Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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もう間もなく、FGOでは最終決戦が始まりますが、如何お過ごしでしょうか。
これまでの戦いの集大成、私も気合が入っています。
これでメルトやらが実装されていれば、一緒に世界を救う戦いに挑めたんですけどね。

実装は、まだか。


第十六節『激戦のキャメロット』

 

 

 ――確か、オレの記憶が正しければ。

 コイツは手負いと聞いていた。

 治ることのない毒を受け、少なからず衰弱しているだろうと。

 それは嘘だとは思わない。ヤツらは嘘を言っている雰囲気ではなかったし、そもそも嘘を吐けるような連中じゃないことはこの数日で十分理解した。

 だが、どうもこのサーヴァントはそんな毒でどうにかなるほど軟弱ではないらしい。

「チッ……しぶといな!」

「生憎、この頑丈さだけが取り柄でなぁ!」

 サーヴァント・ベオウルフ。

 オレも名前は知っている。その知名度に恥じない余程の英雄だ。

 凄まじい膂力。生前付き合ってきたどの騎士だろうと及びもつかない。

 ほんの少しだが、怖気を感じた。

 大した代物である魔剣がその膂力に付いていけていない。

 理解し難い話だ。あの英霊の体は、武器を持って戦うように作られていないのだ。

「ふん。やっぱり押し切れねえか。一本持ってかれてなければまだ行けただろうが」

 そういや……明らかに片手で扱うような剣をコイツは両手で持っている。

 本来は双剣使いか。

 どの道、気にする話ではない。

 どうせその剣も、力に付いていけず砕けたのだろう。

「第一、赤原猟犬(フルンディング)もお前に有利な訳じゃないらしいし……結局俺に必要なのは、コレか」

 嘆息しつつ、ベオウルフは剣を捨てた。

 一体何をしだすのか――その構えは、到底今まで剣士であった者とは思えなかった。

「……素手喧嘩(ステゴロ)だぁ? なんだよ、気でも触れたか?」

「こちとら元よりバーサーカーだ。気なんて最初(はな)っからぶっ飛んでるさ。なに、退屈はさせねえよ。そっちが気ィ抜けば、次の瞬間決着だ!」

 虚言ではない。先程の剣以上に脅威を感じるその拳は、間違いなくオレの命を奪えるもの――!

「ッ――!」

 顔目掛けて飛んでくる一撃。

 放たれる前に働いた直感が全力で体を動かす。

 回避――だがそれで終わりではない。追撃の左拳が確実に来る。

 剣を振るうのは間に合わない。よって、思い切り体をのけ反らせ、そのまま大きく後退する。

「逃がすかよ!」

「誰が、逃げるかッ!」

 二撃目を回避し、着地と同時に魔剣から後方に魔力を噴き出す。

 体への負担は大きいが、なんてことはない。

 ヤツへの一撃をぶち込むために、体が思い切り振り回される不快感を度外視して突っ込む。

 先程までの剣戟の速度とは比べるべくもない。魔力放出による超速の斬撃は超えられまい――!

「ぉおおおおおお!」

 オレと同じく、下がって回避をするならば、そのタイミングで魔力をぶっ放してやるつもりだった。

 そうでもしなければ避けられまい。そういう確信もあった。

 これはヤツも想像できなかっただろう、最高の攻撃であった筈だ。

 必中確実。これで決着。

 そしてその眼前の勝利に、慢心もしていなかった。

「――甘えんだよォ!」

 誰が予想できたものか。剣の腹を殴って逸らすなどと。

「なっ……」

 その手は焼け焦げているが、そんなこと関係ない。

 もう片腕あれば、コイツであれば十分首を飛ばせる。

 対して此方はバランスを崩し、咄嗟に動くことも出来ない。

 ならばこのタイミングでオレがやれること。考えろ。コンマ数秒の後には、拳がこの兜を貫いて頭蓋を砕くだろう。

 敗北などあってはならない。オレがここで倒れたら、この時代は――父上はどうなる。

 他のヤツらが救う? ふざけるな。それじゃあオレが納得できない。

 この時代の父上を守るのはオレだ。未来の父上を倒すのはオレだ。

 オレがこの時代に召喚された以上、他の結末などあってたまるか!

