太陽が高く昇っている、窓から少女が顔を出し、はつらつとした声を響かせる。
「おねーちゃん!2階の掃除終わったよ」
外で水を汲んでいた女性がそちらを見る。
「お疲れ様ヤンホヌ、ちょっと休んでから1階もよろしくね」
少女が身を乗り出す。希望に満ちた目だ。
「ううん、今すぐやるよ。早くタドコロさん達が驚く宿にしたいの」
少女はトタトタっと階段を下り掃除を始める。
(タドコロさん今どうしてるのかな?)
そんな事を考えると手が止まる。ふぅ、とため息が漏れる。
「あのーすいませんアキヨシですけれど」
突然の声に少女は驚いた。入り口の所、少女の後ろに大男がいた。
「なんたよ、嬢ちゃんかよ。美人さんになれそうだな」
「……あの、……宿は今やってないんです。この店のイナリ料理はカアリさんの店で――」
「あー、客じゃねぇんだ。ただ頼みたい事があってな」
「……なんですか?」
「こいつがここに泊まっただろ?」
男が紙を見せる、ウンコの絵が描いてあった。
「……知っているはずだ」
(タドコロさんだっ! 知り合いなのっ?)
だがそこに描かれていたのは巻きグソだった。
「俺とタドコロは友達でなあいつがバカやって離れちまったんだよ、力を貸してくれ」
少女は即座に理解した、この男はタドコロの友達などでは無いと、その狂気に満ちた瞳が物語っていた。
「し……知らないです」
「なあにちょっと指輪に触れてもらうだけだ」
アキヨシは懐からクソクイの指輪を取り出した。タドコロのケツマンを探り居場所を割り出すのには最適な道具だ。
アキヨシが一歩ずつ近寄る。少女は声も出せず、ただ首を横に振る。
「――なんで触る必要があるんですか?」
店の入り口で声がした。
アキヨシがゆっくりと目をやる。
「……よぉ、キムラじゃねぇか。どぉした?」
立てられた短い髪、そして均整の取れたマスクの青年が扉にもたれかかっていた。
「国賊アキヨシ、あなたの首を貰います」
「ずいぶんいい度胸だなテメェ、一人で勝てんのか?」
キムラの後ろに男が立つ。細い目にスッと垂れた髪、黒い服に身を包んでいる。
「俺は魔導官だ、世の中の不正な輩を見過ごす訳にはいかない」
「……ヒラノまで来たか、魔導官2人に狙われるなんて俺も人気モンだな」
少女が不安そうな目で状況を見守る。
―――
――
―
「ヌッ」
タドコロは目を覚ました、気絶していたようだ。
「ぬわぁぁあぁぁん疲れたもぉぉぉぉおぉん」
隣に目をやるとミウラ達がオカリナの練習をしていた。
「ミウラ、踏ん張るにょ」
「ぷぷっっ、………くくくっ。ミウラクンっ、その調子よ。…くくっ」
ミウラが四つん這いになってケツからピーヒョロピャーヒロ鳴らしている、これは笑っても仕方無い。
「調子はどうスかぁ?」
そう問いかけるとミウラが顔を上げた、そんな目で俺を見んな。
「……ダメだゾ、どうしてもドの音がうまく出せないゾ」
「ファッ!? 一番出番が多い音じゃないスか!」
「ポッチャマ・・・」
かえるの歌でドの音は合計9回鳴らさなければならない。
「もう1時間くらい練習してるにゅ」
「ぷっ……ぷぷぷぷっ……。。。……アッハッハッハッハハハハッ」
エナがとうとう爆発した、バカみたいに笑い転げている。
「笑ってる場合じゃねーぞ、なんか手を考えてどうぞ」
エナが涙を拭きながら、なんとか立ち上がった。
「――っハ―ハー、。ヒーヒー…ヒヒっ」
「ドの音さえなんとかして欲しいゾ、他の音は閣下モードで滑らかに吹ける自信があるゾ」
「………っぷあっハハハハッ」
再び笑い転げる。
ダメだこいつら、結局最後は俺頼りか……しょうがねぇな〜。シンキングタイムの始まりだ。
早く問題を解決して写真のカレとイチャイチャしたかったのに。
カレに早く会いたい俺は額に手を触れ懸命に考えた。
ドの音が無いなら何か他の物で代用すれば良い、
…………ってなんか前にもこんな事あったぞ。
そして俺は恐ろし過ぎる案を思いついてしまった。黙っておこう。俺の心にしまっておこう。
時が流れ、誰かがなんとかしてくれることを願った
ヒデは期待できない。ミウラ、エナ、どちらでも良い打開策を考えてくれ!
