俺達はその後、導力バスに乗り遅れた。が、ティオとエリィが謎の自信を見せ、徒歩で向かう事になった。案の定、二人はヘトヘトになっていたが、途中の休憩で列車内で乗り合わせた老夫婦から貰ったレモネードを飲み、無事にアルモリカ村に到着するのだった。クロスベル市とはまた違う風景に感嘆するも、ひとまず聴き取り調査を開始した。村民や村長の話を聞くに、警備隊の調書に書かれた事の裏付けになる情報が多かった。その中で『神狼』と呼ばせる昔話に出てくる聖獣の話と村の被害自体は軽微だった事を聞けた。その後、宿屋《トネリコ》の店主ゴーファンさんのご厚意でお昼を戴き、知り合ったハロルドさんの車でクロスベル市に帰って来た。次はウルスラ医科大学病院に向かう為、準備と巡回を行いつつ南口に来ていた。
「なあ、今度は大丈夫そうか?」
「…ああ、バスの時刻表の通りだったら15分後に来るみたいだ」
「そう、それは良かったわね」
「はい、もう一度はしんどいです」
〜20分後〜
「……来ねーなぁ」
「…ですね」
「…可怪しいな」
「君達、時刻表はあっているのかね?」
「あ、はい、時刻表ではもう来ている時間なんですが」
「うーむ、困ったな」
「ねえ、ロイド、バスの事故か何かが起きたのかしら?」
「…ああ、俺もそれは考えているけど…」
時刻を過ぎてもバスは現れなかった。途方に暮れる待ち人達でバス停は溢れていた。そんな中、一際褪せった様子の男が走って来た。
「うわー、やっぱり来てないよ、どうしよー⁉」
「あら、彼は?」
「役員みたいだな、もしかしたら何か知ってるかもな?」
「…ああ、話を聞いて見よう―――すみません」
「ぇ゙、ああ、何かな?」
「いえ、俺達、クロスベル警察特務支援課という者でして、バスが来ない様子で何か知っている様子でしたので、話を伺えたらと思いまして」
「警察?…ああ、新設された……なら良いかな?――じゃあ、君達はクロスベルを運行しているバスには緊急時用の通話機器が取り付けられているのは知っているかい?」
「…ええ、最近魔獣による被害が多いので、その対策にエプスタイン財団が協力して設置された物でしたね」
「お、詳しいね。うん、それで緊急時には遊撃手何かに迅速に対応して貰えるようになったんだ。この前にも魔獣被害があって、遊撃手に対応して貰ったんだ」
「へー、そんなのあったのか」
「はい、導力ネットワークの応用ですね」
「では、今回もその連絡が?」
「それが、今回も連絡はあったんだけど、途中で切れちゃったんだよ。それで問題があったのかどうなのか解らなくてね。慌てて確認に来たんだよ。…うーん、でも来てないなら問題が起きてるよなぁ」
(おい、ロイドどうするよ)
小声でランディが聞いてくる。エリィ達も此方を見ている。
(…そうだな、みんなどうだろうか、俺達で確かめに行かないか?)
