Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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プロローグ

 

 

 ――記録に曰く。

 

 

 其は遠き未来、世界の終末に、救済を齎すという。

 

 

 其は光り輝く剣を持ちて。其は勇壮なる騎馬を駆る。

 

 

 其は秩序を謳う英霊である。其は善を謳う英霊である。

 

 

 其は目覚めを悟る。其は使命を識る。

 

 

 衆愚よ。兆しを悟れ。兆しを識れ。

 

 

 これなるは『黄金世界(■■■■■■)

 

 

 私が導くは、全て遠き――――

 

 

 +

 

 

[2042/07/01 23:51]

 

 

 ――スタート、確認。

 

 ここは霊子虚構世界、SERIAL(シリアル) PHANTASM(ファンタズム)――略称SE()RA()PH()

 

 閲覧権限を提示してください。

 

 確認しました。

 

 要求された内容を検索します。

 

 

 

『カテゴリー:過去』

 検索完了しました。

 最後の聖杯戦争の記述が存在します。

 ムーンセルの現マスターが決定された戦いです。

 

 ――不明な一時があります。

 権利者によって記述が削除されています。

 この瞬間より、内部の非AIが増員しています。

 

 

 

『カテゴリー:未来』

 記述は存在しません。

 一分後のシミュレート、失敗しました。

 一分後のシミュレート、失敗しました。

 一分後のシミュレート、失敗しました。

 一分後のシミュレート、失敗しました。

 一分後のシミュレート、失敗しました。

 一分後のシミュレート、失敗しました。

 …………

 ……

 …

 

 

 

