ゼロのヒカセン   作:MKeepr

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三話

 ヴァリエール公爵家三女、ルイズは朝に弱い。

 朝食など、起きて身支度を整えて食堂に至るころには食べる時間が無いに等しい状態なうえ機嫌も非常に悪い。

 機嫌が悪い原因としては、ヴァリエール家的にも腐れ縁と言ってよいツェルプストーの微熱が絡んできていることと、その豊満な双丘と自身の平原を比べてしまうことにある。自分で頑張って起きるからまだ機嫌もマシだ。

 が、今回は悪い条件が重なり過ぎた。爆発のせいで体は疲労し、使い魔の寝かせたベッドに寄りかかる形で眠ったせいで腰が痛い。寝間着に着替えずプリッツスカートにブラウス、外套の学生スタイルで寝てしまったせいで服も皺だらけ。

 さらに窓が砕ける音で飛び起きて、前を見れば、

 獣人が自身の連れていた鳥に頭を銜えられてまるで湿ったタオルかなにかのように振り回されているのを目撃すればただでさえよろしくない機嫌がどうなるかは火を見るより、いや形容詞を使うべきではない。

 

「ちょっ、メーメー、餌出すから! シルキスあげるからやめて!!」

 

 契約以前まで何を言ってるかわからなかった獣人の言葉がわかることなんてルイズの頭からは吹き飛んでいる。

 保健室で頭を抱えて考えていた、―――こちらは頭を鳥に銜えられて振り回され、首の負担がヤバそうなのに笑っている獣人についてのことも吹き飛んでいる。

 ついでに初めに在った伝聞による獣人の悪いイメージやら緊張感やらもすべて消し飛んだ。

 

「そこの二匹!! 座りなさい!!」

 

 鳥がビクリ、と振り回すのをやめ、銜えていた獣人を離す。

 ポトリ、と床に落ちた獣人が頭を掻きながら笑顔で照れる。

 

「昨日からなんなのもう全く!! 神聖さも美しさもかけらもないわよ!! 昨日ちょっと美しいかななんて思った私が馬鹿みたいじゃないの!! そもそもそこの鳥! 施設を壊すな出入り口から入りなさい!!」

 

「あ、鳥じゃなくてメーメーって呼んであげて」

 

「あ、はいはい、メーメーね。ちょっと変わった名前じゃない……じゃない!!」

 

 ガシリ、と頭を掴まれるクリンセと、掴んで口を睨むルイズ。

 昨日のアルフィノっぽいというイメージは既に消し飛んだ。アルフィノはこんなにアグレッシブじゃない。

 

「私はあなたの名前すら知らないの、わかる? あ、名乗らせるのは失礼ね、私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、トリステイン王家に連なる公爵家ヴァリエールの三女よ。はい、あなたの番」

 

 その圧力は有無を言わせぬ物だ。答えねば死ぬ、数々の命の危機で培った直感がクリンセに警鐘を鳴らした。

 

「ク、クリンセ・マム。グリダニア育ちのムーンキーパーで冒険者やってます」

 

「クリンセ、ね。ありがとう。……ところで獣人が冒険者って? どういうことなの?」

 

 少し時間が流れて怒りが静まってきた。掴んでいたクリンセの頭を離し、椅子に座る。怒りの感情はよほどのことが無ければ持続しないのである

 

「いや、私獣人じゃないけど」

 

「耳と尻尾が生えてるし獣人じゃない」

 

 そう言われて耳をぴょこぴょこさせるクリンセ。

 

「いやいや、ミコッテ位見たことあるでしょう? 聞いたことない地域だけどミコッテ位は居るはずだよ」

 

 ルイズが首をかしげる。その反応にクリンセも頭にハテナマークを浮かべていた。

 

「そういえば言ってなかったけれど、貴女は私の使い魔として召喚されたの」

 

 ずれの原因に思い至る物があった。

 聖地を守るエルフ達は、人間のことを蛮族、程度が低いなどと言って蔑む者が多く、人間の世界のことなどサラサラ興味ないだろう。同じことが獣人のこのクリンセでも起きているのでは、とルイズは考えたのだ。

 故に経緯を話すことに決めた。

 

 

 

「なるほど、私転移門潜ったと思ったんだけれど、あれが召喚してOKのサインになってたのね」

 

 つまるところ召喚されたいなら入りましょうという穴を入るとお宝ザックザクの穴と誤認して入ったわけだ。あまりにも情けないので少し耳が倒れて尻尾も萎れた。

 

「まあ、聞いた限り悪いことやる集団じゃないみたいだし、とりあえず使い魔になるよ……」

 

「とりあえずって何よ! とりあえずって! 使い魔という事は私がご主人様なんだからね!?」

 

 こういう場合はなんというべきなのだろうか。

 クリンセは悩んだ。思えば生まれてこのかた、誰かを『主人』として接したことなどない。

 と、再び頭痛のような感覚がやってくる。

 

