はお前等の自由にして良い。俺は部屋で過ごしてるからな」
「あ、ちょっと課長!」
呼び止めようとするも無情にもドアは閉じられた。4人の雰囲気は沈んでしまっていた。その中、最初に動いたのはランディだった。
「…とりあえず、行くか」
「…ええ、そうね」
「…はい、あの人に期待はあんまりしてません」
「…まあ、此処にいても仕方ないか」
少し重い足取りで支援課4名は警察本部に足を運んだ。
〜クロスベル・行政区・警察本部3階フロア〜
「はあ、何でよりにもよって副局長の部屋何だか」
「まあ、客が待っているって、話だから嫌味何かを聞かせる為じゃないだろう」
「…どの道な気もしますが?」
「…そうね、頑張りましょう」
ため息混じりに副局長室へと足を進める。
「――特務支援課所属、バニングス以下4名、参りました。」
「―入りたまえ」
「―失礼します」
中に通され、歩みを進めると副局長の他に二人の女性が待っていた。一人は解らないが、もう一人は知っている顔だった。が、それよりも早くランディが反応した。
「げげっ…⁉何であんたが」
「あら、ご挨拶ね。ランディ・オルランド。私がいてはダメかしら?」
「あ、いや〜…意表をつかれっていうか、何というか」
「…ランディさん、何かやましい事でもされたのですか?」
「すぐに謝った方がいいわ」
「いや、やましい確定な雰囲気をですなよ」
それに見かねたピエール副局長が正すよう命令する。
「こちらは、警備隊副司令を務めておられるソーニャ二佐だ!」
「警備隊、副司令…!し、失礼しました」
「(二佐と言うと、軍隊では中佐に相当するはずですが、副局長よりも偉い人なんですか?)」
「(副局長よりと言われると、わからんが、あの人は警備隊じゃあナンバー2だな)」
「何か堅苦しくなってしまったわね、階級や立場はひとまず置いておいてちょうだい。――貴方達が、『特務支援課』ね?」
「はい、自分達4名が特務支援課です」
堅苦しい雰囲気で会話をしたくないと言うソーニャ二佐の言葉に思わず堅く返してしまう。その上、
「フフン、光栄に思うが良い。君達の様な恥さらしな新米共をこの場に呼んでやったのだからな?」
ピエール副局長のいやらしい言いかたで部屋の雰囲気はソーニャ二佐の思いと裏腹に悪くなるのだった。
「――副局長、この場はどうかわたくしに」
「――わかりました。全て貴方にお任せします」
「ありがとうございます」
そうして、この場の最高位者が決まった。
「では、改めて。クロスベル警備隊副司令のソーニャ・ベルツよ。貴方達の事は知っているから紹介は不要よ。それで、今日は貴方達『特務支援課』の力を借りに参上したわ。まずは一通り、話を聞いてくれないかしら?」
そう言って、ソーニャが語り出したのは、此処一月あまり、クロスベル自治州各地で起こっている魔獣による被害に関する事だった。
「それで、この魔獣被害の調査を貴方達に依頼したいの」
「ちょ、ちょっと待ってください!市内では無く、市街の調査ですか⁉」
「あら、不服かしら?」
「い、いえ、そんな事はありません。しかし、」
「市街であれば警備隊の方でも調査がされているのですよね?その上で私達に出番があるのですか?」
「うーん、それが大アリよ。普通に人や建物の魔獣被害であれば、警備隊で事足りるわ。でも、今回はどうも不可解な事が多すぎてね。そのせいでウチだけでは手詰まりなのよ」
「へー、珍しいもんだ」
「そうね、だから別の視点を入れておきたいって所よ」
「別の視点、ですか?」
「そう、ウチは警備のプロであって、捜査のプロでは無いの。まあ、それだったら別に貴方達で無くても良いの。例えば、『捜査一課』とかね」
そう言い、ソーニャは壁の華を決めていたピエール副局長に目を向ける。