「………うー☆うー☆」
「お? ヒデが名案を思い付いたらしいゾ、みんな聞くぞ」
ヒデ、ヒデだった!! やはり一番頼れるのはお前だ! 流石ヒデ。
「みんなさっきミウラネコに股間蹴られた時のタドコロの声覚えてるにょ? あの声オカリナのドの音にそっくりだったユ〜」
――ひでしね
「「「………」」」
「そうだゾ! 綺麗なドだったゾ。ヒデ天才だな! タドコロ分かったな!」
何も分かりません。
「………ッッッぷひぃ―――ひっひっひぷぷぷぷひひひひ――――ッダメっひひっ笑いっひひっ死ぬっっっ」
一拍の間を空け、これから何が行われるのかを理解したエナが腹をかかえる。いっそ死んでしまえ。
「よしケツ出せ〜」
アーナキソ。ってゆうかガチで泣いた。
***
ド レ ミ ファ ミ レ ド
ミ ファ ソ ラ ソ ファ ミ
ド ド ド ド
ドド レレ ミミ ファファ ミ レ ド
これがあの有名な歌、かえるのうただ。悪魔の曲
「タドコロ! 早く準備するゾ!」
「うー☆うー☆」
「体を張るタドコロ君カッコイイよ!」
俺の口癖は「ファッ!?」なんだからせめてファの音にしてくれよ……
俺の背後でミウラネコがシャドウをしている。
「閣下モードはそう長くは続かないゾ、チャンスは一回キリゾ」
「必ず成功できる自信があるわっ」
テメェは何もしねぇだろ
「スタ丼……」
ミウラネコが素振りをしている。凄まじい風圧だ。うわあ、これは死にますね間違いない。たまげたなあ……
「あのさぁ、俺、そろそろバイトなんだよね」
「観念するんだゾ、タドコロ」
「ああ逃れられない!」
「やだつってんだろ」
「タドコロ君、無事脱出できたら写真の人紹介してあげるからさっ」
「ダイナマイッ!」
「……」
「…………ウン、おかのした」
「タドコロ! 出来るのかゾ?」
「やろうと思えば(王者の風格)」
「よう言うたそれでこそ男だゾ」
「この人頭おかしい……(小声)」
ここはひとまず従った、直前で逃げれば良いだけの話だ、閣下モードとやらは明日まで使えない。
俺は平静を装ってヨツンヴァイン(四つん這い)になった。
「いいよ!来いよ!」
(ミウラが閣下モードになった瞬間にダッシュで逃げる)
そう心に刻みつけた。
――その時であった
エナが槍を振りなにかをこちらへ飛ばした。
「ファッ!?」
「風属性LV2拘束魔法、アバレンナ、よ。悪く思わないでね」
風が帯状になって俺の両手両足を拘束する。ヤダ、ヤダ、ねぇちょっとヤダ。誰か助けて―!
魔法が無理やりに俺の体勢を変える。体は上向きにされ、開脚させられる。かに道楽先輩のポーズ、と言った方が端的かもしれない。
ミウラネコが入念にローキックの確認をする、腰の入った良い蹴りだ。……ママー(Bohemian rhapsody)
――そして
ミウラが精神を集中させる。目を閉じ邪念を振り払う、明鏡止水の心境、
もはや何も聞こえない。
ミウラだった男は静かに目を開いた。時間を傷つけないように 彼の優しさだ。
フゥ……と息をつく。
――この圧力、風が割れそうになる!