(…そうね、私も賛成よ)
(…ええ、ただの導力器の故障の可能性もありますが、気になりますね)
(おう、俺も賛成だぜ)
(よし、なら――)
「あー、どうしよう、遊撃手に頼もうか?――」
「すみません、俺達が確認してきましょうか?」
「え、それは助かるけど、良いのかい?」
「はい、先程言いましたが俺達は特務支援課でそういった事も仕事に入っていますので、この一件任せて貰えませんか?」
「あーと、じゃあお願いするよ。でも、気を付けてね」
「はい、判っています。――よし、みんな行こう!」
「「ええ(はい)(おう)!!」」
そうして、俺達は南口から駆け出した。
〜ウルスラ街道〜
兄貴が亡くなる前はエルに連れられて幾度もバスで通ったこの道、それを大きくなった自分が仲間達と自らの足で歩くのは何だか不思議な気持ちだ。道自体に変化も無いから迷う事は無い。それに今は仕事として急いでる。感傷に浸っている暇は無いのに久しぶりだからか感じていた。
「…ロイド、貴方は今回の件はどう思っているの?」
「…それは魔獣被害の件との関連かな?」
「ええ、元々バスの被害は少なくは無さそうだけど、無関係とも考え辛いわ」
「…はい、私もそれは気になってました」
「そうだな、俺もロイドの意見を聞きてぇな」
「ハハ、期待が大きいなぁ。…まだ魔獣と決まった訳じゃ無いけど、俺も無関係とは言えない。ただ、魔獣だったとしてそれが本筋に関わっているのか、関節的に関わって起こったのかはまだ判らない。広範囲の被害だ、副次的に魔獣の生息域や興奮した事での事故も考えられる」
「まあ、そうだわな。魔獣の生息域に他のが来て、追い返すにしろ追い出されるにしろ、変化は起こる。可怪しい話じゃねえ」
「もし、そうだとしたら迷惑な話です」
「そうね、バスが無事だと良いのだけれど」
「ああ、それを確かめる為にも急ごう」
「おう」
駆ける足を速めつつ、街道を進んだ。
「おいロイド、あれじゃないか⁉」
「ああ、みんな準備は良いか!」
「ええ、良いわ!」
「…エイオンシステム起動、オーケーです!」
「おう、行こうぜ!」
バスを囲む2匹のゴーディアンを見つけた特務支援課4名は、各々の武器を構え駆け出した。
「まずはバスから引き剥がすぞ、エリィ!」
「ええ、任せて!!」
引き剥がす為にエリィはゴーディアンの頭を撃ち抜く。ゴーディアンは頭の衝撃に此方を振り向いた。
「ランディ、バスに注意だ!」
「おう、とりあえずこっちに来やがれぇぇ!!」
ゴーディアンの角にワイヤーを引っ掛けて、力強く引っ張った。引っ張られたゴーディアンはヨロヨロと此方に足を動かした。
「ティオ、タイミングを見てバスの中の状況を見てくれ!」
「…了解です」
「ロイド、裏を頼む!」
「ああ!」
此方に動いたゴーディアンを横にティオは走り、ロイドはゴーディアン裏を取って構える。
「ロイド、エリィ、目ぇつむれよ!クラッシュボムだ、喰らえぇ!!」
ランディは手に持った筒を2匹のゴーディアンの足元に叩き着けた。叩きつけられた筒は、目をつむる様な光を放った。ゴーディアンは怯むのみだったが、その隙をロイドが詰めた。
「ハアァァ、タアァアッ!!」
放つアクセルラッシュは、2匹のゴーディアンの腹を深く殴る。殴られたゴーディアンは横に滑りながらも耐えている。が、そこに水の塊が落ちてきた。
「エニグマ駆導、ブルードロップ!」
バスの状況を確認したティオが、ゴーディアンに向けて水のアーツを発動させた。ブルードロップを受けたゴーディアンは、フラつきながらたたらを踏む。
「チャンスだ!一斉攻撃!!」
「おう!」
「ええ!」
「ラジャー!」
ロイドの号令に皆が応え、まず、ランディが飛び込んだ。スタンハルバードを大振りに振るい、2匹纏めて叩き、離脱した。ランディの離脱に合わせてエリィがゴーディアンの顔を3点バーストを放つ。ロイドがトンファーを振るい、ゴーディアンの腹を追撃した。ロイドの離脱を待って、ティオが
「………倒せたのか?」
「ああ、倒したぜ」
「…生態反応無し、倒しましたね」
「…ふう、ティオちゃんバスの様子は?」
「…危険を感じてバスから出ないようにしていた様で、怪我人は無しです」
「そうか、それは良かった」
「フー、疲れたぜ、後はバスが動くかか?」
「ああ、そう―――」
「…!ロイドさん、まだいます!」
気を緩めた所で、ティオが叫ぶ。ティオの指す先には先程倒したのとは別のゴーディアンが3匹現れた。
「くっ、油断した!ランディ、行けるか?」
「おいおい、バスを護衛しながら3匹は厳しいぞ!」
「ティオちゃん、他の反応は?」
「…無いです」
「なら、3人はバスを守ってくれ!」
「ロイド、お前は⁉」
「俺が囮になる、これ以上バスを危険に晒せない!」
「ロイド⁉」
「ロイドさん⁉」
「おいおい、ロイド⁉」
ロイドは、気を引こうと前に出ようとした。その時だ!
