「イナリやん!」
丁寧に盛り付けられた魚料理を前にして、男の声が弾む。
「イーナーリ、イーナーリ」
まるで子供みたいにはしゃぐこの男はカアリ、ヤクザな第一印象からは考えられない姿だ。
ここはカアリの経営する宿の食事処、店内は豪華に装飾されている。こんな所で落ち着いて飯を食えるのか?
カアリが一口、また一口とイナリを頬張る。サングラスから伝わる幸せ、この様子なら合格だろ。
俺は居心地が悪くなって店を出た。晴れた昼下がり。外にいたミウラ達に声を掛けられる。
「……それで、どんな様子なんだゾ?」
「垂れだしてきてます。……」
「お前のケツの話じゃない! カアリの様子だゾ!」
「ファッ!! ……まぁダイジョブだと思いますよ」
「うー☆うー☆」
今度は俺が質問する番だ。
「ミウラさん、タマの換金に行って来たんスよねぇ」
「そうだよ。な、ん、と、」
ミウラの顔が明るくなる。
「5万オォンにもなったゾ〜、嬉しいダルルォ?」
「マジスかぁ? 拍(手喝)采かけますね〜、FOO↑」パチパチ
「それでタドコロに人工肛門でも買ってやるにょ。…なんてのは嘘だにょ」
ヒデは果てしなくウザイ。
5万オォンはさほど大金では無い、しかし冒険者としての初めての収入に俺たちは心を踊らせた。
「先に宿に戻ってアーキソさんの朗報を待ちましょうよ」
「そうだよ(便乗)」
「うー☆うー☆」
ミウラ達が宿へ歩いてゆく、俺はケツを押さえながらゆっくり歩いた。
「あの」
後ろから声が掛かる、いつ聞いてもカワイイ声だなぁ。
ケツを手をやり足を小刻みに動かしながら振りかえる。
ヤンホヌ君だ。僕の最後の希望、オマエノコトガスキダッ(早口)。
「後で僕の部屋に来てくれませんか、タドロコさんに話があるんです」
アオォン(歓喜)
少年は一礼をし店内へと戻ってゆく、やったぜ。
―――
――
―
俺たちは宿に戻りゆっくりくつろいだ、湖に比べればこの汚さはまるで気にならない。
軽口をたたく。
「アナルコノンダを倒した俺たちって、この街の英雄じゃないスかぁ?」
「魔導役場の連中は信じてくれなかったゾ。……ポッチャマ」
「まぁ、いいじゃないっスか」
俺はヤンホヌ君が手に入ればなんでも良い。
「そういやアーキソさん、お礼に何してくれるんスかねぇ」
「礼は受け取らないゾ」
「えっ?」
「男たるもの、弱者からは何も受け取らないゾ。トッチャマが言ってたゾ」
「ヤだ、ヤだ、ねぇちょっとヤだ。あいつを風俗に売り飛ばして金儲けするんだにょ! あーもうおしっこ出ちゃいそう!(半ギレ)」
ズンと鈍い音がする、ミウラがヒデの腹に一発おみまいした。
「痛いんだよォ!!(マジ切れ)」
ミウラが無言で首筋を掴む。
「 ああ逃れられない(カルマ)」
この宿壊れるんじゃないか?