「やるか」。そう呟くと四つん這いになり、アナルにオカリナを挿した。
ミウラネコがタドコロの前に立つ。
「フゥゥン!?フォォン!?」
すべての準備は整った。
演奏開始だ。
ズドォン!!と轟音が鳴り響く。
「ドォォん!」
ぐはあっ
「レ!ミ!ファ!ミ!レ!」
「ドォォン!」
手!手!手!
「ミ!ファ!ソ!ラ!」
クゥ~ン(休憩中)
「ソ!ファ!ミ!」
ヴォー・・・(覚悟)
「「ドォォン!」」
シュバルゴ!
「「ドォォォン!!」」
マ゛ッ!!
「「ドォォォォン!!!」」
ォ゛ォン!
「「ドォォォォォン!!!!」」
てゐ〜〜
「ドドォォン!」
おぶぇ!?
「レレミミファファ、ミ!レ!」
「ドォォォン!!」
ka〜
…………遺跡の扉は開かれた。
―――
――
―
高い戦闘力を誇り、国内の治安を取り締まるエリート中のエリート、魔導官。この場にいた多くの者がその力を初めて目の当たりにする。驚愕の色を隠せない。
そしてその魔導官2人を同時に相手にする空手家アキヨシ。3人にこの戦場は狭すぎる。
「キムラァ! どうした!? おちゅかれか〜?」
戦闘の最中アキヨシが挑発する。
素早い身のこなしでキムラが間合いを取る、片手ずつに火属性魔法LV3アツゥイと氷属性魔法LV3オスマンマンを集中。
――蛇氷炎!!
氷炎を纏った蛇王がうねりながらアキヨシに突進する。
「オラァ!!」
アキヨシの右の正拳突きが蛇王を粉砕、手に血が滲む。
瞬間、アキヨシの足元から妃獄(ひごく)の縄(意味はよくわかんないです)が飛び出す。ヒラノだ!
「(土属性緊縛魔法LV4シバラナキャ、)逃げられないよ」
けたたましい音、地面が大きく揺れた。決着か?
軽い足音を立てヒラノがキムラの隣に着地する。砂ぼこりで様子が分からない
「オラァァ!!」
アキヨシが緊縛を解く、「カスがきかねぇんだよ!」と言いたげに笑う
睨み合う3人、膠着状態………そこに、
「ヒトん土地でなにしとんじゃアホボケサルゥ!」
カアリ怒鳴る。アキヨシにズカズカと詰め寄る。
「聞いとんのかサルゥ!!」
肩に掴みかかった。
アキヨシは「うるせぇよ」とカアリの顔に裏拳を一発、その一撃にサングラスがふっ飛んだ。
「いかんっ! カアリさんのサングラスが取れた!」
「早くサングラスをカアリさんに渡せっ!!」
群衆がざわつく。
「黙らねぇと殺すぞ」とアキヨシは睨み付ける。だがある違和感を感じた、隣の男から別人の雰囲気、殺気を感じる。
男は沈黙して動かない。試しにもう一度裏拳、今度は本気の一発だ。
バチィン!! と鞭が叩きつけられるような音。……アキヨシは目を疑う。
――止められた、俺の拳が止められた……だと。
アキヨシの右腕はガッチリと捕まれていた。
「いい素材やこれは……」
腕を振りほどき距離を取る。なんだコイツ、やべぇ。
「地〜鳴〜り、地〜鳴〜り」
ゴゴゴゴ、と大地が揺れる。空が黒い雲に覆われる。
「さぁ解体ショーの始まりや。よろしくおねがいさしすせそ」
……っクソッ!
アキヨシは砕砂拳で目眩ましをした。こいつら3人相手は流石に分が悪い、逃げの一手だ。
「っっ逃げるのか!!」
「待てっ、キムラ君! 深追いは無用だ。……」
アキヨシは消えた。だが――
地鳴りは続く、空は深い闇に覆われた。
「地〜鳴〜り、地〜鳴〜り。わかる?この罪の重さ」
手下が急いでカアリにサングラスをかけさせる。
「地〜鳴〜り、地〜鳴〜、ってアレ?」
無事サングラスがかけられた。
キムラ・ヒラノ「・・・・・・」
宿場は平穏を取り戻した。
「……なにコレ?」