Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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マテリアル3が届かなくてつらい。
巌窟王も復刻しなくてつらい。

メルトも実装されなくてつらい。


BC.0323 覇王降臨伝承 バビロニア
アバンタイトル


 

 

 ――一晩ほどの休憩があった。

 疲労はない。回復効果によりリソースを使ったことで、普段以上に好調と言えた。

 無論、力を貸してくれるマスターたちにも、それは適用してある。

 暫くはこの月が、マスターたちの拠点となる。

 AIの居住区を拡張し、そこにそれぞれの個室を貸与している。

 特異点の解決に掛かった日数には、バラつきがある。

 一定期間内の解決であれば、修正に伴って同時期の期間が可能だが、作戦が長期間になれば話は別だ。

 現にまだ帰還していないマスターもいる。

 死亡報告は来ていないため、未だ戦っているのだろう。

 全員が帰還してから次の作戦に進むつもりだったが、時間の短縮も考慮し移行することを決定した。

 ゆえに――作戦を終えたマスターは、或いは地上に戻り、或いは次の特異点に挑む。

 今はその休憩時間だ。

 次の作戦開始は一時間後。オペレーターたちは他の特異点の解析を行っているが、そろそろ終了する頃合いだろう。

 そして僕は、一足先に休憩を切り上げある人物のもとへ向かっていた。

 セラフの一角に工房を構えるその人物には、最初の特異点の解決時からある作業(タスク)を任せている。

 その進捗の確認。数時間でどうにかなるものではないが、次の特異点に赴く前に確認しておこうと思い立ったのだ。

 古めかしい工房の戸を叩く。

「はーい、どうぞー」

 呑気な声が返ってくる。

 扉を開けると、その人物の他に一人が部屋にいた。

「カレン?」

「お父さま、おはようございます」

 流れる銀髪と表情を映さない瞳。

 僕たちと同時期に特異点の解決を済ませ、セラフに帰還したマスター、カレン・ハクユウだ。

 よもやカレンがサーヴァントを召喚してマスターとなっているとは思わなかったが、それで特異点を解決して帰ってきたのだから強く言える筈もない。

 カレンに同行していたヴァイオレットは帰還するなり心労の限界を迎えて倒れてしまった。

 こうした厄介ごとの対処には慣れているヴァイオレットだが、今回は回復に数日掛かるだろう。次の特異点攻略に参加することは不可能だ。

「何故ここに?」

「レオナルドに話を聞いていました。特異点で生前のレオナルドと会って、色々と気になることがあったので」

 そういえば、カレンは十五世紀のイタリアに行っていたと聞く。

 その時代の異変を解決してきたというならば、生前の“彼女”に出会っても不思議ではない。

「いやあ、まさか月の連中――それもカレンに見られるなんてねえ。どうだい? 生前の私、イケメンだった?」

「イケメン……その基準は分かりかねますが、レオナルドらしい顔つきだったと思います」

 身も蓋もないカレンの発言に、工房の主は肩を竦めた。

 豪奢で色彩豊かな衣装に身を包んだ絶世の美女。

 体のパーツ全てが完璧な調和を生み出す芸術の極み。

 それは、地上に生きる人間ならば誰しも一度は目にしたことのある芸術そのものだ。

 十六世紀の初頭に描かれた至高の絵画。

 その名はモナ・リザ。その女性はモナ・リザそのものだった。

 とは言え、名画のモデルになった女性ではない。

「……それでダ・ヴィンチ。解析の進みはどう?」

「あー。その話ね」

 ――レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 ルネサンス期における芸術家。

 その天才性は芸術だけでなく、発明や数学、建築、音楽、天文学、地理学など数多に渡って発揮された。

 正に万能の天才(ウォモ・ウニヴェルサーレ)。史上最大の天才とも名高い偉人だ。

