クロスベル市に戻ったのは夜遅くの事で、俺達は急いで報告書を作成して眠りについた。その翌日、俺達は課長に呼ばれ部屋に集合していた。部屋に入った俺達を迎えたのは課長の他にソーニャ副司令とノエルだった。そして、俺達は昨日調査した成果を3人に報告するのだった。
「なるほどね、病院の件は私達では気づけなかった事ね。被害場所が屋上であったから屋上を中心に見ていたけれど、寮棟の方は手薄だったわ」
「はい、アルモリカ村での事件も《神狼》の話は聞けていませんでした」
「くく、中々優秀だろ?」
「ええ、頼んで置いてあれだけど、期待以上の結果だったわね」
「…視点が変わるとこうも事件の見え方も変わるですね!」
「…アハハ、ちょっと恥ずかしいな」
「頑張ったかいがありました」
「フフ、そうね」
「ハッハッハ、そうだなぁ!」
「…はぁ、約1名に関しては訂正しようかしら?」
「ハハハ…」
「…でも、これなら安心して調査をお願い出来るわね」
そう言い、ソーニャ副司令は安堵の笑みを浮かべる。だが、その笑みに何か含みを感じた。
「…?はい、今日はマインツの方に向かう予定ですが…」
「…何だか訳ありな感じか?」
「……ええ、隠しても仕方のない事だから伝えます。今回の魔獣被害を受けて各地に配備していた警備隊員、特にマインツ方面の隊員に昨日付けで撤退命令が出たの」
「え、撤退ですか⁉」
「そんな、まだ解決も対策もしてないのに」
「…変、ですね」
「ああ、また上からか?」
「…ええ、そういう事ね。私達としても不本意だわ。」
〜クロスベル市・北口〜
クロスベル市での準備を終えた俺達は、鉱山マインツを目指す為に北口から街道に出た。すると、ランディが右手に見える大きな大聖堂に注目した。
「おー、やっぱりデカイよなーあれ」
「ああ、大聖堂はクロスベル市の外れに有るのに列車からも見える程だからな」
「…ですが、クロスベル市の高層化によって見えにくくなっているとか」
「…時代って奴かねぇ」
「……コホン、七耀教会が運営しているクロスベル民にはお馴染みの所ね。小さい子には日曜学校の場所でも在るわ」
「ああ、俺も小さい時に通っていたよ」
「あら、ロイドも――って、貴方もクロスベル育ちだったわね」
「という事は、お二人は一緒に勉強していたんですか?」
「おー、お兄さんも気になるなぁ」
「―――いや、俺の記憶ではエリィはいなかった様な…」
「ロイドさんが忘れているという線が有りますが」
「………いや、いなかったと思う。…うん、エリィみたいな綺麗な人は忘れないよ」
「…わお」
「ほぉ!」
「ちょ、ロイド!――き、な、何を言ってるの貴方は⁉」
「へ?」
「…これが噂に聞く天然たらしですか」
「いやー、お兄さんもびっくりだなぁ。流石はロイドだ」
「―――あ、いや、そういう意味では無いから!」
「いやいやー、これだから無自覚はなぁ」
「…はい」
「2人共、わかってて言ってるだろ!」
「「はい(おう)」」
「……はぁ、というか天然たらし何て誰から聞いたんだよ?」
「エルさんです」
「…エルぅぅ」
「ハッハッハ、エル坊も被害者かもな」
「―――フウ、やっと落ち着いたわ」
「おお、お嬢も復活だ」
「ごめん、エリィそういう意味で言ったんじゃないんだ」
「もう、良いわよ。それにその言い方じゃあ私の容姿がダメみたいよ。……で、ロイドと日曜学校が一緒って話だけど、確か区域によって時間が違ったはずよ。ロイドは西通りよね?それで私を見た事が無かったはずよ?私もロイドを見た記憶は無いから」
「ああ、なるほどそういう事か。通りで近くの皆と一緒だったのか」
「へー、クロスベル市じゃあ子供の数が多いからか?」
「うーん、それもあると思うけど、クロスベルの特徴として、西通り東通りみたいに雰囲気の違う人が暮らしているじゃない?それで、もしもその違いで衝突なんかが起きたら大変だから分けたんじゃないかしら?」
「…そうですね、クロスベルは多種多様ですからね」
「クロスベルっていう特殊故にって奴だな」
「…特殊、そうだな」
「改めて考えると特殊な場所よね、クロスベルと言う街は」
こうやって歩き廻ると余計にわかる、貿易都市として急成長したこの街は、様々な歪みや外部の介入をそのままで成長した。表面の姿と裏面の姿、その乖離が激しいこの街を守っていかなければならない。ふとした雑談でその決意が改めて固まるとは思わなかったが、それでも決意を胸に先に進まなければなら無い。
と、拳を握ると辺が急に静かになったのを感じた。
「――ティオ、周囲を――」
静かになった事を調貰おうと、ティオに声をかけた時だった。
『オオオオオォォォォォォン!!!』