 ――――無意識に、拳に力が込められる。

 今日という日に唐突に発生した、この尋常ならざる事態の原因が掴めない。

 ごく僅かに分かったこと――分かってしまったことは。

 ……未来が、失われた。

「……っ」

 ムーンセル・オートマトン。

 地球のあらゆる過去、あらゆる現在を観測し、あらゆる未来を導き出す、月に存在する観測装置。

 過去を確定させ、現在を経て、未来を捉えるのが、このムーンセルの機能であり使命。

 その三つが、ひどく不確定になっている。

「――どうだった?」

「……三十。あまりにも、多すぎる」

 過去。既に確定している筈の事象を、ムーンセルで閲覧できない筈がない。

 だがその道理が歪に覆っている。

 合計三十の瞬間に、靄が掛かったように見えなくなっているのだ。

 そして、過去が曖昧になれば、過去があってこそ存在する現在が不確定になり、未来の演算が不可能になる。

 ムーンセル内部は全て洗い出した。結果として、ムーンセル自体の運営はごく通常に行われている。

 原因は地上……その曖昧になっている瞬間瞬間にあるということは決定的だろう。

 過去に干渉し得る、何らかの事件が発生している。

「解析、完了しました。この三十の時代が変質し、実際の歴史と齟齬が発生しているのは間違いないようです」

「お疲れ様、サクラ。……だとすれば」

「やることは一つね。まったく、今更こんなことが起きるなんて思ってもみなかったわ」

 成すべきは、齟齬を失くすこと。

 どうやら此方から、禁忌(タブー)を起こすときが来てしまったらしい。

 観測者の目を持つ者が、その場に赴いて事象に介入する。あってはならないことだ。

 だが、それ以前に過去が見えなければ。未来を存在を確約できなければ、どの道観測者としての役目を成しているとは言えない。

 この事件の先、首謀者がいるならば、未来をどうするつもりなのか。

 未来を消し去るつもりでも、未来を続けるつもりでも、手を出さない訳にはいかない。

 目的が前者ならば、何としてでも止めなければ。

 後者であっても、それを確約せぬことには許容できる事態ではない。

 一秒後を当たり前に迎える――それを観測者は保障しなければならない。

「こんな大掛かりに外に干渉する日が来るなんてね。初めてじゃない?」

「三度目よ。貴女がここに来たきっかけが二度目。あれだって月が干渉した事態だもの」

「あ、そっか。もうあれから――何年だっけ?」

「十年。あの時以来に、助力を頼むことになるな」

 十年前、とある戦いがあった。

 ムーンセルの記録に存在しない、今では月の住民でもほんの数名しか知らない戦い。

 あまりにも無関係な事件に巻き込んでしまった人たちを、それぞれ別の世界に送還したことがある。

 此度は、その全ての世界の未来に関わる異変。

 正直な話、僕たちだけではどうにもならないと思う。

 そして、誰かに助力を仰いだところで解決に至るかさえも分からない。

 原因は不明。解決の糸口は、三十の時代。

「システムの定員は現時点、限界で五十人……聖杯戦争以下か」

「規模を考えれば少なすぎるわね。だからこそ、精鋭を集める必要があるわ」

 以前の戦いに関わった者だけではない。世界中から、屈指の実力者を探し出さなければならない。

「サクラ、システムの起動を。その後はBB、エゴの皆と一緒に魔術師の検索を早急に」

「了解しました。該当英霊の出典は――」

「制限は掛けない。異変の解決に力を貸してくれる意思があれば、その全員が対象だ」

 以前とは比較にならない、悪辣なる異変だということは確信している。

 ならば、此度も負けてしまわないよう、僕たちは最善をもって挑む。

 僕たちと、魔術師たち。そして、切り札たる英霊たち。

 これでどうにも出来ないならば、未来の確証は此処に潰える。

 そんなことは許されない。存続を確約し、果てまでを見守る観測者として、第三者(なにものか)の介入は、第三者(ぼくたち)で阻止しなければ。

「……何人、来てくれるかしら」

 その呟きは、少なからず不安が含まれていた。

 彼女らしくない感情の吐露も、致し方ない状況なのだ。

「分からない……けど、世界の危機だ。きっと、皆力を貸してくれる」

「……そうね」

 上級AI――サクラたちにシステムの準備を任せ、此方も此方の準備を開始する。

「私たちも行った方が良い?」

「いや。まずは僕たちが行く。何もわかっていないうちは、白羽は控えていて」

 問いを投げてきた少女――黄崎(きざき) 白羽(しらは)は、その答えを聞いてやや渋い顔をする。

 彼女はこのムーンセルに住む、僕以外の唯一のマスターだ。

 万が一があった時のために、白羽には待機してもらうべきだろう。

「……そうだよね。念のため、だよね」

「心配ないよ。死なないよう努める。白羽はオペレーターに徹してくれ」

「了解。私で務まるか分からないけど……」

 程なくして、準備が完了する。

 集まった面々を見て、ここに当然の如く集まるだろう二名がいないことに気付く。

「……カレンとヴァイオレットは?」

「それが……月全体を検索しても発見できませんでした。もしかすると……」

「……また、か」

 出てきたのは、焦燥ではなく、苦笑だった。

 いつものことだ。静かにお転婆を発揮し、僕たちが行動をする前に動く。

 そして、この月にてAIと同じく活動するアルタ―エゴの一人――ヴァイオレットが仕方なく補佐につき、苦労に追われる。

 今回もそうなのだろう。一足早く、月の外にまで飛び出したのだ。

「まったく。見つけたら仕置きが必要ね。サクラ、同じ時代に飛ばす必要はないけれど、しっかり観測はしておいてちょうだい」

「はい、分かりました。すぐにでも各時代の把握、検索を開始します」

 早くも数名、この一大事件の解決に名乗りを挙げてくれている。

 彼ら、彼女らも、地上からムーンセルに接続した後、各時代に転送する。

 常識の範囲であれば、それは不可能なことだ。

 だが、それを可能にするシステムが、今の月には存在する。

 

 ――時空記述干渉システム・ローズマリー。

 

