ゼロのヒカセン   作:MKeepr

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 ミコッテは五感の鋭いイメージ有る


四話

 朝食を食べ終えた後、ルイズに連れられてクリンセは学院の庭にやってくる。

 するとルイズが露骨にため息を吐いた。

 

「どうしたのルイズ。星三病?」

 

「星さん病って何よ……私がお星さまにでもなるわけ?」

 

 クリンセとしてはため息ついてて春の中ごろにやってくる謎の憂鬱になる月を取ったものなのだが、通じるわけがない。そもそも暦が違うのである。

 

「えーと、ため息をついてたから」

 

 ため息をつくと獣人は星になるのだろうか。などという意味の分からない疑問が浮かびつつも、なんだかんだ今朝の所業のせいでこの使い魔が適当なのは身にしみて分かったため、ルイズはスルーすることにした。

 

「はぁ―――……、立派な使い魔……」

 

 ルイズの目線の先は、学院の庭で召喚されたばかりの使い魔たちとコミュニケーションを取る学生たちの姿がある。

 クリンセもつられてみるが、どれもエオルゼアでは見たことないモンスターばかりで、改めてここが別の世界であることを思い知らされる。

 くしゃり、と芝生を踏む音が聞こえクリンセが振り向くと、赤い髪に健康的な褐色の肌の少女がゆっくり靡く炎を思わせる足取りでこちらに歩いてきていた。

 驚くことにこの少女。身長がクリンセより高い。クリンセより小さいルイズより大きいのは言わずもがなである。

 足取りに合わせ揺れる胸部の双丘がルイズの内に眠るヴァリエール的な神経を逆なでする。

 クリンセはそれを気にするそぶりもなく、キュルケの足元にいたよくわからない竜の幼生みたいな赤いのをしゃがんで眺め出した。

 その小さい竜みたいなのは尾に火がついており、手足がある。なんとなく頭部には角になりそうな部位もあり、クリンセ的には竜というよりはなんだか某炎の蛮神を可愛らしくしたようにも見えなくもない。高さが低いだけで全長は結構でかい。

 ガキンッ

 手を差し出したら咬まれそうになったが、あえなく手甲に阻まれるのだった。

 やるじゃねえかお前、と言わんばかりに差し出された腕をクリンセは握り返す。

 

「……なにしに来たのよキュルケ」

 

「使い魔と友好を深める日に、あのルイズが召喚に成功した使い魔を見に来ても何らおかしくは無いでしょう?」

 

 下で使い魔同士で謎の友情が成立してる中、上の主たちは険悪な雰囲気である。

 ルイズが今にも飛びかかりそうな、下のネコミミ以上に危険な猫の威嚇に似ている。

 

 

「ねえルイズ、この竜なんて奴?」

 

「あら、竜なんて嬉しいこと言うわね? でも残念。フレイムはサラマンダーよ。ルイズの使い魔さん」

 

「さ、サラマンダー……?」

 

 私の知ってるサラマンダーじゃない。クリンセの常識のサラマンダーはみずっけのあるところに住む電気トードの大型版みたいな奴である。仲間のララフェルが食われた時はとても焦った。

 なぜか愕然とした様子のクリンセを見ながら、思い出したようにキュルケが口を開く。

 

「ところで、獣人を使い魔なんて大丈夫なの? あなた操られたりしてない?」

 

「それは無いわよ。私は変わらず貴族、ヴァリエール家のルイ――」

 

「ちょっと胸が減った? もしかして貴方偽者じゃない?」

 

 その一言でルイズがそのストロベリーブロンドが逆立つ程激昂する。

 

「キュルケ!!」

 

 殴り掛かりそうになるあと一歩の所を貴族の矜持をもってなんとか耐えるルイズ。ケラケラとからかい甲斐のあるライバルの様子を笑うキュルケ。

 

「所で、ルイズあなたの使い魔、女の子にしては結構イイ顔立ちに体してて……」

 

