冒険者タドコロ   作:じるすしもん

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旅立ち

 朝、爽やかな陽気に包まれ、小鳥たちのさえずりが優しく耳をなでる。冒険者の朝。

 

「Foo↑きもてぃ〜〜」

 

 思わず彼の口から言葉が漏れた。

 浅黒く焼けた肌、短く切られた髪、そしてアイランダーと書かれたTシャツ。

 精悍な顔つきをした彼の名はタドコロ。旅立ちに気分が高揚しているのだろうか……。

 

「気持ちよくなってきちゃった、ヤバイヤバイ」

 

 ここは喧騒とはかけ離れた田舎町、王都からは遠く離れており行き交う冒険者の数もまばらだ。

 タドコロはこの村で生まれ育った、どこまでも純粋な青年だ。彼は朝一番に魔導役場に冒険者申請をして24歳にして初めて外の世界を知ることになる。

 

「ぬわぁぁあぁぁん疲れたもぉぉぉぉおぉん」

 

 無理もない、形式的な物とは言え役場の堅物達からの質問攻めを受ければ誰だって肩が煮こごりのように突っ張ってしまう。

 だがそんな疲労もなんてこと無し、彼は希望に満ちた足取りで村の外れの酒場を目指す。

 冒険者が集う酒場、旅仲間を見つけるには絶好の場所である。

 

――仲間は一人か二人か……、回復魔法が使えるヤツがいいなぁ、レベル高いのは嫌だなぁ、(女はいら)ないです。

 

 様々な思案を巡らせながら遂に酒場の前に到着、見るからにボロ小屋ではあったがそれは彼の関心を引かなかった。

 彼の思う事はひとつ、誰がこの中にいるのか、どんな魔法を使うのか、ただそれだけである。

 ごくり、とつばを飲み込み。一呼吸置く。

 

――心の準備は整った。

 

「オッスお願いしま〜す」

 

 酒場の扉が元気よく開かれた。

 

   * * *

 

 それからおよそ二時間後、俺はすっかりしょげてしまっていた。

 

――あぁ足が重い

 

「夕方までには宿場に着きたいゾ〜これ。」

「そんなに歩けないにょ、誰かおんぶしちくり〜〜」

「おっ、そうだな」

 

 俺の目の前を歩く見るからにダメそうな二人組。

 

――はぁ

 

 深いため息が漏れる。……いい男に囲まれて、宿ではドキドキハプニングなんてあったりして、セピア色の冒険者ライフを夢見た俺がバカだったのか?

 

「うー☆うー☆」

 

 小柄な男が気色悪い声をあげる、この男の名前はヒデ。語尾に「にょ」とつける勘違い野郎だ。

 

「やだ、やだ、小生ヤダ、歩きたくない。」

「そんな事を言わずにちゃんと自分の足で歩くんだゾ!」

 

 ヒデを叱るこの男はミウラ。坊主頭のマヌケ面が良く似合う大柄な男だ。

 俺は目を閉じ、なぜこうなってしまったんだと自問する。

 

―――

――

 

 ダタンッ!!

 

 酒場の扉が勢い良くあけられる、閑散とした店内。

 10人掛けの大テーブルの真ん中で背中を丸めていた男がこちらを見る。

 男から目を逸らし店主とおぼしき男(オッサン)に声を掛ける。開口一番、さっそくこの問いだ。

 

「……この辺に、優秀な冒険者が集まる酒場があるって聞いてやって来たんスけど」

「仲間を紹介して欲しけりゃまず注文だな」

 

 言葉を遮るようにオッサンが言った。

 

――しょうがねぇな〜

 

「ビール!ビール!………じゃなくてアイスティー」

 

 冒険初日から酔うわけにいかないからねっ。

 俺はカウンター席に深く座った。

 テーブルに腰を掛けてた男がこちらにゆっくりと近づく気配がする。

 俺は構わず店主に続ける。

 

「できれば仲間は2人欲しいっスねぇ〜」

「……あぁ、3人一組だと待遇が良いからな、国王からも奨励されておるし」

「色男の魔法使いとかいないっスかね〜」

「ハハハ、そんなのはここにはおらん」

 

 冗談を交えながら会話するうちにアイスティーが出来上がったようだ、この店はこだわりが強そうだな。アイスティー通の俺は一目でその事を見抜いた。

 

「アイスティーだよ」

 

 オッサンからグラスが渡されるその時、横からヌッと腕が伸びてきた。

 

「このアイスティー飲みたいゾ」

 

………

 

――は?

 

 俺の隣で坊主頭がグラスをカランコロンと回している。大テーブルに座っていた男だ。コイツ知らぬ間に近づいてアイスティー強奪しやがった。しかもしゃべり方が変じゃねぇか。

 俺は怒りを抑え男を諭す。

 

「今すぐそのアイスティーを返せ」

「おっそうだな、それより仲間を探してるって?こっちもちょうど一人探してたんだゾ」

「話を聞け! 飲みたきゃ自分で注文しやがれ!!」

「ポッチャマ・・・」

 

 俺が怒鳴ると男はグラスを置き、両の手で顔を覆いながらそう呟いた。

 さっさと何処かへ消えろ、と目線を送りながらテーブルのアイスティーを手に取り口に運んだ。怒りで味が分からない。

 

「あっ、そうだ!」

 

 男が急に叫んだ、目線はまったく通じていないようだ。

 

「今すぐ旅立つゾ、やっと仲間が見つかったんだゾ!おっちゃん!俺たち3人で登録しといてくれだゾ」

 

 その3人目の仲間ってのはまさか俺の事じゃないよな?

 

「タドコロもそれで良いよな、にしても立派な剣(ブレイド)だゾ〜それ」

 

 どうやら男は剣に彫られた名前に気付いたらしい、バカそうなのに目ざとい奴だ。

 俺にはこのバカの話を聞く必要はまったくない、うんともすんとも言わずアイスティーを飲み干した。

 それにこの男は俺を仲間にしたがっているようだが無理な話だ。仲間になるにはまず冒険者の盃、要は酒を飲み会う必要がある。そんなことしなければ良いのだ。

 

――ん、待て。このアイスティー何か変だった、なんだこの違和感は……。

 

「タドコロが冒険者の盃を飲みきってくれて嬉し〜ゾ〜。俺はミウラって言うんだゾ〜」

「…お前、何をした?」

「アルコールをいれてアイスティーハイにしといたゾ〜、タドコロはビール飲みたがってたみたいだし。オレってスッゴく気が利くゾ〜」

 

………

 

「粋スギィ!!!!」

 

 思わず声が出てしまった。

 

「善は急げ、さっそく出発だゾ!おっちゃん登録よろしくな」

「おう!」

 

 その時店の奥から子供の声がこだました。 

 

「僕もしゅる〜〜」

「おっ、ヒデも来たか、みんな揃ったゾ」

 

 俺は事態が飲み込め無いでいた、

 呆然としていた、

 天井を見上げていた、

 

……

………

 

――はぁ

 

……重い足取りの中、なぜこうなってしまったのか俺はふたたび自問する。

 

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