「ぶっ飛べ!」

「ガッ――――――――!」

 色々な音がした。

 全てが反転したような錯覚に陥るほどに、脳が揺れた。

 だが――耳の機能は壊れていない。脳はまだ、バラバラになっていない。

「……テメエ」

 魔力放出を出来る限り、防御の足しにした。

 軟弱な敵ならば、それだけで吹き飛んでいてもおかしくない。

 ヤツの拳はそれを物ともしなかった。

 いや、勢いを弱めることには成功したのだろう。

 事実、拳は兜を砕き、目を潰すだけに留まった。

「――おらあ!」

「ぐっ……!」

 意趣返しだ。その腹を力の限り蹴り飛ばし、距離を取る。

 まだ片目の視界は健在だ。痛覚など幾らでも耐えられる。

 この程度、カムランの丘で父上の聖槍で心臓を貫かれた時と比べれば、痛みのうちにも数えられない。

 ただ兜の破片が邪魔だ。兜のみを消し去り、剣を構えなおす。

「……ほう。まさか、女だったとはな。いや舐めてる訳じゃねえ。寧ろ感心したぜ」

「そうかよ。後悔すんじゃねえぞ、オレを女と呼んだこと」

「それで本気になるってんなら本望さ。グレンデル以来の強敵だ。やるだけやって死にてえからな!」

 なら、ひと思いに殺してやるよ――もう一度魔力を爆発させ、突っ込む。

 最早二度目はない。次に顔に貰えば、それが敗北だ。

 最低限、それにさえ気を付ければいい。ボディに何発貰おうと関係ない。先にヤツの霊核をぶち抜けばいい。

 心臓をぶち抜かれても、意識までは持っていかれない。まだ暫く戦う余地はある。

 問題はヤツも戦闘続行スキルを持っていた場合だが――そうなったら耐久だ。

 こちとら死ぬ訳にはいかない。こと我慢比べで、このモードレッドが負けてたまるか。

 使えるものなら何であれ使う。剣を振り回すだけじゃない。脚だろうが拳だろうがぶち込んでやる。

「そうだ、これが闘いの根源だ――要するに!」

「殴って蹴って立っていた方の勝ちだろ! 上等だ!」

 何発食らった。知るか。何発与えた。数えてない。

 分かっているのは、まだどちらも致命傷には至っていないこと。

 この殴打の応酬はいつまで続くか。業腹だが、このまま続けば押し切られるのはオレだ。

 あの身そのものが宝具であるならば、頑丈さを比べるのはあまりに愚行。

 だが今更退けるか。このまま続いて終わりなら、すぐさま終わらせる。

 タイミングを逃すな。剣に両手を掛けられる一瞬の隙を。

 ヤツの殴打が止まる一瞬の間を。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 剣の柄が潰れるのではというくらいに強く握り込む。

 魔力を放つ準備を整える。

 獲物の動きを子細に見る。百分の一秒の動きまでもを頭に入れ、決着の一秒前を予測する。

 そして――

 

 ――――――――今!

 

 

「――これでもくらえ!(Take That,You Fiend)

 

 

 ヤツの動きが停止した。

 力の限り、魔剣を叩き込む。

 目一杯の魔力を噴き出し、赤雷が周囲を蹂躙する。

 獲った――確信だった。心臓を吹き飛ばし、現界の要因を断った。

 油断はしない。戦闘続行スキルの可能性を考え、もう一度距離を取る。

「ッ……くそ、ここまでか。厄介な毒残しやがって……」

「……は? なんだよ、それ効いてないんじゃなかったのかよ」

「こんな特殊な毒、効かない訳ないだろ。毒で死ぬのは癪だし、かと言ってアイツらからの傷を消すのも反則な気がしてな。黒竜王のギフトとやらで毒を末期まで影響ないようしていたのさ」

