Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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EXTRAの制服がFGOに実装されて舞い上がってるマスターは私です。
この調子でCCCの旧制服、そしてアルターエゴ実装をお願いします。


第十一節『霧煙る民の歌』

 

 

 これだけの量の敵を相手にするのは、これまでそうそうない事態だった。

 竜牙兵だけならばともかく、その他の比率が多すぎる。

 特にキメラは数こそ少ないもののワイバーンを遥かに勝る強敵だ。

 一体二体なら、メルトだけでも十分どうにかなる。

 だがそれに加えて四方から来るエネミーが、あまりにも厄介。

 ジークフリートはクリームヒルトの相手に掛かり切りになっている。

 メルト、ブーディカ、アルテラ。正面は三人でどうにかするしかない。

 人形騎士は、その役割を全うしてくれている。

 走る僕たちに追いつきつつ、後方からの敵を漏らすことなく仕留め、手の空いた騎士は前方の支援までしてくれる程だ。

 流石にキメラは対処が効かず、サーヴァントの誰かが動くしかないが、それでも現状問題は少ない。

 強いて言えば――

「おおぉッ!」

「ッ――――!」

 ジークフリートとクリームヒルト。

 大雑把な動きのバーサーカーの大剣は、必然的に周囲に被害を齎す。

 既に、彼女の剣で大破した竜牙兵は何十にも上るだろうし、不運にも首を両断されたワイバーンも目撃している。

 或いは、彼女にエネミーを操っている自覚はないのかもしれない。

 クリームヒルトはただひたすらに、目を塞ぎ耳を閉じて妄執に狂うのみ。

 その復讐心が大剣を魔の属性に堕とし、黒く染まった真エーテルは自然と滲み出て更に周囲を侵していく。

「ああ、もう! 次から次へと鬱陶しいわね!」

 際限ない敵の波に、メルトの苛立ちはつのる。

 ……それでも、決してその腕の人形を手離すつもりはないようだ。余程気に入ったらしい。

「セイバー! またゴーレムが――今度は二体です!」

「分かっている。あの程度では、私は止められない」

 一方でアルテラは、既に戦闘モードに入り、その剣を不規則に振るっている。

 機動力に秀でたメルトが跳躍によりワイバーンを貫き、攻撃力に秀でたアルテラがより堅固なゴーレムを粉砕する。

 そして二人が取り溢した前方の敵を殲滅するは――

「行くよ! 前方空けて――――約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ)!」

 真名解放を伴った、剣の一振り。

 これまで単発で放たれていた魔力の塊。

 しかし今回は違う。多数を一度に解き放ち、嵐の如く前方の敵に襲い掛かる。

 それぞれが、敵を正確に狙ったものではない。

 一つが外れても、他が何かに当たれば良い。そんな乱射によって、前方が大きく開いた。

「皆、今のうちに!」

 聖杯戦争とは違う。

 マスターがいないゆえに、サーヴァントたちはマスターを気遣うことなく戦える。

 一度で大きな魔力を消費する宝具の解放も、ブーディカのそれは既に四度目だ。

 ブーディカほど数は使用していないが同様に対軍に秀でたアルテラの宝具も併用しながら、随分と走った。

 エネミーは尽きることを知らない。

 人形騎士は半数が失われ、ほんの少しずつだが――対処が遅れ始める。

 それというのも、クリームヒルトが大きな要因になっている。

