年上少女の軌跡より   作:kanaumi

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久しぶりの投稿です。


4冊目 p107 4月17日 帝国へ

 大陸各地を騒がせたあの事件から一か月が経った。一か月が経って各地も元の様な生活に戻り始めていた。事件解決に動いていた警察や遊撃手も事後は現場の調査や処理で慌ただしかったが、今では通常業務を再開させて各地を走り回っている。聖ウルスラ医科大学病院では、送られてきた負傷者の処置が完了し、回復を待つ状態へ移行した。それに合わせて通常の業務体制に戻して行った。それに合わせて僕達の手伝いも終わって、僕達も日常に戻って行った。

 

「ねえ、エルちゃん?最近は、お手伝いでゆっくり出来てなかったと思うけれど勉強はしているのかしら?」

「大丈夫だよ、空いた時間に病院の皆にロイドと一緒に教えて貰っていたから」

「あら、そうだったの?…なら、大丈夫そうね」

 

 病院の方も落ちついて来た事で、久しぶりに帰宅して来た姉さんは何処か疲れたような顔をしていたけど、無事に済んで安心したような雰囲気も感じた。久しぶりに皆揃っての夕食はいつもより力が入った出来栄えだった。夕食後、姉さんはソファーに座って休んでいた僕に先の内容の事を言ってきたのだ。どうも、姉さんは僕が病院の手伝いばかりしていたのを気にしていたみたいだ。でも、あの手伝いの間は空いた時間に看護師長が僕達の勉強を教えてくれていた。そのお陰か、僕もロイドも勉強が疎かになる事は無かった。

 

「…どうかしたの?」

「ふふ、エルちゃん達が頑張ってくれたお陰で私達もとても助かったからそのお礼を皆で考えたのよ。そこで、ロイド君も連れて旅行に行って来たらどうかってなったのよ」

「旅行?」

「ええ、旅行。お金なんかは病院側が出して挙げるから行って来たらどうかしら?」

「えっ、そう、なんだ。……ん、姉さんは行かないの?」

「残念なんだけど、仕事の関係上そんなに離れる事が出来ないのよね」

「…ガイさんも?」

「そうね、貴方達二人でになると思うわ。ガイもまだ忙しいみたいだから」

 

 急に決まったロイドとの旅行は、僕の故郷エレボニア帝国へ3泊4日の旅になった。あの後、ロイドに急いで連絡したのは内緒である。更に、ロイドから心配された。何でだろう。

 

 

 

 

 

 

 そして、旅行当日になった。いつもの様にロイドに起こされ、身支度と朝ご飯を済ませた。その後、荷物のチェックを行って、ロイドと共に両親と姉さんに見送られながら僕は少し重たい荷物を持ってアパートを後にした。朝の街並みを横目に駅へ向かった。少し早かったのか、列車到着までに少し時間が空いてしまった。仕方ないのでベンチに座り、時間を潰す事になった。何となしに帝国のパンフレットを見てみたり、辺りへ目を動かしたりしていた。すると、列車の到着を伝えるアナウンスが聞こえ、帝国方面からの列車がホームに停車した。これから共和国の方に行くのだろう。そう考えていると、何故か不快に感じ始めた。列車に対してではない感じだが、その正体がすぐに浮かんでこなかった。しばらくそれを感じていると、突然それが消えてしまった。突然の事だったので、僕はつい辺りを見回してしまった。それをみてロイドがどうかしたのかと聞いて来たのはどうでも良い事だった。なぜ消えたのか、それが分からずさっきとは違う感じで悶々としてきた。そして、最初の悩みを僕は鈴の音と共に忘れてしまった。そんな僕を尻目にロイドは顎に手を当てて、冊子を見つめていた。

 

「ねえ、何処か良い所は有ったの?」

「ん、そうだな。あるにはあるが時間が有るのかは分からないかな。帝都は広いらしいからな」

「お母さん達も言ってたもんね」

 

 帝都ヘイムダルは、エレボニア帝国の首都なだけあってその広さはとても広大だ。十何区に分けられた地区は一日で全部を回るのはとても骨が折れそうだとお母さん達に言われていた。だからロイドはその中からピックアップしたのだろうがそれでも回れるか怪しいようだ。帝都では帝都の遊撃手に案内を依頼しているからその遊撃手に任せてしまうのも手かもしれないとは姉さんの言葉だ。ガイさんもそれが良いと言っていた。僕もその気でいたのだが、ロイドはそれでも自分が行きたいところは決めておきたい様だった。何だかんだロイドも楽しみなのだろう、最近ロイドが年下だという事を忘れそうになるけどこういう所はそれっぽいなと微笑ましく感じた。

 

 どれくらい待っただろうか?長く感じた待ち時間は列車が来た事を伝えるアナウンスにより終わりを迎えた。それを聞いた僕は周りに置いていた荷物を集め出した。ベンチに置いていた物や下に入れていた物を急いで手に持った。ロイドも持っていた冊子を上着のポケットにしまい込んで、同じように荷物を掴んで行った。最後に確認を行って僕らは列車に向かった。

 

 

「見てよ、ロイド!ガレリア要塞がもうあんなに先に見えるよ」

「エル、あんまり席を立たないでくれ。周りに迷惑だから。」

 

 列車に乗って大分時間が経ち、僕らを乗せた列車はガレリア要塞を超えてエレボニア帝国の地を走っていた。

 

 

