Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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Q.何してた?
A.ポケモンやってた。

更新遅れてすみません。明けましておめでとうございます。
今年も何卒よろしくお願いします。


第四節『月底のポイント・ネモ』-1

 

 

「ふぅん……ジェームズ・モリアーティね」

「やっぱり間違いなさそうね。ソイツがこの街にいる大きな力を持ったサーヴァントの一人なのは」

 オフィスで待機していた皆も、有力な情報を見つけていた。

 多くのサイトが検閲されており、断片的、ないし偏見を含んだ内容しか載っていないものの、一つだけ、それがされていない場所があった。

 どうもこの街の住民たちが利用する、電子掲示板らしい。

 そこの書き込みにも、ジェームズ・モリアーティの名前は多く見受けられた。

 匿名で自由な書き込みがされている分、その内容は新聞よりも踏み込まれている。

 とはいえやはりジェームズ・モリアーティは、その名に違わぬ実力者のようだ。

 名前は周知されていれど、それ以上の情報は核心に迫るものではない。

 街で起きた事件は彼が関与している。この街で悪と呼ばれている者の裏には彼がスポンサーとしてついている。

 そんな話題は数多いものの、何処までが真実で何処までが虚偽かもわからない。

 そして、彼は潜んでいる場所もまた不明らしい。名前だけは出てくるが、表舞台に姿を現すことはない――彼に接触するのは、まさに霞を掴むが如し、といえる。

 では、その他はどうか。単語を絞って調べてみれば、新聞の内容を補足するように情報が集まってくる。

 特に、黒魔女。

 彼女に関しては、目撃例がそれなりに多い。

 そのほとんどがAIたちが夜、何らかの理由で外に出てあの獣たちに襲われた際、救ってくれたという話だ。

 見た目は十代半ばといったところの少女。そして彼女が関わる話には必ずと言っていいほど、『女神』なる存在が見受けられる。

 どうやら黒魔女の主――黒魔女がサーヴァントだとしたら、マスターだろうか――であり、彼女に指示を出せる者のようだ。

 黒魔女がその名の通り黒である一方で、女神は白。黒魔女に対して白魔女と呼称している書き込みもある。

「……共に行動しているサーヴァントかしらね。あの獣と敵対しているって点だけなら、利害は一致しているけど」

「味方と判断するにはやや軽率でしょう。あの獣は夜間における、この街共通の脅威であるように思えます」

 情報を得る上で誰か、この街に詳しい者に接触したいのは山々だが、それで敵と出会ってしまうのは避けたい。

 である以上、少なくとも今の段階で味方、と判断出来る者――

「……じゃあ、やっぱりこいつらか?」

「そうね。さっきのセイバーの言葉を信用するなら、だけど」

 ――それは、ここに書き込みしている者たちにとっての希望の象徴であるように思えた。

 『剣』と『盾』――そう呼称されている二人。

 獣の襲撃において黒魔女が助けてくれるかは、あくまで女神のご機嫌次第らしい。

 だが、そうした気分ではなく、間に合いさえすればAIが逃げるまでの時間稼ぎは約束してくれる英雄が、二人いる。

 剣――先程助けてくれたローブの人物は、どうやらそう呼ばれている。

 そして、盾。二人が同時に現れるということはないが、書き込みを信じるならば敵同士ではない、とのこと。

 どのような目的があるにしろ、間違いないのはこの都市の民の味方、ということだ。

「仲間がいるという点が気になりますが、初手としてはベターですね。出会うのにも苦労はしないでしょうし」

 獣と交戦していれば、二人のうちどちらかには遭遇できる可能性が高い。

 問題は先程のように、戦闘の隙を狙った外部からの不意打ちの可能性だが――どの道危険を冒さなければ解決など出来まい。

「……じゃあ、ひとまずこの、『剣』および『盾』との接触を当面の目標としよう。首尾よく味方となってくれれば良し。最低でも敵対はせず不可侵の取り決めはしたいところだね」