俺はアイスティーをすすりながら思った。
「ミウラさんヒデを許してやって下さいよ、そいつには仕事がありますから」
「おっ、そうだな」
ミウラがヒデを放す、ヒデが屈託の無い笑顔でこちらを見る。……キモい。
「ヒデ、そろそろ魔力が回復しただろ。また俺のケツを回復魔法をかけてくれ」
「しゅる〜〜〜」
ヒデを治療を始める、回復魔法LV1ガンホルだ。左手にケツマンの青白い光を集中させ右手で放つ。左右のバランスのとれた魔法だ、こいつも中々の使い手だな。
と、ケツを丸出しにしながら考えた。
―
――
―――
夕暮れ時、人の往来が多くなってきた。冒険者のるつぼ、宿場だ。
兄弟が歩いている。
「ヤンホヌ!! お姉ちゃんに何も言わないで湖に行って! 何かあったらどうするの!」
「……ごめんなさい」
「……もう危険な事はしないでね」
「はい。……」
姉が悲しそうな顔をしている。少年は堪らず続けた。
「……でも、あの人達凄かったよ、タドコロさんなんて大蛇に噛み付かれても、『ぬわぁぁあぁぁん疲れたもぉぉぉぉおぉん』で済ましたもん」
「そうなの? ……世が世ならゲイビデオ男優になって爬虫類を昏睡レイプしてそうな人間の屑がそんなに凄いとは思えないわ」
「私タドコロさんに勇気を貰ったもん、タドコロさんはウンコの妖怪みたいな見た目だけど立派に生きてるから、イキスギてるから。だから私も一歩踏み出せたの」
姉は思った、今までの引っ込み思案でシャイな妹では決してあんな行動を取らなかったと。タドコロ達が妹を変えたと。
妹が帽子を取る。長く美しい髪が風と戯れる。
「私、タドコロさんにちゃんとお礼が言いたいの」
姉は微笑んだ。
「そうだね」
姉は感謝をした、命の恩人以上の存在に巡り合わせてくれた運命に……。
* * *
ね、ねますよ。
ヒデの回復魔法により俺のケツはほぼ完治した、大の字で眠れる幸せ。この宿もなかなか落ち着けるじゃないか。
「おい、タドコロ。そんなご満悦な表情されるとキモいゾ」
アホ坊主が戯言を抜かす
「まだ夕方だにょ、こんな時間に寝たら夜眠れないにょ」
ヒデも便乗する。
「アーキソさん遅いゾ〜」
――誰かの足音がする、帰って来たか。ミウラが小走りで入り口の扉を開け、扉の向こうから会話が聞こえる。
「おおっアーキソさん! それで、どうだったのかゾ?」
「この度は非常にお世話になりました。おかげさまでカアリに認めてもらいました」
じゃけんヤンホヌ君を手籠めにしましょうね〜。
アーキソさんとヤンホヌ君が部屋に入ってきた、かわいいヤンホヌ君は帽子を取っている。……ん?
「皆様に謝らなければなりません、実はヤンホヌは私の妹、女の子です」
――ファッ!?
「とっくに気付いてたゾ〜、俺達ホモはある方法で嘘を見抜けるんだゾ〜、……ってタドコロどうした!?」
「オォン!!アオォン!!」
「まだケツが痛むのかゾ?」
「パッソ……」
「水を持ってきます!」
「イキスギィ!イクゥ、イクイクゥ…ハァッ、ハァッ……ンアッー!!(迫真)」
俺はとうとうイキスギた。
―
――
―――
風が宮殿を吹き抜ける、不気味な音を立てて風は城下町へと向かった……。
王都コオトの玉座に鎮座するこの男は国王ではない。痩せた、シワが少し目立つ老人。この国の大臣ロマン・Gだ。なぜ大臣がふんぞり返っているのだろうか?
ロマンが膝を折った眼鏡の男に問う。
「シンジョーよ、トオノ王の様子はどうじゃ?」
「変わりはありません」
「……それならよい、占術師ピンキイの占いの程は?」
一泊の間の後シンジョーが口を開く。
「王都の未来は冴え渡る月影のごとし、と申しておられました」
「……」
ロマン・Gが不気味に笑う。
「嘘はいかんぞシンジョー」
シンジョーの目が大きく開いた。
「お前の肛門に微粒子レベルに存在する大便がそれは嘘じゃと告げておる。ゲイに虚言は通じん。…ピンキイの予言を正確に伝えよ」
緊張から眼鏡に汗がつたる。
「……伝説の野獣が、この国の平安を脅かすであろう、とだけ付け加えられました」
ロマン・Gが再び笑った。
「ワシの脅威にはなりえん」
宮殿に強い風が吹き荒れた。これからの動乱を予感させるような……