「い、いや~紹介したいのもやまやまなんですがねぇ……」
「―色々あるそうなので、代わりにあなた達に話を指名させて貰ったわ。迷惑だったかしら?」
「いえ、判りました。そういった事情であったなら喜んでお受けします」
「そう、ありがとう。ノエル、例の物を彼らに」
「はっ、かしこまりました!」
ソーニャの後ろで静かにしていた彼女は、俺の前に封筒を差し出した。
「ロイドさん、どうぞ」
「あ、うん、ありがとうノエル」
「はい、頑張ってください」
そう言って、彼女は定位置に戻った。彼女の事も気になるが、ひとまず手元の封筒を見る。中にはいくつかの書類が入っていた。
「これは……」
「警備隊の調査報告書ですね」
「……だな」
「…見えません」
「こちらで調査した事がそれに書いてあるわ。まずは、その調査書だけを見て、捜査に入って欲しいの。余計な潜入感を与えちゃうと視点を変える意味がないから」
「判りました、後程、拝見させていただきます」
「ええ、お願いね。それでは申し訳ないけど私達はこれで失礼させて貰うわ。今後は、今回みたいでは無く、支援課と直接やり取りするから何か判ったら報告してちょうだい」
「了解しました」
「――では、副局長。どうもお邪魔しました」
「い、いえいえ、また遠慮なく」
「ふふっ、どうやら馴染めているみたいね?」
「いやあ、ハハ……。まあ、楽しく過ごさせて貰ってますよ」
「それは結構、私も紹介した甲斐があったわ。――ノエル、行くわよ」
「はい、それでは失礼します!」
そう言って、ソーニャとノエルは部屋を出ていった。
その後、ピエール副局長から追い出された俺達は、支援課に戻る為、エレベーターに乗り込んだ。
「はぁ~やっと終わったぜ」
「ハハ、…そう言えば、ソーニャ副司令はひょっとして上司だったのか?」
「ん?いや、直接の上司じゃあないぜ?ただ、訓練やら軍事演習で何度か指導を受けたくらいだ」
「その割には気にかけられていたようだけど?」
「まあ、美人なのに説教になると怖いの何のだ」
「それはランディさんの生活態度に問題があるのでは?」
「ええ、そうね。女性トラブルを起こしてたらしいし」
「うっせ、…それよりも、ロイドはあの付き添っていた女性と知り合いか?応援を受けてたしな」
「そうね、名前も知っていたみたいだし」
「え、今度は俺か、…ノエルは昔からの知り合いだよ」
「昔から、ねぇ」
「おー、何か有りそうな関係だな?エル坊と言い、お前もなかなか隅に置けないな」
「いや、そんな関係じゃないぞ⁉」
「…怪しいわね」
「………(じー)」
「兎も角、支援課に戻ろう!」
そう言って、俺は到着したエレベーターから早足で抜け出した。
「あ、逃げた」
「逃げました」
「逃げたな」
後ろで、そんな事を言われながら。
〜クロスベル・特務支援課ビル〜
帰って来た俺達は、早速渡された報告書に目を通す。書かれていた事を書き出すと、
【魔獣被害調書】
・クロスベル各地で特定の魔獣による被害が相次いでいる。
・主な被害は3箇所である。
・被害状況から‘狼型魔獣’の関与が疑われている。
こうなり、被害にあった場所は、
①アルモリカ村
②聖ウルスラ医科大学
③鉱山町マインツ
発生の時系列は、
①アルモリカ村―3週間前の深夜―集落全域
②聖ウルスラ医科大学―1週間前の深夜―病院敷地内
③鉱山町マインツ―2日前の夜10時頃―宿酒場前
他、マインツでは2件の被害があるが日時等は不明。
「……」
「本当に各地で起きているのね…。ほとんどニュースにはなっていないようね」
「ええ、そうみたいですね。検索結果は芳しくないです」
「どうやら本当にただの魔獣被害って、訳じゃ無さそうだな」
