……それではリンク・スタート!
コンコン…
控えめなノックが聞こえた気がして、作業を中止する。
時刻を確認すると午前ニ時だ…誰だろうこんな時間に…不審に思い返事をするか悩んでいると、扉の向こうから再度控えめなノックが聞こえ、ノック以上に控えめな声が聞こえる。
コンコン…
「お、お邪魔しまーす」
そう聞こえると扉ノブがガチャリと音を立て、ゆっくりと開き出した。
「リ、リーテン⁉︎」
慌てて声を掛けたリズだったが
「うわっっ、ご」
ガチャン!…扉が閉まる。
少し間をあけて「お邪魔します」と言い直し扉が開いた。
なんだかバツの悪そうな顔のリーテンが立っていた。
「ど、どうしたのこんな時間に?ていうか起きてたの?」
「う、うん、リズも起きてたんだね、ビックリさせてごめん」
「私よりリーテンのがビックリしてたみたいだけど?」
「エヘヘ、まさか起きてるとは思わなかったから…」
後ろで腕を組み中に入ったリーテンが部屋を見渡し
「あ、ごめん作業中だった?」
「あー、うん、まぁそんなとこ」
リズの前には
「それよか、何か用だったんじゃないの?」
「あ、うん、ちょっと寝る前に顔でも見てみようかな…?みたいな?」
「あはは、何それ、眠れなかったの?」
「うん、まぁ…」
しばらくモジモジとしていたが
「ううん、違うの。じつは渡したい物があって、ほんとはこっそり置いて行こうと思ってたんだけど…」
と言うと、後ろから布の塊のような何かを出した。
「何?」と言って受け取ると、布にしてはズシリと重く硬い手触りだった。
「開けていい?」
リズが尋ねるとコクンと大きくうなずく。
簡素な布を開くと、そこにはハンマーと鉄の塊があった、なんだろうと思いながら床に鉄の塊を置き、ハンマーを手にする。
「これ…なに…ん、えっ…」
切れ切れの言葉を発しながらハンマーと鉄の塊を交互に見ていたリズの目が段々と大きく見開かれた。
「こ、これ、もしかして!上級スチール・スミスハンマーと上級スチール・アンビル!?」
驚いてくれて苦労した甲斐があったと胸を撫で下ろす。
「ちょ、これ、ど、いや、ちが…」
謎言語を発したリズが、
「何処で手に入れたの?」と聞いた。
「NPC鍛治店で作ってもらった」
「つ、作るって、素材は?」
「さっき掘りに行って」
「こんな時間に?一人で?」
「最初は一人だったけど、三層でアルゴさんにお願いして手伝ってもらった」
「さ、三層ってフィールドに出たの?」
「うん、アルゴさんが護衛と道案内してくれたから、結構楽しかったよ」
「護衛に道案内って、高かったんじゃないの?」
「あ、ううん、今日はなんか特別にって護衛と道案内はタダにしてくれたみたい」
「そっか、よかったね………じゃない!これ作るのに一体いくつ必要だったの?」
「うーん、まぁ結構?」
「結構っていくつ?」
「そこはいいじゃない細かい事はさ」
「ちょっと!リーテンは前線目指して頑張ってるんでしょ?こんなとこで鉱石無駄遣いしたら、フルプレ作るの遅くなっちゃうじゃない!」
リズの言葉の途中から下を向いていたリーテンの体が小刻みに震える、しまった無駄遣いは言い過ぎだったと思い、慌てて
「ご、ごめん無駄遣いは言い過ぎだっ…」
リズの言葉を途中で遮り
「わたし…リズにお礼がしたかったの、どうしても今できる精一杯のお礼がしたかった。リズがギルドに入る前に…たとえ進む道が分かれても、たとえ階層が離れたとしても、目指す場所は同じだし、リズにもっと活躍してほしくて、わたし…わたし…」
俯いて涙を流すリーテンに駆け寄る。
「ごめん…ごめんねリーテンの気持ちも考えずに…最初にこのハンマー見た時すごく嬉しかったよ、手に入れるの大変だったんじゃないかっなって…リーテンの気持ちが嬉しかった。でも…でもね…私もリーテンにもっと活躍して欲しいって思ってるんだ、早く前線に行ける様に、私が防具を作ってあげれたらなって思ってた…」
リズが職人クラスを志したのは、暇潰しや日々の生活費を稼ぐ為ではない…いや、最初はそのような気持ちの成分の方が多かったかもしれない。
しかし第一層が攻略されたと知ったあの日、リズは大きな衝撃を受け、また同時に強く誓ったのだ、私も職人として、危険な
「リズ…」