『「帝都ヘイムダル、帝都ヘイムダル、御降車するお客様は忘れ物にご注意下さい。次はーーー』

「エル、降りるぞ。準備はできてるか?」

「大丈夫だよ。ロイドこそ忘れ物をしないでよ?」

「…エルじゃあるまいし、大丈夫だよ。」

「あるまいしとか、余計な事を言わなくて良いよ。」

 

 軽口を言いながら僕達は、ヘイムダル中央駅を歩いた。現地ガイドはヴァンクール大通りへの入口にいると聞いているのでそこに向かう。でも、始めて来る所で、更にとても大きい所だからか僕もロイドも視線があっちこっちに泳いでいる。

 

「ロイド、そう言えばガイドの名前ってどんな?」

「…セシル姉から聞いてないのか?」

「うん、帝都ではロイドに任せなさいって言われているから。」

「……それで良いんだ。………遊撃手、アルベルト・ガーランドさんって、人だね。叔父さんが前話していた帝都で街道に出た少女を確保したって言っていた人だよ。ガイドの件もこういう繋がりで受けてくれたのかもな。」

「へー、でもそれって、7年前だよね。相手さん良く覚えてたね。」

「そうだな、アルベルトさんが覚えていたのは偶々かもしれないな。」

 

 アルベルト・ガーランドねえ、特に記憶に引っかかる物は無いかなぁ。対面してそうなんだけどなあ。

 

 

 そんなこんなで中央駅の出入口付近までやって来た。話によればここの辺りにいるみたいだけど、何処だろう?遊撃手って、決まった制服とかないからわからないんだよなあ。あ、でも、大荷物は持って無いか。なら、身軽そうな人を探せば良いんだね。身軽、身軽っと。あれは車掌さん、あれも車掌さん、あれはカップル、あれもカップル、あれもカップル、カップルばっかじゃないか。遊撃手の人、見つかんないよ。

 

「ねえ、ロイド、遊撃手の人見つけれた?」

「……ああ、おそらく。」

「そっかー、見つけれたかー。……本当にっ!!え、どこ!?さっぱりなんだけど!?」

「後ろだよ。」

「おっと、正解だ。坊主、なかなか良い目をしてるな。」

 

 ロイドが自身の後ろへ振り向きながら告げる。僕もそれに続き視線を動かすと、そこには片手を上げこちらを微笑む髭のおじさんがそこにいた。

 

「なっ、髭!?」

「おいおい、開口一番に髭かよ?相変わらず元気なものだよ、エル坊はよ。」

「あーえっと、エル、この人がさっき言った遊撃手さんだ。」

「この髭が!?」

「何だ、心配して損したか坊主よぉ?」

「…これは俺も予想外です。…よくわかりませんが、印象深かった、とかですか。」

「複雑だなぁ。」

「髭!?」

 

 その後、エルの錯乱はアルベルトの拳骨で収まった。

 

 

 

 

 

 七耀歴1198年 4月17日  (代筆:ロイド)

 

 以前の病院での手伝いから大分時間が経った。セシル姉はもう大丈夫と言っているが、それでも他の人や兄貴の様子を見るに以前の様に戻るにはもう少し時間がいるような気がする。とはいえ、セシル姉の笑顔が見れる位に回復している。今はそれで良いのだと、俺はそう思っている。兄貴も同じような事を叔父さんと話していた。

 今日は、朝早くから列車に揺られていた。先日セシル姉から打診されていた慰安旅行の様な物でエレボニア帝国に向かっている。最近、憂鬱そうな雰囲気を発していたエルを元気付けようと言うのが目的だ。何かに影響されたのか、エルはここの所元気が無かった。俺もそれは知っていたし、セシル姉や叔父さん達もわかったいた。ただ、原因はわからなかった。

 だから、旅行に行って元気つけようと、セシル姉が発案し、計画を立てた。最初は、セシル姉達も一緒にだったが、予定が合わせられず悩んでいた。俺とエルでは危ないとも感じていたから余計に悩んでいたと思う。そこで、叔父さんが遊撃手に頼ろうと言い、クロスベル支部に相談した。そこからは早かった。帝都で活動している遊撃手に連絡が行き、あちらで協議され、案内をつけてくれる事が決まった。セシル姉が計画を進めていたが、俺も案内してくれる遊撃手と連絡を取り合ったりしていた。

 エルがこの旅行を知ったのは、大部分が決まってからだった。伝えた時は呆然と聞いていたが、荷物を準備している時に理解追いついたのか、大声を出して驚いていた。

 朝の5時頃、帝国行の列車に乗った。朝が早かったからかエルは、眠そうにしていた。けれど、心配していた事が起こる気配がなくて俺はホッとしていた。エルは列車での事故で行方不明になった。それで、もしかしたら列車に乗って発作でも起こったら旅行どころでは無くなってしまう。セシル姉もそれを危惧していた。だから、対策も用意したが杞憂で終わりそうだった。

 列車内は、朝早くに乗ったので乗客は少なかった。エルも外の景色に一喜一憂しながら楽しそうにしていた。

 駅に到着した俺達は、帝国という物の大きさを感じとった。クロスベルとは比べ物にならない程の巨大な駅内に、そこを行き交う人々の多さに圧倒された。これが大国か、とは何方から漏れた言葉か。

 その後、案内をしてくれる遊撃手と合流した。その時のエルの反応に俺は驚いたが、遊撃手アルベルトさんは懐かしむ様に髭を撫でていた。

 

 

 

 

 


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