Fate/Meltout -Epic:Last Twilight- 作:けっぺん
GO編において、新規設定による変更はあまりありません。
また、判明したムーンセルに関しての設定の反映は色々難しいところがあり、出来ない部分も多いと思います。
では、十二節です。
ハクの視点から外れた、少し前の時間のお話。
結構短めですが、どうぞ。
「――此度、卿には幾何かの自由を与える」
「だが、私は卿が何をするか想像がつくし、それを止める理由もない」
「行け。そなたは、そなたの信ずる王のために、動くがいい」
寝覚めの悪さは、いつものことだった。
何ら夢を見た訳ではない。
ただ、目覚めの折に自らの無防備と無様を自覚してしまうのが、この上なく不快だった。
睡眠は必須なものでもないのだが、仕事と仕事の合間を埋めるには丁度いい。
よもや、死後ここまで暇の出来る場に召喚を受けるとは思わなかった。
状況だけは、どうにも皮肉としか言えない地獄ではあるが。
「……」
六世紀ブリテン。
私が召喚を受けたのは、私が王に仕え始めた頃よりも何年か前だった。
既に私は生まれている時代だが、この狂った世界には、もういない。
黒竜王によって、この時代に生きる「円卓に座する筈の者」は悉く殺された。
最早残るは王とサー・ケイのみ。
今の王と面識があるかは定かではないが、
絢爛なりし騎士の国は、完成するより以前に、破綻していた。
それが、黒竜王の選択。
自身が選んだにせよ、何者かに強要されたにせよ、黒竜王の目的はブリテンの崩壊にある。
そして、そのための楔は残りただ一つ。
騎士王、アーサー・ペンドラゴン。
王が討たれれば、この時代は崩壊するだろう。
それを防ぐべく、救国に立つ英霊たちはこの城に集った。
かつて――此処より未来、栄光歌う円卓に座す騎士たちを始めとした英霊。
彼らはこの時代の腫瘍を祓うため、黒竜王を討つために現れた。
中でも、異常を察知した未来のマスター――月からの使者が、現在黒竜王の本拠に向かっている。
ムーンセル・オートマトン。生前の私ならば、あまりに荒唐無稽と笑い飛ばすことさえしなかっただろう。
だが、こうして策を講じることが出来るというなら信じるほかない。
事実、月を主軸にした英霊召喚により、この時代を救う英霊は喚ばれたのだ。
曰くムーンセルとやらは、人類史の始まるより以前からこの星を観測していたらしい。
ならば、このブリテンの始まりから滅びまでをも観測していたのだろう。
月は何があろうとも、手を下すことはない。
滅びも、開拓も、革命も、全てを見届けるのが月の役目だという。
だというのに、月の使者がこの時代に現れたということは、この異変が例外中の例外だということだ。
黒竜王がその異変の原因として、ブリテンを滅びに導いている。
月の使者、並びに英霊たちの目的は、黒竜王の打倒。
黒竜王は強力極まりない英霊だ。
恐らく、我ら円卓全員が総力を結集しようとも、その剣技には及ばない。
だが、月の使者たちの力もある今の状況ならば、或いは。
「よう。こんな時間に部屋に籠ってるなんて珍しいな。鉄のアグラヴェインとあろうものが呑気に昼寝か?」
「……王にいい加減休めと言われたのでな。一時間ほど睡眠を取っていた」
「……それ睡眠って言わねえよ。よくぶっ倒れねえよなお前」
部屋を出てすぐ、モードレッドと鉢合わせた。
生前――正史においては、王に反旗を翻しアーサー王の治世を終わらせた騎士。
だが、此度の事件において、卿はブリテンを救う側に立った。
自身以外がブリテンを侵すのは許せない。
幼稚極まりないが、どんな理由だろうと敵に回るよりはいい。
それに……何とも、相応しいではないか。
「ま、いいや。……なあ、アグラヴェイン」
「なんだ」
「アイツら、無事に帰って来るかな」
モードレッドの口から出たのは、心配とも取れる言葉だった。
彼らとの関わりはたった一日だが、彼らの技量を見てのことか。