「そこのお兄さん、動かないでね!」
「え――」
「ヨシュア!」
「ああ、良いよエステル!」
ロイドの横を通り過ぎる、太陽の様な長い髪をした女性と漆黒の髪を持つ男性。2人は一瞬でゴーディアンの懐に潜り込んだ。
「行くわよ~、ハアアアアッ!ヨシュア!」
「うん!」
「「太極無双撃!!」」
女性が一瞬で、ゴーディアン3匹を囲み、纏めた。そこに男性が追撃し、最後は2人で連撃を叩き込んだ。ゴーディアンは3匹共、後ろの樹木に打ち付けられ、力無く倒れた。自分達ではあれだけ手をこまねいた相手を一瞬で倒してしまった2人をロイド達はただ、見続けていた。
「ふう、ヨシュア、他は大丈夫?」
「……うん、大丈夫みたいだよ」
「あ、貴方達は大丈夫?」
「え、あ、ああ、お陰様で」
「そっか、それは良かったわね、バスの方は?」
「えーと、大丈夫です」
「あ、運転手さん?乗客の方は?」
「大丈夫です、遊撃手の皆さん、助けて頂いてありがとうございました」
「ウンウン、万事オーケーかしら?」
「そうだね、そちらの皆さんもお疲れ様です」
「…ああ、助けてくれてありがとう」
「どういたしましてかしらね」
その後、自己紹介を行い、2人、エステルとヨシュアがバスの件は受け持つから先の予定を済ませれば良いと、後ろ髪を惹かれながらも任せる事にした。
病院までの道での会話は、先程の出来事で一杯だった。2人の強さ、自分達の至らなさ、行動のミスが無かったか、後悔が後を引いていた。それでも、病院につく頃には、気持ちの切り替えが出来た。
「もうすぐ、聖ウルスラ医科大学病院だ」
「…やっとだな」
「はい、体力もですが精神的にも疲れました」
「…寮棟の下にオーベルジュ《レクチェ》が有るから、時間があったら休もうか」
「あら、ロイド病院に詳しいのね?」
「ああ、昔から此処には通っていたからね」
「あー、もしかしてエル坊絡みか?」
「そう、エルやセシル姉に付き添って来てたんだ」
「…そうだったんですか」
「まあ、此処に来るのも何年か振りになるだけどな」
「そういやあ、共和国の方にいたんだったな」
「ああ、叔父の家に世話になっていたよ――と、
みんな着いたよ」
「ようやくねって言うのは可怪しいかしら?」
「…色々有りましたので仕方なしです」
「そうだな」
昼を少し過ぎた頃、俺達は聖ウルスラ医科大学病院に辿りついた。
辿り着いた俺達は警備員のトニーさんに案内され、受付に通された。
「すみません、クロスベル警察特務支援課の者ですが」
「はい、警察の方ですね、どういった要件でしょうか?」
「少し事件の調査で知り合いに繋いで欲しいのですが――」
「あら、ロイド?」
「え――」
「ロイドー!!」
「おわっ⁉」
「なっ!」
「あら」
「…おお」
「あっ」
受付嬢に取次を頼もうとしたが、いきなり現れたセシル姉に抱きつかれてしまった。何がどうなっているのか判らない俺は、諦めた。
「フフ、さっきはいきなりでごめんなさいね。えーと、初めましての方もいるわね。じゃあ、私は、セシル、セシル・ノイエスです。ロイドとは姉と弟かしら?」
「私はエリィ・マクダエルです」
「…ティオ・プラトーです」
「ランディ・オルランドです!セシルさん良い名ですね!」
「おい、ランディ」
「ロイドよ〜羨ましいぞ、こんな綺麗なお姉さんがいるなんて」
「…はあ」
「…(じー)」
「フフ、いい人達ねロイド?」
「…はあ、うん」
セシル姉の抱きつきの後、セシル姉が今回の魔獣被害の説明をしてくれる事になり、セシル姉と一緒に落ち着ける場所で有る、オーベルジュ《レクチェ》にて、軽食を取りながら聞く事になった。エルの奴は、仕事の時間だった為、後からの合流となった。