「となると、今から早速行くのかしら。どうせこの時間帯くらいしか期待は出来ないわよ」

 基本的に夜間しかこの二人の動く危険が無いとなると、それ以外の時間に接触を試みても上手くはいくまい。

 出会うならば戦闘時、というのが可能性としては高かろうが、今から戦闘を行うというのは避けたい。

 初戦闘を終え、僅かながら此方も消耗している。それにまだこの辺りの地理の把握等も行っていない。

 それらが安全に行える時間帯があるならば、一旦それを挟んだ方が良いだろう。

 メルトの問いに、首を横に振る。今宵はもう動かない。

「動くのは次の夜から。昼間には少しでも情報を集めよう。聞いた話では危険はないらしいけど、出来るだけマスターは複数で行動を心がけて、定期的な連絡を行うことにしようと思う」

「戦闘向きのサーヴァントはなるべく均等に分けたいところね。私のキャスターやラニのアバ……ジャックなんかは単独でのサーヴァント戦は厳しいわよ」

 凛の言う通り、直接的な戦闘を不得手とするサーヴァントがこの中にはいる。

 凛が召喚した孔明。彼は軍師だ。その本領は味方の戦闘を有利に進めるための指揮にある。

 そしてラニのジャック――どうやらクラス名で呼ばれることはあまり好まないらしい――彼女もまた、戦闘向きのサーヴァントではない。

 僕が知っているジャックはアサシンクラスの彼女たちだが、それと類似した能力を持っているとすれば確かに、直接の戦闘よりは搦め手の方が得意だろう。

 そしてシンジが契約しているアマデウス。彼の音楽魔術もまた戦うためのものではない。

 神髄を発揮すれば大英雄たるヘクトールの槍の勢いさえ殺すほどだが、やはりそれは味方のサポートでこそ活きるのだろう。

 後は清姫――京の特異点の決戦で見せたあの宝具は規格外ランクに位置するものだが、通常時の彼女のステータスはごく低い。

 まあ彼女に限ってはメルトと契約している以上、必然的に僕たちと行動することになるだろうが。

 彼らにはいざという時のため、戦闘向きのサーヴァントが共にいた方が良い。

 それを考慮し、不測の事態に対応できるチームを組む必要があるだろう。

 

 