 現在、及び未来の記述。いる筈のない僕たちの存在を書き込み、“そこに在った”という結果を生むシステム。

 それがかつて、これを考案した際に想定していた使用法。しかし今回は、それとは異なる方法によって地上に降りる。

 降りる時代は過去。過去の事象に介入するには現代や未来の変動しうる記述に干渉するのでは駄目だ。

 追記すべきは、既に記述の確定した過去。

 危険なことだ。

 過去に介入するだけで発生する矛盾。当然ながらそれを放置していれば、例え小さな影響だろうと未来における大きな誤差となりかねない。

 未来の誤差――バタフライエフェクトはムーンセルの、他の確定した記述の誤りを証明する要因となる。

 連続して入る記述修正でムーンセルに掛かる負荷は凄まじいことになろう。

 矛盾が修正しきれないまでに拡大すれば、どうなるかも分からない。

 そうなる前にそれぞれの時代の問題を解決するには、長居は出来ない。

 一つ解決するのに、一体どれだけ時間が掛かるか想像もつかない。だが、早期解決のための切り札たる、もう一つの切り札がある。

 

 ――英霊装填召喚システム・サクラ・ノート。

 

 これは、十年前、人知れず起こった、たった一夜の戦いを基に作ったシステム。

 ああした、重大な事件が発生した際の抑止力として用意したものだ。

 ローズマリーと同じく時代への記述の追記という形で、月で言う英霊召喚を疑似的に可能とするものだ。

 英霊は非常に強力な切り札となる。

 十年前の事件も、彼らがいなければ解決など叶わなかった。

 そして此度も、力を貸してくれる英霊たちに協力を仰ぐ。

 しかし、このシステムを起用するのは相応のリスクが必要だ。

 英霊がいれば、矛盾は更に加速する。

 加えて、世界各地の魔術師にも助力を依頼する。矛盾の加速というリスクを負ってでも、迅速な解決が優先される。

 

 

「両システム、問題なく活動を確認。サクラ・ノートにより、既に各時代、事件解決に賛同する英霊が召喚されています」

 これら英霊はマスターはいないが……月から問題なく魔力は送られている。

 月のリソースを地上で活動するための魔力に変換するというのも、過去への追記を利用した少々無茶な方法が取られているが、それも仕方ないほどの火急の時なのだ。

 力を貸してくれる魔術師たちにも、それぞれ一騎ずつ英霊の情報を転送した。

 それぞれに波長の合う、相性の良い英霊。かつてのように、その好相性が良い方向に転がるとは限らないが、相性の悪い英霊を召喚させるのはあまりに危険かつ礼に欠ける。

 僕も含め――彼ら、彼女らはマスターとして、過去の時代に転移。その時代に発生した異常を解明し、或いは破壊する危険極まりない時間旅行。

 定員は五十人。その、救援を依頼した魔術師のうち、何人が来てくれるか。

 不明しかない海の航海。

 しかし、どうにかしなければ、未来は確約されない。

 一秒後に世界が滅んでもおかしくない状態。

 それが自然と齎されるものならば、仕方なきこととして見届けるのが観測者たる僕たちの役目。

 だが、何者かによって故意に起こされたことならば、全力をもって阻止する。

 これは、未来を取り戻す戦い。失われた未来を奪還する、大いなる儀式(グランドオーダー)

「ローズマリー、マスターNo.1・紫藤(しどう) 白斗(はくと)を登録。参戦マスターも順次登録、当該の時代へ転送します」

「桜、忘れないように。各時代、最低二人のマスターを向かわせること。一人複数回、別の時代に赴いてもらうことになるかもしれないけれど、その場合はマスターたちの意思を尊重してくれ」