よもやモードレッドとあろう者が、情を持つとは思えないが。
「分からん。だが、彼らが戻ってこなければ状況は絶望的になるだろうな」
特に間も空けず、深く考えもせずに答える。
しかし、それは当然の結末だ。彼らが倒れるようなことがあれば、このブリテンに未来はあるまい。
「サラッと言うなぁ。なんか策を考えてるんじゃねえのかよ」
「……策、か」
考えていることはある。
それを伝えている者はたった一人。
彼らでも、モードレッドでも、マーリンでも。
そして、王でもない。
「想定外など、なければ良いがな」
「ん? なんか言ったか?」
「いや。ともかく、お前が気にすることではない。それで何が変わる訳でもあるまい。彼らが帰還するまで、大人しく待機しているがいい」
「そりゃ……それしか出来ねえんだろうけどよ」
やはり、卿は不満げだ。
堪え性がないというか、何というか。
卿の素顔は、そう見たことはないが、少なくとも生前、私の前では卿は紛れもなく王の影だった。
衆目の前や王の前では常に兜を外さず、しかし王の信頼を得て王が不在の折、代わりに執政を行っていたこともある。
その性質が、人前で見せる冷静なものとは違うことは理解していたが、こうも幼稚なものだったとは。
卿から視線を外す。城の外は、日が傾き始めていた。
「……壊れた時代とはいえ。随分と、淋しいものだ」
「……ああ。辺りに村の一つもない。そもそも、オレたちの知っているブリテンとどれだけズレてんだ」
城の周りには、栄える村がない。
王が未だ若かりし頃とはいえ、このようなことはなかった筈だ。
そも――この間違いを知るのは円卓の英霊だけだろうが――この時代に、キャメロットがあるというのがおかしい。
選定の剣を引き抜き、王となってまだ間もない。
そんな時代には、この栄光の城など兆しさえなかった。
とどのつまり私たちが召喚を受けた此処は、私たちの知らないブリテンだということだ。
だが、私が考慮するべきことではない。
どのような形でさえ、この国は私が仕えた王のブリテンであり、尽くすべき対象。
故にこそ、私は私情を捨てて、事を成すのだ。
全ては我が王のために。
「それは、貴公が考えるべきことか?」
「――まあ、そうだな。疑問なんて持つ必要はない。こんな形で呼ばれたんだ。オレらは騎士王に仕えるまでさ」
……そうだ。モードレッド卿でさえ、生きた王に対して真摯な忠義を示している。
誰であろうと、円卓についた騎士がこの時代に呼ばれれば、己の形で王に仕えよう。
ともすれば、私がすべきは確実に事を詰めていくことだろう。
他の騎士らに比べ、目立つ武勇のなかった私に与えられた、王の副官としての役目。
王のため、最小の犠牲で最大の成果を上げる。最悪を潰し最善を呼び込む。
――可能だ。
彼らががいれば出来なかったことだが、円卓のみがキャメロットを守る今ならば、叶う。
業腹だ。だが、これが最善と思うのだから仕方ない。
この一件さえ上手く運べば、王にとっても最も好い結果となる。
その結末を思えば――耐えられる確執だ。
「ッ――――アグラヴェインッ!!」
「…………」
やや予期していた頃合いより早く、事は始まった。
叫ぶモードレッド。問題はない。既に手は施してある。
彼方より見える光は、この時代の厄災を決定的に動かそう。
望むらくは、理想へ向けて。
+
――――貴公は狂いながらも、冷静であったな。
よもや召喚を受けて早々に、己の役割を見出し動くとは。
それを咎めることはしなかった。
寧ろ、その行動が良い方向に動くことを願う自分がいた。
こと策謀において、私は彼以上に信頼している者はいなかった。
常に私の望む成果を上げる彼がなければ、私の治世は数段厳しいものになっていただろう。
あの国の影には、彼がなくてはならなかった。
誰が欠けてもままならなかった国において、彼の役割は他とは別のところにあったと言っても良い。
