……
時刻は11時5分前。
私とコウタは再びアナグラのエントランスに集まっていた。
そこでふとコウタが言葉を漏らした。
「やっぱりアナグラってすごいんだなぁ。本当に地下にまで広がっててさ。」
「まぁ、アナグラって呼ばれるくらいなんだから当然だとは思ってたわよ私は。」
適性試験の結果通知からだいたい40分が経っただろうか。
この時間私たちは何をしていたかというと、コウタの発案でアナグラの中を探検することになった。
今になって思えば、探検って……もう少し違う表現はなかったのだろうかとは思うが。
アナグラという名前にふさわしく、極東支部は施設が横に広がっているわけではなく地下に広がっているため主にエントランス内にあるエレベーターを使用して様々な施設に移動することができた。その中でも重要な階層にはさすがに入ることはできなかったが、たまたま一緒にエレベーターに乗り合わせた神機使いの人に説明してもらった。
関係者以外の立ち入りが禁止されている区画の一つ目は、役員区画で主にその支部の支部長室がある区画だという。
二つ目は、ラボラトリ。
基本は関係者以外は立ち入りを許されていないがオラクル細胞に関係している患者の類であれば例外もあるらしい。
最後は、新人区画とベテラン区画と呼ばれる場所。
ここは言葉の通り各ゴッドイーターたちの部屋となっている。
さらに、他には食料の栽培などを行っているプラントが存在したり、エレベーターを上に登れば居住区域全体を見渡せるほどの展望台があったりと、言葉の通り何でもあるようだ。エレベーターに偶然乗り合わせた人の話によれば、
は他の支部よりもアラガミの数が多く、激戦区と化しているため何かと優遇されているらしい。
「お、そろそろ時間みたいだ。これ、結構緊張するな。」
「コウタでも緊張なんてするのね。」
「…お前俺のことを何だと思ってる?」
そんなくだらない会話をしていると、先ほどの研究員の人が来た。
本当に11時ジャストとは恐れ入る。
「皆さんお待たせしました。では、これより適合試験に移らせていただきます。先刻お話したとおり、試験は藤木コウタさん、霧ヶ峰大和さんの順番で行います。準備ができ次第訓練室の方で適合試験を受けてください。」
「了解。じゃぁ、行ってくるよ。」
コウタは、よし!と一言気合を入れてこぶしをパンと打つと訓練室の方に入っていった。
そして、数分後。
訓練室から出てくるコウタと入れ違いになるように部屋へと入った。
すれ違いざまにコウタにどや顔をされたときは、一瞬イラッと来た。
訓練室内は見渡す限りの全方位に装甲が張り巡らされており、いかにもという感じの部屋であった。
その室内に一人の男性の声がこだまする。
「さて、長く待たせてしまったようですまない。そして、ようこそ…人類最後の砦「フェンリル」へ。今から対アラガミ討伐部隊、ゴッドイーターとしての適性試験、所謂神機との適合試験を始める。…少しリラックスしたまえ。その方がいい結果が出やすい。心の準備ができ次第、ケースの前に立ってくれ。」
声の下方向を見上げると、部屋の上部はガラス張りになっているらしくそこから男女計3人の人間が見下ろしていた。
声の主は、真ん中で手を後ろで組む格好で佇む金髪の男性だろうか。
私には、目標がある。
それに近づくためには、
私の覚悟は固まった。
ゆっくりとケースの前まで歩き。
そこに横たわる神機に目を落とす。
そして、ケースに腕を入れようとしてあることに気付いて……やめた。
「?どうしたのかね?」
再び、あの声が響く。
「ケースに右手を置いてくれれば済むのだが。」
「いや、そのことなんですが……」
「?言ってみたまえ。」
「此れって、利き手を入れるんですよね?」
「そうだが?」
一呼吸間をおいて、事実を告げた。
「私、左利きなんですけど……」
………
……
…
「ふう。何とか適合試験も無事に終了した。にしても…」
私は、試験を思い出す。
…
「…なるほど、それは予想外のケースだ。そうだな、であればそこに君の利き手を置いてくれればいい。」
「それで大丈夫なんですか?」
「問題ない、もとよりそれは"腕輪を腕に装着する"ための機械だ。右手であろうが左手であろうが根本的には変わらない。」
「はぁ…」
「心配することはない、君の適性試験の結果は既に目を通している。私の期待した結果を出すためには十分な結果だ。」