周囲を揺らす様に響く獣の遠吠えの様な音、或いは衝撃波。俺の鼓膜を揺らすそれは、皆にも届いているようで、それぞれ耳を押さえていた。納まった時には全身からどっと汗が流れた。
「…皆、大丈夫か?」
「……ええ、ちょっと頭が痛いけど大丈夫よ」
「…はい、クラクラします」
「いやー、デカかったなぁ、俺も痛てぇや」
大丈夫と言っているが2人はダメージが大きそうなので少し休む事にした。回復した2人を確認して、ティオに探査を頼む。
「……エイオンシステム起動、……ム、……はい、判りました。マインツ山道の先、40アージュ程に反応がありますね。私達を誘っている様に感じます」
「40アージュか、近いな」
「ああ、ティオが感じた誘っていると言うのは気になるけど、行ってみるか?」
「…40アージュじゃあ、バスでは難しいわよね」
「そうだな、徒歩で向かうのが良いかな」
「…仕方ないですね」
「まあ、ティオ助にお嬢がバテたら背負ってやるよ」
「…ごめんなさい、それは遠慮するわね」
「私も遠慮します」
「……冗談だから」
反応を元に山道を走る、40アージュ先はすぐに辿り着いた。しかし、そこには何も無く、その代わりに更に先で新たな反応があった。まるで導く様に移り変わっていた。そして、俺達はマインツ行バスの経路の中間地点まで来ていた。
「ティオ、どうだ?」
「……途切れましたね。周囲を探っても反応がありません」
「…此処になんかあるって事か?」
「…でも、此処には特に何も無かったはずだけど?」
「……」
「どうする、此処で調査してみるか?」
「マインツに向かうと言うのも手よね」
「…追加するなら手配魔獣はこの近くです」
「……一先ず、手配魔獣からやって行こうか。此処の調査は俺は不要とは言わないが優先順位が低い気がする。マインツに向かうのは目的地だからそうなんだけど、少し気になる事があって」
「気になる?」
エリィ達に説明するために、俺はマインツに向かう道とは反対の方向を向いた。
「ああ、ティオ、手配魔獣はこの先だったよな?」
「はい、この石段の先になります」
「ん?何が気になるんだ、ロイド」
「この先って、確か洋館があったはずよね?」
「はい、クロスベル市のデータでも洋館があります。ですが、詳しい情報は無いですね」
「へぇー、で、ロイドはそれが気になると」
「ああ、関係が無い可能性も有るけど、確かめて置きたいと思う」
「…そうね、私もあの洋館についてはあまり知らないわね。あ、でもベルが話していたような」
「…マリアベルさんですか、あの人も不思議な人ですよね」
「ああ、あの綺麗なお嬢さんな。いやー、お近づきになりたいような、なりたくないような非常に変わった人だ」
「ちょっと、彼女は令嬢よ?ランディが変に声かけたら大変よ?」
「変にって、何だ。変にって、俺もそこは分別が有るやい」
「まあまあ、でも、彼女が知っていると言う事は無人館じゃないんだな」
「ええ、恐らくそうね」
「ま、行ってみようぜ?手配魔獣もいる事だしよ」
「…賛成です」
「ああ、行こうか」
山道からそれて、石段を歩いて行った。
手配魔獣のフォールワシを討伐した俺達は、件の洋館に来ていた。
「此処がその洋館だな」
「へー、大きい館だな?」
「はい、ざっと見ても住宅街の民家よりも大きいです」
「ええ、クロスベル市でもこんな館は無いわ」
「…ん、表札か?」
門の隣には大きく《ローゼンベルク工房》と書かれていた。
「ローゼンベルク工房!此処だったのね」
「知ってるのか、お嬢?」
「ええ、凄腕の人形師と言われる技師がやっている工房よ。出展されたアンティークドールは高い値が付くと言われているわね。ベルも集めているそうなのよね。クロスベルに工房が有ると聞いてはいたけれど、此処だったのね」
「へぇー、そんな凄い人形なのか」
「有名な技師の工房か、今回の件には関係が薄い気もするけれど一応訪ねようか」
「はい、反応が途切れた事に関係があるかもしれません」
「まあ、訪ねてハズレならマインツに向かえば良いだろ」
「そうね」
敷地を囲う塀には呼び出しのベルが有り、ロイドが近づく。ベルに手を伸ばした所で、後ろから可愛らしい声がロイドを呼び止めた。
「あらお兄さん達、お爺さんに御用かしら?あいにくお爺さんは今工房には居ないわよ?」
「…!おっと、可愛いお嬢ちゃんか。お兄さん達はちょっと調査で来たんだよ」
「フフ、そうみたいね。さっきも言ったけどお爺さんは留守よ。お話だけならレンでも聞くけれど?」
「えっと、察するにこの工房主の子供かな?お兄さん達は最近起こっている魔獣被害について調べているんだ。何かお爺さんから聞いているかい?」