 ギフト、ねえ……。

 そんな能力、父上は持っていなかった。

 マーリンの奴は向こう側にはいないし、それほどの魔術を行使できるヤツも、円卓にはいなかった。

 となると、まだ知らない何かがありそうだが……。

「ま、この通り俺は末期だが、お前さんが心臓ふっ飛ばしてくれたし、これ以上はねえ。どうにかなる前に、退場するさ」

 その身が粒子となっていく。

 サーヴァントの最期は、驚くほどに呆気ない。

 後に死体すら残らず、内の毒も纏めて消えていく。

 ……にしても、どんな毒だったんだろうか。随分厄介なものなんだろうが……ああ、メルト、だったか。アイツとは戦いたくないな、面倒くさそうだ。

「じゃあな、馬鹿力女。次は殴り合いだけで勝負しようや」

「お断りだ筋肉野郎。ゴリラとでもやってろ」

「そうかよ。ここまでこっ酷く振られたら、未練なんて持ってられないわな。ハハハハハ!」

 哄笑しつつ、サーヴァント・ベオウルフは消えた。

 まったく――不愉快だ。

 これだけ死力を尽くしていながら、決め手は毒だった。

 要するに、オレだけの勝利じゃあなかったということになる。

 それを知ったのが最後だということに、どうにもならない、勝利を掠め取られたような感覚に陥る。

「……やってくれるじゃねえか。事前に言ってなかったら、真っ先に殺しに行ってたところだ」

 残念ながら、先に申告があった。

 仕方がないので、不問としよう。月の住民だっていうなら、少しばかりの世間知らずは当然だ。

 さて、と。行こう。戦いは終わっていない。

 まだ宝具の真名開放も十分可能だ。この場を人形騎士共に任せ、父上のもとに走る。

 体中に嫌な痛みが走っているが、体の限界を超えていないならば問題はあるまい。

 

 

 +

 

 

 それが、なんの因縁もない間柄であれば。

 好敵手と認めることが出来たのかもしれない。

 だが――此度、俺はこの男を仇敵と見た。

 この戦いにおいて、相手に何を求めることもない。

「……」

 襲ってくる大量のエネミーには、竜の属性を持ったものが非常に多い。

 ワイバーンだけではない。巨大な体躯を持つ魔竜もまた、複数が使役されている。

 本来の魔竜であれば、単騎で複数の英霊にも匹敵するほどの存在だ。

 しかし、竜ではあまりに俺との相性が悪い。

 それにこの竜たちはやはり、死体が動いているにも等しいほどに魔力が小さい。

 宝具の真名開放をもって、一撃のもと、それらを纏めて殲滅する。

 そのまま敵――シャルルマーニュに向けて踏み込み――

「――――はあ!」

「ッ」

 一振りでもって、その霊核を断ち切った。

 やはり、不思議に思った。

 この戦いにおいてこのサーヴァントは、ただの一度も剣を振っていない。

 エネミーを指揮していただけで、此方の人形騎士を相手取ることもなかった。

 あまりに呆気ない。フランク王国を統べた大英雄とは、到底思えない。

「……どういうことだ」

「っ……なんてことはないさ。俺は戦わん。黒竜王が必要としていたのがコイツだというのは、分かっていたからな」

 シャルルマーニュの……剣?

 聖杯による知識が正しいならば、その剣の銘は『陽射す虹剣(ジュワイユーズ)』。

 極光の剣を、黒竜王が必要としていた?

「俺の得物は柄頭に聖槍を宿した虹の剣だ。言わば聖槍の転生体でな。黒竜王の聖槍と同時に開いてしまえば、なにも騎士王を倒さずともこの時代は終わる。最後の手段って奴だ」