 彼女は当然、AIではない。紛れもないサーヴァントである。

 クラスはキャスター。マスターのいないソロ・サーヴァントとして召喚を受けた。

 ダ・ヴィンチには数年前の召喚以来無くてはならない役目を任せている。

 それがムーンセルのシステム技師。このあまりにも重要な役割(タスク)を任せるのに、彼女以上の適任者はそういまい。

 そして今回。特異点の発生と未来の消失という異常にあって、新たな仕事を請け負ってもらった。

「まあこの程度、天才の頭脳をもってすれば大したことないね。解体も利用も、あと数日貰えれば思いのままさ」

 ――特異点で回収した、聖杯の解析と解体。

 黒竜王が言うには、これら全てを回収、破壊しなければ、事件の解決には至れないらしい。

 僕たちは特異点に赴く以上解析に時間を掛けられない。よってダ・ヴィンチに依頼したのだが……。

「……そんなに簡単なものなのか?」

「簡単じゃあないよ。単純に緻密だ。だがだからこそ分かりやすい」

 既にある程度、解析は進んでいるらしい。

 驚くべき速度だ。もしかすると、ムーンセルにおける最速の演算速度と比類するかもしれない。

「それは……?」

「悪意。これは悪意の塊だ。善意と敵対し、時に協力し、人類史を進めてきた負の性質――それ()()

 悪意……“聖杯”という名称に、最も不相応な概念だろう。

 実物を見ていても、そうは思えない。

 構成する魔力は確かに奇妙だが、どちらかといえば神々しい存在感である。

「特にハクト。君が回収してきたものが最たるものだ。恐らく、これが中心にして黒幕の本命だろうね」

「本命……? 他のものは?」

「言わばスペア……本命がダメだった時に代替する聖杯かな。黒竜王とやらが示した特異点は多分、本命の聖杯がある地点だろう」

 ――それを渡り、回収するのは僕の役目、と。

 黒竜王はそう決定したようだ。

 スペアという聖杯も、残しておけば手遅れになるだろう。

 そこは他のマスターに任せるしかないとして、僕はその示された聖杯を確実に回収していくしかない。

「うーん。けど、ちょっと残念かな。久しぶりに数年掛かりの研究対象と思ったんだけど」

「レオナルド。レオナルドはその聖杯を作れないのですか?」

「これと同じものは無理だね。これは天才性でどうにかなる問題じゃあない……類似の願望器ならお望みとあらばいつか作ってみせるけど」

 カレンの疑問に、ダ・ヴィンチはどこか悔しそうに答える。

 ……彼女はどこまで天才なのだろう。

 願望器も作って見せる――それが法螺に聞こえないところが凄まじいところだ。

 どのような技法でそれを作り上げようと言うのかも、想像がつかない。

 何せ彼女の発想は常識を軽く逸脱している。

 自身の肉体を絶世の美女(モナ・リザ)に改造して召喚されるなど、他の英霊であれば到底思いつかないだろう。

『――マスター各位へ通達。次特異点の特定が完了しました。各位、指定した区域に集合してください』

 その時、各マスター宛ての連絡が届いた。

「おっと、もうそんな時間? なら行ってきたまえ。一つ解決したからと言って驕ったり油断はしないように」

「ああ。分かった。引き続きよろしく、ダ・ヴィンチ」

「では、行ってきます、レオナルド」

 工房を後にする。

 指定された区域は、マスターによって違う。

 そこに集まった面々が、次の作戦で協力することになるメンバーだ。

「カレン、次の特異点は?」

「第十四特異点、と書かれています」

「そうか。じゃあ、次は一緒だな」

「お父様も……?」

 頷く。次に行くべき特異点は、三十のうち十四番目。

 そして今回は、カレンも同じ時代のようだ。

「そういえば、カレンのサーヴァントは何処に? 辺りにはいないようだけど……」

「セラフを見て回ると言っていました。位置は把握しているので、行く途中に合流しましょう」

 カレンと契約したサーヴァントは気になるところだ。

 彼女を守る存在がどういう英霊なのか、把握しておかなければならない。

 少なからず会話が出来れば良いのだが。

 

 