「そうなんだ、でも残念ね。この工房には来ていないわ。御犬さん達も此処には近寄らないみたいね」
「そうなのね、所でお爺さんが留守って言っていたけれど、この工房は今貴女一人かしら?」
「ええ、私一人ね。お爺さんはあんまり人付き合いが好きじゃ無いのよ」
「そうか、情報を教えてくれてありがとう。でも、被害がないとはいえ、こんな街外れに子供一人と言うのは考え物だな」
「ええ、警備という点で不安かと」
「あら、心配してくれるのね?でも、大丈夫よ。工房にはレン一人だけど、家族がいるもの。そこらの犬なら問題無いわ」
「…?」
「フフ、でも心配してくれるなら早めに事件を解決してね、特務支援課のお兄さん達」
そう言って、彼女は館の中に入って行った。
「…不思議な雰囲気の子供だったな」
「ええ、ませているというか子悪魔かしら?」
「……ランディさん」
「ん、ティオ助も気づいたか」
「はい」
「2人共どうかしたか?」
「ロイドにお嬢、あの嬢ちゃんの前で俺達の名前言ったか?」
「え……あ、言ってないわ!」
「……なのに彼女は特務支援課と言った」
「ああ、それに嬢ちゃんがロイドに話かけるまで俺は嬢ちゃんに気が付かなかった。話かけられて初めて気付いたんだ。鈍ったとはいや、気配って物には多少敏感な俺が気づけ無かったんだ、あの嬢ちゃん、見た目通りじゃあ無さそうだぜ」
「はい、その点について私も気が付きませんでした。一応、微弱な気配も探れる様に外ではシステムを切っていないんですが」
「あの見た目で私達よりも強いって事よね?」
「おそらくな、信じらんねーぜ」
「……確かに状況から俺達よりも強いかも知れない。だが、今重要なのは魔獣被害とは無関係だと言う事。それと大丈夫と言っても危険には変わりないのだから、早くこの事件を解決なり対策を練る事だ」
「まあ、そうだな」
「そうね、最初の目的を解決すべきね」
「…では、マインツに向かうと言う事ですね?」
「ああ、先の遠吠えの様な音も気になるけど、現場に向かうのは当初の目的だ、それをこなそう」
「了解だ」
「ええ」
「判りました」
「よし、行こう」
そして、俺達はローゼンベルク工房を後にした。
石段を降りて、分岐したバスの中間地点に戻ってきた。そこで、今度はバスを使う為にバス停にて待っていた。
「さて、バスに乗ったらマインツだが、ついたらどうする?」
「…とりあえず、マインツは町老か、町老に話を聞こう。警備隊の調査も町老に話を聞いたはずだ」
「それからは被害者に話を聞くのね?」
「ああ、それと街の人からも話を聞きたい」
「…事件当時の状況を調べる為ですね」
「そう、被害者の主観だけじゃなく他者からの客観が必要だ」
「なら、今日は泊まり掛けか?」
「時間的にそうなるか」
「…昼は過ぎてますね」
「あ、もうそんな時間なのね」
「皆、お腹は大丈夫か?」
「俺は空いてる」
「…ごめんなさい、私も」
「私は別に、ですが、お腹には入れておきたい時間ですね」
「そうか、なら少し休憩しようか。幸いバスはまだ来ないみたいだし」
「とはいえ、食える物は持ってないぞ?」
「ああ、それは朝にベーカリーで買ってきた物が有るからそれを食べよう」
「あら、本当に?」
「いただきます」
「俺もいただきだ」
出発前にオスカーから試供品と共に買って置いたパンを皆で分け合った。
休憩を終え、引き続きバスを待っていると、遠くから響く様に麓で聞いた遠吠えが聞こえた。今度は素早くティオが探査する。すると、今度も40アージュ程離れた箇所に反応した。やはり、俺達を導く様な反応だが、俺達は急いでそこに向かった。が、トンネルの前でまた動いた。今度はトンネルの先で止まった反応を追った。薄暗いトンネルを駆け抜けた俺達を待っていたのは一匹の犬、いや、狼だった。
「…貴方でしたか、私達を導いていたのは」
「白い毛並みの狼、か」
「噂の神狼だってか?」
「私達を襲う気はないのかしら」
「ウウウ、ウォン!」
「……彼は誇り高い狼だそうで、人を襲う事はよっぽどが無い限り無いそうです」
「ティオ、あの狼の言葉がわかるのか?」
「ニュアンスですが多少は」
「なら、俺達に何の用か聞けるか?」
「ウォン、ウウウ、ウォン」
「……此度の件に関わる気は無かったが、我らが濡れ衣を着せられるのは我慢ならない。それにお前達が頼り無いから助言をやる…だそうです」
「ティオ助、多少か?」
「多少です」
「えーと、だから、あの狼は実際に被害を出した魔獣とは別と言う事なのね?」
「おそらく」
「等とつけるからには複数、群れか」
「ああ、俺達は最初に犯人が狼型魔獣なのかで事件を見ていたが、あの狼の話を信じるなら、群れ単位で別の狼型魔獣がいると言う事になる」