 もう一度下でフレイムと戯れてるであろう獣人を見ようとしたところ、いつの間にかフレイムを残して消えていたクリンセ。

 猫というのは一度感じた危機に近いものを感じると逃げるのである。

 先ほどのルイズの爆発した物を無理やり窯に押し込めたような怒りを感じたクリンセが音もなく逃走したのも無理ないことであった。

 

「どこ行った!! あのバカ猫!!」

 

 いつの間にか消えた自分の使い魔にルイズはキレるのであった。

 

 

 

 目の前の危機から逃走し、この世界の見聞を広めるべくとりあえず庭の中を散策する。

 後で何言われるかわからないが、とりあえずあの状態のルイズの近くにいると死の危険があると本能が警告するのでそれにしたがって逃げたまでだ。

 服装がある程度統一されていることから、てっきりグランドカンパニーの訓練所をイメージしたのだが、良く考えれば使用人に着替えさせてもらうグランドカンパニーというのもサラサラおかしい。

 ルイズ相手に見た過去視の時に出てきた『トリステイン魔法学院』という名前からも、学校なのだろう。それなら庭で使い魔とコミュニケーションを取る主たちの若さも、全員が杖のような物を持っていることもうなづける。

 過去視である程度の情報はクリンセも得ているが、さすがにこの世界の知識に乏しすぎる。

 こういう時に必要な物は、本である。

 イシュガルドに赴いた際もいろいろな歴史書を読んだがあれは良かった。いろいろ修正の必要が出たようだがあれはあれで物語としても歴史書としても宗教書としても完成した物だった。

 つまるところこの世界、トリスティンの歴史を知ることで、マナーも知れるし使い魔としての身の振り方もミコッテとしての生活の仕方もわかるはずだ。

 ルイズとのコミュニケーションでそれをやってもいいのだが、なんだか死ぬ気がする、とクリンセは身震いした。

 そもそもミコッテでさえサンシーカームーンキーパーで区別されているのに、『獣人』というひとまとめのカテゴリにされる時点で、自身がかなり珍しいのは察せる。 

 帽子のお蔭かそれとも回りが使い魔の相手で忙しいのか、一見人のクリンセが気にされる様子はなく、のんびり思案しながら歩いてた。

 ―――コツリ。

 

「ん? なんだこれ」

 

 何かを蹴とばした感覚を頼りに芝生を探って出てきたのは中に紫色の液体が入った小さなビンだ。一瞬小瓶に関する苦い思い出が頭をよぎるが、そんな陰謀を考えてるのはここにはいないと切り捨てる。

 結構高級そうなビンであるし、落とし主も困っている事だろう。

 ちょっと失礼かもしれないが、ビンを開けて匂いをかぐ。特徴的ないい匂いで似た匂いの痕跡もあったため、これなら辿れると誰にも見られていないのに少し得意げに持ち主の元へと歩き出した。ミコッテは鼻もいいのである。

 

「そこの君」

 

 髪がくせ毛のウェーブを描いた金髪の少年が持ち主と匂いで悟り、声をかける。

 少年はほかの友人たちと談笑していたのだがこちらを見て、クリンセの手にある小瓶を見て一瞬動揺したように目を泳がせてから、談笑に戻った。

 

「いやいや、無視しないでよ。このビン。君のでしょう?」

 

「いや、これは僕のじゃない。何のことだね?」

 

「いや、私においで追いかけてきたから君の以外ないと思うんだけど」

 

 

 そう言い返すと、苦々しそうにこちらを見ながらもなんとなくお手玉にし始めたビンには眼もくれない。

 

 しかしこのビンを見た少年の友人たちは、一気にに色めきたった。

 

「その紫の液体! モンモランシーの香水じゃないか!?」

 

「そうかギーシュ! それがお前の物だって言うなら、今付き合ってるのはモンモランシーだな?」

 

 クリンセの超える力が、小さな哀しみを捉えた。振り向くと、今にも泣きそうな顔の少女が居た。

 泣きそうな顔でなければさぞかし可愛らしいであろう栗色の髪の少女がいた。

 ゆっくりとした足取りはどこか幽鬼の様で、何か言おうとした少年、ギーシュの口が開いたまま固まっている。

 

