私の中の『大井』がノンケの私を全力でレズ行為に走らせようとする   作:持ち杉

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〇〇一 最初の一言は北上さん!

 みなさんはモンゴルの牧草地に行った事がありますでしょうか?

 私はないです。行きたくもないし興味もないです。

 詳しい数字は忘れてしまいましたが、モンゴルは何でも、世界で一番人口密度が低いそうです。地理かなんかの教科書のミニコラム的なところに書いてありました。

 テストに出る様な重要なところは何度も反芻しないと覚えないのに、こんなどうでもいい事は一瞬で覚えてしまうんですよね、私。

 ところで、私が通っていた高校は東京都内にあります。一応、まあまあのお嬢様学校です。スカートは膝下、登下校は集団でするよう義務付けられてました。ごきげんよう、とは挨拶しなかったですけど。

 私の家も東京にあるんですが、少し郊外なんですよ。だから、毎朝電車登校です。

 東京の駅ときたら、やたらと複雑だし、人が多い上にみんな急いで歩いているので、ゆっくり電子掲示板を見る事も出来ません。

 そんな混沌とした雑多な東京駅の実情を、モンゴルの遊牧民族に説明できるでしょうか?

 まあ、不可能ですよね。

 

 

 つまりは何が言いたいかというと──深海棲艦が言葉に出来ないくらい不味い!

 

 

 敢えて、敢えて言葉にして表すのなら! 味は腐ったシーチキンを、海水と腐った甲殻類や魚類と一緒にとことん煮詰めたような、そんな味! もしくはお刺身をめっちゃ食べた後のゲロ! ゲロ食べたことないけど!

 食感はエビとかカニの殻をふやかしたみたいな、硬いのに柔らかい、そしてなんかヌメヌメとした、気持ちの悪い食感! もしくは油まみれのゴキブリ! ゴキブリ食べたことないけど!

 

 

 そんな人類の食文化を全て否定する様な味の深海棲艦を食べた私は、当然ドチャクソ吐いた。そしたら私を監視してたクソッタレ海軍のゴミクズ野郎が「吐いたモノも食べて下さい」とかほざきやがった。

 こんなゲテモノ料理を食わせた上で、その上ゲロまで食べろとか、普通女の子に言う? いや、言わないだろう。つーか女の子以外にも言うなやハゲ。

 でも泣き言ばかりも言ってられない。これ食べないと艦娘になれないし、艦娘になれなかったらお母さんとお父さんと妹諸共路頭に迷っちゃう。

 涙とかえづき汁とか汗とか、色々と撒き散らしながら食べました。ええ、食べましたとも。

 理由は知らないけど、カレーとかシロップとかつけるのはダメと言われたから、生のママナイフもフォークも使わず手づかみで食べましたとも。

 泣いたね、マジで。

 あんなに泣いたのは『千と千尋の神隠し』見たとき以来だね。お父さんとお母さんが、豚になるところを想像して、私には他の豚と見分けつかないと思ったあの時。帰れなくなっちゃうと思って、めっちゃ泣いた。今回はあの時レベルで泣いた。

 

 

 ああ──そして──努力の甲斐あって、私は晴れて艦娘になりました、コンチクショウ!

 

 

 我が今生で最悪の食事を終えた後、私の体は色々と変わった。黒髪ロングだったのが茶色のショートになった。本当はこのくらいの長さはショートじゃなくて、もっと別の呼び方があるらしいけど、私は校則で決まった髪型しかしてこなかったからその辺疎いのだ。

 体つきはそこまで変わらなかったけど、おっぱいが少し大きくなって、背が縮んだ。後はまあ、顔が大分変わった──というか別人になった。自分で言うのも何だけれど、私はキリッとしたカッコいい系美女だった。美女だった。後輩にもお姉様とか呼ばれてたし、告られたことあるし。本当に美女だったし。