「狼が犯人では無くて、犯行を行った狼がいるとなるって事ね」
「ウォン、ウォン」
「…この先で最後の欠片が揃う、我らの濡れ衣を晴らしてみせろ…だそうです」
「なんか、偉そうだな?」
「…実際、狼として偉いのでしょう」
「ウォン」
そう告げて、狼は山をかけて行った。
「ティオ助、最後のは?」
「期待せずに見ている…だそうです」
「本当に偉そうだな」
「でも、助言?をしてくれたのよね?」
「……ああ、それにこの先、おそらくマインツでこの事件の欠片が填まると言っていた。みんな、行ってみよう」
「ま、そうだわな」
「ええ、行きましょう」
「はい」
マインツ山道を歩き、鉱山町マインツに辿り着いたのだった。
〜鉱山町マインツ〜
マインツに辿り着いた俺達は、クロスベル市ともアルモリカ村とも違うマインツの雰囲気に圧倒された。鉱山町という名前にそぐわない町の風景に、そこで働く作業員の姿、掘削機械に鶴橋の音が響いていた。
「…驚きました」
「ああ、警備隊の任務で何度か来たことあったが、やっぱり市外で雰囲気変わりすぎだぜ」
「…マインツ、資料で見ただけだったけど、実物とでやっぱり違うのね」
「掘削の音かな?も大きいな。それに活気が凄い」
「…導力機械が導入されて、一層に採掘量が増えましたからね」
「…魔獣被害があっても簡単には負けないって感じね」
「そうだな、たまにカジノ何かにくる炭鉱夫は皆ガッチリしてたな」
「そうなのか、まあ、これを見ると納得だな」
「…ですが、そんな中ですから余計に目立ちますね」
「…ええ、黒い装甲車ね」
鉱山町に似合わない黒い高級そうな装甲車が、マインツの入口に停まっていた。ハロルドさんが乗っていた車もアルモリカ村では目立っていたが、これはそれよりも異質な目立ち方をしていた。
「お嬢、ティオ助、こいつがどんなのか知ってるか?」
「…私は詳しくないけれど、確か帝国の方の情報誌に紹介されていたはずよ」
「…調べてみましょうか、………わかりました。帝国・ラインフォルト社製の特殊運搬車みたいですね。それも最新式のです。そんな車が鉱山町に何の用でしょうか?」
「…さあ、それは解らない。けど…」
「ま、ひとまず此処での目的を果たさねぇか?」
「あ、ああ、そうだな」
「町長宅は…聞きましょうか」
「ええ、そうしましょう」
「そうですか、教えて貰ってありがとうございます」
「ああ、良いよ良いよ。町長の話し合いもそんなかかんないと思うし」
住民に聞いて訪ねた町老宅だったが、近くにいた男性の話ではあいにく今は、町老は先客と対談中との事だった。
「で、どうするよロイド?」
「本当は、町老から被害者の事を聞いてからにしようと思っていたけど、先に被害者に会おうか」
「…調書に被害者本人の情報は有りませんでしたが」
「…聞き込みね」
「ああ、クロスベル市と違って此処は大きく無い。魔獣被害何かの噂はすぐに広まるだろうから、誰かは知っていると思う」
「うし、なら行動だな」
高低差の有る足場を渡りながら俺達は住民から話を聞いて行った。やはり魔獣被害の話題はほとんどの住民が知っていた。そのお陰で被害者にもすぐに辿り着いた。ベッドで休んでいた被害者マックスは幸いに病院で診る程で無くて、快く俺達に被害時の状況を話してくれた。とは言え、本人もそこまで詳しくは状況を覚えていなかった様で、わかった事は犯人はオオカミである事、仕事終わりに襲われた事、怪我自体は大したことでは無い事、概ねこの3つだった。その他にも町の人々からは次は自分かもしれないと恐怖している様子が至る所で見られた。
「…さて、そろそろ対談も終わったかな」
「そうですね、1時間程経ちましたし終わっている可能性は高いかと」
「結局、住民の殆どに聞き込みしたな」
「そうね、でもただ待つよりも良い時間の使い方だと思うわ」
「ああ、それに魔獣被害の状況やマインツの近況を住民目線からも知りたかったから一通り聞いて廻る予定だったんだ」
「なるほどな、まあ、大事な事か」
「……ですが、流石に疲れました」
「ハハ、町長に話を聞いたら宿を取ろうか」
「そうね、私も流石に疲れたわね」
「まあ、お嬢達は昨日の疲れも落ちきっちゃねぇだろうしな」
「ああ、どう話が転がるにしても、今日はマインツに泊まるから2人共もう少し頑張ってくれ」
「ええ」
「頑張ります」
それで、俺達はもう一度町老宅に向かおうとした時、足らなかったピースが落ちて来た様な感覚になり、咄嗟に物陰に隠れた。そして、町老宅から出てきたのは、上等なスーツを身に着けたマフィアであり、それも、以前抗戦した《ルバーチェ商会》の者だった。
「彼奴等、ルバーチェの所か⁉」
「…何故こんな所に?」