 その後、別の仕事を行っていたメルトと合流し、僕たちは集合場所に向かっていた。

 どうやら、カレンのサーヴァントもその道中にいるらしい。

 聞いた話では、また随分と奇妙なサーヴァントのようだ。

 先の特異点では一切戦うことなく、ヴァイオレットに全て任せていたという。

 戦えない訳ではないらしいが……何か、戦わない理由があるのだろうか。

「いました。あの方です」

 サーヴァントは、そこで待っていたように立っていた。

「――おや」

 黄金の少年だった。

 しかし、古風な服を着込むその姿に少年らしさはまったく感じられない。

 赤い瞳は全てを見通しているかのように深い。

「ッ……」

 メルトが息を呑み、立ち止まった。

 分からなくもない。その存在感はあまりにも圧倒的で、およそ子供には見えなかった。

「……へえ。なるほどなるほど。どこか気配はあったけど――そういうことか」

「え……?」

 ゆったりと歩み寄ってきた少年は、僕の前で立ち止まる。

 不敵に笑う表情が宿した感情はなんなのか。まるで分からない。

 目を逸らせない。

 その存在感は、同じ少年英霊でも、かつて出会ったアンデルセンとはまったく違う。

「運が良かったですね、お兄さん。大人のボクであれば、問答無用で八つ裂きだったと思いますよ」

 出会って早々の、処刑宣告。

 どうやらそれは免除されたようだが、何か、彼の気に障ることがあったのか。

「そっちのお姉さんは……まあ、いいか。今のボクには関係のないことです。マスター、彼らが君の?」

「はい。お父さまとお母さまです」

「ふうん……こっちの姿になったのは正解かな。一応、仮にも理を正す側に呼ばれた訳だし」

 どこか残念そうに深い溜息をついた少年。

 見るからにやる気がなさそうな彼に、カレンが一歩詰め寄る。

「ゲートキーパー。先の特異点で貴方はわたしを認めました。今度こそ、戦ってくれるのですよね?」

「……出る必要があれば、ね。お兄さん、お姉さん。クラス・ゲートキーパーです。どうぞよろしく」

「あ、ああ……紫藤 白斗だ」

「……」

 少年は、己のクラスを名乗った。

 それは聞いた覚えのないエクストラクラス。

 門衛(ゲートキーパー)。そのクラス名からは攻撃方法も予測できない。

 果たして、どういうクラスなのか。

 警戒しているのか、メルトは名乗らない。ただ鋭い視線を向けながら、傍を通り抜けて歩いて行った。

 ゲートキーパーはさして気にした様子もなく、それに付いていく。

 ……常に警戒しておいた方がいいだろう。或いは、最大の注意を向けるべき存在かもしれない。

 ――集合場所には、先客がいた。

「……っ」

 レオのように、知った姿とは違う。

 だがその特有の雰囲気を、見違える筈もない。

 金髪を後ろで一房に纏めた女性の反応は、ひどく驚いたようだった。

「……凛」

「……久しぶり、ハクト君」

 遠坂 凛。フリーランスの霊子ハッカーであり、当時は西欧財閥に反するレジスタンスだった人物。

 聖杯戦争では時に助けられながらも、六回戦でぶつかり合った好敵手。

 月の裏側の戦いでは、はじめは敵として戦いながらも和解してからは仲間として幾度となく頼っていた。

 彼女もまた、未来の消失という異変を前にして戦ってくれていたのだ。

「リン、また一緒ですね。よろしくお願いします」

「ええ。よろしくカレン。……まったく、誰もかれも、ここは変わっていないわね」

 凛は傍に立つサクラを横目で見ながら、至極複雑そうに言う。

 今回のオペレーターを務めるサクラは可視化された数値を弄っている。

 全員が揃うまで、シミュレート等の確認を徹底しているようだ。

「まあ、良いわ。私の足を引っ張らなければそれで。キャスター、彼らよ」

 凛の後ろで、先程から値踏みするような視線を此方に向けてきている男性が彼女のサーヴァントか。

 スーツの上に赤いロングコートという、一目で近代の出身だと分かる服装。

 不機嫌さを醸し出す強面。身長は百八十センチを超えているだろう。

 キャスターのクラスというには魔術師の類の可能性が高いが……それだけでは、流石に真名には辿り着かない。

「ふむ。君たちが、月を束ねる者たちか。私はキャスター――真名、諸葛孔明だ。よろしく頼む」

「諸葛……孔明……?」

 その名前は知っている。だが、目の前の男性と真名は到底繋がらない。

 諸葛孔明。中華、三国時代における蜀の大軍師だ。

 蜀が魏に長らく抵抗することが出来たのは、この諸葛孔明の働きが非常に大きかったと言われている。

 かの大軍師ならば、キャスタークラスにも該当しよう。

