第1話 ゴッドイーター
(……)
(…ここは?)
アラガミの捕食行為によってすっかりと変わり果てた姿となってしまったビル街に私は立ち尽くしていた。右手に違和感を覚えて確認してみるとその手首には身に覚えのない腕輪がはめられており、その手は一つの武器を握りしめていた。
(これは、神機?…てことは、あたしついになれたんだ。ゴッドイーターに!)
そして、目の前には
最高のシチュエーションじゃないか。
「あたしはこの日をずっと待ってたんだ!」
そう叫ぶと神機を構えて走り出す。
そのままのスピードで跳躍し、上段から神機を思い切り振りおろした。
ヴァジュラの振り向きざまに行った1撃は、ドンピシャで顔面に決まった。
不意を突かれたヴァジュラは1度のけ反った後すぐさま攻撃に転じ、飛び掛かってきた。
その巨体ゆえ、直撃は避けられたとしても近くにいればその衝撃に襲われて動けなくなってしまうこともある。自分では、避けられたことを確信していた私はしっかりとその衝撃に巻き込まれてしまった。少し跳躍距離が足りなかったらしい。
そして目の前には、ヴァジュラが追撃するために右前脚を振りかぶっていた。
「あ、やば…」
そう思った時にはもう遅い。
冷や汗のためか急に体が寒さを感じ始めた。
そして次の瞬間。
……
…
ゴン
「い”っっった!?」
鈍い音とともに、後頭部を何かで殴打だされた。
「え!?え!?何何何!?」
状況も理解できないままベッドの上をしばらくゴロゴロと転がってうなっていると、やっと回転し始めた頭が状況の整理を始めてくれた。
カーテンの間からは既に日差しが漏れており、僅か…いや、あれは全開……に開いている窓からは2月特有の突き刺すような冷気が入り込んでいた。
「…何で窓が開いてるのよ。昨日閉めたはずなのに。」
そんなことをぼやきながら窓を閉めようとベッドから立った瞬間、聞きなれた声が降ってきた。
「当たり前じゃ。今、わしが開けたからのぅ。」
「いっ……母さん…いつの間に?」
「お主がぐーすか寝言を抜かしておった時からかの。確か…」
「ああああああああああ!!!!ストップ!それ以上は聞きたくない!というか、まさかとは思うけど、さっきあたしを殴ったのは…?」
「ふむ、意外とおたまでもいい音が出るもんじゃ。」
「……あのさ、もっと良い起し方無かったの?」
「いやはやいろいろ試した結果じゃ。掛け布団引っぺがしてみたり、窓開けてみたり、朝食出来たと誘ってみたりしたんじゃがの。効果が無かったゆえ、な。」
そういいながらあたしの母さんは持っていたおたまをくるくると回しながら言った。
「それよりいいのかや?」
「?何がよ。」
「いや、確か今日は適性試験の合否通知がある日じゃなかったかのぅ?」
「あああああああ!」
…完全に忘れてた。
「今何時!?」
すぐさま壁にかけてある時計を確認。
時計は9時45分をちょうど過ぎたところだった。
通知がされる時間は10時ジャスト。
場所はこの地域のアラガミ討伐組織「フェンリル」の極東支部という場所。
通称「アナグラ」
家からは歩いて30分はかかる場所にある。
「もう!なんでもっと早く起こしてくれないのよ~!」
と、文句を言いながら壁にかけてあった服一式をひったくるように掴むと自分でもあり得ないと思うような速度で着替えた。
「わしは、何度も何度も声はかけたぞ。無視したお主が悪い。」
「うっ…」
ぐぅの音も出ないとはまさにこのことか。
「まったく、テーブルの上にサンドウィッチを用意しておいた。食べながら向かうといい。」
「うぅ、ありがとう母さん。」
そういいながらも、動かす手は止めず、最後に髪を左のサイドアップに結んで鏡の前でよしっと言ってから部屋を飛び出した。
「急いでケガなんかするんじゃないぞ~」
「わかってるって!」
心配する母さんの声を背なかで聞き、サンドウィッチを咥えながら外に飛び出した。
……
「…で?これは一体どういうことなのかしら?…はっ…はっ」
「どうって?はっ…どういう…意味?」
アナグラまでの道のりを何故か二人で並んで走る。
つい先ほどまでは一人で全力疾走していたのだが……。