「クオーツの採掘に対しての交渉かしら?」
「…判らない、だが、あの狼が言っていた最後の欠片、それに関係しているかもしれないな」
「…彼奴等街から出て行くみたいだな」
「…少し追って見ようか」
「ええ、見つからない様にね」
町長宅から出てきた彼等はそのまま、町の外に向って歩いて行った。ばれない様に動き様子を確認する。すると、彼等は、入口の例の高級車に乗り込み、マインツをから出ていった。
「あの高級車、彼奴等のかよ。良い奴乗ってるぜ、まったく」
「まあ、町の人が乗るよりも、マフィアの彼等が乗っていた方が自然よね」
「…ですね」
「…ルバーチェはあの大きさの車を所持している」
「……?気になるのか、ロイド?」
「…いや、ごめん。まだ頭の中で固まってない、とりあえず、町老宅に戻ろう。今度は大丈夫だろうから」
「ええ、そうね」
ルバーチェ商会の事で思う事もあったが、一先ず、町老に話を聞こうと、町長宅に向かうのだった。
町長宅にて歓待を受けた俺達は、早速今回の件について尋ねた。
「それでは、今回の事件の状況を改めてお教え願えますか?」
「ああ、警備隊にも言っとるがあれは3日前の事じゃ。お主らもあっておる奴が仕事おわりに酒場で飲み、帰る所じゃった」
町長の話によると、大きく3つの事がわかった。被害は今までで3回、先日ついに怪我人が出て、被害が徐々に大きくなっている事。警備隊が今朝まで警備していたが、その時には襲って来ていない事、そして、警備隊が撤退した事。ギルドに頼むには難しく困っている所にルバーチェ商会の者が用心棒を買って出てきた事、要求は七曜石の独占権で有る事。町長としても今までの付き合いがあって独占させるのは厳しいと言う事だった。
村長の話を聴いた俺たちは、一先ず集めた情報を纏める為に一度宿舎に戻るのだった。大部屋を借りる事が出来た俺達はテーブルに警察手帳を広げ、一連の事件について纏めるのだった。
「さて、状況を整理していこう」
「おう、良いぜ」
「…まず何から整理しますか?」
「この2日間色々と見てきたものね」
「そうだな、まずは警備隊の調書から整理しようか。調書で不明だった部分は幾つか判明したけど、本来はその過程で見えて来る筈のものがまだ判っていない」
「見えて来る筈のもの…」
「…なんだ、そいつは?」
「魔獣の正体でしょうか?」
それぞれ書き記してきた手帳を見つめつつ発言する。
「いや、クロスベルが他国よりも狭いにしても流石に被害現場で同一の魔獣が生息している事を確認する事は無理がある。それよりも、魔獣の目的だと思う」
手帳の黒い狼による襲撃事件の項目に魔獣の目的と書き足す。
「目的?……ああ、病院の被害は飢えて襲ったにしては不自然だもんな」
「アルモリカ村では《神狼》の警告の話を聞いたわね、実際に襲ったのは黒い狼だから違うのかもしれないけれど」
「それに此処での被害も飢えてと言うには余裕が有るように感じます」
手帳の魔獣の目的から線を引き、飢えを加え、3つの現場での動きを書き記す。そして、飢えに疑問符を書き加えた。
「そう、此処での魔獣の動きは余裕があるんだ。警備隊がいる所では襲わず、いなくなってから襲う。これは飢えて苦しむ者の行動では考えられない」
「だな、飢えてんなら警備隊なんて関係無いはずだ」
「更に病院での侵入ルート、必要以上に被害者が出ていない事、これは一般的な魔獣では考えられない事だ」
手帳の飢えてに線を引き、侵入ルートと被害者が少ない事を書き加える。
「そうでね、まるで人が操っているみたいですね」
「そうね、周到すぎるわね」
「目的見えてこないのもそこに魔獣の意思が無いから、か」
「ああ、俺もそう考えている」
魔獣の目的の魔獣に線を引く。
「こんな場合、大抵は先に出てきた《枠組み》に囚われている場合が多い。しかし、それが納得や解明に繋がらない場合は《枠組み》を変えて考える事が必要だ。俺達は今まで黒い狼が《主犯》となる事件を調べていた。だが、それでは納得出来ない証拠がでてきている」
「……病院の侵入ルートや警備隊を避けている事か」
「そうね、私達の前に現れたあの狼だったら分からないけれど、それならアルモリカ村の事が分からなくなるわね」
「全てが繋がる様に《枠組み》を動かす必要があると」
「ああ、およそ犯罪事件には『犯人』『目的』『手段』『結果』が有るものだけど、今回の事件を現状で合わせるとどうだろうか?」
「…ちょっと待ってね、……この場合の手段は何かしら?」
「ああ、被害者に襲いかっていたり、病院での侵入ルートは脚力が無ければ不可能だから…身体能力になるかな」
「なら、こうね!」
『犯人』黒い狼たち
『目的』?
