『死した都市の地下に棲む最後の末裔』   作:コノエス

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METORO2033とウィザードリィをモチーフにしていますが、
基本的にそれらとは関係のないオリジナル部分多めの小説です


スヴェトレーナ駅の新人探索者

「今日の探索は12番地区を南下して変電所遺跡まで行く」

 

 俺たちが拠点にしている環状線12駅の町の中で2番目に大きい町であるスヴェトレーナ駅の酒場で、ウォトカ酒の杯を傾けながら髭面の大男がテーブルを囲む面々にそう宣言した。

 酒場の中には発掘されてきた100年前の音楽レコードとその再生機から、当時の流行歌が流れそれに耳を傾けながら、大勢の客がそれぞれのテーブルで酒を飲んでいる。

 俺たちもご多分に漏れず、その中の客として探索(ぼうけん)前の恒例のミーティングをしていた。

 リーダーのアンドレイはいつも、探索先を気まぐれに決める。

 行った先でお宝が見つかるかなんて当ては無いに等しいし、行った先が怪物の巣窟になってるとか、汚染されててマスクや防護服付けてても危ないとか、そういう事前調査や情報収集は全く無い。

 行き当たりばったりでリスクの大きい探索に付き合わされる身としては溜まった物じゃ無いが、探索メンバーの中に不満をいう者は居ない。

 ただ一人、俺を除いて。

 

「なんだあ、アリョーシャ? 不満たらたらって顔をしてんなぁ?

 怖いか? まあ12番地区の商店街跡は幽霊(ヴォジャノイ)が出るって噂だからなあ!

 気にすんな、ルーキーのお前はただ黙って俺らに付いてくればいいからよぉ!!」

 

 そういってアンドレイは俺の頭に節くれだったごつい五本の指を伸ばしてぐしゃぐしゃと髪をかき回す。

 俺が心配なのは幽霊でも化け物でも無い。 あんたのそういう剛毅で大雑把で無計画な所なんだ。

 それだけじゃない。 この探索者チームのメンバーが、この酒臭くて無鉄砲なアンドレイなんかを…

 5人の中じゃ一番の古株で、歴戦の「戦士」職だからって、リーダーにして仕事をしている事も不満だ。

 

 例えば俺の正面で「盗賊」職ヴャチェスラフは骨刀を研ぎながら笑っている。

 頭も切れるし、カンも冴えるこの痩身の男は、今は無人の遺跡となった地上の都市、48区画で分けられた広大なコンクリート建築の墓場のあらゆる場所の地図が一式、頭の中に入っている。

 彼が居るから俺たちは地上の探索で迷った事は無いし、町まで無事に帰ってこられる。

 

 その隣で「魔術士」職ヤーコフは「杖」の機関部を分解整備している。

 短く刈り込んだ坊主頭ご自慢の化学エネルギーによって炸薬入りの弾丸を投射する装置は、怪物(ストリゴイ)機械人形(ドモヴォイ)を容易く打ち倒す。

 チームを火力面で支える攻撃の要だ。

 

 「僧侶」職ジノーヴィーは防護服やマスクの点検に怠りが無い。

 怪物との戦いで負傷したり、汚染された空気が肺に入った時はこの優しげな…普通に医者でもやってた方が似合ってるんじゃないかって青年の世話になる。

 ヤーコフと対照的に、治療方面に特化した魔法を専門に扱う彼はチームの生命線だ。

 

 はっきりいって、3人ともアンドレイより頼りになる連中ばかりだ。

 力馬鹿で、前衛でチタン斧を振るう以外に能の無いアンドレイよりよっぽど重要な役割を担っている。

 それなのに、3人が3人とも、アンドレイをリーダーに据えて毎度の探索を行ってる事を承認している。

 いったいどういう経緯や付き合いがあって、そうなってるのか知るよしも無いが、彼らは毎回毎回無計画に近いアンドレイの探索行に付き合わされて、どうして何の不満もなく、笑って杯を交わしていられるのか

 俺には全く理解できない。

 

 

 「大災厄」と呼ばれる大きな戦争によって世界が崩壊してから100年。

 かつて数百万人が暮らした都市に住んでいた人々は汚染された地上から地下鉄の駅に逃れ、町を築いていた。

 

 人々が暮らす環状線の12の駅は4万人から3万人が住んでいると言われているが、その生活は豊かなものとはいえない。

 常に物資は不足しており、町を運営管理している一部の上級幹部以外は困窮している。 食糧、水、電気、あらゆる物が足りていない。

 そんな中、地上に出かけて行ってお宝とも言える旧時代の遺物を探し当ててくる「探索者」は英雄的な職業だ。

 だが、誰もが探索者になれるわけじゃないし、探索者として成功できる訳でも無い。

 まず、汚染された地上に出るための最低限の装備を整えるのに金が要る。

 そして、探索には常に死の危険が付き纏い、命を落とす者は珍しくない。

 汚染された空気を吸うだけで肺は焼け、汚染された雨や雪が皮膚に付着しただけで爛れ、毒が体に回る。

 特に最大の脅威は大災厄後に出現した、変異生物「ストリゴイ」や、人間が作った殺人機械「ドモヴォイ」、そして幽霊とも精霊とも呼ばれる正体不明の現象「ヴォジャノイ」だ。

