夜、昼間の間素振りをしまくって、ギーシュの頑張って作った盾持ちワルキューレにデルフリンガーを叩きつけつつ、「刃が立ってねえ! もうちょっとちゃんと振れ!」「振ってる!」「刃が立ってないのにこちらの盾が拉げそうなんだが!?」なんてことをやって若干疲れたギーシュを尻目に、一階の酒場でジュースを飲んで盛り上がっているクリンセである。ワルドやキュルケにギーシュ、タバサはすこしうっとおしそうにしているものの思い思いの飲み物を飲んでいる。
クリンセとしては酒を飲んでもいいのだが、アルフィノに
「クリンセ、君が何をしようと口を出すつもりは一切ない! 君のやりたいことをやっていいと思ってる! だけれど、だけれど! 酒だけは飲まないでくれ!!」
と言われてるので飲まないようにしている。アイメリクと食事会したときもワインと見せかけてクリンセのだけ同じ色のブドウジュースになってたので周囲に徹底されていて、クリンセ自身も酒の辛味が得意でないのでとくに苦も無く飲まないで過ごしている。
と、ふとルイズが居ないことに気付いた。初めの酒盛りスタートの時は居たはずなのだが。
騒ぐ面々をいなしつつ、二階に登ってクリンセとルイズの相部屋に入ると、そこにルイズはいた。
クリンセの作った新式装備に身を包んで、頭のは外しているようだがベランダに頭を向けて何かを考え込んでいる様であった。
「やっほルイズ、どうしたの? 飲み過ぎた?」
「違うわ」
ルイズがクリンセの方を向くと、ピンクブロンドの髪の毛が優雅に靡いた。その後ろでは白い月がほぼ完全に赤い月を覆い、エオルゼアと似た満月を夜空に輝かせている。
その後光があるせいか、何時も自信ありげにつんとした眉が垂れているせいか、微笑がどこか憂いを帯びさせている印象をクリンセに与えた。
「クリンセ、今日はごめんなさいね、あんなことになって」
「いいや、ちょうどいい練習になったしいいよ」
「おう嬢ちゃん! 相棒に言ってやってくれよ! このままだと地面で削れて刃がなくなっちまうよ」
背に背負ったままのデルフリンガーが抗議してくるのにルイズとクリンセは笑った。
「クリンセ、貴女を巻き込みたくはなかった」
ルイズが話を切り出す。
「ルイズ?」
「貴女は、私に勇気をくれた、見聞の広さをくれた。これだけで、私としては十分なくらいいろいろ貰っているつもりよ、だけど私からはあなたに何も返せていない、私の事情にあなたを巻き込んでいるだけ」
ルイズがベランダから離れて、クリンセに歩み寄る。その様はまるで逢引をする恋人同士か、禁断の恋に嘆く男女のようにさえ見た。
「ばっかだなぁルイズは」
そんな空気をクリンセはぶち壊して大笑いしだした。
「何よ! 私は真面目に―――ッ?」
クリンセがルイズの頭を撫でる。初めて会ったときにもやられた、でも、その時とは違う感覚がルイズには感じられた。
「こんな世界があることを知れた、ギーシュやキュルケみたいな愉快な人に会えたし、口うるさい剣にも会えたし、それもこれもルイズのお蔭だよ? それにね、まあ、私を使い魔として見てるんだとしたらルイズ的にはアレかもしれないけど、友を助けるのに理由なんていらないでしょう?」
「この、馬鹿猫……絶対あなたを元の世界に返す手段を見つけてやるんだから」
「ウン、楽しみにしてるだから、とりあえず下で騒ごうよ! 明日には騒いでる余裕なんてないんだしさ!」
下の喧騒もなんだか大暴れでもしてるかのように騒がしくなっている。
クリンセはルイズを撫でながら、出航条件である、重なり合う月をのんびり眺めた。綺麗な下弦の三日月が空に輝いている。
「ん?」
クリンセの撫でる手がとまってベランダに歩き出す。
月の前に何かが居る。ベランダに乗り出して目を凝らすと月が突然の月食に襲われたわけでは無く、岩のゴーレムがこちらに歩いてきている様だった。しかもでかい。
「どうしたのクリンセ」
「いや、月が突然月食にあったのかと思ったけどでっかいゴーレムが来てるだけだった」
「は?」
ルイズもベランダの手すりに近づいてみると、そこにはでっかい岩のゴーレムがいる。そしてその肩に誰か座っていた。
「まあ、そうね、岩のゴーレムね」
クリンセがあんまりにも平然と答えたせいで、ルイズもなんだそんなことかと言わんばかりに外のゴーレムを眺める。
二人で夜景のゴーレムをのんびりと眺める。うわーおっきいなー、そうねーなどとのんびりと。
「ちょっと、なんでそんな暢気なの!?」
ゴーレムの肩に座っていた人物があまりにものんびりとしている二人にキレた。
「あ、フーケだ……ってフーケ!!?」
ルイズが事態の深刻さに気付いてクリンセを引っぱたく。
「あ、緑の先生だ。逃げてきたの?」