「さて、何から話そうかしら?警備隊の方からの話は聞いているのだったわね?」
「ああ、調書は読ませて貰っているから概要は知っているよ」
「なら、少し踏み込んだ話が良いかしら?」
「いや、一応、病院側で判っている事を聞きたいかな」
「そう、なら、まず、事件が起こったのは1週間前になるわ」
それから、セシル姉は事件のあらましを語って行った。深夜に研修医リットンが病院の屋上テラスで魔獣と思わしき者に襲われた事、そして、早朝に発見された事、状況から被害者の勘違いではという可能性の事、一応、対策会議を行うも原因が解らずろくに立てられなかった事を聞いた。
「被害にあったのは屋上テラスだったのね…」
「セシル姉、屋上テラスって、あそこだよね」
「ええ、病院の上の研究棟の前よ」
「…なら、3階位の高さか」
「おいおい、魔獣って狼型だろ?3階はきつく無いか?」
「…はい、一般的に観測されている犬型の魔獣の跳躍力では厳しい言えますね」
「じゃあ、調書にあった通り被害者、リットンさんの錯覚だったのかしら?」
「…いや、たとえ魔獣で無くても怪我をしているんだ、何かが起こったんだろう。どの道、捜査がいる事になる」
「なら、後は現場検証か?」
「ああ、セシル姉、案内をお願いしても良いかな」
「ええ、大丈夫よ」
そう言って、セシル姉は席を立つ。俺達もそれに習って立ち上がる。まずは、実際被害にあったリットンさんのいる202号室に向かう事になった。が、久しぶりなので、知っている顔には挨拶をと言う事で寮長のキルシュさんに挨拶してレクチェを後にした。
病院内の2階、202号室前に着いた。
「此処にリットンさんは入院しているの、でも、他にも患者さんがいるから話声には注意してね」
「ああ、判ってるよ」
「それじゃあ、入りましょう」
俺達はセシル姉を先頭に部屋に入る。すると、
『―――たっぷりと課題を積んでいるから退院したらしっかりと働いて貰うよ?』
『ヨアヒム先生、それはいくらなんでも酷いですよ、先生はSですか』
「うん?僕としてはSよりもMなのだが」
「ちょっと、先生、患者さんのいる中で何を言っておられるんですか!」
「おや、セシル君、あー済まないね。じゃあ、僕は他の健診に行くよ」
と、先生と呼ばれた男性は部屋を後にした。
「まったく、ヨアヒム先生は」
「えーと、セシル姉、さっきの人は?」
「彼はヨアヒム准教授って言うんだけどね。とっても変わった人なのよ」
「…そっか」
「それよりも、ほら、この人が、リットンさんよ」
「えーと、君達は?」
「あ、すみません、俺達はクロスベル警察特務支援課と言う者で、リットンさんが被害に遭われた事件に付いて捜査を行っていて、お話を聞かせてくれませんか?」
「え、警備隊の方には話したけど?」
「その警備隊から別で捜査を依頼されてまして、もう一度聞かせて貰いたいんです」
「へー、そうなんだ。うん、じゃああの夜の事だね」
そうして、リットンは事件当時の事を話始めた。当時、リットンは難しいレポートの作成で夜遅くまで研究棟にいた。そして、レポートが完成したリットンは屋上テラスで風に当たっていた。その時は疲労から少し意識が朦朧としていたと言う。風に当たっていたリットンはなにかの声を聞いた。そして、真っ赤に光る目と白い牙、黒い毛並みをした物に襲われて、早朝になり発見されたそうだ。怪我は右肩に牙で噛まれた様な跡と打撲や捻挫だった。
「白い牙に黒い毛並みなあ、人間じゃあ無く魔獣だな」