 だけど私の新しい顔は、なんかこー愛されゆるふわ系、とまではいかないけど、中々可愛いらしい顔立ちだ。

 もちろん声とかも違う。昔は出せなかった甘え声とかが出せる様になった。昔の私は凛とした声しか出せなかったんだけどな。凛とした声しか。

 

 

 ──多分もう今の私を見て、私だと分かる人は居ないんだろうね。

 

 

 体の中身は外見以上に変わってる。

 まず身体能力がヤバい。どのくらいヤバいかっていうとマジヤバい。高校生でトップとか言ってる場合じゃあない、オリンピック選手とかもう目じゃないの。というか人類を置き去りにしてる。

 50メートル走何秒とかそんな次元じゃない。走ろうと足を踏ん張った瞬間、地面がぶっ壊れるくらいの脚力があんのよ。

 なんか、軽巡洋艦『大井』の力が全部私の体の中に圧縮されてるんだって。

 やっぱ船ってデカイじゃん。それを動かすとなると、たくさん力必要じゃん。そのたくさんの力で人みたいな小さいモノを動かしたら、とんでもないことになるじゃん。まさにそれよ。

 軽巡洋艦『大井』に出来ることは、私は大抵出来るらしい。なんか『大井』と同じくらいの『容量』があって、そこに物とかしまって置けるらしい。

 原理としては、物体を粒子にまで分解して0次元に仕舞って、取り出すときは再構築して云々──みたいなこと言われたけど、成績オール4チョイの私をもってしてもよく分からなかった。まあとにかく、いっぱい物が持てて、艤装も普段はそこに仕舞うんだって。

 

 

 後は『大井』としての知識も私の頭の中に埋め込まれた。今までの航海の記録とか、そんな感じのやつ。それのせいでまたゲロった。急に自分の中にバッタバッタ人が死ぬ記憶が入ってきたんだもん。そりゃあ、吐きもするよね。

 しかも自分の中で人が歩いてたり、おトイレしてたり、酷い時はちょっと女子高生の口からは言えない様な事をしてたり、そんな感覚が私の中を駆け巡った。処女のまま精神的レイプされた。ここに来てから高度なプレイを受けてばかりだ。

 

 

 最後に、これが一番厄介なんだけど、私の中にもう一人の私がいる。

 遊戯王の初代主人公みたいに分かりやすくもう一人がいるんじゃなくて、かといって私が厨二病に目覚めたわけでもない。

 うーん何て言ったらいいんだろう……ふと、今までやった事もない事をやりたくなったり、今まで嫌いだった食べ物が食べたくなったりするんだよね。

 私とは違う趣味嗜好を持った私がいるというか、私が他の誰かの人格に変わりつつあるというか、まあそんな感じよ。説明下手で申し訳ないけど、頑張って理解してよね。

 まあでも、これは考えてみれば当たり前のことかもしれない。まだ16年しか生きていない私に対して、『大井』は25年間生きていた。だからこそ私と『大井』が交われば、必然的に『大井』としての性質が勝るというもの。

 

「北上さん……」

 

 誰だよ、北上さん。

 いや、本当は知ってるけどね。『大井』としての知識の中にあったしね。私の双子的なノリの船でしょ。ただ気分的にツッコンでみただけだ。

 寒い日にボーッとしてると意味もなく「寒いなあ〜……」と言ってしまう様に、私はふとした瞬間「北上さん……」と呟く体質になってしまった。どんな変態だ、私は。

 それと女子校通いだったゆえ私は男性経験が少ない──エロい意味じゃなくて──のだけれど、『大井』はそれ以上だ。もう、男の人と会うと咄嗟に悪態をつきそうになってしまう。今のところ周りにいるのは、ゲロシャブ海軍のオッペケペー共だから悪態をついてもいいのだけれど。でも人の悪口を言うと目覚めが悪くなるので、心の中で死ぬほど悪口を言うくらいに留めている。

 あー、『大井』でいるの辞めたい。

 

「北上さん大丈夫かな、私がいないと心配だな。うん、心配……きっと、そう、そう、きっと何か起きてる! 私、行かなきゃ!」

 

 行くな行くな、私。多分何も起きてねーわよ。

 何か五分以上何もしてないと、このセリフが口から飛び出ちゃうんだよね。どんだけ北上さん好きなんだ、私は。分かってると思うけど、ここでいう私は『大井』の方の私ね。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ──さあて諸君! 突然だが重大な発表がある!

