王都民達は依然気を失っており、不気味な静寂がいたる所で息づいていた
――徐々に……上空の暗黒の雲が闇の力を増してゆく。
それは 誰一人気付き得無い事であった。
―
――
―――
目前で十字の火炎が猛る中 エナはフラフラと歩き、壁にもたれかかった。俺はそっと肩を貸してやった。
「おっ、大丈夫か?大丈夫か?」
「まぁ、多少……はね? やっぱり聖属性LV4は疲れるわ。」
俺の真似をしやがった。頭きますよー
「そんなんじゃ甘いよ。LV4くらい余裕で使って、どうぞ」
「聖属性は上級魔法だから LV4でも初中級のLV6くらいの威力と難易度があるのよ…。知らないの?」
「知らないです」
エナは黙って炎に目をやる。《真・聖炎獄十字崩》は完璧に直撃した、奴はもう動けないだろう。
「――でも、不思議な気分ね…私たちタダノさんの技を使ったものね……」
「ウン、でもほぼ俺の力。はっきりわかんだね」
「嘘言わないで! 私の魔法の力の方が占める部分が多かったわよ!」
「ヌッ! もう大丈夫みたいっすね」
――? ……変だ。
「なにか聞こえない?」
「ウン」
確かに、音楽らしきものが聞こえる。
いったい?
それは炎の中から聞こえてきたものだった。
――そこには!!!
テッテレテーテテテテテテッテレテー
ホンダが…竹刀を振りながら悠然とこちらに歩みを進めていた。
グローリグローリマンユナーイテッ
に て な い
「あれは……所ジョージ!?」
「何言ってんだ!よく見ろよホラ」
ホンダだ!
【真・聖炎獄十字崩】をまともに食らったのにダメージが見られない。
「おーお前、痛かったぞお前ー。この償いは体で払ってもらおっかなー」
【雷属性魔法LV5チン・ナメテクレヨン】
雷属性のケツマンを付した巨大な球体が 雷鳴を轟かせ俺達に迫った。
「ごめん、あなたに任せるわ!」
「おかのした」
【邪剣夜 《魔宵音(ましょうね)》】
巨大な魔法を防ぐにはこれしか無い。
円形の魔法陣が剣から広がり、互いの魔力が激突する!
「ファッ!?」
魔宵音は破られ、一瞬で弾き飛ばされた。
刹那、エナが俺の前に立ち 槍の先端で魔法を受け止めようと突き出した。
――無茶だ!!
魔法はエナに直撃し、雷のケツマンが彼女の組織を破壊する。
「あ゛あ゛ぁぁっ!!」
まあ俺も食らうんですけどね。
「ン゛アッー!!」
破壊のエネルギーが全身を駆け、激痛と轟音で右も左も分からなくなった。
「……――おーおー。エナお前ムチャしてよー。『たんぱくしつ』が変性しちまって もう腕使えねーんじゃねーの。おーおー」
「あ゛あぁぁぁぁぁぁ!!」
「アーイキソ…」
隣でエナが腕を真っ直ぐ伸ばして悶えていた。
コイツのおかげで俺は助かったのか……
「おーおー。すぐに腕『せつだん』したほうが良さそうだな―お前」
ホンダがゆっくりとこちらにやって来る。―――まずい!
頭がガンガン鳴り、エナの悲鳴がそれを刺激する。
そしてさらに最悪な事態になってしまった。
「俺も仲間に入れてくれよ〜」
眼鏡の、薄気味悪い笑みを浮かべた男がホンダの後ろに現れた。
「おーおーおーおー、どこ行ってたんだお前よー、シンジョー。逃げやがってよーおい。」
「お疲れ様です〜」
「魔帝に言うぞお前〜」
「ただいまおもみもものサービスをさせて頂いてますので……」
――クソッ!!
奴の仲間が現れた!
これもうわかんねえな、お前どう?