「了解です。紫藤さん、メルトさん……どうか、気を付けて」

「二人とも、何度も言うけど死んじゃダメだよ。地上じゃ多分……(ここ)での勝手は通用しないから」

「分かってるわ。シラハも、頼むわよ。大役ということ、自覚しているわね」

「勿論。精一杯務めるよ」

 さあ、向かおう。

 想定外の形とはいえ、これは僕たちの悲願なのだ。

 いつか、地上に降りてみよう。観測者としてあるまじきことだが、ずっと夢見てきたことだった。

「準備は良いですか、二人とも」

「ああ」

「ええ」

「では……異常発生地点・項目A、追記開始します」

 初めてこの目に焼き付ける景色がそこにある。

 初めて触れる空気がそこにある。

 十年の悲願の果て。そう思えば、心は躍る。だが、此度は旅行に出向く訳ではない。

 何が起きたのかを解き明かし。

 或いはそれを叩き壊し。

 当たり前に訪れる――訪れなければならない一秒後を、一分後を。――明日を、確約する。

「――行こう」

 マスター・紫藤 白斗。

 サーヴァント・メルトリリス。

 ――これは、道程の終わりにして、新たなる道程の始まり。

 僕たちの最後の戦い。その、最初の一ページ。

 

「全工程、クリア――時空干渉、開始」

 

 

 +

 

 

 例えば、それが悪意から来るものであった場合。

 その悪意が何から産まれたものか、よく見極めるように教えられた。

 例えば、それが善意から来るものであった場合。

 より注意すべし。思うに、何より危険なものになりうると教えられた。

 

 静かな夜だった。

 涼風が肌に触れ、髪を撫でていく。

 数キロと離れていない所に住んでいる普通の人々が当たり前に感じるだろうそれは、わたしにとって新鮮なものだった。

 肌に触れるもの、目に映るものすべてが、既知のものでありながら作られたものでない、違うもの。

 そんなセカイに浸りつつも、わたしは術式に魔力を込めていた。

「……」

 補佐として隣に立つ長身のアルターエゴ――ヴァイオレットは、その術式を警戒して見つめている。

 英霊の召喚術式。何がしかの英霊を特定して喚び出すものではない。

 かつて――わたしが生まれるより前にあったらしい、聖杯戦争なる戦いで使われた、取り分け召喚者との縁を重視する術式。

 それをサクラ・ノートを利用して、此処に持ってきたもの。

 この事件において、強力な英霊を召喚するのに、越したことはないかもしれない。

 だけどわたしは、己と波長が合うか、を重く見た。

“――絆っていうのは、一番大事だと思う。友人との絆がなければ、今の僕は無かった”

 そう、生まれて間もない頃に、お父さまに聞かされた。

 間違いはないと思った。お父さまの能力は、絆を――剣に、盾にするのに、特化していたから。

 家族の一人、シラハも言っていた。

“そうだね。私も同じ考えだよ。逢えなくても近くに感じられて、親しいからこそ強く感じる、繋がりそのものだから”

 だからわたしは、これを選んだ。

 自分に一番合った英霊を。自分が一番、固い絆を結べる英霊を。

 何せ、『何が起きているか分からない』。

 いつもの通り独断で行動したわたしは、いつもの通り家族を信じた。

 ゆえに、事件に一足早く踏み入って、その一歩目は運命を開始するところから。

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――」

 紡ぐ言の葉一つ一つが運命の欠片。それらを寄り合わせて、大きなパズルにしていく。

 輝きを強める術式。視界が暫し白く染まる。

 色を取り戻したその瞬間には、そこには英霊がいるのだろう。

 現在、過去、未来。何れかの時代で栄光を謳った英雄が、第二の生を伴って現れているのだろう。

 セイバー。アーチャー。ランサー。ライダー。アサシン。キャスター。バーサーカー。

 サーヴァントの枠に収められて、七つのうち一つの座に腰を据えて、目覚めるのだろう。

 ほんの少し、不安があった。

 もし、生前に悪逆を成した、反英霊が現れたら、と。

 そんな不安は、視界を取り戻す前に拭い去った。

 お母さまも、どちらかと言えばその類だと聞いた。ならば、それもまた縁であり、幸運なことなのだと。

 光輝が極みに達する。刹那。

「――――フン」

 たったそれだけで性質の分かる、短い不満が聞こえてきた。

 殺人鬼のような、召喚そのものが失敗である状況が存在する。

 そうしたモノを、引き当ててしまったのか。

 どうしようかという焦燥に答えるように、光は収束していく。

 ヴァイオレットが、息を呑むのが聞こえた。

 視界に映った白がうっすらと消えていき、そこには――

 