「ああ、特にウルスラ医科大学で起きた件が広まってないのは可怪しい」
「そうね、病院でこんな事が起きたらニュースで取り上げそうだわ」
「…関与の疑いがある狼型の魔獣。これはクロスベルの固有種でしょうか?」
「それはちょっと、判らないな。ただ、被害があった場所には足跡が残っていたそうだから、関与は間違いないみたいだ」
「でも、警備隊ではそれらしい魔獣は確認されてないのよね?それがちょっと気になるわね」
「ああ、姿を隠しているなら相当ズル賢い魔獣だな」
「そうですね、データベースでも調べて見ますが、どうでしょう」
ふと、ロイドが黙っている事に気づいたエリィはロイドに話かける。
「………」
「あら、ロイド、どうしたの?」
「何だ?閃いたか?」
「いや、この件を捜査するとして、何処がポイントになるのかと思ってね」
「ポイント?」
「ああ、この魔獣被害を一つの事件として考えた場合に『犯人』は誰になる?」
「そりゃ、この狼型魔獣だな。個と言うよりも群れな気もするな。アルモリカ村被害は全域だしな」
「だったら、この『犯人』の『プロフィール』と『動機』については?」
「…なるほどね。報告書にはそれらが見えてこないのね」
「ああ、もし『動機』が飢えならば、鉱山町は兎も角、病院は不可解すぎる。だから、それらに理由付けが出来る『真実』が隠れているはずだ」
「なるほどな、だったら、俺達がやる事は決まったな」
「ああ、この報告書では見えてこない『真実』を見つける、少なくとも補完する情報を探そう」
「ええ(おお)(はい)」
「それで、ロイドさん、調べると言っても何処から行くんですか?」
「そうだな…まずは最初に被害にあったアルモリカ村に行こう。被害も大きい上に足跡何かの証拠も発見されている。魔獣の特徴何かも見られるかも知れないし」
「なるほどね、良いかも知れないわね」
「ああ、初めての市街で活動だしっかりと準備をして行こう」
「…そうだ、ロイドよ。エル坊は病院勤めだよな?被害の事とか聞けるんじゃないか?」
「ん、…そうだな、一応連絡を取ってみるか」
「エルさんなら調査にも協力してくれそうよね?」
「まあ、聞いてみるよ」
エルの予定は少し判らないので、ひとまず病院かけてみた。すると、受付に繋がり、紆余曲折あり、エルと繋がった。
《もしもし、ロイド?どうしたの、仕事中でしょ?》
「ああ、エル、その仕事の関係で聞きたい事があるんだけど、今は大丈夫そうかな?」
《そうなんだ、今は、大丈夫だよ》
「エル、ウルスラ医科大学病院で1週間位前に魔獣被害は無かったか?」
《魔獣被害、うん、あったよ。ウチの研修医が襲われたんだ。今は大分良くなったけど、次があるんじゃ無いかって、対策会議が開かれたんだ》
「そうだったのか」
《うん、何、ロイド達もこの件で調べてるの?前にノエルちゃんが調査の同行で来てたけど》
「うん、そのノエルと上司の方に頼まれてね」
《そっかー、それじゃあ、病院に来るの?》
「ああ、捜査でよる事になる」
《そっか、だったら姉さんと待ってるよ。病院としてもこの件は何とかしたいから》
「ありがとう、助かるよ」
《ふふっ、どういたしまして、あ、そろそろ交代だ。じゃあ、またね。みんなにも宜しくね》
「ああ、忙しい所ありがとう」
通信が終わり、みんなに事を伝えた。
「そう、本当にあったのね」
「ああ、詳しくは病院についてから聞こうと思うが、大事みたいだな」
「まあ、治療しに行く場所で怪我しちゃあたまらないからな」
「ええ、即急に解決したいですね」
「そうだな、さて、ひとまずアルモリカ村に向かおう。東口から出れば導力バスに乗れるはずだ」
「おう(はい)(ええ)!」
そうして、特務支援課は、この不可解な事件に乗り込んで行くのだった。