* * *
大聖堂に押し掛けた大量のイカセ隊 厳しい戦いが続けられていた。
「オラ、舐めてんじゃねーぞ」
「う、うもう」
「お前なんだ男のチンコ触って喜んでんじゃねーよ!」
「バリ腹痛い、マジで痛い」
「ムリ〜タエラレナイ」
「トクガワ君大丈夫か?」
「手を動かせ、私を楽しませるんだろう?」
くさ草や天然ガマンジルで回復をしているものの、限界は近付いているように思われた。
「ゲコっ!」
「ヨスマーデ、どうしたのですか?」
突然様子が変わったヨスマーデにシリコキが問う。
「ゲコー! ゲロゲロっ!!」
シリコキはその言葉に愕然とした。
「……そんな、タドコロ様、エナ様」
―
――
―――
――このままでは確実に殺される。
腕の紋章も消え、エナもやられ、相手の増援まで来た。
もう……
――《伝説の野獣》の力しか……
いや、アキヨシの件で俺は《伝説の野獣》の力を甘く見てしまっている。
あんなのは奇跡だ。次は確実に破壊の力で暴れ回ってしまうだろう…。
――だからってどうする?
もうその力に頼るしかない。
「シンジョーお前よ〜、手柄を横取りしに来たのかよーお前」
「え?、そんな訳ないじゃん」
あの2人はなにやら無駄話をしている。
その隙にエナにガンホルの回復魔法をかけた。
「ぁぁぁ……」
「暴れんなよ、暴れんなよ」
体を小刻みに震えさせながら悶えるエナ、俺はパラディンの回復力を信じて魔法をかけた。
もし、野獣の力を回復に使えたら……
そんな事も考えてしまった。
「俺にも手柄を分けてくれよ〜」
「だめだやっぱ。シンジョーお前よー。黙って見てろお前ー」
「早急に息の根止めるんで〜。俺にやらせてくれよ〜」
「おーじゃあ、お前早くやれよーお前」
「なんだよぉ〜、お前ばっかいい思いしてんなよ〜」
「金目のものでももらおっかなー」
「いいだろぉ〜」
「おま、お前もってねーなーんなもんやっぱ」
「トボケちゃって」
2人は中身の無い無駄話を延々としている。回復の時間をくれる ありがたい事だ。
エナの体の硬直が消え、彼女はゆっくりと呼吸をしている。
涙がつたっていたので拭いてやった。カアイソウニッ、カアイソウニッ
「お前、前にマジメのバイト先行っただろ〜? 聞いたぜ〜」
「おーお前。おーおーおーおー」
「お前らばっか2人でいい思いしてんなよ〜、俺も加えて差し上げろ」
「どーしよっかなー。おーいいぜ。お前よー。アイツコキ使われてんだよお前よー。」
「何だよぉ、お前よ〜」
なんか聞いてるこっちまで馬鹿になりそうだ。
「……タドコロ君」
おっ気が付いたか。大丈夫そうじゃんアゼルバイジャン。
「おーシンジョーお前よー、姫目覚ましちまったなお前ー」
「虫の息だし、別にいいだろぉ〜」
「おーシンジョーお前、時間稼ぎは十分できたなお前よー」
「何?」
「だめだやっぱ。お前やっぱ裏切り者だなお前よー」
【雷属性魔法LV3ナメテクレヨ】
ホンダがシンジョーに攻撃をした、何が起きたんだ!?
シンジョーが魔法を跳んで避けながら、こちらに着地した。ファッ!?
