ガチャン…
後ろ手でゆっくりと閉めた扉の音がやけに大きく聞こえる。
立ち尽くすリーテンは、寂しさと心細さの様なものでしばらく動けなかった。
フラフラと歩きベットに腰掛け俯いた。
どれくらいそうしていたのだろうか、数時間も経った頃、ふと思い出した。
「盾のお返し、してなかったな…」
慌てて視界の時刻を確認する、午後11時を回ったところだ、急がねば大半のショップが閉まってしまう、慌ててチェストボックスを開きアイテムを整理する。
必要なアイテムを持ったリーテンは急いで部屋を飛び出し
(リズの部屋の前を通過する時は、なぜか忍び足で)
宿を出て目的のショップへ走りメニューウィンドウを確認する。
「た、足りない…」
膝を折ろうとする足を何とか踏ん張り、懸命に考える。
「そうだ、確か二層の東側に…」
慌ててウィンドウを開き、いつもの武具を装備し、各アイテムがあるか確認をする。
「よし」
と呟やいて、転移門広場にダッシュしたリーテンは、青い揺らぎの中へそのまま飛び込み
「転移、ウルバス!」
と叫んだ。勢いよく駆け込んだせいでウルバスの転移門で体勢を崩しつつもなんとか踏みとどまり、東門から勢いよく飛び出す。
「はぁぁぁぁっ!」
現れたモンスターをセオリー無視で蹴散らし、目的の場所まで駆け抜けたリーテンは
周りにモンスターが居ない事を確認してから、ツルハシを握った。
足りない
焦る気持ちを抑えツルハシを振り終えたリーテンは辺りを見渡す………
無い、このエリアには鉱脈ポイントはもうなさそうだった。
辺りを注意深く見ながら、なるべく急いで移動する。
とうとう岩肌が露出したエリアを抜けてしまい、しかたなく今度は街の西側を目指す事にして、ダッシュで移動を開始する。
あぁ、こんな時に鉱脈ポイントを教えてくれる人がいたらなぁっと考えながらウルバスの街中を走り抜けていると、その時リズの声が聞こえた…気がした。
『情報屋って自称する一見怪しい女の人から、ここの鉱脈ポイントの情報買って来たんだ』
そう、あれは出会った日にリズが言っていた、名前はSAO
西門へ向かう足を止めて、最寄りの道具屋を目指す、攻略本を強奪するかのように手に取り
今度は転移門へととって返す、多分アルゴなる人物は最前線にいると思われるので転移門に入り、先日リズが持って帰ってきた攻略本の中身を思い出す。
「転移、ズムフト!」
祈る気持ちで叫んだ声がシステムに認証され転移を開始する。
始めて目にするズムフトの街並みを一瞥もすることなく手元の攻略本のアルゴの
期待通りこの層にいたアルゴから返信が返ってきた。
鉱脈ポイントとこの時間でもあいているNPC鍛冶屋の情報が買いたい旨のメッセージを送る。
両方OKの返信を見て安堵し、最後にズムフトの転移門広場に居るとメッセージを送信すると、数秒後、突然後ろから声が聞こえた。
「こんばんワ、君がメールくれたリーテンさんカナ?」
驚いて振り向くとリーテンよりも少し小柄なプレイヤーが立っていた。
「こ、こんばんは、リーテンです、アルゴさんですか?」
「そうだヨ、おっと、驚かせたみたいでわるかったネ、ん…」
フルフルとかぶりを振り
「い、いえ大丈夫です」と言うと
アルゴはニュフフフと笑ってから
「確か君は半月くらい前からソロでフィールドに出てた子ダロ?依頼は鉱脈ポイントと鍛冶屋だったネ、でも随分と急ぐんだナ、差し支えなければ理由を聞いてもいいカイ?」
と言われた。
冒険をスタートさせた日までほぼ正確に言い当てられ更なる驚きを味わいつつも、依頼の理由を思い出す。
友達にプレゼントをしたくて、とは恥ずかしくて言えず、しばらく考えてから
「私、
しばらくリーテンを見つめていたアルゴはニコッっと笑い
「そうかそうか前線目指してくれてる、しかも女の子のプレイヤーと知り合えて嬉しいヨ」
と、優しい笑顔と声で言った、そして
「どの層でもオイラの知ってる鉱脈を教えるケド、何か条件はあるカナ?」
と、最初と同じ口調で聞いてきた。
層は関係なく、街から最寄りの鉱脈がいいと伝えると
「うーん、下層の最寄りは掘られてる可能性もあるしナァ、うーん、二層の街の東に、走れば10分掛からないくらいの場所に一箇所あるナ」
「あ、そこ多分私がもう掘りました」
そっカと言い腕を組んで考えてこんだアルゴは、リーテンの全身を眺める
「その装備ナラ、この層でも何とかなりそうダナ…走って行くわけにはいかないカラ、往復一時間位かかるかもしれないケド、いいカナ?」
「そ、その時間にあいてる鍛冶屋さんがあるなら構いません!」
「安心しナ、このズムフトには深夜12時から営業開始する鍛冶屋があるヨ」
と言いニヤッと笑う。
「そ、そうなんですか!よかった…」
胸に手を当て安堵していると、またニュフフフと笑ったアルゴは