『手段』狼の身体能力
『結果』各地での被害
「ほうほう、まあそうなるわな」
「異議なしです」
「うん、そしてこれを考えを元にズラすと─」
『犯人』?
『目的』狼の身体能力
『手段』黒い狼たち
『結果』各地での被害
「犯人はさっきの事で狼では無い可能性が有った、そして、その場合は手段が狼たちとなる」
「んで、目的が各地の被害となると結果がおかしくなるからそうなんだな?」
「ああ、あくまでこの形式に沿わせた場合だから必ずしもこうであるとは言い切れない」
「ですが、これならばあの狼が言っていた、《悪名》にも説得力ついて来ます」
「そうね、狼たちが犯人で無いなら《悪名》よね」
「だが、犯人が人ってなるとどうすんだ?言う事聞かないだろ」
「ああ、この仮説は魔獣をコントロールできる前提だ。だけど、俺達はそれに関係有るかもしれない証言を聞いている」
「証言?」
「……シズクさんですね?」
「あ!」
「夜聞いたって奴か!」
手帳に書かれたシズクから証言に下線を引く。
「キーンとした音、それが魔獣を操っている可能性が高い」
「…なるほど、狼や犬の様な獣には人には聞こえない周波数の音を聞き取る事ができるそうです。それを利用した特殊な笛が─」
「──『犬笛』だな。軍用犬なんかを操る時に使われる笛でそう言う技術も残ってる。ま、正規軍よりも傭兵側の技術だがな。んで、それを利用した『犬笛』が今回使われたってわけか」
「その『犬笛』については知らなかったけど、恐らくそうだろうな」
新たに『犬笛』を書き込み、軍用犬を操れる事を注釈につけた。
「そうなるとかなり輪郭が見えてきたわね。…そうなると移動手段だけど…あ!」
「お、お嬢閃いたか?」
「うん、町に着いた時に見たあの特殊運搬車よね、ロイド」
「ああ、俺もそうだと思う。そして、それを裏付ける事も出来るかもしれない。…ティオ、エニグマの通信機能はこの町でも使えるかな?」
「はい、自治州内ですからギリギリ通じるかと」
「何処に繋げるんだ?」
「ああ、聖ウルスラ医科大学病院の受付だよ」
「なるほどな、あれか」
「ああ」
エリィが受付に連絡を取る。
「はい、……はい…!そうですか!…ええ、ご協力ありがとうございました」
「…どうだ?」
「うん、想像の通りだった。事件の日、ルバーチェ商会の車があのテラス下に止まっていたみたい。何でも、医療品なんかを高値で売ってきたみたい」
「決まりだな?」
「ですね、タイミングもバッチリです」
「ああ」
手帳には病院でルバーチェ商会の特殊運搬車が現場にいた事が記入された。
「…繋がりましたね」
「ようやっとな、《犯人》は《ルバーチェ商会》」
「《手段》は《黒い狼たち》ですね」
「《結果》が《各地被害》で」
「そして、《目的》は七曜石の独占権、はオマケね」
「ああ、言うならば《狼達をコントロール出来るかの実験》こうだろう」
「被害の真相はこれだってことだな」
『犯人』ルバーチェ商会
『目的』狼たちをコントロール出来るかの実験
『手段』黒い狼たち
『結果』各地での被害
「ああ、最近対抗組織である《黒月》存在もある。戦力増強に力を入れているルバーチェ商会が不良の次に目をつけたのが軍用犬と言う事なるな」
「そうなると、警備隊が急に撤退したのも納得ですね」
「ええ、裏で色々と繋がっているのね。…はぁ、腐っているとは思っていたけれど、そこまでとはね」
真相が見えてきた所でそれぞれ飲み物を口に含む。今回任された究明ついては完了しので安堵の笑みを浮かべていた。
「それで、彼らはこれ以上続ける思う?」
「…魔獣の実践テスト言う観点で見れば十分なんだと思う。警備隊も引きあげさせたと言う事は、これ以上の騒ぎは起こす気がない気もする。」
「だな、それに騒ぎすぎると黒月の方介入して来るかもしれねぇ、それはルバーチェ商会いやだろう」
「ああ、ただ、連中は少し余計な色気を出したな」
「七曜石の独占ですね。となるともう一度動くと?」
「だろうな、連中、随分とご機嫌だったもんな」
「…襲撃はいつになるかしら?彼等は明日また来ると言っていたけれど」
「……今夜、だろうな。明日になれば町長もギルドに連絡するだろうし、連中も明日に良い返事欲しいはずだ。最後の脅しをかけるなら今夜しか無い」
「──よし、やるか」
「黒い狼とルバーチェ商会の撃退ね!」
「やりましょう!」
「あ、警備隊には連絡した方が良いかしら?」
「いや、裏で繋がっている事を考えるとしない方が良いだろう」
「ま、俺達だけでも大丈夫だろうよ」
「ああ、襲撃深夜可能性が高い、それまでに出来る準備をしておこう」
「「ええ(はい)!」」
ミーティングを終えた俺達は、それぞれ食事、装備、携帯品の準備を行った。襲撃の囮は俺が行う事に決め、その為の準備も同時に行うのだった。
深夜、夜の帳が降りたマインツ。宿屋の灯りは明るくも薄暗いそんな中、一人の鉱山員が歩いていた。そこに、ウォォンと大きい雄叫びが響いた。そして、鉱山員目掛けて3つの影が襲いかかる!
