「なぁ野球やろうぜ」
「だからやらねぇって言ってんだろ!」
「そう言わずにちょっとだけ!先っちょだけだから!」
「何の事を言ってんだよ?野球?野球だよな?そういう趣味とかないよな?」
転入生、茂野吾郎。
第一印象………スポーツマン。
今の印象………しつこい。
転入生、茂野吾郎から見た〝松井裕之〟という男。
野球は好きだが、それをする選手。プロだったり同年代の有力選手に全く興味を持たない茂野吾郎という男であってもその名を知っている程の実力者である。そこに養父から聞いたとつくが……
中学の同級生でありバッテリーを組んでいた小森大介は詳しく。名を知っている程度であった茂野吾郎の〝松井裕之〟に対する知識を強く与えた。
曰く、同年代では並ぶ者のいない天才選手であると。
曰く、U-15のキャンプテンを務めたとか。
曰く、並以下のシニアを1人で全国準優勝まで連れて行ったとか。
小森大介によれば、その男は13歳になる頃には既にプロスカウトが注目するほどの選手であり、中学1年で既にU-15に召集されていたとか。
もっとも茂野吾郎本人はU-15ってなんだ?と意味を理解していなかったみたいだが
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「野球部作ろうぜ!」
「いい加減しつこいぞ!茂野!」
「頼むよぉー、藤井しかやるって言ってくれなかったんだよ」
「なら諦めろよ」
「そんな事言わずによー……っ!なら、ならよ!練習試合なら出てくれねぇか?それで俺1人で勝てる事を証明できれば入部してくれねぇか?」
———思い出す———
『おまえ1人で勝てんじゃねぇーの?冗談だけどさ』
———嫌な記憶を———
「1人でか………いいぜ、入部の件はともかく練習試合は出てやるよ」
「お!マジかサンキュー!絶対だかんな!」
「で?試合はいつなんだよ?」
——練習試合なら草野球みたいなもんだろ、正式な部でもないし——
「…………」
——おい、こいつまさか——
「おい!茂野!いつなんだよ?」
「い、いやそれがよ」
「はぁ〜もういい。とりあえず日程決まったら教えてくれ」
「お、おう悪いな」
熱がないせいか、それともただのトラウマかはわからない。本気で野球をしようとすると吐き気が襲う。軽い気持ちなら、草野球なら楽しくできる。
なのにこんな野球バカが毎日熱心に「部活作ろうぜ!」なんて誘ってくるもんだから、野球バカの熱が伝染して……いや、ただ練習試合に出るだけだ。
1人で勝つなんて………無理に決まってる。
勝てたとしてもそんなのただ辛いだけだろ。
そんな野球…そんなの少しも楽しめねぇよ
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練習試合当日
「ポジションは?」
「適当でいいだろ、1人で勝つなんて事を言ってんだからよ」
1年生の1人がケガをしている為、人数が足りずに女子ソフト部の清水薫が参加している聖秀高校野球部(仮)打順や守備位置などあってないような物だ。
1番 ピッチャー 茂野
2番 キャッチャー 清水
3番 ファースト 藤井
4番 セカンド 松井
5番 サード 田代
6番 ショート 内山
7番 レフト 宮崎
8番 センター 野口
9番 ライト 高橋
対戦相手は強豪、横浜帝仁高校。
初回、宣言通り3者連続三振に抑え裏の攻撃へ、
先頭茂野は初級を振り抜き、軽々と柵越えの打球を放つ。続く清水藤井は凡打に倒れ打順は松井へ。
「俺が全部ホームラン打って全部三振にとれば4-0で勝利!んで連中も野球部に入部!完璧だろ!清水!」
「そんな簡単なものじゃねぇと思うぞ本田、それに…」
「ん?なんだよ?しみ」
金属バット特有の甲高い打撃音が響く——思わずグラウンドを向く茂野。
そこにはベースをゆっくりと回る松井の姿。
「お、おい清水!松井って何者なんだよ?」
「やっぱりお前何も知らずに誘ってたのかよ!あいつの名前は〝松井裕之〟流石のお前でも聞いた事あるだろ?」
「松井裕之……ってまさか!?」
「やっぱりか……」
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今更高校で野球をする気はないが、バットを持ったのなら、グローブを着けたのなら、ユニフォームに袖を通したのなら俺は野球に手を抜く事は絶対にしない
バッターボックスに立ち自然に構える
——初球は外に、ボール
流石強豪校。草野球では中々お目にかかれない、いい球を投げる。
続く2球目、内角へのストレート——こういう打球は腕をたたんで背中へ引くように腰を回し強く——バットを振り抜く!!
手への気持ちのいい感覚、痺れを残し打球は茂野の打球同様、柵を越えていった。
短いけどキリがいいのでここで、多分書き足します