「いいじゃんいいじゃん。怒られるなら一緒に怒られようぜ♪」
「そんなの絶対に嫌!」
「怒るなって、どうせそっちも寝坊だろ?」
「ぐっ…」
こいつはいつもいつも私の痛いところばかり…。
隣を走っている少年は、全体的に黄色系統の配色の服装に身を包んでおり、クリーム色にオレンジの縞が入ったニット帽、そして首にはマフラーを巻いているのが特徴的な少年。
名前は藤木コウタ。
幼馴染の腐れ縁と来た。
「もう!なんなの今日は!」
「なんだよ。」
「うるさい!今日はもう最悪!寝坊はするし、母さんにはおたまで殴られるし、挙句コウタと並走?冗談じゃないわ!」
「ちょっと待て!最初の2つはお前のせいだとしても最後のやつなんだよ!」
「うるさいうるさい!そんなの私が知るわけないでしょ?」
「り、理不尽だ。」
「そんなことより、私急いでるから、じゃーね!」
そう言い残すと私は一気にスピードを上げてコウタを抜き去った。
「あ!?ちょっと!待てよ」
「まーたーなーいー」
そういいつつも全力で走る。
このペースで行くならば問題なく間に合うだろう。
………
……
「さて、先日行ってもらったお二方の適性試験の結果を報告……したいのですが…大丈夫ですか?」
白衣に身を包んだ小柄の女性研究員が心配するように声をかけてくれた。
「はぁ…はぁ…大丈夫…です。」
「はぁ…くそっ…敗けた…はぁ…。」
私とコウタは、ここまで本当の全力疾走をしたおかげで息がだいぶ切れていた。いつもであれば息切れからの回復は比較的早い方なのだが、今回はアラガミから逃げるわけでもないのに全力を出したため、なかなか回復できなかった。
故に、二人でアナグラに着いた頃にはお互いもうフラフラの状態だった。
「あのぅ…もうお伝えしてもよろしいですか?」
と、私たちの息が整うまで律義に待ってくれているあたり、この人はいい人かもしれない。適性試験のパッチテストのときは、話についていけてないのにぱっぱと進められたおかげで、その日はいつにも増して精神的に疲れが残った。
「あ、すみません。お願いします。」
一足早く回復した私から結果を聞くことになった。
「はい、では、最初に霧ヶ峰大和さん。」
私の名前が呼ばれた。
「ゴッドイーターの適性試験……見事合格となりました。おめでとうございます。」
「へ?」
「おぉ!やったじゃん大和!」
「え?あぁ、ありがと。でもなんか信じられない。」
「まぁ、細かいことは気にするなって、合格だってよ。これでゴッドイーターになれるんだぜ?」
そうだ、これで私も……。
「藤木コウタさんも同じく適性試験は合格です。」
「俺も?」
続いてコウタの合格も告げられた。
ここまであっさりしていると何となく夢なんじゃないかって思えるが。
でも、これでゴッドイーターになれる可能性が上がったわけだ。
あともう少し。
次に控えている神機の適合試験で神機にさえ適合すれば私も晴れてゴッドイーターの仲間入りだ。
あともう少しで近づくことができる。
「そういえば、俺達のほかに適性試験を突破した人っていないの?」
思い返してみれば、適性試験の当日はもっと人がいたはずだった。
私たち二人だけとかそんなに少ないはず……。
「あ、いえ、合格者は紛れもなくあなたたちだけですよ?」
その言葉に、二人して同時に顔を見合わせてしまった。
「そもそも、適合先の神機が如何せん少ないものですから。さて、これからお二方には神機の適合試験を受けてもらうことになりますが、体調が悪いなどの症状は………ちょっと時間を空けてから行いましょう。」
「すみません。」
「いえいえ、ではそうですね。11時にまたここに集合してください。神機の関係上藤木コウタさんから試験を行うことになるのでそのつもりでお願いします。では、いい結果を期待しています。」
「了解です。」
「了解。」
私たちは、それぞれ返事を返してエントランスを後にした。
登場人物紹介
・霧ヶ峰 大和
年齢:17歳
特徴:髪は若干青みがかかった黒で、左サイドアップに結んで青いリボンをしている。瞳はエメラルドグリーンで釣り目。
・藤木コウタ
年齢:15歳
大和とは幼馴染。
・霧ヶ峰 弥生
大和の母。