ローズはアヌス家の長女として生まれた。
アヌス家は錬魔術師の名家であり、6歳まで彼女は何不自由無く暮らしていた、だが―――
ローズが6歳の時、盗賊に襲われ両親を目の前で失った。逃げた彼女がクチマンの森の下層に辿り着いたのはほんの偶然だった。
8年ほど経った、だがその事件から彼女が言葉を発したことは一度も無い。
―
――
―――
「こ↑こ↓」
「・・・・・」
「ヴォー…」
なんか下層と言っても景観は普通の森と変わらないじゃんアゼルバイジャン
だが空は見えない。
空が見えないところで野球をするのは悲しいと思った(中並感)。
「こ↑こ↓(2回目)」
休めそうな場所を見つけたので座った。
「ぬわぁぁあぁぁん疲れたもぉぉぉぉおぉん」
「!・・・・」
大声のせいかガキが少しビビりやがった。
「怯えんなよ…怯えんなよ…」
「ヴォー…」
「その肩に乗ってるヤツ、かわいい?かわいくない?」
「・・・・・・」
ちっこい猿?みたいな生き物をこっちに差し出してきた。
俺はその動物を優しくなでた。
「気持ちいいかー?」
動物はおとなしく撫でられている。素直なやつだ。
「ホラホラホラホラ」
「ヴォー…」
なんかガッツポーズしてるみたいな姿勢になったな……
「名前はどう?つけた?つけてない?」
「・・・・・・」
何やその態度は?
しかしメスガキを刺激する訳にはいかない、焼きタドコロにはなりたくない。
「緊張すると言葉出ないからね…」
「・・・・・・」
「名前つけた方がいいよね。うん」
「・・・・・・」
俺はその生物の名前を考えた、頭をひねる。
………
インムっ、こいつの名前はインムくんだ。天啓を得た。
「じゃあこいつはインムくんで」
「ヴォー…」
「・・・・・・」
うんっ、インムくんも喜んでるみたいだしこれで良いな。
さあそろそろ本題といこうか。
「フゥーッ…ローズさん、始めますかぁ?」
このメスガキに俺の芸を叩き込んでやる。
「まずうちさぁ」
手始めに《まずうち》からだ。
ローズが俺の動きの真似をする。
「そんなんじゃ甘いよ、もっと下使って」
―
――
―――
「ミウラ君、ヒデ君、すまない私はもう行かなければならない」
「おっ待てい。タドコロにはちゃんと狙われてる事を伝えとくから安心するゾ。」
「うー☆うー☆、ヒラノさんも気を付けてにょ」
「ではさらばだ」
ヒラノは嫌な予感を感じながら研究所を後にした
彼の『嫌な予感』は当たっていた。
研究所の地下、一部の人間しか入る事の許されない秘密の実験場。
既にイシイは覚悟を決めていた。
「あっ、イシイさんどうしたんですか?」
冴えない研究員が問う。
「3日以内にスカトロールを動かせるようにしておけ!」
「ま、待って下さい。スカトロールはまだ試験段階で暴れ回る可能性があります! 危険過ぎます!」
「構わん、発展にリスクはつきものだ。スカトロールの力で森のカエル共を一掃してやる」
「し、しかし」
「ショック療法効果があるかもしれないな」
「……」
古代魔術によって生みだされたスカトロール、胎動はもう始まってる(ホモガキ)。
* * *
俺がガキを押し付けられてから2日経った、隙を見て出口を探したりしたが、よくわからなかったです
ガキは中々筋が良い、今はホラホラダンスを教えている。
「ホラホラホラホラ」
「・・・・・・」
「違うだろ〜、ホラホラホラホラ」
「・・・・・・(ホラホラ)」
「んにゃっぴ、惜しい!!」
「・・・」
「ヴォー……」
なんか目的がズレている気がするが、ま、多少はね?
