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ゆっくりと気を練り、呼吸を篭め、裂ぱくの気合いと共に両の足が地面を踏みしめ、体が自然と型を形作る。それに合わせ、型を次々と変えていく、基礎であり、モンクの神髄である三つの型、魔猿、走竜、猛虎の三つだ。走竜の型から正拳突きを繰り出す。
そこには何もないが、クリンセの脳内イメージでは何時もの木人さん(LV1)を殴っているつもりである。
別にやらなくても自分の腕が落ちるとは思っていないが。
ちなみにこの鍛錬、クリンセが拳闘士ギルドに入った際に某セクシーギャル大好きジジイがセクハラ発言をしてチュチュトと共に粛清したのが実は始まりだったりするが、某ハモンの名誉の為、外聞的には「一時のハモンのように腕をなまらせないため」という事にしている。
一通り技を放ち終えると、伸びの運動をして筋肉をほぐして一息いれる。身体の強さはミコッテらしくしなやかなものだ。かなり鍛えているのでヒトの中ではけっこう上位だと自負している。マンダヴィルには負ける気がする。
食後の運動を終えてしまって何をしようか悩む。
急に込み上げてきたので欠伸をして、背伸びをする。ルイズは授業中だし本気で暇なのである。
ふと、遠くからどのかで聞いたことのある声が聞こえた。暇でやることもないし、興味を持って移動すると、そこでは薔薇の杖を持って唸っている胸元オープン仲間、ギーシュが居た。
地面から生えるように金属が沸きだす様子は何度見ても不思議なものだ。違いを上げるとすれば以前見たワルキューレの産み出し方に比べやけに時間が掛かっている。ギーシュの顔も優雅とかではなく必死の形相で汗を滝のように流している。
授業中にも関わらずギーシュがこんなことをしているのはそれゆえだろう。授業中なら学生にこんな様を見られる心配は格段に減るからだ。
ただ、まあクリンセがそれをスルーするわけない。ギーシュがどう思ってるかは別として、あの潔さは好ましいところがある。真っ当に成長すればけっこうな魔法使いに……
「ふんっ!!」
「フオ!?…なんだ、ルイズの猫か…」
「猫じゃなくてミコッテだもんね。何してるの?」
脳内にいい笑顔でナンパしてくるサンなんとかが白い歯をキラリとさせてきたので何もない場所で秘孔拳を繰り出して空気をぶち割り幻影を掻き消す。
それに驚いて振り返ったギーシュはやったのがクリンセと気づくとなんだクリンセかで済ませた。
これを感じたのはワルキューレの槍が簡単にヘシ曲がったときである。
そしてギーシュのクリンセに対する評価が、獣人から猫にランクアップ?していた。驚いたせいで止まってしまったワルキューレになりかけのそれを放棄しクリンセと向き合う。視線が顔から自然に胸部の方へ行く。
キュルケもすごいが色気を撒き散らさないで自然にさらされる谷間と言うのもなかなか乙なものでとギーシュの脳内で謎の老人が囁いてくる。一体何スマンなんだ。
「どこを見てるの?」
「いや、まあ、今やっていたのは君に貫かれないワルキューレの作成さ」
谷間に目が行くのをごまかしつつ。ギーシュが答える。青銅の二つ名の代名詞、ワルキューレを容易くぶち抜かれたのは彼なりにショックだったのだろう。その為青銅の強度を上げる訓練をしていた。
それで合点が行ったのかポーチに手を突っ込んで目的のものを取り出す。
「私に貫かれたくないなら、これくらいの金属にしなよ」
「これは……?」
クリンセが取り出したのは青緑色の、ギーシュのワルキューレを構成する金属に似たインゴットだ。因みにハイクオリティ品である。
ドットメイジとはいえ、土のメイジであるギーシュはそれを受け取って驚いた。見た目に反してとても軽い。そして、青銅とは比べ物にならないほど、強靭だ。
「ハイミスライトっていう合金のインゴットだよ。色が似てるからギーシュのゴーレムこれだと思って殴ったの」
「ルイズの猫、いや、クリンセ、これを参考にしたいのだがもらってもいいだろうか? それと、僕がこんなことしているのは内緒にしてくれ。淑女達に暑苦しい僕は見せられない」
「いいよ」
この金属を参考にワルキューレを、と、思うギーシュの二つ名が霊銀になるのはそう遠くないかもしれない。
あとギーシュがハイミスライトクラスならクリンセでも壊せないと認識しているのは幸か不幸か、ハイミスライトを殴る気で殴ったら脆かったと言うだけでハイミスライトのゴーレムをぶち抜く気でクリンセがワルキューレを殴っていたのだと。
「最後に、我が儘だが僕のワルキューレをもう一度殴ってもらえないか?」
「お安いご用」
生成されるのはワルキューレ、構えをとるクリンセ。ここ最近の訓練成果の確認だ。二度の演舞を行い、猛虎の構えを取る。正拳突きに比べると貫通力が劣るが内部から相手を滅茶苦茶に破壊する『崩拳』を放った。
そんな様子を遠見の魔法で覗いているのはオールドオスマンとコルベールだ。
今二人には中心から大穴を開けたワルキューレとそれを観察するギーシュの姿が写っている。
「やはり武器もなくぶち抜いとるのお」
「ルーンの形は紛れもなく『ガンダールヴ』の物なんですが」
ガンダールヴ、伝説の使い魔。始祖を守る絶対の盾足る、あらゆる武器を使いこなすとされている存在で、二人の悩みの種だ。何せそれを発現させているのはこちらの世界の獣人に分類されてしまうクリンセである。
始祖を信仰し聖地を奪還しようとしている者からすれば噴飯ものだ。
逆にエルフも獣人が伝説の使い魔なんて噴飯ものであったりする。
彼女のルーンは手甲で隠れて見えないが、ドットとはいえメイジのゴーレムを容易くぶち抜くなどルーンの恩恵故だろうと彼らは考えている。これが剣でも持っていれば分かりやすいのだが。手甲を武器と認識しているのだろうと結論した。
実際のところ件のガンダールヴのルーンはクリンセの中で大喧嘩していて発現までは至っていない。まさか手甲着けているとはいえ素の拳の破壊力が今写るひしゃげたワルキューレの姿なんて思っていない。
そういう意味でも、ルイズやクリンセの為にも、国立には報告しない方向で決定していた。下手をすれば討伐隊でも組まれるかもしれないし、その原理を調べるため解剖されるかもしれないからだ。学院の生徒の使い魔に手を出させるつもりは毛頭なかった。
ひとつだけ気がかりなのは、土くれの存在。この学院の宝物庫にある破壊の杖を狙っていると噂されている。
それのせいで変に目立たなければ良いのだが、とどう考えても無理そうな状況にコルベールとオスマンは頭を抱えるのだった。
こういう時はロングビルの下着を確認するに限る、と言わんばかりにロングビルを呼ぶオスマンだった。
崩拳
三の型、猛虎 から繰り出される技。相手を内部から破壊する性質ゆえか正面から殴るのでなく相手側面などの意識の外から殴ると高い威力が出る。ワルキューレは爆散する。
ハイミスライトインゴット
イコンミスライトと呼ばれる特殊金属を混ぜた合金。ミスライトに比べると頑丈でより軽い。
イコンミスライトは錬金できないのか真似て錬金するとミスライトができる。ギーシュのワルキューレに青いのが混じるようになるのはそう遠くない。