ゴーレムが拳を振りかぶる。
「ええ逃げてきたわよ、親切な人が居てね、わたしみたいな美人はもっと世の中のために役に立たないといけないって言って逃がしてくれたの」
フーケの隣によく見れば黒いマントの男が居る白い仮面だけが不気味に目立っている奴だ。おそらく此奴の仕業だろうとルイズはあたりを付けた。
「で、何の用? 生憎盗むような物はないよ?」
クリンセがルイズを抱きかかえながら冗談を言うと、振りかぶったゴーレムの拳がクリンセの方へ向け飛んできた。
「盗むつもりは無いわよ! お礼を言いに来ただけ!」
バゴン、とベランダが粉砕され、後ろに飛び退いたクリンセと、その右肩に担がれたルイズに破片が降り注ぐ、二人とも装備のお蔭で何ともないようではあった。なのでルイズの頭装備を回収してルイズに渡し、さっさと一階に逃げる。渾身のパンチでベランダとその周辺の壁が壊れただけという事は、この建物を壊すとすればそれなりにフーケでも時間がかかる。
その隙に一階の仲間たちと逃亡してしまえば良いと言う訳だ。
そう思って降りた一階もかなり修羅場だった。
どうやら玄関から傭兵の一団が突入してきたらしく、ギーシュの盾ワルキューレを文字通り盾にして傭兵たちに応戦していた。階段から玄関は丸見えで、クリンセが現れた瞬間矢が大量に飛んできたがそれを左手で受け流して弾き飛ばし、さらに掴んで回避しギーシュ達の元にやってきた。
「ギーシュ、どういう状況?」
「来てくれたかクリンすむぐ?」
勢いよく振り向いたギーシュの顔が何かに突っ込んだ右に目をやると「あっ」と言った顔のクリンセ。下を見ればどこかで見たことある装備をしただれかの両足。
そしてその足が勢いよくギーシュの顎を蹴り飛ばした!
「淑女に何て事するのよ馬鹿!!」
憐れ、ギーシュが突っ込んだのはクリンセに担がれて突き出されたルイズの尻である。元はと言えばクリンセが右肩にルイズを担いだまま来たのが悪い。ギーシュは悪くない。ギーシュの動揺とダメージによりワルキューレの足がガクつくが、何とか持ち直す。天を仰いだギーシュも顎と鼻から血を流しながらクリンセの方を向き直った。
「外からフーケ来てるよ」
「知ってる、さっき玄関からでかいゴーレムの足が見えていた。そして僕はその報告の為だけに蹴られたのか……?」
ギーシュが鼻と顎を押さえながら玄関の方を睨む。この場で二番目に重傷を負ったギーシュである。一番の重傷はあちらで矢が刺さってのた打ち回っている店主であろう。
「ま、まあいい僕たちが囮になる君たちは行きたまえ」
「でもギーシュ」
「僕のワルキューレを舐めないでくれたまえ、というか……クリンセの相手をし続けて負け続けてここまで強くなってると思ってなかったよ……」
ワルドが頷いてクリンセの背中側にあるルイズの顔に目を向ける。
「その通りだ、この場合、半数が目的地に着けば、作戦は成功とされる」
タバサが開いていた本を閉じた。こんな状況でも本を読んでいたタバサにクリンセはある意味感心した。
タバサはクリンセとワルドを指して「桟橋へ」と呟いた。
「どうやって外に?」
裏口に、と言おうとしたワルドを遮って、タバサがぽつりとつぶやいた。
「壁」
そして、拳を振るような動作をすると、クリンセは笑った。なるほど、裏口からだと伏兵の危険もある、壁をぶち抜けば問題ないだろう。
「ワルド、外に出たら道案内よろしくね」
「しっかりとエスコートしよう」
クリンセの言葉にワルドが頷く。
「じゃあみんな、また後で」
「え、ちょっとクリンセってひゃっ!?」
「じゃあまたね、『ゼロのルイズ』」
すこし戸惑うルイズの尻を撫でてルイズがビクリとするのを笑いながら、キュルケが挑発するようにそう言った。だれも死ぬつもりなどない、そしてクリンセはまた会えると信じている。ならば私自身が信じなくてどうするのか、とルイズは気を張った。
「一発、一発だけ援護するわ」
クリンセに抱えられたまま、ルイズが杖を抜く。
「じゃあ行くよ!!」
キュルケが大きく火の魔法を放つのを目くらましに、隣の壁をクリンセの蹴りが大きくぶち抜いた。外にいた傭兵もろとも弾き飛ばして大穴を開ける。それと同時に、射線が通った玄関の先に向けルイズが『ロック』の魔法を放った。玄関外に丸いクレーターができるような爆発を背に、走り出す。外にいた追撃の弓もタバサの風魔法によって防がれる。ワルドが先頭を走り、クリンセがルイズを担いだまま走る。ルイズは後方の警戒も兼ねて担がれっぱなしである。
「桟橋はこっちだ」
月に照らされながら、二つの影がラ・ロシェールの街を疾走した。
クリンセ
お姫様抱っこをすればいい物を米俵でも担ぐかのようにルイズを担ぐ