このガキとの付き合い方も分かってきた、言葉こそ発しないが感情は読める
黒イボが「あの子は辛いことがあって喋れないんじゃ」とか言ってたけどタドコロ様のギャグの前には関係ない。いつか笑い声を聞いてやる(人間の鏡)。
次は――
《幸せなキス》
「・・・・・・?」
ムゥ、やはりこれはまだ早かったか、しょうがねえな〜。
「よし、今日の練習おわり。キツかったすねー今日は」
「・・・・」
「ヴォー…」
ガキが俺の隣に来た。
「ローズも今日疲れたろう、なあ」
「・・・・・・ドコロ・・・」
――ファッ!?
「・・・タドコロ、・・・タドコロ」
喋れるのか(困惑)。
嬉しくなった俺は、ローズの頭を撫でてやった。かわいい妹が出来た気分だ。
「タドコロっ・・・タドコロっ・・・」
それしか言えんのかこの猿ぅ! まま、ええわ、じゃけんこの事を黒イボに報告に行きましょうね〜。もう約束果たしたじゃんアゼルバイジャン。
「ほらいくどー」
「・・・」
「ヴォー…」
2人(と一匹)でヤメロッテの所へ行きますよ〜イクイク。
「ゲコゲコ」
「ゲロゲロ」
「ゲコー」
ヤメロッテの所を目指しながら、今日はやけにカエル達が騒がしい事に気付いた、何かあったのか?
――あ、黒イボだ
黒イボは部下ガエル達になにやらキツく言いつけている、やっぱり異常だ。
俺の事じゃないよね?
黒イボがこちらに気付いた、ヌッ!
『……お前達か、生憎ワシは今忙しい。後にしろ』
「何があったんすか?」
「・・・」
「ヴォー…」
『……人間共が魔獣を引き連れ攻めて来おった、魔獣は魔法が効かず非常に厄介じゃ。こちらまで来るかもしれん』
「ファッ!?」
「・・・」
「ヴォー……」
『戦争になるじゃろう、お前はローズの側にいて守ってやれ。』
「ウン、おかのした」
「・・・」
『シリコキ! シリコキはおるか?』
「お呼びでしょうか?」
出た! カエルの癖に無駄にカッコいい執事みたいなカエル、『シリコキ』だ。
所詮カエルだけど…
『この子達を安全な所へ連れてってやれ、これは我々イモガオ族の問題じゃ』
「……かしこまりました」
耳を澄ますと、かすかに上層から音が聞こえる。
いったい何が起きているんだ?
〜〜〜〜上層では。
体長3mを超えよう巨人、紫色の筋肉と脂肪の鎧に包まれ、半狂乱に暴れていた。
スカトロールだ。
イモガオガエル達が集団で魔法を放つ、だが効果は薄いようだ。
スカトロールは右腕に魔力を集中させそのままカエル達を凪ぎ払った。
――その一振りで多くの命が失われた。
職員達がカエルの死体を回収する、惨い光景だ。
「いいぞミノル! そのまま下層まで攻めるんだ。お父さんを傷つけたカエル共に目に物を見せてやれ!」
「オトゥーサン、オトゥーサン」
ミノルと呼ばれたスカトロールは虚ろな目で奥へと進んでゆく。
* * *
揺れがハッキリと感じられるようになってきた。
俺とローズとインム君はシリコキに連れられ、小さい洞穴みたいな所に身を隠していた。
隣でローズの小さな体が震えている。硬くなってんぜ。怯えてんなぁ、おい
「大丈夫でしょ…まあ、多少はね?」
「・・・・・・」
「ヴォー…」
俺自身全然大丈夫に思えなかった、でもカエルの問題に俺は関係ない。嵐が過ぎるのを待つだけだ。
――本当に通り過ぎるだけなのだろうか?