 敵味方構わず薙ぎ払われる大剣の何と驚異的なことか。

 竜牙兵やゴーレムだけではない。人形騎士も数体、彼女によって破壊されていた。

 ジークフリートが攻めきれないのは、常に移動しながらの戦いであるがためだ。

 問題なく追従は出来ているが、その分クリームヒルトを押し切る一歩が足りない。

「――クリームヒルト。今度こそ、お前を……」

 いや、違う。

 先日の戦いと同じだ。

 ジークフリートが狙っているのは、クリームヒルトの顔を覆う仮面。

 絶え間なく動き回るバーサーカーを相手に、自身もまた走りながらの絶技の披露。

 その聖剣はクリームヒルトを決して斬ることなく、二人を隔てているそれだけを狙い。

 そして、その行動を察したレオがアルテラに指示し、周囲の敵を殲滅する。

 ほんの少し、敵の波に間が空いた。

「今です! ジークフリート!」

「すまない、許せ――――!」

 一閃。今度こそ振り抜かれた大剣は、顔を傷つけることなく面だけを正確に弾き飛ばした。

「ッ、……ぁ……!」

 気にせず反撃を試みるクリームヒルトだが、その双眸が対峙する男を捉え、停止する。

「…………ジー、ク?」

 妄執から生まれていた狂気が、消えていく。

 黒い熱が冷め、人生を狂わせた呪いが目を瞑る。

「……ああ」

「本、当に……? ジーク……ジーク、なの?」

「ああ。色々とすまなかったな、クリームヒルト」

「……そう。そう、なの……」

 互いが名を呼び合う。

 暫く見つめ合っていた二人だが、やがてクリームヒルトの瞳が此方に向けられる。

「その方たちは……いえ、言わずとも分かります。それよりも、まずは逃げましょう――最早わたくしの狂気に従うこともありません。わたくし共々、敵として扱われましょう」

 彼女は、既に敵対心はない。

 陰謀によって引き裂かれた二人の再会は、淡泊なものだった。

 だが、それが彼ららしさなのだろう。

「――ちょっと待って。君の統制から外れたなら……なんで襲ってこないの?」

「え……? あ、あれ……?」

 そういえば。

 エネミーたちは、近距離にまで迫っていながら、誰一人襲撃してこない。

『これ……囲まれてる。そんな知能、ある筈ないのに……』

 際限なく、知性なく獣の如く襲い掛かってきたエネミーたちが、此方を囲むように動いていた。

 クリームヒルトの統率によるものではない。

 ならば、これは。

 

「――姫さん。よもやそっちにつく訳じゃあるまいな?」

 

「……シャルルマーニュ」

 先程も見た白い礼服姿。

 男は唐突に、視界に現れた。

『まさか……!? またこの転移!?』

「おうよ。ベオウルフ辺りのを見ていたか。下手な宮廷魔術師など及びも付かない仕掛けがあってな」

 聖域王シャルルマーニュ。

 彼の手には、得物である光剣が握り込まれている。

 改めて問うまでもない。彼は戦闘態勢だ。

「で、姫さん、どうなんだ? 黒竜王は寛容だがオレとしては、不穏の芽は摘んでおきたい。目を開いたアンタは、どうする?」

 シャルルマーニュが提案した選択肢。

 彼はまだ、クリームヒルトへの慈悲を残している。

 ……それでも、彼女は躊躇わなかった。

 首を横に振り、虚ろさの残る瞳を()()()()味方に向ける。

「シャルルマーニュ。偉大なる王。わたくし程度の、終わった復讐に尚も妄執した女を、よもや仲間として連れ戻そうと思わないでくださいませ。ハーゲン亡きこの世界、最早わたくしが夫に――ジークに敵対するなどあり得ませぬ」

