クリンセ達が壁をぶち破って出て行ったのを見送った三人は、空いた壁の穴のでかさに一瞬無言になり、ギーシュが錬金を行って壁を埋めた。
「クリンセの拳の威力忘れていたわ……」
「僕のワルキューレが花が咲いたみたいな状態にされたのを忘れていたよ」
「意味不明」
三者三様の言葉を残しつつ、気を取り直す。
「それじゃあギーシュ、お手並み拝見と行こうかしら? トリステインの貴族が口だけじゃないところを見せて?」
そう言いつつ化粧を開始するキュルケにギーシュがため息をつく。
「わかった、ただ今守らせてるワルユーレの代わりを用意させてくれ」
ギーシュが薔薇の杖を振ると、新たに青銅の戦乙女が生成される。手に持つ槍は青色に輝いている。対クリンセ戦法でダメージディーラーを担当する槍ワルキューレだ。
それが生成されると近くの下に誰もいない岩のテーブルを破壊して新たな盾として盾ワルキューレとギーシュ達の間に置かれる。クリンセとの戦闘で強度の向上したワルキューレには矢も刺さらず、露骨に傭兵たちが動揺している。
ギーシュが準備が終わって後ろを見ると、キュルケが化粧を終えようとしている所で、ため息をついた。
「だって演劇よ?」
キュルケがにやりと笑う。ギーシュもつられてにやりと笑った。
「それなら、僕のワルキューレと一緒に踊ってもらおうか」
キュルケが杖を持って立ち上がる。ギーシュは槍を持ったワルキューレを崩し、代わりに左手に盾を持っているだけだった盾ワルキューレの右手にミスライトの青色の剣を装備させた。
キュルケに飛来した矢をワルキューレの盾が地面にたたき落とす。
「さあ、楽しいダンスの時間よ!!」
キュルケが火の魔法を放つ。クリンセから受け取った指輪の効果でとんでもない火力が玄関に向けて放たれる。あまりの熱量に突入しようとしていた傭兵たちの鎧が溶け、燃え上がり、のた打ち回った。
キュルケに外から矢をつがえようとするところへ大きな盾が飛来した。地面に突き刺さり土煙を上げる。それは青いミスライト製の盾、ギーシュがクリンセから聞いたシールドロブを聞いた限りで真似たものだ。どうやって手元に戻すかわからないので盾はその場でギーシュが再生成するか拾うしかないのだが。
盾を投げたワルキューレが剣を振り回しながら一直線に盾に向け突っ込んでくる。傭兵たちの意識は一瞬でキュルケ達から外れワルキューレにくぎ付けになった。飛来する鋼鉄の矢じりがワルキューレに時折刺さるが、剣で切り払い大振りで振り回し、大暴れである。弓兵もワルキューレの相手をするため、自分の仲間たちを焼く炎によってその位置を晒してしまっている。そして盾を拾いなおすと、突如、盾をギーシュ側に向けた。
そこへ、キュルケのファイアー・ボールが飛来する。そしてそれにタバサがウィンド・カッターで切れ目を入れた。圧縮された炎が辺りにまき散らされ、火力を増加させるようにタバサの風魔法が露出した弓兵たちを火の海に沈めた。
ワルキューレは青銅部分がちょっと溶けたがミスライト部分を盾として利用したためほぼ無傷だ。そのまま宿の中にワルキューレが戻っていく。
「この『微熱』のキュルケと一同、謹んでお相手つかまつりますわ」
室内のキュルケの前に、まさに騎士と言った風にワルキューレがしゃがみ、キュルケを引き立てる。
ポーズをとってから再び火をまき散らし、それをタバサが風に乗せて威力と範囲を向上させる。二人を狙おうにも前には高い強度を誇るワルキューレがおり、突入してろくに距離を詰めることさえできない。
はっきり言って、傭兵達は、詰みといった状況だった。メイジ三人相手の連携に、完全に場を支配されていた。
ならば、その場をかき乱すのもまた、メイジだ。
「おっほっほっほっほ!! ってキャッ!? ギーシュなにを!?」
キュルケが出入り口付近で火を放っていると、突然盾ワルキューレが室内に戻ってきてキュルケを突き飛ばした。それと同時に出入り口が爆散した。
文字通り爆散した。残されたのはゴーレムの巨大な腕と、下半身を挟まれ破損した盾ワルキューレだけだ。
「くっ」
ギーシュはワルキューレの下半身をあえて剣で切断して放棄し、新たな下半身を生成する。
「あちゃあ、忘れてたわ。岩肌お姉さんがいたんだっけ、ありがとギーシュ」
キュルケが右手をこつんと頭に当てた。
「調子に乗るんじゃないよ! 貴族どもがッ! まとめて潰してやる!!」
フーケさん、とても怒っている。それはもう目がつりあがって怒鳴り散らす程度には。
ただ、三人は思いのほか冷静だった。なぜかって、今しがたゴーレムが作った穴よりクリンセが蹴りでぶち抜いた壁の穴の方がでかいからである。三人の中で一つの単語が浮かんだ。
(((クリンセの相手をするよりマシ)))