「――まあ、そうだろうね。あまりに下らない。ボクであれば、そうするのは当然だ」

 

 小さき傲岸が服を着て――――否。

 何も纏わぬ小さな傲岸が、立っていた。

 

 

「ふうん。要するに……」

 召喚された英霊は、契約を確認するや否や、状況を問うてきた。

 自身は虚空から取り出した酒器に、同じく取り出した酒瓶の液体を並々注ぎ、分かっている仔細を話し終えるまで一言も喋らず愉しんでいた。

「何もわかっていない訳だ。原因も、犯人も」

「はい」

 言って、答えを待たず、また一口。

 その姿は年齢不相応にも様になっている。

 見たところ、十に届くか届かないかといった風貌ながら、その英霊は只者でない雰囲気を持っていた。

 少なくとも――女性二人の前で尚も全裸でいる少年が只者である筈がないのだが。

「だけど人類史が消失して、未来が不確定になった。思い当たるモノを発見したから、なんの下準備もせず挑んだと」

「はい」

「実に不合理、かつ無謀だ。君も、そこのお姉さんも、おおよそ完璧であるよう人造(つく)られた人形には見えないな」

「――――」

 そんな、さらりと零れ出たような言葉に、わたしよりもヴァイオレットが驚愕した。

「貴方、は……私たちの正体を?」

「それなりに目利きは鋭い自負がありますよ。女神の集合体なんて実に稀有だ。ボクの時代にそんなモノはいなかった。しかし残念、イシュタルなりアルルなり組み込まれていれば、お礼参りが出来たんですが」

 言葉遣いを、未だ不遜さの残る敬語に変えて、眉を下げつつ少年は言った。

 心の底から残念だと思っているように見える。

「で、そっちの君……ボクのマスターたる君は、人間でも人工知能(AI)でもない、極めて異例な存在。どうやったらそんなものが出来るんだか」

 少年は、さも当然と言ったように、わたしの正体をも一瞥で見極めた。

 目利きは鋭いというのは嘘ではないらしい。

 これは、この英霊に備わった宝具なりスキルなりの能力なのだろうか。

「まったく、何もかも、至って茶番だ。ただ……一つ見えないな。ただただ醜悪で、純粋なる歪曲……」

 酒器を置いて、つまらなそうに言う。

 その瞬間、少年は露骨に目の色を変えた。

「――いいよ」

「え?」

「君の召喚を受けた。契約は成立している。令呪もある。何も判っていない君らを導く気はないけれど、この茶番……もしかするかもしれないからね。付いて行くくらいはしてあげるよ」

 椅子から立ち上がり、一秒の後には、少年は古めかしい衣服に身を包んでいた。

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

「カレン、貴女は少し疑いというものを持つべきでは……」

「契約をしてくれたのだから、わたしは信頼します。お父さまも、きっとそうする筈です」

 お父さまとお母さまのように、この少年と信頼し合える関係になれれば良いと思う。

 そのためには、わたしがまず信頼しなければならない。

「そういえば、わたしは貴方をなんと呼べば……」

「ゲートキーパー。真名なんて明かす戦いでもなさそうだし、クラスで呼んでくれて構わないよ。カレン、って言ったね。それで、そっちのお姉さんは?」

「……ヴァイオレットです」

「うん、カレンにヴァイオレット、ね。よろしく」

 ――これが、わたしの、地上での最初の出来事。

 七つのどれにも属さないエクストラクラス・ゲートキーパーのサーヴァントとの出会い。

 そして、人類史を救い、守るための戦いの始まりだった。

 

 

 +

 

 

 ――そして、観測する。

 

 地上における第一のマスター、その誕生を。

 

 