「……いや、胸糞悪い展開だ。騎士道の権化に従ってみれば、この別離か。悪く思うな、オレは此方を正義と見た。その者たちへの宣言も、此処に果たさせてもらう」

 ――――「次にオレたちが会う時は殺し合い」。

 確かに、彼はそう言っていた。

 黒竜王は見逃しても、その騎士たちの行動までは制限しない。そういうことか。

 或いは、シャルルマーニュ一人だけ来たのは、その宣言だけを例外として、黒竜王は重く見たのかもしれない。

 どの道、戦いは避けられない。だが、戦況は確実に此方が不利だ。

 相手がサーヴァント一人ならばまだ良い。

 シャルルマーニュは強力な英霊だろうが、匹敵する英霊が此方にも複数いる。

 だが、周囲のエネミーに気を配るとなると話は別。更に、一刻も早くキャメロットに戻らなければならない状況でもある。

 どうする。味方が一人増えても、シャルルマーニュを抑えつつこの包囲網を突破するのは困難極まるが……。

「――ジーク、皆様、どうぞ成すべきことを成してください。わたくしクリームヒルト、至らぬ身なれど時間稼ぎは致しましょう」

「ッ……」

 数秒、決意を固めるような、間があった。

 怪訝、もしくは不服そうに、シャルルマーニュの眉間に皺が寄せられる。

「……感心しないな。それは犠牲ではない。ただの自滅だ。狂気なき姫さんじゃあ、この軍勢相手に数分と持つまいよ」

「ええ。それでも、無いよりマシです。騎士道に生きた王、よもや目の前の相手を残して逃亡者を追ったりはしませんでしょう?」

 挑戦。或いは挑発。

 クリームヒルトの笑みは、決して勝利を確信したものではない。

 ――自滅覚悟の、時間稼ぎ。

「……クリームヒルト、それは――」

「いけない。貴方はどうか正義を成して。ラインの呪いはわたくしが持ち帰ります。だから、完璧なジークフリートは……わたくしの信じた、正義の味方になって」

「……、――――」

 許容できまい。出来る筈がない。

 死後、サーヴァントとしての召喚という奇跡の上に、悲劇で引き裂かれた想い人との再会という更なる奇跡が重なった。

 だというのに、その直後に、またも死に別れるなどと、あってはならない。

「――貴方が、彼を喚んだマスターですね」

 だが、最早それで告げることは終わったとばかりに、クリームヒルトは視線を移した。

 その眼は虚ろに、だが確かに、此方を映している。

「口下手な夫を、よろしくお願いいたします。安心してください。彼がいる限り、貴方たちは負けません。夫は、最強の英雄ですから」

「あ……」

 高潔に、純粋に、クリームヒルトはジークフリートを信じていた。

 なれば二人の間に言葉も触れ合いも不要。そう、彼女は確信しているのだ。

「それから……エッツェル、よね?」

「……む?」

 次に目を向けたのは、アルテラだった。

 ニーベルンゲンの歌にて、ジークフリートを喪ったクリームヒルトが復讐のために婚姻を結んだ相手。

 叙事詩においてはエッツェルと呼ばれる彼女に対して、ジークフリートへとも、僕へとも違う笑みを浮かべて。

「わたくしは、貴女を利用した。でも、謝罪はまたの機会に。今は何より、目的を果たさせてくれた礼を言うわ。ありがとう、エッツェル」

 復讐の達成、その感謝を告げられたアルテラは、怪訝な表情を浮かべる。

 何故今そんなことを、というよりは、何のことだか分からないという表情だが、気にせずクリームヒルトはシャルルマーニュに向き直る。

「お待たせしました。やはり、言葉は荒くても紳士ですね」

「騎士道に生きた王、なんて言われてはな。其方が命を捨てるならオレも態度で受ける。先手は其方で構わないし、誰かが動くまで辺りの魔性たちも動かさんさ」

 華奢な女性が持つには、あまりにも大きく重量のある剣を構える。

 失礼ながら、分かってしまう。彼女では、シャルルマーニュに遠く及ばない。

 ほんの数分持てば良い方だ。その間に、エネミーを一点集中で蹴散らして行っても、殆ど先へは進めまい。

 無謀に過ぎる。他に、何か手がある筈だ。

 

「――うん。見てられないって」

 