ワルキューレが突撃し、致命的なスタンプ攻撃は回避し、薙ぎ払いなどは盾で防ぐなどしているが、大きさの差があまりにもひどい。ミスライトの盾はまだまだ平気そうだが、持ち手であるワルキューレの腕が攻撃を防ぐたびにひしゃげてギーシュが再生に精神力を消費する。杖を振り、こぼれた花びらがワルキューレに張り付いて破損を修復する。
傭兵たちはもうその様子を眺めていることしかできない。
タバサが何か思いついたかのようにギーシュの袖を引っ張る。割とそれどころじゃないギーシュはフーケのゴーレムを見っぱなしである。
「なんだね? いま忙しいんだが……」
「ワルキューレ」
「何がだい?」
「ワルキューレ、盾」
タバサが何かを振るような動作をしている。
「盾を投げろと言うのかい?」
タバサが頷いた。
キュルケの方を見れば、それに従えと言わんばかりに頷く。盾を失えばワルキューレはゴーレムの攻撃に耐えられない。だが、やるしかない。
「ええい! どうなっても知らないぞ!!」
ワルキューレが距離を取って盾を力の限り投げた。盾はフリスビーのように飛翔する。それをタバサが唱えた風の魔法が後押しして加速させる。狙いはどう見ても肩に居るフーケだ。
しかし、加速のための距離故にそれはあまりにも簡単に察することができた。ゴーレムで迎撃もできる、フーケ自身が回避する余裕もある。
失敗、ギーシュがそう思った瞬間、タバサがギーシュへ向け、呟いた。
「錬金」
目前まで迫っていた青の盾が、突然、液体に変化し、その速度故に空気抵抗に負け四散する。その殆どはゴーレムに降りかかった。立ち込める油の香り、迎撃しようとしたものを直撃させるそのやり方は奇しくも、フーケがクリンセに対してとった戦術に似ていた。しかし、決定的な違いがある。
フーケは何が起きたのか察した。盾を錬金により油に変化させたことを。そして向こうには、火のメイジが居る。これからどうなるかは分かるが、行動を起こすにはあまりにも時間が足りなかった。
「『ファイアー・ボール』」
それは仲間がいるかいないかだ。
キュルケの火球がゴーレムに直撃すると、瞬く間にゴーレムが火に包まれた。あまりの熱量に耐えきれず、ゴーレムが膝をつき崩れ落ちた。その様子を見た傭兵たちは逃げ散っていく。
「勝った、勝ったぞ! 僕たちの勝ちだ!! 父上! 姫殿下!! ギーシュは勝ちましたよ!!」
「さっすがタバサ、私たちの勝ちよー!」
タバサがキュルケに思いっきり抱き着かれている。うっとおしそうだが嫌そうではない。
ワルキューレも役目を終えて崩れ去る。ついでにギーシュも限界なのかそのまま仰向けになった。
轟々と燃えるゴーレムを背に、フーケ立ち上がった。
「よくもあんたたち、あの猫に続いて二度までも私を地に付けたわね……!!!」
怒りの形相と合わせて、その格好はひどいと言ってよかった。ジャンドゥレーヌが見たら悲鳴を上げつつただでも髪をセットしてくれるレベルだ。髪は先の方が焼け焦げ、ローブは炎でボロボロ、顔も煤だらけである。美人が台無しとなっていた。
「あら、おばさん。お年らしい素敵な格好になりましたわね」
キュルケが笑いながらとどめに杖を振るが、魔法が出ない。ちょろりと小さな火がでただけだ。
タバサもワンドを振るが、そよ風が出るだけだ。ギーシュは仰向けである。四人とも精神力を消耗しきったようだった。だが、おばさん呼ばわりされたフーケは拳を握りしめ歩いてくる。
「だれがおばさんですって!? 私はまだ二十三よ!!」
いい感じでパンチがキュルケにヒットした。負けじとキュルケも殴り返す。だが、互いに体力と精神力を消費している故に決定打にならない。クリンセがパンチや蹴りで壁に大穴を開けたりワルキューレを粉砕したりしているのを見ていると忘れがちだが、本来素手での争いなんてこんなもんである。
すぐに取っ組み合いのようなじゃれ合いのような泥仕合になった。ギーシュが突如覚醒し上半身を起こすと、美人二人のキャットファイトをほんのりと顔を紅くしながら眺めた。服が乱れてあられもないかんじになっているのだ。蹴られて出た鼻血が再発した。
タバサはそんな様子に興味を失ったのか再び本を読み始めるのだった。
盾ワルキューレ
盾だけのワルキューレ。防御特化だが、攻撃手段が盾で殴る位しかなく、無視されやすい。
騎士ワルキューレ
盾だけだったワルキューレにしっかりと剣を持たせたもの。片手剣を装備したので敵視を取りやすくなった。盾を投げることもできる。
槍ワルキューレ
DPS。盾ワルキューレとワンセット。騎士ワルキューレを出していると今のギーシュでは操作しきれない。
シールドロブ
実は盾を投げているのではなく盾からエーテルの塊を飛ばしているという噂が。