お互い顔を見合わせ淡く微笑む。
「私はリズに出会ってなかったら、多分まだレベル6にもなってないと思う、だから私の防具作製が遅くなったとか思わないで…リズがいてくれたから、たったの4日でレベルが3つも上がったし…リズと一緒に冒険が出来て、私…すごく楽しかった…」
「私もすごく楽しかった…リーテンの、小さいけど頼もしい背中を見ながら、近い未来にこの子は前線で活躍するプレイヤーになるだろうなって思ったし、そんなリーテンと仲良くなれた事が嬉しかった…きっと私だけじゃなくて、はじまりの街で解放を待ってる人達にとっても、リーテンは大きな希望なんだっなって思ってた…」
照れたようにお互い笑って、リーテンは部屋を見渡した。
「そういえば、何か作業の途中だったんじゃないの?」
「あ!そうだった…しまったなぁ」
「ごめんね、お邪魔しちゃったかな?」
「ううん、お邪魔なんて全然…」
しばらくリーテンを見つめ、笑顔で
「実は私も、リーテンにプレゼントしようと思っててさ」
「えっ」
驚いたリーテンが
「あ、でもリズ、鉱石あんまり持ってないって言ってなかったけ?最近掘りより戦闘優先してくれてたし…」
「あー、まぁそこはそんなに問題じゃなかったんだけど…熟練度…だと思うんだけど…なかなか上手く出来なくてさ」
「もしかして、あの後からずっと鍛治スキル鍛えてたの?」
「そうそう、もうちょっとで上がるはずなんだけどなぁ…」
「ちょっと待っててね」
と言ってからリズは作製作業にはいる。
合計六個の武器を作り終えた時、グッっと拳を握って「よし」と小声で言った。
作製した武器などをストレージに叩き込み、そのままリーテンを見ることもなく
「ちょっと待ってて!」
と部屋を駆け出していった。
10分近くが経った時、息を切らせてリズが戻ってきた。
「お、おかえり、リズ」
「ただいまー、いやー、またせちゃってごめんね!」
「ううん、私は明日何時に起きてもいいから構わないんだけど、リズは大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫!採取とお使いが多いルートでスタート出来たみたいだし、明日は中ボス戦とかないって言ってたし」
そう言ってリズは、リーテンが渡した上級スチール・スミスハンマーを手に取ると、ウィンドウを操作しだした、確か上級スチール・スミスハンマーは、熟練度が150ないと扱えないはずだが…、リズは出会った日に、100にはまだ達してないと言ってたはずだ、出会ってからの四日間で、いや下手をするとこの二日間ほどで熟練度を50以上も鍛えたのだろうか?
そう思いながらリズを見ていると、インゴットをオブジェクト化する。
あの色、あの輝きは三層鍛冶屋で作製を依頼した時に見た物と同じ!しかも複数のインゴットを合わせた複合インゴット…いったいいくつのスチールインゴットを使ったのだろうか…いや、そもそもあのインゴットは大量の鉄インゴットが必要なはずだ、いったいどうやって素材を集めたのだろうか…様々な思考が高速で回転する。
「お願い…」
小さな声でそう呟いた後、目を開きハンマーを振りかぶる。
規則正しく鋼鉄を打つ高く澄んだ音が響き渡り、リーテンはただただ、じっとリズを見ていた。
打つ音が38回を数えた時、ようやくリズは動きを止めた。
見るとインゴットが発光し徐々に形を変形させていく、みるみる細長く変形していったインゴットが一際眩しく輝くと、そこには美しくも力強い、磨きあげられたような輝きをもつ、ロングメイスがあった。
「でき…た…」
リズは、リーテンの装備している武器よりも長いメイスを手に取り
「固有名は…スペランツァ・ルーチェ…間違いなく今まで私が打った中で最高の武器…」
こちらを振り返り
「はい、リーテン、これあげる」
リズが両手で差し出したロングメイスを受け取り、たっぷりと眺めた後、満面の笑みを浮かべたリーテンが
「大切に使うね!ありがとうリズ!」
と言って飛びついて来た、しっかりと受け止めて
「リーテンもスミスセットありがと!」
「ううん、あれは盾とかレベリングのお礼だからいいの!」
しばらくハグした後、リーテンは体を離して武器のプロパティを確認する。