「はい、それにアルモリカ村での足跡と噛みついて攻撃する事と言う条件ですから調書通りの狼型もしくは犬型の魔獣に絞れますね」
「ええ、でもそれだとやっぱり屋上テラスが疑問よね」
「そうだな、犬やらが3階は厳しいぜ?」
「ああ、それに鳴き声か、他にも聞いている人がいたら立派な証拠だな」
「あ、僕の錯覚じゃなくなりそう?」
「ええ、後は現場検証や証言次第ですが」
「あー、良かった、教授や先生に錯覚って、疑われてたんだよ」
「それは、お気の毒でしたね…」
そうして、一通り聞き終えた俺達は病室に長居するのも悪いので外に出た。
「じゃあ、次は屋上テラスだな」
「ロイド、それ何だけどね。私の休憩時間がもうすぐ終わるの」
「ああ、そうなんだ」
「うん、最後まで案内したかったんだけどね。でも、丁度エルちゃんが休憩に入るはずだから一度、ナースセンターに寄ろうと思うの良いかしら?」
「ああ、こっちが無理に言っているんだし気にしないで」
「そうっすよ、此処までしてくれて感謝してるっすよ!」
「ありがとうね」
そういう事なので、ナースセンターに向かった。
「あ、ロイドにみんな、来てたんだ!」
「ああ、さっきまでセシル姉に案内して貰ってたんだ」
「よお、エル坊元気か?」
「こんにちは、エルさん」
「…こんにちはです」
「そうなの、それでエルちゃんに案内の続きを頼みたいの、良いかしら?」
「うん、良いよ、連絡貰ってたしね」
「宜しく頼むなエル」
「うん、僕に任せて」
ナースセンターに着いた俺達は、早速エルにエンカウトして、案内の続きを頼んだ。そして、セシル姉とは此処で別れる事になった。後で調査の結果を教えて欲しいそうなので、また後でとなった。
エルに連れられ、屋上テラスにやって来た。それなりの広さのあるテラスでリットンさんは端のベンチに倒れていたそうだ。ベンチの後ろは水辺なので、追い込まれて此処に倒れた等考えられた。
「さて、場所は判った。なら、魔獣と仮定して、侵入経路か」
「ざっと見た感じ、ベンチ側は無いわな」
「ええ、下は水辺ですし、反対の崖も遠いです」
「入口の方も難しいのかしら?」
「ああ、途中に屋根が有るとしても1階、約2アージュを超える程だ。大きさにもよるが、跳べたとして1アージュ位じゃないかな」
「そうね、それは難しいわね」
「じゃあ、研究棟の横は?こっちは下が陸地だよ」
「……そこの場合も高さがネックだし、例え台を用意出来てもそれならかえって目立つから目撃情報が出るかな」
「そっかぁ」
調査を進めていたが、中々これだと言う物は見つからない。何か見をとしがあるのはそうだが、それが何だか解らなかった。
「うーん、中々ねーな」
「そうね、此処まで上がって来る方法…」
「いっそ、室内からとか?」
「うーん、流石にそれは寮生や夜勤の看護師が気づくなぁ」
「……あ、エル、男性寮のテラスって今はどうなっている?」
「ん、男性寮のテラス?あー、今でもちょっとした物置だよ」
「そうか、みんな男性寮テラスの方に行こう」
「お、何か気がついたか」
「ええ、それなら行って見ましょう」
悩み過ぎて昔の記憶まで遡ってしまったが、そこにある可能生は浮上した。俺達は屋上テラスから寮の屋上に繋がる橋を越えて、屋上の柵の下を見た。
「おいおい、ビンゴじゃねえかこれは?」
「ああ、少し検証がいるが、当たりを引けたかも知れない」
そこには、下の寮のテラスび積まれた木箱が何個もあった。これなら2アージュも跳ぶ必要は無い。早速、下のテラスに赴いた。
「よし、ランディ付き合ってくれ」