「シンジョー…、あなた」
「姫様、私はもう迷いません。あなたと共に戦います!」
「……ありがとう」
「ウーン。こいつ信用できるんすかねぇ」
「……大丈夫よ。優しい人だから。」
エナが悟りを開いたみたいに言っている。こいつ死にかけて別人になっちゃったんすかね〜
「そこのお前、姫様を任せたぞ!」
「ウン、おかのした」
【火属性魔法LV4アツアツッ】
【風属性魔法LV5スゲエ・ハリケン】
ホンダとシンジョーが同時に魔法を放った。
中央で膨大な魔法力が爆散し衝撃がこちらまで伝わる。
だがホンダの魔法が上回り、炎がシンジョーに迫った。巨大な火炎だ。
するとシンジョーは剣を抜き炎を切り裂いた。
――こいつ…剣士か
「おーお前よー俺に勝てると思うのかお前よー」
「やってみなきゃ分からないだろ〜」
――早く加勢しなきゃ
俺は焦りに駆られながらも、ホンダとシンジョーが鍔(つば)迫り合いを行う傍らでエナの治療を続けた
「おー、結構やるじゃねーかお前よー」
「ホントは苦しいんだろ?トボケちゃって」
あのシンジョーって奴強いっすね〜。ミウラの閣下モードと同じくらいか。
「タドコロ君…急いで」
「ファッ!? 焦んなよぉ〜」
「シンジョーでは勝てないわ、私達じゃないと」
「ヌッ! でもアイツ頑張ってるよ。見とけよ見とけよ〜」
ホンダの動きは鈍くなっている。アイツ勝っちゃうんじゃない?
「いえ…ホンダには…闇属性の魔法があるわ。それを防ぐには聖属性か同じ闇の力でし……」
「はえ〜」
「アイツは今 闇の力を溜めているはずよ」
「ファッ!? ウーン」
やべえやべえよ
「回復にま〜だ時間かかりそうですかねぇ〜」
「おい待てねーな」
ホンダが距離を取ろうとするがすかさず間合いを詰める。
シンジョーは、ホンダに闇属性の魔法を使われれば 自分などひとたまりも無い事は理解できていた。
「だめだやっぱ」
「俺も間合いをの中に入れてくれよ〜」
魔法を撃つ暇は無い、純粋な剣術勝負。
ホンダの『竹刀』の威力も落ち、武器を破壊する事ができない。
シンジョーが優勢かと思われた。
「タドコロ君、そろそろ私も動けるわ 準備して」
「ウン、おかのした」
俺は回復魔法をかけ終え、邪剣を取った。今は著しく魔法力を消費している状態だ、一息つくのが吉だろう。
このホンダにたっぷり仕返ししてやる。
――さっきから発動させておいた あの魔法の力を見とけよ見とけよ〜
「が・・・う゛がぁ゛がぁぁぁ!!」
シンジョーがいきなり頭を抱え苦しみ始めた。なんだ!?
「おー、お前やっと時間が来たかお前よー」
「がぁ゛ぁぁぁ!!!」
シンジョーを頭を掻きむしって苦しんでいる。
「魔帝はよー、お前とっくにお前の裏切りに気付いてんだよーお前」
「ぁぁ……」
シンジョーの体が死んだように動かなくなった。死んだのか!?
「かわいそうによーお前、反逆の意思を見せたら 魔法が発動するんだよーお前よー」
シンジョーの体が崩れ、眼鏡が地面に落ちた。
我が目を疑った。
シンジョーの体の眼鏡が掛けられていたであろう部位が真っ黒に染まり、まるでえぐり取られたようになっている。
――そして
眼鏡の方にそのえぐり取られたであろう部位、目、目尻、眉がそっくりそのまま引っ付いている。
シンジョーの目はこちらに向けられ、その瞳をパチクリさせながら「何やってんだあいつら・・・」と事態が飲み込めて無いみたいだ。
そしてその横で竹刀で肩を軽く叩くホンダ
――まさか?
「やめて!!」
ホンダの意図を察したエナが叫んだ。
「どーしよっかなー」
「もう彼は戦えないわ…見逃してあげて…」
「金目のものでももらおっかなー」
「そっ、それじゃあ私の―――」
「だめだやっぱ」
ホンダの右足が無情に眼鏡を踏み潰し、そのまま右足を強く地面に擦り付けた
「…あ。……」
「体で払ってもらおっかなー」
「ぁぁあ……」
「ほらっ、ちょ、脱いでみ?ほらっ」
エナは飛び出した。
半狂乱で、髪をひどく乱し、目を真っ赤にさせ、何かを叫びながら
もはや彼女は聖騎士(パラディン)ではなかった。