 黒竜王――アーサー王が聖槍を所有しているのは知っている。

 そして、シャルルマーニュの持つ剣は聖槍を埋め込むことでその神秘を増幅させた宝具だ。

 同じ“聖槍”のカテゴリにあるものの、二つの起源は違うもの。

 しかしながらどちらも、世界の表裏を繋ぐ柱の影としての性質を持つ。

 およそ宝具として特異な性質を持つそれらが二本同時に解放されれば、本体にも匹敵する力を発揮するだろう。

 即ち、神代への逆戻り。この時代において、去りつつある神代へと回帰することで、この時代は意味を失い崩壊する。

「だが、その剣を振るうことに制限はないだろう。真名を解かなければ、問題はないのではないか?」

「黒竜王に不戦を誓えばそれは絶対だ。一度剣を振ってしまえば、手は動かなくなり罅割れる。無視できるのは一度きりだよ」

 不戦――何らかの、強力な魔術契約の類か。

 セイバークラスの対魔力を有していれば、一度、短時間ならば戦闘も不可能ではないだろう。

 だが、その一度を、ここで振るうことはなかった。

「……まさか」

「……騎士道に生きた王。あんな言葉一つで、あの姫さんは俺を縛ってくれた。元より不戦はあの場で捨てるつもりだったが、ああ言われたら全力をもって応じるしかないだろう?」

 そうか。この男は、既にその機会を用いて戦っていたのだ。

「……クリームヒルト……」

「強かった。姫さんも連れのサーヴァントもな」

 ゆえに、最早戦うことはない。

 ここで斬られることは必然だったということだ。

 不満はある。だが、既に決着はついてしまった。

「さて。これで黒竜王(あいつ)は騎士王を殺すしかなくなった。だが同時に、聖槍の解放を躊躇する理由がなくなったということだ。気を付けろよ、アレの本性は、聖剣よりよほど恐ろしい」

 刻一刻とその存在を擦り減らしながら、シャルルマーニュは笑う。

 この後にあるだろう、本当に最後の戦いを楽しみに待つ、子供のように。

「じき黒竜王は抗い切れなくなる。それに間に合ったのは、まあ、良かったかね」

「……お前は、黒竜王を案じていたのか?」

「当たり前だろう。かつては王だが今は騎士(サーヴァント)。ならば召喚者の最善を望むさ」

 ――間が悪かっただけなのだろう。

 呼ばれたはいいが、状況が状況だった。

 聖槍を持つ主がいる以上、その槍が解かれるより先に死ぬしかなかった、と。

 ここまで付き合っていたのは、最大限の義理なのか。

「悪に立つのは気が滅入ったがね。次があれば――善の側に立ちたいなあ」

 後悔を隠さず、呑気に呟いた後、シャルルマーニュの霊基は解れて消えていった。

「……」

 不満な召喚であったことだろう。決して、彼の本懐と言えるものではなかった筈だ。

 俺にとって許せない存在であることは変わりないが、最後の最後、彼の本心に確かに触れた。

 秩序に在って、善に立つ存在。

 願わくば、あの男が次召喚されるときは、悪を討つ立場にあるよう。

 “次”自体が途方もなく低い確率だろうが、それを願う。

「……クリームヒルト。ブーディカ。仇はとった。後は、そうだな。俺に出来る限り、正義を成すとしよう」

 余力は十分に残っている。

 この場は人形騎士に任せ、騎士王のもとへ向かうとしよう。

 まだ俺が役に立てるというならば。俺が求められているというならば。

 それに全力で応じよう。

 それが此度の召喚での、俺の役目。

 それがクリームヒルトが残した、俺への望みなのだから。

 

 

 +

 

 