「おう、それっ!」
そう言って、ロイドとランディは木箱の上に跳んだ。繰り返し跳ぶうちに、ロイドは埃の中に足跡を見つけた。
「あった、足跡だ!」
「ああ、これは犬か狼型で間違いねえな」
「あー、此処の木箱暫く動かしてないものね、埃も被るよ、雨も振らなかったし」
「…ラッキーでした」
「ええ、これで経路は確定かしら?」
「…ああ、テラスの向こうの山から来た……ん?」
確定しようと思った時に、ふと、山の方の木箱に目が行った。
「どうかしたか?」
「いや、山の方の木箱、上の埃に足跡が無いなって思って」
「…はい、確認できません」
「偶々木箱に乗らなかっただけじゃない?」
「……」
その可能性も十分有るが、どうも気になる。考えながら柵に手を乗せ、滑らせながら考えた。
「……」
「どうなの、ロイド?」
「……?」
滑らせていた手におかしな感触があった。その場で屈み、柵を注視した。すると、かすかにキズの様な物があった。
「どうした、何か見つけたか?」
「…エル、此処にキズがあるんだが、何か付くような事があったか?」
「え、キズ⁉…………いや、僕も詳しく無いけど、そこに付く様な事は無いんじゃないかな?木箱置くにも手前に置くだろうし」
「…下は駐車場だな。ロイドは此処からそこの木箱に移ったと思ってる訳か?」
「可能性としては」
「…でも、駐車場であれば大型車両を足場にすれば高さを稼げますね」
「ええ、車両自体が移動出来るから目立つ心配も少ないわね」
「…まあ、車両を使ってまで屋上テラスに登る必要性が見えて来ない以上、確定断定は出来ない。けど、侵入対策は出来そうだな」
「うん、此処に大きな柵とか遮る物を立てれば良いんだね」
「そんな物が病院にありますか?」
「……姉さんに相談かな、無かったら対策費用だって言って購入出来るかも」
「まあ、一先ずセシル姉に報告に行こう」
ある程度状況の整理為にもナースセンターに向かうのだった。ナースセンターではセシルの姿は無く、師長のマーサに上の病室に行くようロイド達は言われた。また、この時にマーサがティオを昔から知っているふうに話かけていた。しかし、ティオの表情は優れない様子だった。
「…ティオちゃん」
「ティオ、前にこの病院に?」
「……此処にお世話になったのは6年程前になります。…黙っているつもりは無かったのですが」
(…6年前?)
(6年前に?)
「…その、何ていうか、言いにくい事は誰にだってあるさ」
「あー、…そうだな、ティオ助だって、俺達だって、十年以上生きてんだ、1つや2つ位言いづらい事だってあるさ」
「…はい」
「それにティオちゃん、そんな顔をしないの。」
エリィはティオを後ろから抱きしめた。
「あ」
「せっかくの可愛い顔が台無しよ?」
「………」
「年齢も性格も趣味だってバラバラだろう。それでもこうして仲間として、俺達は一緒に行動している。今は、それで良いんじゃないか?」
「ええ、ティオちゃんの言いづらい事を知らなくても仲間であるのは変わりないわ」
「おう、そうだぜ」
「……皆さん、ありがとうございます。今は無理ですが、いつか、仲間である皆さんには言える様になりたいですね」
「無理はしなくて良いからな」
「…ええ、すみません、少々ナーバスになっていたみたいです。セシルさんは上でしたね行きましょう」
(ねえ、ロイド、6年前ってあれがあった年だよね)
(…エルも思ったか、俺もあれが浮かんだ)
(ティオちゃんってもしかして…)
(可能性の話だけどな)
(…師長が関わるって、よっぽどの事だよ)
(エルがティオにあったのは?)