 クソッタレウミウシ野郎の海軍野郎共に監禁されること二週間と一時間二十分! 私はついに、鎮守府に送られることになった! そう、色んな精密検査が終わったのである!

 窓からも中が見えない、特別製の黒塗りの車に乗って、さあ出発だ! ちなみに憲法第9条を守ろう派のテロや海外からの引き抜きを懸念して、複数台で一斉に出発だ!

 ぶっちゃけ私はクソ強いから人間共のテロとか何てことないけど、人を傷つけると色々な団体が騒ぐ上に、良くない形でテレビデビューしてしまうから仕方のない措置なのだ!

 艦娘になった瞬間私は人ではなく兵器だから、人権はないんだぜ! だから何かされても警察は守ってくれないし、裁判も起こせない! 攻撃され放題だ!

 ちなみにお父さんとお母さんと妹は家族揃って名前を変えて何処かの街に送られた! 理由は人質にとられない様に! 何処に行ったのかは私には知らされないよ、チクショウ。

 

 

 私は『大井』の記憶から戦闘技術を学んでいるから、素人だけど割と戦えるゾ! そのせいで即戦力として直ぐに戦争に行けるぜ! やったー!

 車で揺られること八時間! やっと鎮守府に着いたよ! 本当はもっと早く着けるけど、大人の事情でう〜んと回り道せにゃあならんのだ!

 黒スーツの用心棒達と鎮守府の前で無言で待っていると、鎮守府の奥から着物? 道着? とにかく和服を着た人がやって来た!

 

「輸送、お疲れ様でした。ここからは私が預かります。鎮守府内は、部外者立ち入り禁止ですので」

「はっ!」

 

 黒スーツの人達は一斉に敬礼すると、車に乗って元来た道を帰って行った! アディオス!

 

「こんにちは」

「ごきげんよう」

 

 実はさっき、私は嘘をつきました!

 本当は学校でごきげんようって挨拶してました! 何となく恥ずかしくて嘘ついてました! でも体に染み付いてるっていうか、挨拶されるのついごきげんようって返しちゃうんだよね。

 

「貴女がここに新しく専属されることになる──」

「ええ。球磨型四番艦大井です。今後ともよろしくお願いします」

「加賀です、よろしく。……では、先ずは提督の所に案内するわ。着いてきて」

「まあ、ご親切にありがとうございます。ところで──」

 

 ありがとうございますで止めとけばいいのに、何故か私の口が勝手に話し出す。

 

「ここに北上さんはいますか?」

 

 あーあ、やりがったコンチクショウ。私の口は開けば北上さん、北上さん北上さん、それバーッカリだ!

 

「安心して。球磨型──貴女の姉妹は全員揃っているわ」

 

 せ、セーフ!

 同型艦がいるかどうかの心配だと思われたみたいだ。ぶっちゃけ私は姉妹艦に対しての絆とかまだ感じてないんだけど、普通は感じるらしい。そう私に艦娘について説明してくれた、偉い学者様が言ってた。

 まあまあとにかく本性がバレなかったことをいいことに、私はお淑やかな淑女然として、加賀さんの後を着いて行く形で、静かに鎮守府の中へと入っていったのだ!