 暗がりだった。

 蝋燭の灯りだけが光源の、数百年ほど前の西洋を思わせる部屋。

「それじゃ、始めますか」

 闇に響くその声は、とてもこれから大それた儀式をするとは思えない。

 呑気な声色。重みを微塵も感じられない様子だ。

 両手に大量の宝石を握り込んでいる部屋の主は、二十に届くかといった少年だった。

 真っ黒のローブと、その下に着こなした紫色を基調とした衣服。

 これだけならば、時代錯誤にやや古い錬金術師。

 異常なのは、衣服に溶け込むように接着された、多数の宝石。

 均整の取れていない、無遠慮な成金を体現したかのような極彩色。

 丁寧に切り揃えられた白髪はやや年齢不相応な子供っぽさを感じさせる。

 しかし、反対に、その顔つきは年老い過ぎているようにも見える。

 絶望と苦心を半世紀以上も煮詰めたような濁った眼はその外見年齢で宿して良いものではない。

 そんな自身の異常などまるで知らないとでも言わんばかりに、続く呑気な声は詠唱を始めた。

「銀とぉ鉄をぉひっとかけらぁ。ぐっつぐっつ煮るよぉ大番頭ぁ。アーテー様のぉ素敵なレェシピィ」

 歌う。歌う。あまりに異質、というよりは儀式という存在に真っ向から喧嘩を売るような、冒涜と享楽の詠唱だった。

閉じよぉ(みぃたせぇ)閉じよぉ(みぃたせぇ)閉じ(みた)閉じ(みた)閉じよぉ(みぃたせぇ)閉じて(みちて)閉じて(みちて)開いて(こぼれて)開くぅ(堕ちるぅ)。閉じた傷口合ぁわせていぃつつぅ」

 例えばそれが、愛情を込めた子守歌であれば、まだ聞くことも出来よう。

 しかし少年から発される声は、定められているだろう音程を一つ二つは外しているようだった。

 聞いた後には不快しか残らない歌をしかし、少年は真顔で歌い続ける。

「僕のかぁらだぁはあなたの下にぃ、僕のこぉころぉはあなたの上にぃ。全部が鎖につぅながぁれてぇ、停まって砕けて蕩けて混ざるぅ」

 枯れた愉快な歌を紡ぐ口は機械のように無感情。

 それでも――声の節々に残っているモノは確かに在る。

「善悪為るはぁ我が身ぃこの身ぃ。遍く織り成すいぃつつぅの魔法ぅ。棺桶開ぁけたら目ぇ覚めぇはひぃとつぅ。ゆぅめときぼぉとそぉれから――地獄ぅ!」

 そうして、出鱈目な詠唱でもって英霊の召喚術式が完成する。

 歌の終わりは、同時に月に関わりのない最初のマスターの誕生だった。

 

「――問おう。貴様が余のマスターか」

 