 見えたのは、目の前の少女だ。モノクロに色あせた記憶の断片。

 する魔法なす魔法全てが爆発という結果に終わる少女の姿。それでも折れず、学び、励みつづけ、大爆発を起こしてクリンセの姿が見えるまでの深い絶望のような哀しみ。

 それを間近で感じた。

 クリンセは間違っていなかった。彼女は、アルフィノに似ていた。高い理想と見識を持ち、努力をしながらも、結果が伴わない。むしろその結果が悪い物をもたらすことさえある。

 それでも折れないその姿に、クリンセは少し胸が熱くなった気がした。

 意識が過去視から帰ってくると、少し心配そうな顔になったルイズがこちらを見ていた。

 

「大丈夫? もうすこし寝たい?」

 

 なんだかんだいって優しいのがルイズである。普段貴族として張り詰めているせいで変になっているが、それが必要でない相手なら優しいツンデレ娘なのであるおそらくきっと。

 言う言葉は自然と口から出てきた。

 

 

「ううん大丈夫。それより、とりあえず何て言ってごめんね、ルイズ。使い魔としては無理かもだけど、せめて友として、ルイズを助けるよ」

 

 脳内で――それでイイッ!。と聞こえた気がしてクリンセは苦笑した。

 

「フン! 使い魔が主と友だなんて、頭が高いのよ!! ……でも、まあ、考えなくもないわ」

 

 すこし顔をそむけながら言うルイズの頬は少し、赤かった。

 

「と、とりあえず、私の部屋に行くわよ!! はいこれ!」

 

 照れ隠しのように脱がされていた足甲と手甲を渡すと、手甲を服の腰のベルト両脇に下げて足甲だけを履いた。

 その足甲は貴族のルイズでさえ見たことのない精緻なつくりをしており、足先、踵や、膝の部分には光沢をもつ青黒い金属がはめられている。

 元は赤い金属を利用したヘルファイアと呼ばれた足具だったのだが、見た目が気に入らないとイコンレザーストライカーというブランドを基に分解改造して見かけを似せた(ミラプリした)物だ。

 意外とファッションにはこだわりがあるので、装備もだいたいは分解改造したものである。

 閑話休題。

 

 保健室の在った本塔を抜けて、女子寮の塔へ入っていく。メーメーが鳴く時間は日の出寸前と決まっているので、まだ日が完全に顔を出していない中、扉をくぐって中に入っていく。

 しばらく歩いてルイズの部屋に入ると、鍵を閉めて着っぱなしだった服を脱ぎ捨てはじめた。

 

「クリンセ、とりあえずそこの棚から代えの服を頂戴」

 

 貴族たる者着替えは使用人に、という事なのだろうかと思いながらハイハイと言わんばかりに棚を開けると、パンツ。無難そうなピンク柄を取り出し渡すと、当たり前と言わんばかりに履いていたのを脱ぎ捨ててそれに履き替えた。さらに代えのブラウスとプリッツスカートを渡すとルイズもそれに合わせて着る。

 スカートやけに短いな? と思ったが自分も人のことを言えないので言わなかった。賢明である。

 

「なんか、藁が敷いてあるけど、メーメーの休む場所でいい?」

 

「ええ、良いわよ」

 

 この藁、元はルイズが使い魔のためにせっせと用意した藁のベッドである。使い魔が獣であることを想定すれば全く持って問題ない。実際メーメーも座って満足げにしている。

 

「あと、クリンセ。その耳なんだけど、どうにかして隠せない?」

 

 獣人はあまり良いイメージがないため、せめて耳だけでも隠せれば周りの混乱を招きにくいだろうというルイズの判断に、クリンセが少し考えてから腰の小さいチェストに手を突っ込んだ。

 取り出したるは帽子。フラットキャップと呼ばれる物で、ゆったりしているため耳をすっぽりと隠せるのだ。

 どこから出したの? とルイズは思ったが、獣人だしそういうこともあるだろうと突っ込まなかった。

 

「とりあえず鳥……メーメーは部屋でゆっくりしててもらうとして、まず朝食を食べてから授業に行かないと」

 

「わーい御飯だー」

 

 バンザーイをするクリンセの双丘が揺れてルイズの額に青筋が浮かぶ。

 

「良いからさっさと行くわよ!!」

 

 女子寮を飛び出して本塔の食堂へ移動した。豪華な感じの食堂の時点で嫌な予感がしたが、やはり貴族以外は食べられないようで、しょうがないのでクリンセは外でミコッテ風山の幸串焼きを食べるのだった。

 




クリンセ・マム
 ヤフェームストライカーシクラスを見た目ホーリーレインボーストライカーシャツに仕立て直したら布が足りなくて胸元が閉まらなくなった。

アルフィノ・ルヴェユール
 イシュガルドに行く際お腹を凍傷になりかけた。よくクリンセに撫でられたり抱き着かれたりしたが、身長差のせいで抱き着かれた際双丘に抱かれて窒息死しかける。

ギーシュ・ド・グラモン
 まだ出てきてないが、クリンセと胸元にシンパシーを持つ。
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