Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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悪鬼羅刹(バーサーカー)と読みます。


第七節『悪鬼羅刹は狂い嗤う』

 

 

 黒髪を後ろに流し、額には四本の、角のような装飾。

 銅の瞳はギラギラと輝き、此方の面々を見渡している。

 黄金の装飾は最低限で、晒された肌は青白い。

 この場で彼女より背が高いのは、脚具を装備したメルトくらいであり、女性にしてはかなり高身長と言える。

 何より特徴的なのは、首をマフラーのように包む九つの炎の塊。

 自身の動きの阻害となるのではと思うほどに大きなそれを、温度を感じていないかのように纏うバーサーカー。

「皆様、お下がりください。ふざけた口調ですが、相当の強者です」

「大したサーヴァントみたいね。話が通じないのは目に見えているけど」

 油断なく構えるメルトと牛若。対して、バーサーカーはその様子をニマニマと笑みを浮かべながら眺めている。

「いやあ、ワタシこう見えて頭の切れる女ですし? 脳筋バーサーカーみたいに言わないでくれますぅ?」

 またも声色を変え、茶目っ気を見せるように舌を出す姿は、より恐ろしさを感じられた。

 その仕草がまったく似合わないというか、元よりその肉体はそういう仕草が出来るように作られていないとさえ思える異様さがあった。

「――まっ、バーサーカーなんですけどねぇ。そんなに引かれるのは傷つきますよぅ」

「……君のそれは、多重人格か?」

 自身に潜む人格を切り替えているかのように、その変わりようは急に過ぎる。

 声は同じでも、雰囲気そのものがまったく別人なのだ。

 そうしたサーヴァントがいるという可能性はある。目の前の彼女は、もしかすると……。

「あら、気にしてくれるの。きゃあ、そんなの初めて! どうしよどうしよ、これって脈あり?」

「ハク、自重して」

「えっ」

 能力を確認するための質問だったのだが、何か、よくない方向に解釈されている。

 バーサーカーは剣を手放し、頬を手で押さえて身悶えしている。

 それは、英霊でもない少女のようだが――手放した剣の柄に火が灯り浮遊している時点で異常である。

「ザーンネーンでーしたーっ! ボーヤはカワイイけどオレの好みじゃねえんだよぉ! オレ、女の子の方が好きなんだっての!」

 好みと言われても困るのだが、必要かどうか分かりかねるカミングアウトと共に、再びバーサーカーの性質は変化した。

「まあ男もたまには良いかもだけど……いや、あり得ねえあり得ねえ。男ならせめてアイツを超えるくらいじゃなきゃ……」

「アイツ……?」

「はっ、ボーヤじゃ到底及ばねえ化け物だよ! さーてそれじゃあ始めるか。こっちのサカズキの魔力も上々だ。カンタンにぶっ壊れんじゃねえぞぉ!」

 殺気が突き刺さる。

 浮遊していた両の剣を掴み、飛び掛かってくるバーサーカー。

「はっ!」

「っ――!」

 誰よりも素早く反応したメルトが脚を振り上げ、その一つを受け止め、もう一本は牛若の刀とぶつかり合う。

 筋力ステータスにおいて、二人は遠く及ばない。

 だが、それならば力ではなく別の戦い方がある。

 同時に受け流し、バランスを崩したバーサーカー。その懐へ、メルトの膝が突き刺さる――

「――なんてなあ――ッ!」

 瞬間、首元の火炎が巨大に吹き上がり、直撃を防ぐ。

 即座に刺突から蹴りに移行し、バーサーカーの脇腹を蹴り飛ばすことで距離を取ったメルト。

 その判断がなければ、火炎に呑み込まれていただろう。

「んー、んー……まっさかそっちもサーヴァントだったとは。これは油断。まあ、残念。それじゃあボクは殺せないなあ」

 一回転し、体勢を立て直したバーサーカー。

 蹴りもかなりの威力であった筈だが、彼女には傷一つついていない。

「キミ、神性があるんだ。ならそんなヤワな攻撃じゃダメだよ。もっとヒリヒリするような刃じゃないとぉ!」

「ッ!」

 剣がさらに二本、出現する。

 浮遊した状態のその剣の柄には手をかたどった火が灯っている。

 まさか、あれもまた己の武器として使用できるのか?