「うっわーなにこれ!こんなに強い武器作れるんだね!」
再度色んな角度からメイスを見てから素振りをしている、その姿を見ていると前線で戦っているリーテンの姿が見えるようで、心配でもあるが嬉しい気持ちになる。
「いい武器が作れて良かった…このスミスセットのお陰だね…」
と、半ば独り言のように呟き、両手で持ったスミスハンマーを見つめる。
素振りをしていたリーテンがこちらを向き
「ううん、リズの腕前が良かったからだよ!」
と言って、また素振りをしようとしたが動きを止めて
「そう言えば、この武器作る鉱石はどうしたの?まさかリズも掘りにいったの?」
と首を傾げる。
「う…」言葉を詰まらせるリズを見てリーテンは不思議そうな顔をしていたが
「まさか、誰かから買ったりしたの!?」
と、詰め寄って来た。
「か、買ってないよ、クエとかで手に入れた装備、インゴットにしたんだ」
「それだけで足りた?この武器作るインゴット、かなりの数使ってそうだったけど…」
再び『う…』と思う。所持していた銑鉄も鉄インゴットも、作製していつか売ろううと思っていたなかなかの武器も全て溶かしインゴットにしてしまった。
それを聞いたらリーテンはどんな顔をするだろうか?あの武器を溶かしてグレードの低い武器にするよう言ってくるだろうか?しかし、あの武器に次ぐような性能の武器をそうやすやすと打てる自信はない。
いつの間にか俯き加減になっていたリズの顔を下から見上げるようにしてリーテンは言った
「この武器溶かして!なんて言わないから、本当の事言って欲しいな…」
一瞬ドキッとしたが、胸を撫で下ろす。
「じゃ、じゃぁ…実は作製して保管してた武器も全部溶かしたんだ…」
「えぇっ!結構いいの出来たって言ってたじゃん!」
「うーん、結構良かったけど、その武器と比べたら全然だよ?その武器が打てて私も嬉しいし…リーテンも無理してこのスミスセット作ってくれたんだし、いいよね…?」
「私は無理なんてしてないけど…うーん…うーん…」
リズとリズの持ったスミスハンマーと自分で持ったロングメイスに何度か視線を送ってから
「私もリズの打ってくれたこの武器で早く戦ってみたいって思ってる…うーんでもなぁぁ」
散々悩んだ挙句、リーテンは結論へと辿り着いたようだ。
「正直、もうこの武器手放すなんて出来ないかも…」
MMOプレイヤーの
「プロパティが高いから、レアリティが高いから、だけじゃなくて、リズが打ってくれたこの武器でこれから冒険が出来るなら、独りでもリズと一緒に戦ってるって気がするから…」
と言った。
その言葉を聞いて、初めてスミスをやってて良かったと、リズは心の底から思った。
私もリーテンと一緒に戦えるんだと思うと、直接的な攻略を早期に諦めてしまった自己嫌悪のような感情が薄れていくのを感じる。
不意に目頭が熱くなり
「ありがとう、リーテン」
と掠れた声で言うと、強く抱きしめてくれた。
しばらくして体を離したリーテンが
「そう言えば、スキル熟練度って100行ってないって言ってなかったっけ?」
「あー、うん…ギルドの話があった日から、一人の時ずっとやってたんだ、それでもなかなか納得の行く武器が出来なくてさ、気が付いたら結構上がってた」
「もう!あんまり無理しないでよね!」
そう言って今度はリーテンが涙ぐみ、リズの体を労わるようにそっと抱きしめる。
短い睡眠を貪って眼を覚ますと、隣に寝ているリーテンを起こさないように気をつけながらベットから出て、テーブルにあるメモ用紙に
《いってきます!リーテンも気をつけて狩りしてね!》
と書いてから部屋を出る。
朝食をとり、随分と軽くなったストレージにPOT類を買い足してから転移門へと向かう。
ギルドクエストを達成すべく初の第三層へと赴くリズであった。
「あれ、街の名前なんだっけ…?」
イメージとしては、原作に出てくるダークエルフのお兄さんの一個下くらいの熟練度です。
原作中、何度かスミスハンマーの話しがあり、細かく設定してあると言うのがどの位なのかわからなかったので、0から25刻みで
カッパー→ブロンズ→上級ブロンズ→アイアン→上級アイアン→スチール→上級スチール
の設定にしました。段々と刻み幅が広がり、最後また幅が狭まるのではないかと想像しました。