 

 

 そこはまあ、簡単に言えば地獄だった。

 鎮守府の真っ白な外見とは裏腹に、中身は酷い有様だったよ。

 床には包帯の切れ端や何かの空瓶が散乱している。包帯の切れ端には血がついてるモノもあったし、床自体に幾つもの血痕があった。

 壁には──様々な文字が乱暴に彫ってあった。『第七駆逐隊此処ニ有リ』、『我ガ命ガ国ノ為ニナル事ヲ願フ』、『生キテ』──他にも色々、モノによっては恨み辛みの言葉まで、数え切れないほどの言葉があった。きっとどの言葉にも、文字にも、歴史があるのだろう。

 そして私も、いつかはここに仲間入りするのだろうね。

 

「……此処が、人類の最前線よ」

 

 ポツリと加賀さんが呟いた。

 この人は一体、どれ程の歴史を見てきたのだろうか。人の理から外れた艦娘は、歳をとらない。見た目通りの年齢だとは限らないのだ。

 やがて加賀さんは、鎮守府の最奥にある、一つの部屋の前で止まった。

 

「ここです」

「道案内、ありがとうございました。感謝致します」

「……今回は受け取っておきます。でも次からは、このくらい、気にしなくていいわ」

 

 加賀さんはほんの少しだけ照れたようにそう言うと、大きな木製の扉を四回ノックした。

 

「加賀です。新しく建造された艦娘をお連れしました」

「ああ、入れ」

「失礼いたします」

 

 加賀さんと一緒に室内に入ると、真っ白な洋服を着ている男の人が、椅子に深く座りながら出迎えてくれた。

 ──あの人が、提督。

 思ったよりもずっと若い。

 うーん、顔はけっこうカッコいいかな。

 提督になれるのは、ほんの一部のエリートだけ。その大半は、おじいちゃんまでずーっと勉強してきた人達。だから若い人が提督になることは、本当に稀。そう聞いてる。

 少なくともオール4チョイの私では提督にはなれない。

 

「ごきげんよう。軽巡洋艦、大井です。どうぞ、よろしくお願いいたします」

「よく来てくれた。私がこの鎮守府の提督だ」

 

 私は頭を下げた。男性に頭を下げても、意外な事に『大井』は特に何の反応もしなかった。

 そのあとまず提督から深海棲艦を食べた事への労いの言葉があってー、次に本題が来た。

 この本題がマジでヤバいのよ。

 人類にはもう余裕がないこと。その中でも島国である日本は、もう敗北がほぼ決定していること。世間には公表していないが、アメリカからの支援はとっくの昔に打ち切られてること。他にも色々とあったけど、要は私達死ぬってことらしい。

 

 

 ああ──もちろん──私は泣いたよ。

 艦娘になったとはいえ私の感性はまだ女子高生のそれで、つまりは物凄く死にたくなかったのである。お父さんとお母さんと妹にも死んでほしくないし。

 でも私の何倍も頭の良い人が死ぬというんだから、死ぬんだろう。

 ……カァーツレー! ツレエわー! 死ぬのツレェわあー! まだ16年しか生きてないのに死ぬのツレェわあー!

 

「……落ち着いたか、大井」

「ひぐっ、えっぐ──グスッ……は、はい」

 

 私が泣いていると、提督が慰めて──エロい意味じゃなくて──くれました。わーい。

 私って妹がいたせいかどっちかっていうと相談するよりされる方だったから、慰めてもらった事とかあんまりないんだよね。

 

「──ふむ。加賀、北上を呼んできてやれ」

「承知しました」

「き、北上さん!? 北上さんが来るの? そうなのね!」

 

 先ほどのメソメソした態度は何処へやら。

 私は直ぐに立ち直って、北上さんが来るのを待った。どれだけ『大井』は北上さんが好きなんだろう……? 少なくとも私は、一度泣いたらちょっとやそっとでは泣き止まないのだけれど。

 やがて加賀さんが、指令通り艦娘を一人連れて戻ってきた。

 

「連れて来ました」

「やっほー。来たよー提督。大井っち来てるって本当──?」

 

 ──こうして、私はついに北上さんと出会ったのだ。

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