 それに、彼女の発言。神性があるならば、殺せない――それがハッタリではなくスキルや宝具の効果であれば、至極厄介だ。

 メルトは女神を基にした存在であり、その影響で少なからず神性を所有している。

 そうした概念をメルトウイルスや宝具の応用で破ることは不可能ではないが、あのような強力なサーヴァント相手ではそれも難しい。

「……では私が前に出ます。メルト殿、キャスター殿、補佐を」

「……それしかないわね」

「余はその補佐すらし難い身なのだが……いや、仕方あるまい。使うぞ、異議はないな、マスター」

「構わないよ。戦いで使えるか、少しは試さないと」

 ならば、神性を持たず一流の戦闘能力を持った牛若がメインとなって戦うしかない。

「話し合いは済んだかしら? ならもっと愉しませてちょうだい! ワタシ、戦いも大好きなの!」

 新たな得物により、攻撃の数は倍に増している。

 独立した炎の手とは言え、その速度はバーサーカーが直接持つそれと変わらない。

 圧倒的な手数は牛若でも対処が追い付かず、メルトと時折前衛後衛を入れ替えることで対等に渡り合っている。

 ただ、攻めに転じることが出来ない。これでは消耗するだけで、一切ダメージを与えられない。

「鬱陶しいな、いい加減――!」

「っあ!?」

「メルト!」

 三本同時の斬撃――否、打撃を受けきれず、メルトが吹き飛ばされる。

 回復の術式を紡ぎつつ、駆け寄る。ダメージは軽微だが、その隙を逃す訳がない。

「――くそ!」

 身体能力の強化。その大半を脚力に使用し、速度を重視する。

 メルトに向かい飛んでいく剣の一本。

 まずはあれにとにかく間に合うこと。

 あれからメルトを守ること。

 その為にも、前に出て、受け止める――!

