宇宙人ジョーンズ︰幻想郷調査結果報告書《完結》   作:ココナッツ・アナコンダ

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宇宙人ジョーンズ︰記者手伝い


調査記録︰妖怪の山

 

 

 ──この惑星の『天狗』と呼ばれる種族は、非常に仲間意識が強いという。

 

 

 

「止まれぇ! ここから先は天狗の領域──あっ、なんだジョーンズさんでしたか。お疲れ様です」

 

「オ疲レ様デス」

 

「文様から聞いています。ちょっと待ってて下さいね? 多分、もうすぐ来られると思うので」

 

「ワカリマシタ」

 

 

 

 ──しかし一転、天狗は自らの領域を汚されるのを嫌い、他者に対して排他的な一面も有しているようだ。

 

 

 

「……っと、やっぱり椛のとこにいたわ。へい、ジョーンズ! やっほー!」

 

「ヤッホー」

 

「あれ、はたてさん? 珍しいですね、お家の外に出てるなんて」

 

「暗に引きこもりって馬鹿にされた気分だけど、まぁ今は目を瞑りましょう」

 

「何かご用でしょうか?」

 

「ええ、ジョーンズにね。ねぇ、貴方が文の『文々。新聞』を手伝うようになってから評判はうなぎのぼり、椛も無理やり駆り出されることもなくなるし良いこと尽くめだそうね」

 

「ワカリマセン」

 

「そうですよ? ジョーンズさんのおかげで私も哨戒の仕事をサボらされずに済んでますし、何よりあのバッタもん臭い新聞が広く読まれるまでに普及したのも、貴方の力によるところが大きいです」

 

「そう! その実力を見込んでお願いがあるの!」

 

 

 

 ──また天狗は奔放な妖怪にしては珍しく、縦の順列関係を重んじる社会形態の中で生きる種族でもある。

 

 

 

「どうか……どうか私の『花果子念報(かかしねんぽう)』発展のために、あなた様のお力をお貸し下さい! お願いします!!」

 

「ワカリマシタ」

 

「いや、ダメに決まってるじゃないですか」

 

「あっ、文様」

 

「ゲェッ!? いつの間にっ……!」

 

「ったく、油断も隙もあったもんじゃない。ダメですよ〜、ジョーンズさん。貴方は私のところで働いてるんですからね? 副業は認めませんよ〜?」

 

「ちょっとぉ、少しくらい良いじゃない! 最近、『花果子念報』の売り上げが停滞気味だから、何か新しい風が必要なのよ!!」

 

「知らないわよそんなこと! そういうのは自分の力で解決しなさいよ!」

 

「何ですって!? ジョーンズにおんぶに抱っこが偉そうにっ!!」

 

「んなっ!? ちちちちち違いますしぃ、そんなことありますまいしぃ、私の力で人気がチョベリグなんだしぃ!!」

 

「うっわぁ……目くそが鼻くそを笑ってる」

 

 

 

 ──総じて見てみれば、天狗は人間とよく似ていると言えるのではないだろうか?

 

 

 

「と・に・か・く! ジョーンズさんは貴女なんかには渡しませんよ!!」

 

「あぁ、抱きついた!? グゥゥ〜……それを決めるのはジョーンズよ! ねぇ、私のところに来てよジョーンズ!!」

 

「なっ!? なんで貴女も腕に抱きついてるんですか! 離しなさいよ!」

 

「嫌よ! アンタこそ離しなさいよ!」

 

「クッ……このぉ!」

 

「負けるかぁ!」

 

「なんか……大岡裁きみたいになりましたね」

 

 

 

 

 

 ──しかも…。

 

 

 

 

 

「ジョーンズさんが二人いれば楽に解決出来るんですけどねぇ……」

 

「ワカリマシタ」

 

「……え?」

 

「離しなさいったら──きゃあ!?」

 

「そっちこそ──ぷぎゃ!?」

 

「あたたたた、ジョーンズさん何を……はい?」

 

「嘘……?」

 

「は……え? ジョーンズさんが……二人?」

 

「「分カレテミマシタ」」

 

「あ、ああ……私が二人いれば解決って言った……から?」

 

「え? あ、う〜〜ん……」

 

「まぁ、それなら妥協点……でしょうかねぇ?」

 

「釈然とはしないけど……そうね、これで妥協しましょう」

 

「──私はしないけどな」

 

「へ?」

 

「ゲッ!?」

 

「あっ、て、天魔様!?」

 

 

 

 

 

 ──天狗の社会も人間社会と同様……。

 

 

 

 

 

「いつからそこに……?」

 

「このバカ二人が大岡裁きをしていたときからだ。しかし、目的の人物が二人に分かれたか……うむ、丁度いい」

 

「あの……天魔様? ジョーンズさんに何か……?」

 

「まぁ、そうだ。実は最近、二人分ほど人手が足りなくてな。ジョーンズくん、君の手腕を見込んで天狗の事務仕事を任せたいのだが、ついてきてはくれまいか?」

 

「ええっ!?」

 

「そんな……何故ジョーンズさんを!?」

 

「ジョーンズくんは天狗の間でも評判が高いぞ? それこそ、大天狗に等しい地位を与えても、誰も反対しないくらいにはな」

 

「しかし、だからと言ってジョーンズさんを連れて行く理由には──」

 

「それがなぁ、趣味の新聞記事にかまけて仕事をしない天狗と──」

 

「ふぐっ!?」

 

「家に引きこもって仕事をしない天狗のせいで仕事が溜まってて急を要するのだ」

 

「はぐぁ!?」

 

「ん? 何だ、二人とも──この男を連れて行くのに不都合でもあったか?」

 

「「い、いえ、何にもございません……」」

 

「そうか、ならいい。では行こうか」

 

「「ワカリマシタ」」

 

「ではな三人とも。仕事に励めよ?」

 

「は、はい……」

 

「了解……です……」

 

「ありがとうございます! 懸命に励みます!」

 

「うむ、良い返事だ椛。二人も見習いたまえ──ではさらばだ」

 

「お気をつけてぇ! ──ふぅ、残念でしたね、お二人とも」

 

「うぐぐぐぐ……強力な助っ人が……『文々。新聞』のさらなる発展がぁ……」

 

「『花果子念報』の……購読者アップの夢が……」

 

「きっと、自分の力だけで頑張れっていう天啓ですよ」

 

「「ふぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 ──世知辛いところもそっくりである。

 

 

 

 

 

「あはははは……」

 

「行〜っちゃった〜行っちゃった……」

 

「そんなにしょぼくれないで下さいよ、ほとんど自業自得でしょう?」

 

「そんなこと言わないで下さいよぉ! ようやく軌道に乗って、これからって時に…………グズッ……」

 

「そもそも軌道にすら乗れてない私って…………ヒグッ……」

 

「やれやれ──あっ、ジョーンズさんから差し入れが残されてますよ? これは……いつもジョーンズさんが飲んでらっしゃる缶コーヒーというものですね。お二人は飲まれますか?」

 

「うぐぅぅ……飲むぅ〜」

 

「ジョーンズ〜、カムバ〜ック〜」

 

「はたてさんはいらないみたいですね」

 

「いるわよぉ、バカァ!」

 

「はぁ……全く面倒くさい。ジョーンズさん、早く帰って来ないかなぁ」

 

 

 

 




天魔︰天狗を治める長。


しばらく書き溜めするので、それまで更新は止まります。

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