宇宙人ジョーンズ︰幻想郷調査結果報告書《完結》 作:ココナッツ・アナコンダ
宇宙人ジョーンズ:家政夫
──この惑星の住人は、常に何かしらの『秘密』を持って生活している。
「抜き足、差し足、忍び足〜。どれどれ、さとり様は──いない。良し! 今のうちに……」
「何が良しなのかしら?」
「ひゃあ!? さ、さとり様……いつの間に後ろに?」
「私に見つかると不都合なことでもあったのかしら?」
「め、めめめ、滅相もございません!! では私はこれで──」
「──お燐?」
「は、はいぃ!」
「ふ〜ん……貴女、私に隠していることが──」
「ありません! 私に疚しいところなんて、な〜んにもありませんよぉ!?」
「──そう、お使いの帰りに余ったお金でお魚をねぇ……」
「……」
「──しかも一匹に抑えきれず、結局、残金すべて
「……さらばっ!」
「逃がすわけないでしょう!」
「しまっ、あし──グピャ!?」
「貴女これで何度目よ!? 今日という今日は絶対に許さないんだから!」
「ひ、ひぃぃいいぃぃぃぃ!!?」
「まったく……心が読める私に嘘が通じるはずないでしょうに」
──物理的なものであれ、精神的なものであれ、隠さなければならない理由はそれぞれだ。
「あっ、さとり様だ! さとり様ぁ〜!!」
「あら、お空……どうかしたの?」
「いえ、さとり様を見かけたので声をかけただけです!」
「……そう」
「あっ、でもそうだ! さとり様、お燐を知りませんか?」
「あら、何か用があるの?」
「えぇっとですね────うにゅ? 何だっけ?」
「……忘れちゃったの?」
「うにゅ〜……はい! 忘れました!」
「なら、今はお仕事に戻りなさい。お燐は今、とても忙しいみたいだから」
「分かりました、じゃあ戻ります!」
「はいはい」
「それ、ビュウ──ン!」
「…………あの子も、もう少し何とかならないものかしら?」
──保身のため、誰かのため、『最善』と思う手段を模索した結果、秘密という手段にたどり着いたのだろう。
「う〜ん……決めた! 今日、明日はお姉ちゃんの服を借りよう!」
「……」
「そうと決まれば──あっ、ジョーンズだ! それに──おお、グッドタイミングだよ!」
「何デスカ?」
「チミが持ってる洗濯の山から、お姉ちゃんの服をいただきたいのだよ」
「コレデスカ?」
「そう! それだよ! ちょ〜だい?」
「イイデスヨ」
「ワァ〜イ! ありがと〜!」
「……」
「それじゃあ、さっそく着替えて出かけてくるね! ──バイバ〜イ!」
「バイバイ」
「…………あっ、そだ。これ、お姉ちゃんには内緒ね?」
「ワカリマシタ」
「ん、よろしい。じゃあ、今度こそバイバ〜イ!」
「バイバイ」
──そのため、この惑星の住人は、秘密というものが明かされるのを極端に恐れる傾向がある。
「そうですね──だから、秘密を赤裸々に読み取れる私は忌み嫌われているのです」
「…………!?」
「何故──ですか? 簡単な話です。私の能力は『聞く』ものじゃなく『見る』もの。貴方の張っている特殊シールドの効果では妨害できないからですよ」
「ナルホド」
「──ええ。貴方の素性、他の調査員、短い期間でしたが、それなりに読み取らせてもらいました」
「ナラ」
「はい、もう既に──」
「…………」
「──いえ、驚きましたよ? 記憶の操作や改竄があったというのもありますが、まさかあの子が宇宙人だとは微塵も思っていませんでした」
「…………」
「ただ──『驚いた』以上に……ショックの方が大きかったので」
「…………」
──ただ…。
「──いえ、何も変わりませんよ」
「…………」
「確かにショックでしたがそれでも──私があの子のことを大切に思っているのに、愛していることに変わりはありません」
「……本当カ?」
「はい。これからも今までと同じ──何も変わりはありません」
──この惑星の『愛』は……。
「あの子も大切な──私の家族ですから」
──全てを受け入れる。
「……そう、バレちゃったんだ」
「スマナイ」
「いいの。さとり様の能力をちゃんと正しく理解できていなかった私が悪いんだから」
「…………」
「そっか……なら、もうわざわざ『子供っぽい』人格で表面を覆い隠す必要もなくなったのか」
「消スノカ?」
「……いいえ」
「…………」
「さとり様が愛しているのは、あくまで造られた人格の方。本来の私じゃないわ」
「……ソウカ」
「そうよ……でも残念ねぇ、一度くらいちゃんと挨拶しておきたかったわ」
「無理ダ」
「分かってるわよ──あ〜あ、さとり様の能力に対処するためとはいえ、近くに来たら強制的に人格が入れ変わるようになんかするんじゃなかった」
「…………」
「…………」
「…………」
「……ねぇ、ジョーンズ?」
「何ダ?」
「調査ってさ──まだ掛かりそう?」
「アァ」
「そう──ならもう少し、ここにいられるのね?」
「オ前……」
「分かってる。分かってるけど──せめて、今は……」
「ソウカ」
「……うん」
「……ホラ」
「あら、差し入れ? ──ありがと、もらうわ」
「…………」
「……うん、苦いなぁ──とっても苦い。まだ『私』が『私』だけだった時は飲めたのに」
「子供ッポイカラナ」
「さとり様やこいし様やお燐にも、甘いものばかり食べさせてもらってるしね」
「ソウダナ」
「みんな、いい子たちだよね」
「……アァ」
「……もしもの時、私は『地霊殿』のみんなを割り切ることができるのかなぁ?」
「…………」
「私もだいぶ──ここに染まってきちゃったなぁ……」
宇宙人クロウ(地球名,霊烏路 空):間欠泉地下センターの管理
彼女はこの後、どういう結論を出すんでしょうね?