 そして、まるでその手を――打開策を持っているような面持で、クリームヒルトに続いて前に出る者がいた。

 長い髪を揺らして、悠然と進み、クリームヒルトに手を伸ばし。

 その頭を、ポンポンと叩く。

「……え?」

「無理してるのがバレバレだよ。女の意地の張り処、強さの見せ処は他に幾らでもあるってのに」

「……ブーディカ、何を……」

「ん、このままじゃ皆助からないし、ここらが潮時と思っただけ」

 赤毛の女王は、困ったような笑みで、振り返った。

「大丈夫。あたし、こう見えて防戦は得意なんだ。辺りの魔物たちも纏めて、結構時間は稼げると思う。そこから先は……まあ、任せるよ」

 何でもないことのように、ブーディカは言う。

 理解できる。

 彼女は玉砕覚悟で、クリームヒルトと共に戦おうとしている。

 それは駄目だ、と頭の中で警鐘が響く。

 ここでブーディカを残せば、それが今生の別れになると、確信できた。

「……何か方法がある。きっと、全員生きて城に戻れる手段が――」

「ないよ。多分、ない。ハクト、君は優しいけど、心にもないことは言わない方が良い。メルトとか、レオみたいに、冷静に判断しないと」

 ……メルトと、レオ。

「……ええ。それが出来るなら、そうするべきよ」

「ハクトさん。目的を忘れないでください。ここで誰かを残してでも、僕たちは城に戻るべきです」

 苦渋ながらに、二人は選択していた。

 どちらか単体ならばまだしも、ブーディカとクリームヒルト、二人ならば撤退の時間が稼げると。

「それに、もしかしたら、どうにか全員倒して帰れるかもしれないよ? アンドラスタの加護が残っていれば。勝利の女王の名が、未だ確固たるものなら」

 彼女が、此方を勇気づけて、何の心配も持たせず送り出そうとしていることはすぐにわかった。

 こんな時にまで、ブーディカは自分以外のことを想っている。

 やはり、それは母のようで。

 今まで出会ってきたどんな英霊とも違うその性質が、ここで別れたくないと感じる最大の要因なのだ。

「……ブーディカ。妻を頼む。貴女という女傑に出会えたこと、嬉しく思う」

 ジークフリートもまた、その別れを肯定する。

 かつて――生前幾度も、このようなことがあったのかもしれない。

「任された。少しは、先の時代に生きた先輩らしいところ、見せないとね。っと、人形騎士も借りるよ。そうすれば、もっと稼げる時間が増える」

 最早、彼女の決意は変えられない。

 どれだけ僕が止めたいと思っても、それはあまりにも矮小な意思に過ぎない。

 なんと甘いことか。此度の事件こそ、時に非情であらねばならないというのに。

 そうあれと、ブーディカは告げる。

 ならば――僕の選択は、一つしかない。

「……二人に任せる。その間に、僕たちは少しでも戻るよ」

「それで良し。君たちが良い子で良かったよ。うん――きっと、この国を救って」

「……気概は良い。だが、オレはともかく魔物共はどうする。オレが手を出さん初撃でどうにか出来るというのか」

 その、残った問題点もまた、彼女たちが悩む素振りもない。

「ならばそちらをわたくしが。魔剣の一振り、ほんの一度ならば、真名も唱えられましょう」

「よし、なら追撃はあたしが止める。最後だし……少しくらい、アヴェンジャーらしいところを見せても許してくれるよね」

 二人が膨大な魔力を発露する。

 それ即ち、宝具の前兆。

 シャルルマーニュが剣を構える。

 どのようなものであれ、警戒しない訳にもいかないだろう。

「――じゃ、ね」

 ブーディカは最後まで笑っていた。

 掲げられた剣に集まるように、魔力を伴った風が吹く。

 それと並行して、クリームヒルトの持つ大剣から零れ出る真エーテルは勢いを増す。

「霧煙る民の歌は幕を下ろし。暗き夜は此処に明くる――」

「嵐の渦よ、女王に集え。具足よ、戦車よ、亡霊よ。我が招集に応え、怨嗟を吼えよ――」

 跳ね上がるクリームヒルト。

 その狙いは、道を遮るエネミーたち。

 担い手の秩序に応え、聖剣となり。担い手の混沌に応え、魔剣となる。

 悲劇に振り回された大剣は、クリームヒルトの手にあって魔の属性を得た。

 その真名解放は、黄昏ではなく。深い黒はやがて、もう一つの色を宿す。

 夜明けの閃光。暁がここに満ち、振り下ろされる。

「満ちよ――幻想大剣・黎明天昇(バルムンク)!」

 降り注ぐ夜明けの斬光は、退路を作るようにエネミーたちを呑み込んでいく。

 キメラも、ゴーレムも、ワイバーンも、等しく消滅する。まして竜牙兵などものの数ではない。

 今一度、道は開けた。

「走れ!」

 二人の英霊を置いて、全力をもって走る。

 穴を埋めるように襲ってくる筈のエネミーは、いない。

 ブーディカが起こす風は、強い追い風となり。しかしエネミーたちを襲うそれはブーディカに向かって引き寄せられるように吹いている。

「吹き荒れろ! 約束された嵐の女王(クイーン・オブ・ワイルドハント)!」

 振り向くことはない。

 その時間すら惜しい。

 解き放たれたる真名が如何な能力を持つものか、確かめることなく。

 段々と強くなっていく暴風に身を任せ、駆けていく。

 やがて風が収まった頃、既に周囲のエネミーは疎らとなっていた。

 その程度ならば、一人が欠けても十分に対処しつつ、走ることが出来る。

「――ッ、――ッ、――ッ!」

 限界を身体強化で引き延ばす。

 休むことなく、走ること数時間。

『皆! 範囲の外に出た! 転移して!』

「ッ、キャスパリーグ!」

「フォーウ!」

 乾き切った喉から、声を張り上げる。

 素早くキャスパリーグが、転移の魔術を紡ぐ。

 出立より数を減らし、ようやく帰還は叶う。

 身体が引っ張られ、次の瞬間には、この時代にある正しい白亜が目の前に広がっている。

 そう確信した直後、視界が移り変わり――――

 

「っ……、え?」

 

 

 抉り取られたように消えた上層部。

 力任せに打ち崩された門。

 変わり果てたキャメロットが、そこにあった。




クリームヒルトが味方に。そして一行からブーディカが外れました。
今回出た二つの宝具の詳細は、今回も章末にマトリクスを用意するのでそちらをどうぞ。
でもって、キャメロット崩壊。
何があったかは、次回となります。
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