彼が、姉の傀儡として放たれた男であったことに気付いたのは、いつだったか。
だが、それでも私は何をすることもなかった。
無関心を装って――事実関心はなかったのだが――彼を信じた。
それほどの男だったのだ。
信頼せざるを得ないほどに忠義に篤く、真摯に仕えてくれた。
故に私は、彼を補佐官に置いた。
必ずや国を繁栄に導くと信頼を受け、貴公を傍に置けば何も問題はないと信頼をして。
しかしそれは、ほんの些細な瑕疵によって崩れ去った。
そう――――遠い記憶は、覚えている。
既に実感すら遥か彼方にあるものだが、私はこれに間違いはないと確信した。
彼を信じるべきだと、私の直感も働いた。
何より、彼ならば、かの避け得ぬ未来に剣を突き立てることが出来よう。
彼の言う通りに、私はことを動かした。
これで良かったのか、という疑問は、不思議と湧いてこない。
それ程までに、過去の私は彼を信じていたのか。
「…………」
しかし、彼の申し出は意外だった。
記憶は遠くとも、私に仕えた者たちが成してきたことくらいは覚えている。
彼には、あの男と拭えない確執がある。或いはそれを抜きにするほどの事態であると、彼は判断したのか。
どの道、其方の方が、あの男にとっても好ましかろう。
これはあまりにも、人の身に対して過ぎた善による行いである。
何者も、行き過ぎた善より相応の善の方が良い筈だ。
成せることは成してきた。
思うように動けぬ私は、せめてこのようにして、万事が上手くいくよう祈るしかない。
「――――あれか」
街並みを映していた視界に、民以外の者が映る。
サーヴァントと、人間と、それから――。
なるほど。月よりの勇士は確かに、奇妙な存在だ。
しかも、よもやあのような存在まで配下に治めていようとは。
一人ひとりの能力としては、突出したものは見られない。
全員、優秀な魔術師であり、大英雄なのだろう。
此度の救済を止め得る存在かと言えば……それほどの力があるとは思えない。
所詮は魔術師。所詮は英霊。所詮は観測者の域から出ていない。
だが――――アレが傍にあるならば、或いは。
「……希望は見えたか。では、私も貴公の策の通り、動くとしよう。行くがいい、我が騎士」
彼とは違う、真実理性を持たぬ騎士は、本当にこれを望むだろうか。
彼の言葉の理屈は合う。
騎士の裏切りを知る私より、裏切りを知らぬ■の方が仕えるに易かろう。
「城に入ったか。迎える仕度をせねばな」
勇士たちには、出来る限り私の言葉を伝えねばなるまい。
そろそろ刻限が訪れる。それまでに、全てを成し遂げ彼らをキャメロットに帰さなければ。
騎士たちに円卓の任を与えた際に受けた条件の成就も果たすためには、多少の被害も出ようが。
――頭痛を覚えた。
純粋にして醜悪なる歪曲は、微睡みの私にはあまりにも責め苦が過ぎた。
この状態で成せる最善。最後の欠片を、此処に埋めるとしよう。
「では、始末は任せたぞ――アグラヴェイン。貴公は忠節の騎士であった。貴公が何を考えているか、分かっている。肯定はしないが、止めもしない。届かぬだろうが――大義である」
誰よりも早く召喚に応じ、私の意思を酌み取った騎士。
全てを察して、全てを計画し、騎士王の下に去った騎士。
アグラヴェインがいたからこそ、私はこの後に絶望はない。
故に私は希望をもって、聖剣を振るうとしよう。
「すまない。この為に振るうこと、許してほしい」
見ているがいい、業深い救済者よ。
今より私はキャメロットを打ち崩す。抵抗はここまでだが、足掻きがこれで終わると思うな。
これは、貴様の執念への、
「――――
アグラヴェイン、及び黒竜王の話でした。
色々と判明していない部分がありますが、答え合わせは近いうちに。
ただ、黒竜王のモノローグの通り、アグラヴェインは敵側によって召喚されたということになります。
次回は再びハク視点。一章も終盤に入ります。