「そうさ。間違いないよ」

 厳かだが幼さの残る声の問いに、ようやく少年は笑みを浮かべて答える。

 対する、喚ばれた英霊は閉じていた瞼を開き、契約の成された己のマスターを視認する。

「ッ、貴様……!?」

「ん?」

 端整な顔立ちが驚愕に染まる。

 生前何かしらの偉業を成した英霊が、召喚されて最初にこのような表情を浮かべるなどそうそうありえない話だろう。

 そしてそれは、現代に生きる人間と自身を比較した上で矜持に触れる行動である。

 ゆえに、すぐに平静を取り戻す。英霊は驚愕を、一先ず気のせいだと腹に収めた。

「……いや、なんでもない。して。貴様は何を目的に余の眠りを妨げた?」

「簡単な話さ。いや、簡単だけど、簡単じゃない。僕は君に力を貸してほしいんだ。僕だけのための――欲望を満たすための野望に」

 少年の言葉は、まるで人類史の危機など歯牙にもかけていないかのようだった。

「そうか。では、余をキャスターなどで喚んだのも、その野望とやらのためか?」

「勿論。でなければ、アーチャーかライダーか……もしくはエクストラクラスで喚んでいるだろう?」

「そうさな。何か理由でもなければ、余をキャスターなどと、正気とは思えん。分かるか、余のステータスは」

「うん。筋力から幸運まで、揃ってEランクだ。最弱のサーヴァントに名を連ねるかもね」

「なっ――ええい! 余を馬鹿にしているのか!」

「してないよ――キャスターとしての君が必要なんだ。小さなお姫様」

「やはり馬鹿にしているのだろう! 余の真名を知った上でその呼び名は愚弄にも程があるぞ!」

 声を荒げる英霊は――紛れもなく、少女であった。

 黄金と白銀で彩られた白いドレスを着こなす姿は、確かにその真名を知らぬ者が見れば姫君と思うだろう。

 満遍なく刺繍を施された緋色のマントは身の丈と比べてあまりに大きく、似合うか否かよりもその威厳を魅せることを重視したような尊大さが見て取れる。

 金の長髪も相まって、その少女には貴族、王族といった表現こそが相応しい。

「まったく……まあ良い。なんの知識もなくキャスターで喚んだのではないなら、それなりに知識あるマスターと見込むべきか」

「知識には少しばかり自信があるよ。それなりに永きを生きてるからね」

「ほう?」

 少女――キャスターの怪訝そうな表情を意に介さず、少年は背を向ける。

「さて。じゃあ、行こうか。セカイを救う冒険だ」

「なんの話やらよく分からぬが……一つ、貴様が世界を救おうなぞ微塵も思ってないことは理解できるな」

「アッハハハ! そんなことはないよ。僕だって、世界は大切だ」

 愉快な、しかし薄黒く濁った少年と。

 荘厳な、それでいて華麗なる少女。

 救済の旅路において、異質なる主従は、ここに結成された。

「どうだか……。そういえば、マスター。貴様、名は」

 疑念を隠さず、少年の後に続くキャスターは、失念していたと話題を変える。

 己にキャスターの適性があると見破り、召喚せしめたとあらば、このマスターが我が真名を知っているのは当然だ。

 しかし、未だもってキャスターは少年の名を知らない。

 少年は、そうだったと立ち止まり、もう一度キャスターの方へ向き直る。

「僕は、カリオストロ」

 キャスターは、なるほど、と先程の驚愕の理由を納得した。

 魔術師(キャスター)として召喚されたからか、その少年の得意とする魔術体系を直感的に把握していたらしい。

 何処か、その魔術の大家に生まれたのだろう。良き名を貰ったものだ、とどうでも良い考えを持った。

「カリオストロ・エルトナム・アトラシア。アトラスより失われた至聖の蔵書。よろしく、キャスター?」

 こうして、また一組、戦いに参じる。

 三十の時代を巡る、歪なる戦いに。

 

 

 

 

 

 

 第一特異点 栄光の騎士王

 AD.0517 絢爛虚像円卓 キャメロット

 人理定礎値:C




俺だよ(挨拶)

どうも皆様、お久しぶりです。けっぺんです。
CCC編完結してはや九ヶ月、ようやくGO編始めていきます。
色々意味分からん出だしですが、いつものことです。伏線やら謎はどうせどっかで回収するんでしょう(他人事)

さて、例の嘘プロローグからかなり変更を加えた本作ですが、何よりなものとして特異点が三十個に増えました。
ご安心ください。ハクとメルトが挑む特異点は、変わらず八個となります。
まあ、設定上のものだと思ってください。
そして、早速オリキャラとして登場のカリオストロとキャスター。
なんかもう早くも怪しげな雰囲気ではありますが、彼らについては追々。

あ、今回は書き溜めなんてないので普通に更新遅いです。予めごめんなさい。
またまた長くなりますが、お付き合いいただける方はどうぞよろしくお願いします。
感想、評価等はいつでもお待ちしています。

……で、FGOでアルターエゴ及びBBちゃんの実装はまだですかね。
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