 月の裏側に昼間という概念はない。

 仮初の太陽も現れることなく、しかし街中の消えていた明かりが灯ることで昼間に匹敵するほどの明るさを齎している。

 これが、この街にとっての昼なのだろう。

 AIたちが活動を始め、危険が感じられないほどの喧噪が再び街を包む。

 そんな中で――妙な疲れを覚えながらも、僕はそれまでいた建物から出てきた。

 安全だという時間を迎え、一旦のチームを組んで外に出たのが二時間ほど前。

 それだけの時間が経過しながらも、たった一つのビルの、一フロアがあまりにも安全だと分かったという収穫しかないことをレオたちに伝えるのは、随分と勇気が必要だった。

「……まあ、想定できなくもなかった事態ではありますか」

「まさか初日でとは思わなかったけどね……」

「一応聞くけれど、緊張感持ってる?」

「……面目次第もない」

 レオの苦笑、凛とミコのやや冷たい視線は当然のものだった。

 初日だからこそ、最初の定期連絡では得られる情報に期待をかけるものだろう。

 その結果がこの始末であれば、呆れるのが当たり前だ。

「ほどほどにお願いしますよ。待機している僕たちにとっては外の情報は貴方たち頼りなんですから」

 遠まわしに釘を刺され、レオが通信を切る。

 幸先が悪い、という訳ではないのだが、やはり女性というものを侮っていたというほかない。

「デオン、それだけでいいの?」

「ええ……私はあくまで騎士。いざという時動きにくくては本来の役目が果たせませんから」

 英霊とは英雄の現身。当然ながら、その容姿、服装は生前の国や時代のもの。

 そしてそれではこの近現代を模した都市には相応しくない――そう言い出したのはマリーだった。

 そこにBBが賛同し、随分と都合よく目の前にブティックがあったことから、その後一時間以上の停滞は確定した。

 シンジとラニ、彼らのサーヴァント、清姫と紅閻魔、BB。

 そんなチームのうち、ラニを除く女性陣はマリーに便乗し、せっかくだからと衣装を改めた。

 ……セイバーも多分、渡した紙幣をこう使われるとは思わなかっただろう。

 結果として、僕たち一行は多少なり、この街に順応した集団となった。

「ラニはいいの? 何も買わなくて」

「はい。私はそれほど、服を変える必要性を感じてはいませんから」

「……」

 ――現代に即した服装をしているから、と信じたい。

 いつか、彼女について知ってしまった秘密はきっと無関係だ。

 ともかくラニは自身の服は買うことなく、傍に立つジャックに外見相応の衣類を一揃え買っていた。

 最初に見たときは半透明であったジャックだが、今は完全に実体化している。

 恐らくはアバターというクラスゆえの曖昧な自己を、今の姿に集中させることで最大限明確化しているのだろう。

「紅さん、それ下ろさないんですか? はっきり言いますがそれのせいで台無しなんですけど」

「まあ、気持ちくらいはってな。あと、これは手放せるモンでもないし」

 日本のサーヴァントである清姫と紅閻魔は、現代の洋服に身を包むだけで雰囲気が随分と変わる。

 紅閻魔はそれでもなお背中に括り付けている棺が隠し得ぬ違和感を醸しているが……。

 僕やシンジはこの街に即している――とは言わないまでも、現代風の服を用意した上でこの特異点に降りてきた。

 よって男性で服を購入したのはサンソンとアマデウス、英霊として、己の時代の衣服に身を包んでいた二人だけだった。

 対して女性陣はラニを除く、全員が思い思いの服を買い、既に着替えを完了している。

 ――無論、BBとメルトも含めて。

 サーヴァントたちに関しては、今の服装でも普段の衣装と変わらず、霊体への変換や戦闘が可能な状態となっている。

 ラニが衣服を礼装に変換し、サーヴァントに依存させる術式を組めたことが大きい。

 メルトが持つ私服のように、対魔力や防御力の強化など特殊な効果を発動する訳ではないが、本人たちの士気にも直結するだろう。

 それに、この街に違和感のない服装の方が、行動するにもやりやすい。

 この街のAIたちは、僕たち――月の管理者の存在を知らないらしい。

 そのため無条件で協力を仰ぐことは出来ない。ゆえに外見から疑いを持たれることはできる限り避けたいのだ。

「……うん、偶にはこういうのもいいわね。変にヒラヒラしているより邪魔がなくて動きやすいわ」

「……」

 ピッチリとした黒スーツ。

 髪を後ろで纏めたメルトは普段と違い、可愛らしさより格好良さを前面に押し出している。

 まるでSPか執事か。メルトらしさからは離れるが、また違う魅力を引き出す――なるほど、そういうのもあるのか。

 この十年、その方向性を見つけられなかったなんて――

「……ハク。くだらないこと考えてるんじゃないわよ」

「あ、はい」

 どうやら顔に出ていたらしい。

 メルトのみならずBBやシンジ、ラニまでも呆れた表情で此方を見ていた。

「まあ……なんだ。せめてこの特異点を解決するまでは自重しろよ」

「……僕を何だと思ってるのさ……」

 決して今のメルトにそういう感情を抱いていた訳ではないのだが……。

 どうも、また広範囲の誤解を抱いてしまったような気がしてならない。

「なるほど……そういう迫り方もあるのですね。ぎゃっぷもえ、とかなんとか。ああ、わたくしの時代にこのような衣があれば――」

「……貴女、頭茹ってるの?」

 そして清姫は清姫で別の勘違いをしていた。

 メルトと契約を継続している清姫だが、戦闘面における相性は良くはない。

 そもそも、清姫自体あまり戦闘に秀でたサーヴァントではない。

 だが、どうやら性格面では気の合う部分もあるようで――こうしてメルトの行動を大小さまざまに勘違いして解釈することがこれまで何度かあった。

 正常な思考をしているようでやはりバーサーカーなのか……。

「さて、買うものも買いました。行きましょう」

「あ、ああ――」

 これ以上脱線するのは好ましくないと思ったのだろう、ラニが切り出す。

 元々の目的は情報収集。定期連絡で凛たち待機組から聞き出した新たな情報がある。

 それは、僕たちの次の行動を決めるには十分な内容だった。

 ――この街には、市長が存在する。

 であれば、するべき行動は自ずと決まる。

 『剣』と『盾』の居場所は分からないが、その者の居場所は分かっている。

 

 ――街の中心地、最も高い建物、即ち市庁舎。

 そこにいるという市長――この街の管理者に会うことだ。




進歩らしい進歩がない回。
強いて言えばメルトがスーツになりました。
その他の面々も着替えてはいますが描写はしません。面倒くさい? はははそんなまさか。

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