「──やはり来たか!セイッハァッ!!」
しかし、3つの影の攻撃はトンファーによって防がれたのだった。鉱山員はロイドが変装だった。
「よっしゃ、ロイド、上手く目ぇ瞑れよ!」
「──キャンッ!!?」
少し離れた高所に現れたランディから放られたスタングレネードによって3つ影、3匹の軍用犬は怯んでしまった。
「ロイド、無事!?」
「ああ、俺は大丈夫」
「ロイドさん、軍用犬が起きます!」
「よし、このまま撃退するぞ!」
ロイドの激答える様にランディはスタンハルバードを横薙ぎに振るう。それを軍用犬は跳んで避ける。そこにエリィとティオが追撃を行う。スタングレネードで視界不良の軍用犬に避けられるものでも無く、直撃するのだった。先制攻撃で与えたダメージによって着々と撃退していった。だが、軍用犬も何もしなかった訳では無く、隙をついて逃げる程度に体力を残していた。
「あ、彼奴等逃げんぞ!」
「問題ない!追いかけるぞ!逃げた先に奴等もいるはずだ!」
「わかったわ!」
「はい!」
軍用犬はそのままマインツ郊外に駆けていった。それを追うロイド達は、昼間に見た特殊運搬車を発見した。
「なっ、お前達、何故こんなに早く戻ってきたんだ?」
「町の奴等を襲う様に指示出したのに、早すぎるぞ?それになんで怯えているだ?」
「──そこまでだ!」
「な、今度は何だよ!?」
「クロスベル警察、特務支援課の者だ!」
「ルバーチェ商会の方ですね。器物損害、および傷害の容疑で拘束させていただきます!」
「な、警察だと!それに、特務支援課ってのはフォビオ達が下手を打ったあの時のか!?」
「おうおう、俺達の名前も売れて来たねぇ」
「その売れ方は嬉しく無いです」
「ち、落ち着け、警察の跳ねっ返りなんぞ此処で痛めつければいいだけだ」
「そ、そうだな、うちの犬どもも可愛がってくれたみてぇいだし、ここらで礼をさせて貰うぜ!」
「──抵抗するつもりか」
「当たり前だ!」
「ほら、お前達も立て!」
マフィアの一人が懐から薬を取り出し、軍用犬に放り投げた。
「──!」
「バウ、ググルル!」
「5対4ですね、数的には不利です」
「問題ない!行くぞ!」
「「「おう(ええ)(はい)!!」」」
ルバーチェ商会のマフィア等との戦闘が始まった。
「景気づけに一発貰っときな!」
「爆薬!?」
「いや、目を瞑れ!」
ランディが放り投げたスタングレネードは、マフィアと軍用犬の中央にて発火した。眩しい光にマフィアの片側は目を瞑るのが間に合わず、怯んでしまった。だが、もう片方は間に合い、軍用犬も一度受けたので怯まなかった。マフィアの片側は手に持つ銃でエリィに向けて放つ。しかし、それはロイドがトンファーで防ぐ。それを見たエリィはお返しに3点バーストをお見舞いする。銃声に反応した軍用犬の一匹が背中のアーマーでそれを弾いた。
「やっと、見えた!」
「遅いぞ、くっ、早く前にでろ!」
「悪い!」
「おっと、回復したか、なら付き合って貰うぜ!」
「舐めるなよ、警察風情が!」
「ランディ!」
「ロイドは犬どもを頼むぜ」
「ランディさん、…エニグマ駆導、クレスト!!」
ティオがランディに向けて地のアーツ、クレストを放った。
「サンキュー、オラァ!!」
「くっ、力負けだと!?」
「クソ、射線を開けろ!」
「――隙あり!」
「ちっ!」
マフィアの持つ銃をエリィが弾く。無手のマフィアは慌ててティア薬を取り出した。
「──させません!ハァァ!」
「ぐ、痺れて」
回復させないとティオが導力杖を振るい、そのエネルギー弾がティア薬を持つ手を痺れさせた。
「何やってる!?早く援護を寄越せ!」
「おっと、お嬢達もたくましくなったもんだな。オラァ、俺も負けてねぇな!」
「ウグァっ!」
ランディの一撃で特殊運搬車の壁に叩き着けられた。
「な、クソ、犬どもは!?」
マフィアは周囲を見渡すと伸びている軍用犬を発見した。
「…ふぅ、前衛一人は流石に疲れるな」
「クソ、警察風情なんかに!!」
「その風情に負けんだ、よ!!」
「グワッ!!」
ランディのスタンハルバードの一撃でマフィアは膝をついた。
「──これ以上の抵抗は無駄だ!」
「あなた達の身柄は明日の朝に警備隊に引き渡します」
「今夜は倉庫でお泊まりだな」
「……?」
「…フフ、はは」
「ククク」
膝を着いたマフィアはそれを聞き、突然笑い出した。
「何だよ」