(ロイドが向こうに行ってからだから最近だよ)
(あの時にいた俺達が知らないって事はそうかもな)
(…聞きたい気持ちも有るけど仲間より先は失礼だよねぇ)
(ああ、ティオの判断に任せよう。例えそうだとしてもティオはティオであり、支援課の仲間だから)
(うん、判った)
「おーい、お二人さん、置いてぞー」
「ああ、ごめん、すぐに行く」
少しスッキリしたティオを追って、みんなで304号室に向かう。
「エル、此処って」
「ああ、ロイドは知ってるよね、そうだよ」
「そうか…」
「なんだなんだ、2人だけ知ってる秘密か?」
「あ、ううん、そうじゃないよ。でも、あったほうが早いね――コンコン、失礼しまーす」
304号室に着いた俺達は、エルのノックの返事を聞いて中に入った。
「――いらっしゃい、みんな来てくれたのね」
「師長に言われてだけどね」
「あら、でも、みんなが来てくれて嬉しいわ」
「…エル坊、彼女は?」
「彼女は、シズクちゃん。みんなにはシズク・マクレインって言った方が伝わりやすいかな?」
「マクレインって⁉」
「驚きです」
「あのおっさん、娘さんがいたのか⁉」
「ああ、遊撃手、風の剣聖アリオス・マクレインの娘さんだよ」
「――えっと、紹介されました、シズク・マクレインです。その声はロイドさんですね、お久しぶりです」
「ああ、お見舞いに永らく来れなくてごめん」
「いえ、エルさんからお忙しいと伺っていたので」
「あ、そうそう、シズクちゃんが魔獣事件の時に鳴き声を聞いたみたいなの」
「本当かい?」
「…はい、正直自信が無かったので警備隊の方には言っていなかったのですが、聞きました。」
シズクの話では、当時、彼女は遅くまで点字の本を呼んでいたそうだ。その時、獣の鳴き声と悲鳴が聞こえたそうだ。ただ、大きく聞こえた訳じゃ無く、気の所為の可能性もあって言えなかったようだ。あと、獣の鳴き声の時にノイズの様な音が聞こえたそうだ。彼女は自信無さそうだが、状況と合致する為、魔獣存在を照明する証言としては十分だった。証言してくれた彼女にお礼を言って、部屋を出た。その後は、セシルにテラスでの1件を話して、対策を煽いだ。セシルはすぐに事務長のクラークに今回の件を話して、野外医療用の柵を設置するのだった。
「もう、すっかり夕方ね、今日はみんなありがとうね」
「いや、俺達は捜査に来たんだし、お礼は不要だよ」
「それでもよ、患者さんも怖がっていたから解決策が出来て感謝しているんだから」
「そうだよ、会議じゃあろくな対策出来なかったんだから」
「ヘヘ、そうかよ」
「ランディよりもロイドのお陰じゃないの?」
「…そうですね」
「お、俺も手伝っただろ…」
「明日は、マインツに行くんだっけ、気をつけてね」
「ああ、まあ、バスも有るから今日ほどじゃ無いと思うよ」
「そう?わざわざ歩いて周ってると思ってたよ」
「どっちもバスのトラブルだよ」
「そう思えば不運よね、私達って」
「…否定したいです」
「まあまあ、気をつけるのよ」
「バイバイー」
「ああ!」
その後、やってきた導力バスに揺られてクロスベル市に戻るのだった。