「今日は特別にオイラが道案内と護衛もするカラ」
と言い作成した三層鉱脈ポイント付きの地図を差し出す。
情報料の500コルだけを支払い街を出ると、そこには太古の森といった雰囲気の景色が広がっていた。
「うわぁ…、すごく綺麗で…素敵な森ですね…」
「綺麗だからッテ足を踏み入れたら、マップ埋めてないと
「アルゴさんは大丈夫なんですか?まだ三層始まって日が浅いと思いますけど?」
そう言うと、心外だと言う顔で
「情報屋のアルゴさまを舐めてもらっちゃ困るヨ」
と仰った。
月夜に染まる森を抜け小川を渡り丘を越え、また森に入ってしばらく歩くと切立った断層の様な地形が目に入る。
「あそこに鉱脈があるはずだヨ」と指差す。
駆け寄っていくと鉱脈ポイントが幾つか存在するようだった。
「ありがとうございます」
と声をかけ、採掘を開始し、数秒で目標個数に到達した。
「他のポイントは掘らないのカ?」
「あ、はい!今日は諦めて、いつかこの層に来たらまた来ます!」
「そっカ、んじゃ戻ろうカ」
帰りも同じ道を通ったハズなのに、枯れ木のお化けのようなモンスターが突如動き出したり大きなクモと遭遇したり、HPが減ると仲間を呼ぶオオカミとしばらく戦闘をこなし、なかなか貴重な体験もできた。
「おつカレ、ちょっと休憩するカイ?」
「大丈夫です」
「じゃ、鍛冶屋へ向かうヨ」
「お願いします」
深夜を過ぎても観光プレイヤーの姿ある大通りを抜けて一本の大きな木の建物に入る、八階まで階段を登りしばらく歩くと通路の奥に店らしきものが見えた。
「あ、あそこですか?」
戸惑いつつアルゴに尋ねると
「ニャハハ、そうダヨ声かけてミナ」
そういう視線の先には、カウンターの向こう側で静かに本を読んでいるNPCがいるだけだった。
「あの、すみません」
声を掛けるとチラッとこちらを見た店主らしき人物は、再度本に目を落とした。
「か、鍛冶屋さんじゃないんじゃないですか?」
振り返りアルゴ見ると、ニヤニヤと笑っている、すると
「それじゃ、依頼はこれまでだナ」
と仰った。
「あぁ、そうダ、さっき渡したマップスクロール、マップタブにドロップしたら自動で更新されるカラやってみナ」
言われた通りマップタブを開きポーチに入れていたスクロールを取り出し、ウィンドウの目の前でスクロールを離すとシュッと音がしスクロールが消える、すると未踏破でグレーアウトしていたエリアに詳細が書き込まれた、未踏破ゆえに少し色褪せたライティングで画かれてはいるが問題はない。しかも鉱脈ポイントのプロットもドロップしてあるようだ。
その作業を見守っていたアルゴは頷くと、軽く手を振りスタスタと去っていった。
アルゴ背中を呆然と見守り、あらためてマップに目を向けると思わず目を見開く。
「半分も埋まってる…」
このフロアを分断する様に山脈か崖があるのだろう、それより南側のこちらのエリアはほぼ詳細地図になっている、何ヶ所かグレーアウトしているが、なんらかの理由で入れない場所なんだろう。
その時、背後でポフッっと小さな音がした。
振り返ると、先ほどまで本を読んでいたNPCが本を閉じ、立ち上がろうとしていた。
「何か用ですか?」
と静かに尋ね、ショップのウィンドウが開く、メニューを確認するとどう見ても鍛冶屋のメニューである。
「あ、あのー」
と声を出しNPC店主を見ると、先ほどまで座っていて見えなかったが、胸より少し低い位置に
《NO鍛冶屋 NO LIFE》と書いてある服を着ていた。
気を取り直して、銑鉄をインゴットにする注文をすると、壁にしか見えない部分が扉のように開き奥へと消える、奥を覗き込むと赤々と燃える炉がある鍛冶場だった。
インゴットを受け取りストレージに格納すると、次々注文を依頼する。
数分後、鍛冶場から戻ったNPC店主から商品を受け取り「ありがとうございます!」と叫びながら急いで転移門を目指す。
八階分の階段を一気に駆け降り、人通りがあるのでスピードを抑え大通りを南に転移門を目指す。
一層に転移したリーテンはスピードを上げて宿屋へと急いだ。
リズの部屋の前に着いた時、時刻は午前ニ時になろうとしていた、しばらく悩んだが装備を解除しノックをする。
情報屋の鼠のアルゴが登場しました。
自身も好きなキャラなのでいつか登場させたいと思っていたものでつい。
主街区には深夜営業のショップが多くあると思います。
しかしうら若き女性のリーテンは深夜に街を歩いた事がなく、昼間は閉まっている為一見して何のショップか分からない、という仮定です。
マップスクロールのくだりは、コーバッツにマップ情報を提供する話しから、スクロールにしても同じ事が出来ると思い入れました。アルゴはスクロール化して手渡す事が多いので。
なんだか段々不安になってきてます。