「…警察はあまちゃんの集まりだと笑っただけだ。勘違いするなよ、俺達はまだ手段を選んでいたんだよ。だが、こうなれば仕方ねぇな!」
「オラ、出てこい!」
そう言って、マフィア達は特殊運搬車のハッチを開けた。中からは10匹の軍用犬が飛び出して来た。一瞬で囲まれるロイド達。
「クソ、まだいやがったのか!?」
「囲まれているわ」
「どうしますか、ロイドさん!」
「く、どうする!?」
「──ウォォォォォォン!!!」
囲まれ、絶対絶命の時、この場全体に響く雄叫びが聴こえた。そして、それを聞いた軍用犬は怯え震え上がった。一斉に降参のポーズ震えながら行った。
「あの時の狼…!」
「来てくれたんですね」
「はは、仲間連れて参戦とかかっこいいことやってくれるぜ」
「な、お前ら何を怯えてやがる!」
「しゃっきりしろおい!」
「これは本物と偽物の違いというやつなのかな?」
「ま、犬と狼じゃあ勝敗は決まってるもんだ」
マフィア達は状況が飲み込めていなかった。
「…ウォフ、ウォォン」
「……ティオ、なんて言っているんだ?」
「……お前達が情けないから来たと」
「…否定出来ないわね」
「どうであれ、今度こそ終わりだ。器物破損、傷害容疑および公務執行妨害であなた達を逮捕する─」
マフィア達と軍用犬を特殊運搬車に入れ、マインツに連行するのだった。
「………ウォフ」
白い狼も連行される車両を見送り、一瞬何処かを見て、山に帰っていった。
〜?~
「あら、やっぱり気づかれちゃった。…あの狼さん、何者かしら?只者ではないようだけど、でも、レンにはあまり関係無いわね。…それにしてもお兄さん達も爪が甘いわね。狼さんが来なかったらどうしていたのかしら?」
「…それも含めてこれからだろう」
「あら、貴方も来ていたのね。お兄さん達って結構人気物ね」
「何、君も人の事を言えないだろう」
「…何かしら、さっきのはレン聞こえなかったわ」
「………そうか。しかし、この数ヶ月。君がここに滞在しているのは掴んでいる。君のいう『お茶会』とやらを開くのかと思っていたが…」
「ふふっ、ここはそんな事をしなくても刺激的な場所よ。一手加えるのは不粋な事だわ」
「…そうか、それを聞けて安心した。君の個人的な用事とそれに付随する君達の因縁にとやかくいうつもりはない。だが、君も知っての通り、彼女達は諦めが悪いだろうな。」
「…知ってるわよ」
「…先立つ物からの助言としては…目の前にある物から何時までも逃げられないぞ?」
「…放っておいて。それにレンにはエステル以外にも用事があるの。『彼』の件もそうだし、確かめなければならない事があるから」
「…確かめなければならない事?」
「…秘密よ、レンは騒ぎに来たわけではないわ。大人しくもしているから放っておいてちょうだい」
「…承知した」
「エステルたちにも言わないでね。それじゃあ、レンはもう行くわね」
「………」
〜早朝~
夜が明けた。日が昇ってすぐに俺達は警備隊に通報、聞きつけた警備隊がすぐにマインツに到着し、マフィアの移送も素早く行われた。後は、現場の状況整理と事後報告になってしまった俺達への苦言とお褒めのお言葉を貰い、警備隊の車両でクロスベル市に戻ってきた。その時には俺達の体力は限界を迎えていた。
「流石に眠たいわね…」
「…限界です」
「ほぼ、完徹に近いからな…はぁ」
「…みんな、支援課に戻ったら課長に挨拶して解散だ。報告書は後回しでも許してくれるそうだから、頑張るぞ」
しどろもどろで支援課ビルに辿り着いた俺達を外で一服していた課長が出迎えてくれた。本人はあまりその気は無かったようだが、何でも俺達への客がいて落ち着かなかったらしい。疲れで頭が回っていない状況あり、なにも飲み込めていないが、一先ず中に入る事にした。
「…中に誰が──」
「…ウォフ」
「──はぁ?」
「──えぇ!?」
「──(あんぐり)」
「…ああ、やっぱりお前等の知り合いか、いきなり中に入って来るやあーやってふてぶてしく寝てるんだよ」
あの時、助けてくれた白い狼はあくびをしながらこちらを見ていた。
「……ウォフ、ウォォン」
「…あー、なんて?」
「…えっと、『我が名は《ツァイト》、我々への濡れ衣を晴らした事はご苦労だった』」
「…感謝を言いに来たのか?」
「『だが、お前達はまだどうにも頼りないので、仕方なく自分が力を貸してやろう』……だそうです」
どうにも特務支援課に穏やかな時はまだ来てくれないらしい。
次はまた暫く先かもしれないです