 怪物どもは人間を襲って餌食にし、機械は戦争中のプログラムにしたがって発見した「敵」である人間を殺し、そして幽霊だか精霊だかは説明不可能な異常現象を起こして人を殺傷したり、発狂させたりする。

 毎日のようにどこかの探索チームが地上に出かけていき、そして帰ってこないのはしょっちゅうだ。

 

 そんな中で、特に死ぬ確率が高いといわれる新米探索者の俺、アリョーシャはチームの中では半人前扱いだった。

 いや、チーム以外の探索者たちにとっても、俺はガキ扱いだ。

 俺がアンドレイの手を跳ね除け、カウンターに行って空になった杯にウォトカ酒を注いでもらおうと立ち上がったとき、目の前に立ちはだかった同業者らしき大男なんかが、いい証拠だ。

 体格のよさから言って、こいつもアンドレイと同じ「戦士」か、でなきゃあ「修道士」職だろう。

 そいつはいやらしい笑みを浮かべながら俺を見下ろした。

 

「ここはガキが来る様な場所じゃねえぜ、おい」

 

 大男がそう言うと、別の探索者の連中が座るテーブルからどっと笑い声が起こった。

 そいつの仲間らしい。 何人かは見た事のある顔だ。 前に、アンドレイと市場で装備品を見繕ってるときにも絡んできた事がある。

「おいアンドレイ、お前さんいつからベビーシッターを始めたんだ?

 こんなひょろっちいガキなんか地上に連れてったら、3分と持たずに死んでしまうぜ?

 それともこいつがお前さんのチームの期待の新人って奴か、ええ?」

 

 大男がアンドレイに向かって嘲るような声をかけ、そして笑う。

 ああ、そういう事か。 元々こいつらはアンドレイと仲が良くなくて、前からちょっかいかけて来てるんだろう。

 そこへ、最近探索者稼業を始めてチームに加わったばかりの俺がいるもんだから、俺を小ばかにする事で間接的にアンドレイをおちょくってるわけだ。

 だが、アンドレイは何を考えてるのか余裕の笑みで、席に座ったまま酒をかっくらっている。

 他の仲間たちも、ヴャチェスラフもヤーコフもジノーヴィーも何故だか笑ったままだ。

 俺はなんとなくムカっ腹が立ってきた。 目の前の大男もそうだが、何も返さないアンドレイにも。

 どうせアンドレイは、こいつらを相手にしないで無視を決め込んでいるんだろう。

 が、なんでお前に絡みたがってるゴロツキどものなんかに、俺がダシにされなきゃならないんだ?

 嫌味も喧嘩も当人同士でやれよ。 そして、俺はガキじゃない。

 探索者だ。

 

「なあ…」

 

 大男が続けてさらに何か言おうとした時、俺はポケットからアンプルと一体化した注射器を取り出して自分の首筋にそれを打ち込んだ。

 強化薬剤が皮下の血管に注入され、血球の中に溶けてゆき、全身を駆け巡る。

 俺の体の中、頭の中のどこかで馬鹿でかい発電用のエンジンかボイラーが駆動を始めたような轟音が鳴ったと同時に、俺は大男の鳩尾に向かって神速の突きを繰り出し、拳の半ばほどまでを相手の体に深くめり込ませていた。

 

 ゴボっという呻き声の様な何かをあげて、大男の体が沈む。

 薬剤によって増幅された筋力と瞬発力は体格差のある相手でも容易にノックアウトさせ、時にはストリゴイの頑丈な頭蓋骨すら素手で砕く威力がある。

 だがその強力すぎる効能ゆえに、薬に耐えられる人間はそうそう居ない。 つまり、一種の才能、適性って奴だ。

 その薬剤に対する適性を持つ一握りの人間だけが、探索者の中でも数少ない「忍者」職になれる。

 歴戦のアンドレイの探索チームが伊達に新人の俺を参入させた訳じゃない。

 彼らのチームに付いて来れ、足手まといにならないだけの充分な実力と素質を認められたからこそ、俺はこのチームに居るんだ。

 

 だが、膝を付いた大男にさらにとどめの一撃を繰り出そうと拳を振り上げた時、俺の腕は節くれだったごつい五本の指に

 掴まれ、そしてピクリとも動かすことが出来なくなった。

 アンドレイだ。

 