「ギーシュ様、やはり……ミス・モンモランシーと……」

 

「いいや、彼らは誤解をしている。ケティ、僕の心に住んでいるのはき――」

 

 みだけ、という言葉を紡ぐ前にギーシュの頬へケティの渾身の平手が叩き込まれた。

 

「その香水が、貴方の持ち物というのが何よりの証拠ですわ……さようなら!」

 

 ボロボロと泣き出した少女は止まらない涙をぬぐいながら去っていく。

 すると続いて、この騒動が見える少し離れた場所から、金髪の少女が芝生なのにもかかわらずカツカツと音が立っているかのように歩んでくる。

 その目つきは鋭い。

「やっぱり、あの一年生に手を出していたのね……」

 

「香水のモンモランシー、君のその薔薇のような美しい顔を、そんな怒りで歪ませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」

 

 クリンセは善意が裏目に出たなーなどと呑気にしていたが、お手玉にしていた香水のビンを怒り心頭のモンモランシーにひったくられ、ギーシュが香水を頭にかけられたのにはさすがに同情した。

 痴話喧嘩の仲裁はしたことあるが、その時は、『悪い方をクリンセが一発殴る』という物だった。香水は結構においが残るので、後々ギーシュ少年は大変そうだなと思いながら、罵声浴びせて離れていったモンモランシーに続いて離れようとする。

 

「待ちたまえ」

 

「ん?」

 

 ギーシュが椅子をゆっくりと回しこちらを見据える。

 

「君がてきとうに落ちてた香水を渡してくれたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだい?」

 

「いやてきとうじゃなくて君のだし」

 

「百歩譲って僕の物だとしよう。いいかいケモノさん? 僕はそれを知らないと言った。話を合わせるくらいはしてくれてもいいんじゃないか?」

 

 ケモノさん。というのはこの世界で獣人という扱いのクリンセのことを皮肉っているのだとさすがに察しが付く。だがそれゆえにこの言い訳にはクリンセも思わず笑ってしまった。

 

「ぷ……フフフッ、獣が無邪気に拾ってきたものでばれるようじゃ、たぶん今日中にばれてたよ」

 

 ごもっともな物言いに集まっていた周りの人間が笑い、顔が赤くなったギーシュが椅子を倒しそうな勢いで立ち上がった。

 

「……獣人に、貴族への礼を求めるのは間違っているかな?」

 

「私でも貴族への礼儀は心得てるよ。『貴族への礼儀』はね?」

 

「いいだろう。僕自ら、ここでの貴族の礼を教えてやる……」

 

 そう吐き捨てると、周りの友人たちが沸き立つ。それを引きつれるようにして歩き出した。

 

「広場で待っているぞ!!」

 

 そう言い残し、ギーシュは去って行った。

 

 それをうんざりした様子で見ていたクリンセだが、突然、尻尾が股の下をくぐって前側にくるほどの寒気を感じた。

 そちらを見やると眉を吊り上らせたルイズが立っていた。

 

「説明が足りてないかもしれないと思ったけれど、まさか貴族に逆らうなんて思わなかった!!」

 

「大丈夫大丈夫、アルテマウェポンとかみたいなのじゃなければ大丈夫」

 

 怒っているようだが、その実、ルイズはとても心配している。それに対して貴族を相手にするというあまりにもな危機感の無さに、ルイズは緊張しているのが馬鹿らしくなり、逆にクリンセに対して怒りが湧いてきた。

 

「この……馬鹿猫―――!!」

 

 貴族にあるまじきストレートが、クリンセの腹にめり込むのだった。

 




クリンセ
 仲裁の結果ケアルガ三回分の顔面骨折を悪い方が負った。

ルイズ
 右ストレートを叩きこんだら手首をちょっと痛めた。

ギーシュ
 女性の前に獣人の悪いイメージがきててクリンセは射程外。
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