「そうですか。」
私は、若干の不安を抱きながらケースに左の手を置き神機の柄の部分を握った。
これだけ見れば神機を逆手に持っている形になり、なんとなくかっこいいかも。
とそんなことを思っていた矢先。
いきなりケースの蓋?のような部分が落下してきて私の腕を挟み込むような形となった。
その衝撃も多少はあったのだが、その次に襲ってきた事実のほうが衝撃的過ぎてこの感覚はもうこれから一生味わうことはないだろう。
ケースによって挟み込まれた手首からは体内を何かによって浸食されているようなそんな感覚が襲い、痛みは実際それほどなかったのだが代わりに体内を何かが動き回っているという奇妙な感覚はあった。
それも思いのほかすぐに収まり、同時にケースも開いた。
「ふぅ…」
そうため息のような息をつくと、今現在握りしめたままでいる神機を持ち上げてみた。
その神機のコアに当たる部分から1本の触手が飛び出し、先ほど左腕に装着された腕輪へと接続がされた。
ここまでの時間は、体感時間にして5分行ったか行ってないかくらいだろうか。
するとまたあの声が室内に響き渡る。
「おめでとう。霧ヶ峰大和君。君がこの支部初の「新型」ゴッドイーターだ。」
新型…か。
そんな感傷に浸っていると再び声が入る。
「これで神機の適合試験は終了だ。この後は適合後のメディカルチェックが予定されている。始まるまで、後ろの扉の先にある部屋で待機してくれたまえ。気分が悪いなどの症状が出た場合にはすぐに申し出るように。」
そして最後にこう付け加えた。
「期待しているよ。」
…
それから部屋を出てきて今に至る。
「にしても、神機って意外と軽いんだなぁ。」
扉の向こうではすでに適合試験をパスしていたコウタが足をぶらぶらさせながら待っていた。
「試験通ったんだね。」
「当然でしょ。」
短く言葉を交わすとその隣にすとんと腰を下ろした。
「これで晴れて俺たちもゴッドイーターだね。その祝いにガムでも食べる?」
「その祝いってどんな祝いよ。もらうけど。」
「ゴッドイーター就任祝いだよ……って、あ、ガム、今食べてるので最後だった。」
「それ、ちゃんと確認してから人に勧めなさいよ。」
「ごめんごめん。」
しばらくしゃべっていると、私たちの前に一人の女性がやってきた。
上下に白い服を身に纏い、とてつもなく胸元を強調したスタイルの女性だった。
しかし、その右腕には今自分たちが腕にはめたそれと同じものがついていた。
そして、開口一番こう告げた。
「立て。」
「へ?」
一瞬自分たちに言われているのかと耳を疑いたくなるような一言だった。
コウタに関してはすごく間の抜けた声が出てたし。
しかし、そんなことはお構いなしに女性は続ける。
「立てと言っている、立たんか!」
若干怒気を含んだその一言に私たちは飛び跳ねるように立ち上がった。
「これから予定が詰まっているので簡潔に済ますぞ。私の名前は「雨宮ツバキ」。お前たちの教練担当者だ。この後の予定はメディカルチェックを済ませたのち、基礎体力の強化、各種兵装等の扱いのカリキュラムをこなしてもらう。」
「(なんか、教練担当の人怖そうだよね?)」
「(うるさい、今言うことじゃないでしょ?)」
「黙って聞け!」
「「はいっ!」」
「いいか。今までは守られる側だったかもしれんが、これからは守る側だ。つまらないことで死にたくなければ、私の命令にはすべて『YES』で答えろ、いいな?」
この女性…雨宮ツバキから感じる威圧感のようなものに私たちはきれいなきょうつけの状態でうなずくしかできなかったのだが。
「わかったら返事をしろ!」
その一言で硬直が解けたように返事を返した。
「早速メディカルチェックからだ。まずは…霧ヶ峰、お前からだ。ペイラー・サカキの部屋に一五○○までに集合するように。その30分後に藤木のチェックを行う。まだ時間があるうちに、この施設を見回っておけ。今日からお前たちが世話になる、フェンリル極東支部、通称『アナグラ』だ。メンバーに挨拶の一つでもしておくように。」
と、いうことらしい。
ツバキさんは私たちに伝えることを伝えると、すぐにその場を立ち去っていってしまった。
残された私たちも私たちで何をするわけでもないので、とりあえず言われたとおりに挨拶でもして回るか、ということになった。