 流石は同じ、フィオナ騎士団で武勇を立てた英雄と言えよう。

 呼吸一つまで合わせられた連携は、マスターとサーヴァントという関係以上に互いを引き立てている。

「何たる絶技か! やはり、只者ではないな……!」

「貴公こそ、その槍技、生半な鍛え方ではあるまい――!」

 ディルムッドの双槍はランスロットと互角に及んでいる。

 いや――僅かながらランスロットが押しているが、その劣勢を補っているのがフィンの魔術だ。

 彼の魔術は強化や妨害、回復などに幅広く対応し、自身とディルムッドを同時にサポートしている。

「随分器用ね、口だけじゃないってことかしら?」

「その通りだとも。見直したかね? 降伏ならいつでも受け付けよう。花嫁を傷つけるのは望むところではないからね」

「ハク、向こうを見るのもいいけど、こっちも補助頼むわよ」

「あ、ああ……!」

 メルトはフィンのアプローチを、見事なまでにスルーしている。

 それがわざとであるのかどうか。……いや、不要な考察だ。今は勝つことを考えよう。

 あの二人の連携は厄介だ。打ち崩すならば、フィンを先に討つべきか。

 まず始めにあの魔術をどうにかすることが勝利への一歩だ。

「っ――」

「ははは! これは微塵も侮れないな! 傷を癒すぞディルムッド!」

「させない――!」

 短時間ながら確かな、強化への妨害。

 あまり効率が良いものではないが、出し惜しんで長引くことを考えればマシだろう。

 治療魔術を弾き、メルトとランスロットの敏捷を強化させる。

 フィンは魔術においても才能を発揮した大英雄だが、メルトの相手をしている以上適宜の対処では此方が勝る。

 そして、二人に強化が掛かっているうちにフィンを追い込む――!

shock(弾丸)!」

「うおっと!?」

 対魔力によりダメージは殆どないが、僅かに動きを鈍らすことは出来る。

 敏捷性が自慢のランサークラスからその速度を奪うことは、決定的な隙に繋がる。

 速度を高めたメルトの刺突は、正確にフィンの心臓を貫き――

「主よ!」

 ――届かない。

 ランスロットの剣を弾いて迫ってきたディルムッドの赤槍により、一瞬の隙は埋められた。

 やはり、彼らの連携は此方の急造のものとは比較にならない。

 もう片方の黄槍が振るわれる。

 術式は間に合わない。躱せない――――!

「む――!」

 メルトを切り裂く筈だった槍は、凄まじい勢いで飛んできた何かの迎撃に使われた。

「ランスロット!」

「失礼、ミスメルト。お怪我はありませんか?」

 どうやら、ランスロットによる補助らしい。

 剣を鞘に納めた彼が何をしたのか分からないが――何かを投擲したのか。

「ほう。ただの石が『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』と打ち合って砕けないとは! 流石の騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)と言ったところか!」

 ――『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』。

 謀略により徒手で戦うことになったランスロットが、楡の木の枝を武器として敵を打倒した逸話による何らかの力。

 それによって石を強化し、槍を防いでくれたのか。

「助かった、ランスロット」

「構いません。お二人がご無事で何より」

 負傷は免れたが、フィンは弾丸の衝撃から立ち直り、再び槍を構えている。

 仕切り直しだ。最早同じ戦法は通用しないだろう。

「油断は大敵です、主」

「ああ、助かったぞディルムッド。これは私も名誉挽回が必要だな!」

「……となると、使うのですか」

「使うとも! 勝ちを取りに行くぞ、ディルムッド――!」

「はっ!」

 ディルムッドがフィンを守るように、前に立つ。

 後ろのフィンは、紫槍の刃先に膨大な魔力を込め始める。

 ――宝具の使用。勝負を決めに来たようだ。

「ハク!」

「ああ!」

 弾丸を複数射出。フィンを止めに掛かるが、ディルムッドの槍はその直撃を許さない。

 宝具解放のための、大きな隙。

 それを堂々と晒すことが出来るのは、信ずる騎士が傍にいるがため。

 騎士は信頼に応え、だからこそフィンは水の槍を振るう。

「我らに敗北などない、戦神ヌァザの加護ぞある! 神霊をも屠る魔の一撃、その身を以て味わうがいい!」

 ケルト神話の戦神ヌァザ。フィン・マックールはかの神霊を先祖に持つとされる。

 ヌァザが司る権能は水。

 よって、フィンが操るのも水の一撃――!