スカトロールは既に森の奥深くまで攻めてきていた。
奴には魔法が効かない、つまり魔導ガエルにとっての天敵だ。
「見たーい♪見たーい♪カエルが逝くとこ見たーい♪(棒)」
「はははは、いいぞ!ミノル!」
スカトロールの勢いは衰え無い、イモガオ族の首領であるヤメロッテはある決断をした。
『シリコキよ。話がある……』
「はっ、ヤメロッテ様」
『お前が次の首領じゃ、皆を率いてここから逃げよ。ワシが時間を稼ぐ』
「……」
『皆を頼んだぞ』
「……はっ」
シリコキは言い返さなかった。ヤメロッテのその言葉の重みに、口を開くことが出来なかった。
――ワシが死んでもイモガオ族の未来は途絶えん、あの子達なら心配無いじゃろう。
死地に赴く、まさに。
「いいぞーいいぞーミノル♪いいぞーいいぞーミノル♪」
「オトゥーサン、オトゥーサン」
進撃は止まらない、既に100匹以上のカエルが犠牲になっただろう。
イシイは完全に本来の目的を見失っていた。
『ここからは通さん』
そこに一匹の巨大ガエルが立ちはだかった。スカトロールに匹敵する大きさ、ヤメロッテだ。
「おお、親分が出てきたぞ!ミノル!お父さんの為にアイツを殺してくれ!」
――この大きさなら大量の血液が手に入る。
「うん、分かった。じゃあ、死のうか(暗黒微笑)」
『……侮るなよ!』
ヤメロッテの口から風属性魔法LV5スゲエ・ハリケンが放たれた、風の力で相手を細切れまで切り裂く、上級魔法だ。
――やったか?
「何で僕の言うことを聞かないのかな? なんで?僕のことバカにしてるの?」
「はははははは、涙ぐましいな」
まるで効いていなかった
魔法では勝てない、そう判断したヤメロッテはスカトロールに飛びかかった。 一族のために少しでもこの化け物に傷痕を残してやる、その気持ちだけだった
―
――
―――
俺たちが隠れてから何分経っただろうか?
5分?10分?30分?
暗闇での時間は異常に長く感じられた。
ローズは横でうつらうつらとしている、緊張しっぱなしは疲れるからねしょうがないね。
そこにシリコキがやって来た、相も変わらず落ち着いた様子だ。
「タドコロ様、私たちはこの集落を放棄します。すぐに発ちますのでついてきて下さい」
その声にローズがパッチリと目を覚ました。起こしちゃったよ。
「逃げるって事すか?」
「・・・・・・」
「ヴォー…」
「……仕方の無い事です、只今ヤメロッテ様が魔獣の足止めをして下さっているのです。お急ぎになって下さい」
「ファッ!? あの黒イボ死んじゃうんじゃないすか?」
「・・・」
「ヴォー」
「…………」
この質問にはシリコキも黙った。
まあ、しょうがねぇな。あの頑固ガエルが決めた事なんだし死ぬのは本望でしょ。
第一アイツのせいで俺は散々酷い目に会ってきた訳だし、天罰天罰。
カエルが人間様に逆らうからこうなったんだ。はっきりわかんだね。
ローズに目をやると悲しい瞳でこちらを見ている。―――……仕方無いんだ、お前も分かれよ。
――ふと黒イボの眼を思い出した、大きな眼だった。
いやに目やにの溜まった瞳は少しばかり潤んでおり、どこか遠い別の物を見ているようだった。
体の奥にまでシワがある様な年を取ったカエルだ、年を取るとはああいう事なのだろう。
――その時俺は『あの人』の言葉を思い出した。
「タドコロ君、邪剣に心を犯されないために一つの事を心がけてほしい。その一つだけでいいんだ」
「うん、何タダノさん?」
「自分に言い訳をしない事、正しいと思った事をしっかりやる事。それだけ気をつけてオナシャス」
「うん。」
ン
ン
・・・
「ンアッー!(野獣の咆哮)」
――俺はたまらず走り出した。
だが今までとは違う。
一歩一歩に充足感、生命の脈動を感じる。
待ってろ魔獣!
正義の邪剣が貴様を叩き斬ってやる!
俺はかつて無いほど晴れやかな気分で駆けた。