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ルイズとクリンセは、無人の教室でせかせかと掃除をしていた。ルイズは手や足に擦り傷を負っているものの、大事には至っておらず、出血もしていない。クリンセに至っては髪の毛や耳、服に埃がくっついているだけで無傷だ。
超える力で見えた損害の範囲から逃げ出すためとっさに窓でも突き破ろうかと考えたが、それはそれで迷惑になると考えを改め、とっさに構えを取って何かから身を守ったのだ。
結果として起こったのは、爆発。授業は中断となり掃除をする羽目になったわけである。
幸いにもというべきか、爆発はクリンセが想定した破壊力をはるかに下回り範囲は小さく、中心にいたルイズでさえかすり傷程度、他の生徒には怪我一つない。目の前にいたミセスはとてつもなく狼狽していたが。
「掃除おわりっと」
「……ええ、ありがとう」
ようやく掃除を終えて、机に飛び乗って座るクリンセ。
いつもなら行儀が悪いと怒りそうなものだが、どこか意気消沈しているルイズ。
「あ、ルイズ。これ飲みなよ」
「……なにこれ。あと、貴方いつもどこから出してるの?」
ルイズに投げ渡されたのは、謎の緑色の液体で満たされた丸底フラスコである。フラスコの口はコルクのような物でしっかりと閉められている。
ルイズのこぶし大の大きさがあり、クリンセが持っていたにしては持つ場所がない。腰のあたりに小さいポシェットは着いているが、明らかに入る大きさではない。
「えーと、秘密?」
「……まあいいわ」
笑顔でそういうクリンセにため息をつきながら、ルイズがコルクを引きぬくと、ポンと小気味良い音がした。
使い魔とはいっても、種族が違う存在から渡された謎の液体であり、少し飲むのがためらわれる。
「味わって飲まない方が良いよ」
クリンセの謎のアドバイスを聞いて、ルイズは、えい、ままよ! と言わんばかりに一気に飲み込んだ。ごくごくと、舌を経由して喉を通り、胃へとそれが流れ込んでいく。ぷはっと一気飲み後特有の深呼吸をしてルイズが微妙な顔をした。
「……なにこれ、変な味」
「元は塗り薬だったんだけど飲んだ方が効果あるってわかってから作られた飲用塗り薬」
またの名をポーション。
「塗り薬ってな、な、な、なんて物飲ませるの!!」
拳を握り込んだルイズだが、ふと違和感を覚えた。
掃除中に邪魔だった擦り傷の痛みが消えている。ふと、手を見れば、すこし傷ついていた肌は、元の陶磁器のような美しい肌に戻っている。
「あんたこれ……なんかもういいわ……ありがとう」
「?? どういたしまして。所でルイズ、白魔導士なのにあの先生回復魔法使えないの?」
「白魔導士? ミセス・シュヴルーズは土のトライアングルメイジよ?」
トライアングルメイジ? と脳内でクリンセが反芻する。てっきり、土の属性偏愛の白魔導士かと思っていたが違うようだった。
「あんたその顔よくわかってないでしょ……いい? メイジには、ドット、ライン、トライアングル、スクウェアのランクがあるの」
そう言いながら、クリンセの座った脇の机に指を置き、そこから線を引き、三角形を作り四角を作る。
「ア、ラ、ダ、ガ、ジャみたいなものかな?」
ルイズにもなんとなく、クリンセのそれが似たような意味を持っているとわかり、頷く。
「あんたの言う白魔導士? は土の魔法が使えて回復魔法が使えるなら、最低でもラインメイジには該当しそう」
「そのメイジのランクを決める条件がわからないけど……たぶんそんな感じ」
「スペルにどれだけ属性を足せるか、よ。こっちも同じくドット、ライン、トライアングル」
メイジのランクを決めるのは、一つの魔法にどれだけ属性を足せるかである。ルイズは実際やったことがないからわからないが、知識としては知っている。
「じゃあ、ルイズのあれは……」
ルイズの表情が一瞬曇った。それにクリンセは気付いているが、無視する。
「ただの失敗魔法よ。ドットですらない。あなたを召喚できたから、何か変わったかと思ったけれど、何も変わらない。ただ爆発するだけ」
失敗と自己を卑下するルイズにクリンセは椅子から降りて抱き着いた。普段はルイズにとって謎のイライラの原因と化しているそれが、ルイズの顔をやさしく包む。
「ねえ、ルイズ。私の友達の言葉だけど『失敗をただ失敗と終わらせるのはつまらない』って言ってたの」
少しの間抱き着いた状態から、ルイズの肩を持って、少し膝を曲げて視線を合わせる。
縦長の瞳孔の目と普通の目の目線が水平に合う。
「……つまり、どういう事よ」
「例えば、教室でだけど、私の予想だと、あの爆発はもっと大規模に起こる筈だったと思う。だけど、今回程度で済んだ。何か要素があるんだと思う」
「私にどうしろと?」
「物事には、原因と結果だけじゃなくて、過程もある。たとえば私があのブロンズ像をぶち抜いたときだって。原因は私で、ぶち抜いたのが結果だけど、過程として私が拳を突き出したでしょ?」
ルイズの脳内で組みあがるのは、過程と結果だけだ。魔法を使うという過程と爆発という結果。原因がわからない。例えばアンロック。扉の鍵を開ける簡単な癖して凶悪な魔法は、ルイズが使うとドアノブが爆発で消し飛ぶ。それはアンロックはアンロックでも別の何かだ。
「爆発する原因なんてわかるわけないじゃない……わかってたら『ゼロ』なんて呼ばれてないわよ」
「違う違う、爆発なんて割とありふれてるし、ルイズの使ってる呪文が間違ってるんじゃないかって話」
これは、エオルゼア出身のクリンセ故の発想である。
たとえば、白魔導士が魔力を込めて黒魔法を唱えても、かなり変質して使い物にならない謎魔法になる。ほとんどは不発で終わり、魔力が霧散するだけだ。ルイズはそれと似たような状況だと判断した。
「間違えようがないんだけれど」
「まあ、その爆発も、攻撃としてはとんでもなく有用だと思うよ? 私が見えるくらいだから少なくともあのブロンズ像より怖い」
クリンセの『超える力』で前兆が見える攻撃は、クリンセ自身に被害を与えうる程のモノだ。これは危ない、というクリンセの直感と『超える力』が合わさって見えているのである。つまりあの爆発は、最高級の装備で身を固めたクリンセに損害を与えうる爆発なのである。
「ギーシュのワルキューレよりねぇ……説得力がないけれど、まあ、信じてあげるわ」
クリンセが真っ直ぐたって、えっへんと言わんばかりに笑顔を向けてきた。
―――ああ、この使い魔は私を慰めてくれていたのか、と気づいてルイズはすこし恥ずかしくなり、顔をそむけながら、小さく「ありがとう」と言った。
クリンセの耳が聞き取ろうとぴくりとしたが、小さい声は聞こえず、ただ教室に溶けて行った。
部屋に帰ると朝から放置されたメーメーが餌をよこせとクリンセに突進。頭を銜えて振り回しだし、クリンセが笑いながら対応していると、ルイズが杖を構えた。
「ロック!!」
「ぎゃあ!!」「クエッ!!?」
クリンセのアドバイスが、見事に本人への攻撃に利用されることとなった。
アンロック
メイジならだれでも使えるコモン・マジックの一種で扉に掛かった鍵などを開けられる。しっかりとこれに対する防御呪文もあり、金庫は安心。トリステインで使うと校則違反。
ルイズが使うとアンロック(爆発)となり、物理的に扉の鍵が消える。