「くっ――」

無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)!」

 紫槍に込められた水の魔力が、その真名と共に解き放たれる。

 激しい水の奔流は、破壊力に関して最上位の聖剣や魔剣に匹敵するほどのものではない。

 だが、神霊アレーンを討ち取った水流は、英霊殺しなど容易く成し遂げよう。

 直線の一撃。僕一人では、到底回避は間に合わなかっただろう。

 回避を可能としたのは、メルトが有事の際その手に巻き付けて武装としている布。

 男性に対して高い拘束力を持つ礼装は、こうした危機に非常に役立っている。

「ッ――――!」

 ランスロットもまた、鋭い反射神経で横に跳び、回避した。

 だが魔槍の奔流がこれで終わる筈はない。

「メルト! 後ろ!」

「くっ……!」

 水の流れが変化する。

 勢いそのままに、此方に向かい奔ってくる。

 周囲のエネミーや人形騎士を粉砕しながら驀進する水流は獲物を呑みこむまで止まるまい。

 二度目の回避。だが、敏捷性の高いメルトと言えど僕という荷物を抱えた以上長くは持たない。

 何しろ、敵はフィンだけではない。

shield(防御)!」

 もう一人の槍兵に大きな隙を晒すメルトを、逃す訳がない。

 ディルムッドの双槍を盾で防ぐ。二撃三撃と持ちこたえるものではないが、突撃を防ぐには十分だ。

「小細工を……ッ!?」

 すぐに盾は砕かれる。だが、追撃はない。

「ランスロット殿――!」

 それに対応できたのは、ディルムッドが尚も周囲への注意を怠っていなかった証拠だ。

 視界の外から飛来してきた矢を、赤槍で打ち払う。

 ランスロットが持っている弓――あれは、人形騎士が装備していたものだ。

 葉脈の如き魔力が巡り変異した弓は、高いランクではないながら宝具に変じていた。

 なるほど、あれが、ランスロットの『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』か。

 手にしたものは何であれ、彼の宝具(ぶき)になる。

 剣を自ら納め、あらゆる局面に対応できる戦い方に彼は変更したのだ。

 今度はランスロットを狙い、水流が迸る。

 弓矢を放り、破壊された人形騎士が落とした盾を拾い、それを防ぐ。

 正面からではなく、斜めに逸らすように。同時に投げられた矢はディルムッドを牽制し、追撃をさせない。

「ハク、そろそろどうにかしないと……」

「分かってる。決めに行こう」

 地を穿ち、尚も勢いを弱めない水流は、地上で不可思議な流れを作っている。

 水流が方向を変える度に、戦場は狭まり、動ける範囲が無くなっていく。

 この状況で何事もないように動けているディルムッドは、生前から慣れているものなのか。

 このままでは不利になる一方だ。いつか動けなくなり、水流は僕たちを捉えるだろう。

 ならば、その前に決着を付けるしかない。

 幸い、まだ最低限の空間は残っている。

「ランスロット! ディルムッドを!」

「御意に――!」

 槍二本を拾い上げ、宝具となったそれが振るわれる。

 僅か、意識を外させるだけでいい。ディルムッドも動きが制限されているのは事実。ならば動きはある程度、予想が出来る。

「メルト、水を!」

「――ええ!」

 高く跳躍。何かをしようとしていると見て取ったディルムッドが、赤槍を投擲してくる。

 短槍一本でランスロットを相手出来得るという自信があっての行動だろう。

 だが、ディルムッドは選択を誤った。ランスロットとの交戦を中断し、如何に動きづらくとも此方に迫るべきだった。

 何しろ、槍だけでは意思を持ち、対応することは出来ない。

 そして速度があろうとも、予め来ることが分かっていれば対応も出来る――――!

「頼む、()()()――女神の繰り糸(エルキドゥ)!」

 左手に眠る束縛を目覚めさせる。

 月の裏側に残された少女に託された、創造の概念。

 あの時程の自由度はないが、束縛においては非常に優秀な性質を発揮する。

 展開、射出。気泡のように浮いた泥から伸びた鎖がブービートラップのように槍を捉え、絡めとる。

「なっ……!」

「まさか!」

 フィンとディルムッド、両者の驚愕。

 水の奔流が此方に向かう。だが、最早遅い――!