「アリョーシャ、その辺にしとけ。 お前が本気でぶん殴ったら自治警察軍(スペツナズ)の世話にならなきゃならん。

 ここは町だ、殺人は有罪だ。 気持ちはわかるが、笑って許してやれ。

 なあに、酒場で殴り合いの喧嘩は酒のつまみよ。 なあそうだろう、皆」

 

 そう言ってアンドレイは首をめぐらせて酒場に居る客みんなに呼びかけるように声をかける。

 その一言で、色めき立っていた客たちは自分らのテーブルについて再び酒を飲み始め、大男の仲間たちは黙って床に倒れ付した

 大男を助け起こし、自分らのテーブルに引き下がって行った。

 ちくしょうめ。

 忍者と同様の肉体強化系の魔法に特化した魔術師である「侍」職や、肉体を機械に置き換えドモヴォイと同等の力を発揮する「君主」職でもないただの無強化の戦士の腕力なのに、強化薬剤の効果時間中の俺を片手で取り押さえる

 アンドレイは、信じられないくらいの馬鹿力だ。

 本当はアンドレイが戦士ってのはウソで、変異した人間であり異能の力を持つ「念術士」職や「獣戦士」職じゃないかって思うときすらある。

 つーか痛いんだからいい加減離せよこの野郎。

 

 だが俺の抗議も聞く耳無く、アンドレイは腕をつかんだまま俺を無理矢理席に座らせた。

 

「大事が無くてよかったな、アリョーシャ」

 

 テーブルに戻らされるなりヤーコフが「杖」を組み立てながら声をかけてきた。

 切れ長の目は涼しげで、時に冷たい。 そして今日は少し厳しめの視線が俺を貫く。

 

「くだらない相手とじゃれあうのも偶になら悪くは無い。 が、やり過ぎても良くない。

 町では窃盗と殺人以外はさほど大した罪にはならないが、人を半殺しにでもすれば、場合によっては遺恨が残る。

 酒の席の上でのことは、聞き流したほうが賢明だ。 後々のためにはな。

 お前はまだ経験が浅いし、無鉄砲な事もあるだろう……だが、町でゴロツキ相手に息巻いてるならともかく、

 我々は探索者だ。 ひとたび地上に出れば」

 

 そう言ってヤーコフは組み立ての完了した杖の安全装置を解除し、トリガーを引く。

 ガチン、という音が機関部から鳴り、それを満足げに聞き終えたヤーコフは次いで弾丸に使用する幾つかの部品や材料をポケットから取り出して並べると、その中から何種類かのパウダー状の物質を指で詰まんで、自身の酒が半分入った杯に入れた。

 その杯を、見ろと指で指し示す。 ヴェチャスラフがおいおい、とちょっと慌てた表情をし、俺がそれを疑問に思う間もなくコップからは突然人間の身長ほどの高さまでの炎が吹き上がった。

 そしてそれは一瞬で小さくなって消える。

 何かに引火したとかそういう理由で燃焼したのではない。 少しの材料とアルコールを何かの反応で、激しい炎に変えさせたのだ。

 それが、ヤーコフの使う魔法(かがく)だ。

 

「……我々を襲撃するのは、怪物や機械だけとは限らん。

 後ろから電磁波や火炎放射によって黒コゲ死体や火達磨にされても、魔法で殺されたのかヴォジャノイが襲ってきたのか

 目撃者がいなければ、証拠も何も残らない。 ゆめゆめ気をつけることだ」

 

 ……既に強化薬剤の効果時間は切れ、俺の体の中からは急激に冷え収まっていく何かの感覚があった。

 ヤーコフの操る旧時代の文明の技術を応用して作られた「魔法」発生装置…高度な技術によって熱や電気や破壊エネルギーを操る携帯型機械は熟練した魔術師が使えば、精緻な操作によって人を殺すも殺さぬも思いのままだ。

 起動に火薬や雷管……現在は一部の駅でしか製造されなくなった貴重品を使うそれは、大抵はストリゴイやドモヴォイに対して使われるが人間を殺傷するのに使われないなんて事は、無い。

 まして、地上は好んでうろつく探索者の他には怪物と機械と幽霊しか居ない、法の存在しない世界だ。

 

「わかったよ……俺がうかつだった。 ごめん」

 

 俺が素直に頭を下げると、アンドレイが即座に俺の頭に指を伸ばしてぐしゃぐしゃと髪をかき回す。

 ヴャチェスラフがクククっと小さく笑うのが聞こえ、そしてジノーヴィーが優しげな笑みを浮かべた。

 

 くそったれ。 俺は結局、このチームでは半人前のガキ扱いかよ。

 どいつもこいつも俺を手のかかる弟か何かのように見やがって。

 

 

 

 




2014 1 14 改訂
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