 だが、諸葛孔明は二世紀から三世紀にかけての人物だ。このような近代的な服装をしているとは思えない。

「君が気にしているのは私の容姿についてだろう。色々事情があってね。諸葛孔明としての力を振るう分には支障はないさ」

 どうやら、通常のサーヴァントとは事情が違うらしい。

 サーヴァントの召喚システムは、サーヴァントという存在の多様性から例外が生まれやすい。

 基本の七クラスから外れたエクストラクラスもその例外の一つと言える。

 彼――諸葛孔明も、そうした何らかの事情が関係しているのだろう。

「……で、サクラ。まだ全員じゃないの?」

「はい。あと一人――」

「やあやあ! 遅れてごめんね!」

 次の特異点で協力する四人目のマスターは、時間ピッタリにその場に転移してきた。

 丁寧に切り揃えられた白髪で幾らか若く見えるが、二十前といったところの少年だ。

 衣服のあちらこちらに散りばめられた宝石を見て、凛が瞠目する。

 黒いローブの下に着ているのは――あれは、アトラス院に属する証明の制服だ。

 サーヴァントの姿は見えないが、その手には令呪がある。どうやら霊体化させているようだ。

「貴方がマスター・カリオストロさんですね」

「うん。カリオストロ・エルトナム・アトラシアだ。よろしく、世界を救うマスターのみんな」

 カリオストロ、と名乗った少年は、大仰な仕草で一礼する。

 その名前と素顔、そして休憩の間にサクラから受け取っていたマスター情報を照らし合わせる。

 着ている衣服はアトラス院に属する証明――しかし彼は現在もかの巨人の穴倉に所属している訳ではない。

 彼はあの閉鎖組織から抜け出した数少ない人物だ。ゆえに、情報が非常に少ない。

 ただ一つ――彼はアトラシアの名を持つ理由がない。

 あの名称は偽名なのだろう。問い詰めるつもりはないが、注意が必要かもしれない。

「紫藤 白斗とメルトリリスだ。協力してくれてありがとう、カリオストロ」

「カレン、及びサーヴァント・ゲートキーパーです」

「……私は遠坂 凛。そしてキャスターよ」

「お、奇遇。僕のサーヴァントもキャスターだ。……っと、雑談は程々にしないとね。サクラ……だったっけ、僕らが行く特異点は?」

 互いに自己紹介を終え、カリオストロが問うと、サクラは頷いて説明を始める。

「――次の特異点は紀元前323年。当時広大な版図を築いていたマケドニア王国です」

 紀元前――人が神と袂を分かってから長い年月が経ってなお、色濃い神秘を残す時代。

 その年のマケドニア王国ともなれば、はじめに思いつく事象などたった一つ。

「そうなると、考えられる中心人物は……」

「……征服王、ね」

 アレキサンダー大王。アレクサンドロス三世。イスカンダル。

 マケドニアを統べ、東方遠征により多くの国を支配した偉大なる征服王。

 数多くの大英雄に信仰され、尋常ならざる逸話も数多く残されている大英雄。

 紀元前323年は、その王が没した年だ。

 ――最も強き者が王を継げ。

 王の遺言によって王国は瓦解し、消え去ることとなる。

 征服王の死没……なるほど、何者かが過去に干渉して特異点を作り出したならば、選ばれても決しておかしくはない年代だ。

「西暦以前という、只でさえ不安定な時代です。観測、補助は私が万全を尽くしますので、くれぐれも注意してください」

「了解。皆、行こう」

 特異点の危険度は、先のブリテンで理解した。

 今回はより、用心した方が良いだろう。

「――」

「……? キャスター、どうかした?」

「――――いや。なん、でもない。……そうか。こういうことも、あるか」

 四人と四騎、特異点に挑む人数は、前回よりも多い。

 キャスターが二騎となると、直接攻撃に欠ける部分はあるだろうが、今回も危機を救うべく召喚された英霊たちがいるだろう。

 そうした正義の英霊たちが力になってくれることを祈る。

 それはブリテンと同じように、解決のための大きな力となる。

「では……第十四特異点、追記開始します」

 

「全行程、クリア――時空干渉、開始」




次なる時代は征服王の時代。
パーティはカレン&なぞのさーばんとゲートキーパー、凛&ロード孔明二世&カリオストロ&オリ鯖Aとなります。
凛は今回、アバターの髪の色を弄らず金髪での参戦となります。
別にそれが今後関わってくる訳でもなく、だからどうしたって話ですが。
そして、システム技師たる万能の天才ダ・ヴィンチちゃんも登場。
聖杯の解体という大役を担ってもらいましょう。

二章に出てくるサーヴァント?
とりあえず一章より多いとだけ言っておきます。
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