暴かれる嘘吐きロイス(オーバー・メルトダウン)!」

 あの水流はフィンが常に魔力を消費し続けることで勢いを維持している。

 ならば、その全てを攫ってしまえばいい。

 戦場に解き放たれた、第二の波。

 フィンは槍を振るい、独立した水流を盾に使うことでその波を防いだ。

 だが暴威を振るっていた奔流は、その統制を溶かされて勢いを完全に失った。

 水に浸った戦場に、飛沫を上げて着地する。

 宝具の再使用などさせない。もう一度真名が解放される前に、メルトが足を振るう。

月影の名は魔刃ジゼル(ブリゼ・エトワール)!」

 多大な魔力消費を代償に、鋭利な斬撃を多数放つ対軍仕様のメルトの大技。

 水を切り、フィンとディルムッドに同時に迫る斬撃は、それだけで討ち取れるものではないだろう。

 だが、短槍のみでランスロットの猛攻を対処するディルムッドに、それを回避するすべはない。

 フィンはこの一瞬、防御に使った波が視界を塞ぎ、対処に遅れた。

「づっ――!」

「が、ぁ……ッ!」

 フィンは幾つかを受けながらも、致命傷に至るものは全て防いだ。

 ディルムッドはまともに受け、それでも最後にランスロットの槍を二本とも弾き飛ばした。

 だが――そこまでだ。

「終わりよ、臓腑を灼くセイレーン(グリッサード)!」

「今一度目覚めよ、無毀なる湖光(アロンダイト)ッ!」

 水を滑るように一直線に跳んだメルトの棘が、対応の追いつかないフィンを貫き。

 得物を弾かれることを読んでいたように素早く剣を鞘から引き抜いたランスロットが、ディルムッドを切り裂いた。

 しかし、霊核を破壊されても決して崩れ落ちることはなく。

 ただその決着を、黙って理解した。

「っ……負けた、か」

「申し訳、ありません、我が主。私は、ここまでのようです」

「構わないさ。我々は全力を尽くした。それが及ばなかっただけの話だよ」

 体を粒子と散らしつつも、しかしフィンに後悔はなかった。

 その様子に、ディルムッドも笑う。

「……そう、ですね。これも運命の導きでしょう」

「その通り。正直、黒竜王はどうでもよかった。私の願望(ギフト)は成された。老いた私の最大の過ちを知って尚、ディルムッド・オディナという騎士と共に戦いたかった。ディルムッド、お前は、どうだったね?」

「言うまでもありません。貴方と共に戦えた。これ以上の喜びが、他にありましょうか」

「そうかそうか。なら、良い。共に笑って逝くとしよう」

 かつて、彼らの主従にして友情は一つの過ちによって崩れ去った。

 だが、今は英霊の身。二度目の生にして、彼らは互いの望みを達成したのだ。

 だから彼らには、後悔も未練もない。

「少女よ、君の心を奪えなかったのは心残りだろう。だが、だからこそ美しいな。高嶺の花というのは」

「一昨日来なさい。私には既にマスターがいるのよ」

「ううん、かつてない振られ方だ。これも人生経験か。……ではな、魔術師。その花、精々手放すなよ?」

 最後に、此方に忠告するように言葉を投げ掛けて、フィン・マックールは消えた。

 そして追従するように、ディルムッドもまた消滅していく。

「……見事でした。お二人の雄姿、確かにこの目に焼き付けました」

 ランスロットは散っていった英霊に敬服をもって、一礼した。

『……二人の消滅確認。これで、黒竜王以外の敵英霊は全員消滅したよ』

「……そうか。行こう、二人とも。まだ戦いは終わってない」

「ええ。終わらせに行きましょう」

「承知しました。この剣、最後まで王のために振るいましょう」

 どうやら、僕たちが最後だったようだ。

 最早残る敵サーヴァントは黒竜王ただ一人。

 フィンの宝具に蹂躙された戦場は、未だエネミーが多くいる。

 だが、気にかけている余裕はない。黒竜王を倒すことが最優先だ。

 行こう――この時代最後にして、最大の敵のもとへ。




これにてベオウルフ、シャルルマーニュ、フィン、ディルムッドは退場となります。お疲れさまでした。
シャルルマーニュは黒竜王に「不戦」を誓っていました。
これは彼なりに、黒竜王の思惑を察してのことです。
そもそも十一節で撤退するハクたちを追ったのも、自身がさっさと退場するためのものでした。
オリ鯖でありながら見せ場の殆どなかった王様。詳しくは章末のマトリクスで。
そしてEXTRA編以来の登場となる『暴かれる嘘吐きロイス』。私自身忘れてたとかじゃ……ないですよ?

さて、次回は一章最終話となります。
今年中の更新目指して頑張ります。
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