病める瞬間も(アムルタート)! 健やかなる瞬間も(ハルワタート)!」

 剣を絡め取り、その勢いを殺すことに特化した形状の二振り。

 メルトを切り裂かんと振り下ろされる剣に向かい、力の限りそれらを振るう。

 金属音と同時に腕に走る、尋常ならざる衝撃。

 追い付いたという確信と同時、身体強化を腕に回していなければ、そのまま両断されていただろう。

 眉間の寸前、ギリギリのところで、どうにか鍔迫り合っている。

『紫藤さんっ!』

「ハク! また無茶を……!」

「ッ、大、丈夫、これくらい――!」

 今のうちにメルトが体勢を立て直してくれれば、どうにかなる。

 僕はただ、それを信じてこの剣に負けぬよう、集中を途切らせなければいいだけだ。

「――ぬぁ!?」

 だが、それより前に、剣に込められた力が抜けた。

 今のうちに振り払い、遠くへと弾き飛ばす。

 何が起きたのか――見てみれば、バーサーカーに何かが撃ち込まれ、その意識を逸らしている。

「キャスター殿……!」

「早く立て直せ! 使い捨てゆえ、長くは続かぬ!」

 蔵の床に手を置くキャスター。

 何らかの能力が発露しているのは分かるが……キャスター本人が攻撃している訳ではない。

 バーサーカーの背後。無数に存在している宝物が起動し、光弾を射出しているのだ。

「チィ……、何処も彼処も妙な宝物ばかり! 武器が一つも無いとはどういう事か!」

 どうやら、内部の宝物をキャスターが操作しているらしい。

 あの光弾を射出している宝物は武器ではなく、本来の使い方でもないようで、バーサーカーがダメージを負っている様子もない。

「痒いんだよクソがァ――!」

 それはごく僅かな注意を引く手段に過ぎない。

 浮遊する剣の一本でその宝物を貫き光弾を止める――が、その瞬間、バーサーカーの自由な剣は二本となり、意識が動くことで動きも鈍った。

「隙を見せたなっ!」

「ッ」

 その、達人の立ち合いからすれば決定的な隙を、牛若は逃さなかった。

 一閃。十分の一秒にも満たない刹那の間に、牛若の刀はバーサーカーの首を断った。

「――――」

 先程のように火炎で防御する暇すらなく、振り抜かれた刀。

 血すら付着せぬ絶技で断てぬ首など、この世に存在しないのだろう。

 狂笑も絶叫もなく、バーサーカーは倒れ伏した。

 首は飛んだ先で霧散し一足先に消えていく。

 終わった、訳ではない。

 頭部を失った体は尚も存在している。

「……珍妙な。首を断たれてまだ死なぬか」

「――――ちぇっ、バレちゃいました? ビックリドッキリ大生還といこうと思ったんですが」

 その体が、唐突に起き上がる。

 首元の炎が肥大化したかと思えば、バーサーカーの首は元通りに復元していた。

「いやあ、首飛ばすのは馴れっこなんですよ。生憎、この程度じゃ死ねま――せん!」

 首を断っても消滅しない、尋常ならざる耐久性。これもまた、バーサーカーの能力か。

「ならば心臓を貫けばいいだけの話。メルト殿、キャスター殿、今一度お力を」

「構わないわ。私だけだと時間が掛かりそうだし」

「今の余に期待はするな……むう、他に使える代物は……」

 だが、当然諦めなどない。サーヴァントたちもまた、然りだ。

 対するバーサーカーは、その狂笑を消す。

 彼女と出会ってから初めての無表情。

 しかし、通常のそれとは違う。その表情なき顔には明らかな感情が浮き出ていた。

「……ちょっと、聞き間違いかしらね。そっちのアナタ、今、時間が掛かりそうって言わなかった?」

「ええ、言ったけど、それが?」

 その感情の向かう先は、メルトだった。

「つまり、アナタはワタシを倒せると? 神性がある身で? たった一人で?」

「そうよ。ただのサーヴァント相手に、私が負ける筈ないじゃない。容易いか手間取るかの違いよ」

 得意げに笑いながらの挑発。

 確かにメルトは、一流のサーヴァントをも凌駕する戦闘能力を有している。

 だがその本領は月での戦い。地上では一定のスケールダウンは逃れられない。

 第一特異点から帰還し、多少なり調整をしたものの、それでも最善とは程遠い。

 バーサーカーとの相性を考えると、難しいが……メルトがそう言い、戦うのならば、僕も負ける気はしない。

「……不愉快ね。その傲慢、ああ――似てる似てる。ワタシの、大嫌いな――」

 その声は、今までとは違う。

 あまりにも静かだった。

 バーサーカーは目を僅かに細め、メルトを見やる。

 そして、何かを勘付いたように。

「――はっ。はははははははっ! そういうコト! 何を! そんな姿になって! こんなトコロで何をしてる! ハハハハハハハハハッ――!」

 再び、狂笑へと変貌した。

 メルトも理由は分かりかねているようで、怪訝な表情でその様子を警戒している。

「ハハ、ハ――――歯向かうってんなら、殺しても良いかぁ」

「ッ――」

「よし決定、皆殺しだ。勝てるってんならやってみろよ抜け作! ヒ――ヒヒヒハハハハハハハハハ!」

 哄笑と同時に、更に浮遊する剣が増える。

 両手と合わせ計八本。

 二本だけではないというのか。あれほどに自由に扱える武器を、一体どれ程……!

 

「おう、ならやってやるよ。今更数が一増えたところで文句はねえよな?」

 

 その刃が今こそ襲い掛からんとした時、それを迎撃するものが僕たちの背後から飛んできた。

 バーサーカーのものに劣らない威力の炎。

 直前の声、そしてこの炎。それらは、頼りになる助っ人がこの場に到達した合図であった。

「あ?」

「悪いな。ウチの陣営の連中がいるから邪魔しちまった。何、数は増えてんだ。今より退屈はしねえだろ」

 クー・フーリン。エジプト領の兵士たちを統率するサーヴァント。

「どうしてここに……」

「どうしても何も。あんだけ目立つ入口開けてりゃ怪しむだろうよ。何なんだ此処は? どうもきな臭ぇ雰囲気だが……」

 辺りを見渡すクー・フーリンは、それでいてバーサーカーを警戒している。

 あのバーサーカーの力はケルト最大の大英雄にも匹敵するだろう。

 ランサーやセイバークラスならまだしも、此度召喚されたのは近接戦闘に秀でていないキャスタークラス。

 容易に勝ちうる存在ではないと、彼は即座に判断したのだ。

「貴方は……白斗殿の味方ですか?」

「おうよ。安心しな。アレが敵で、アンタが坊主の味方だってんなら、オレもまた味方だ」

 杖が構えられる。

 新たに増えた“敵”。バーサーカーは歯を見せた笑いを崩さない。

「……つまり、キミもボクと戦うと?」

「それを選ぶのはテメェだ。尻尾を巻いて逃げるってんなら追わねえが?」

「はっはあ。そりゃああり得ねえ。なんてったって――オレにはシッポありませんから!」

 八本の剣が乱舞する。

 あまりにも大口を叩いた。ならばそれ程の力があるのか試すまでのこと。

 そう言わんばかりに、バーサーカーはその剣全てをクー・フーリンに向け突進する。

 キャスターが相手とあらば、接近すれば良いだけの話。

 しかしそれを許すほど、此方も甘くはない。

「させない――!」

 剣の自在性はともかく、バーサーカーゆえかその思考自体は読みやすい。

 クー・フーリンに迫ることは分かっていた。真っ直ぐ向かうと分かれば術式も間に合う。

 放った弾丸はバーサーカーの懐に直撃し、僅かに動きを鈍らせる。

「テメ――」

「なら、僕も……っと」

 そこに重ねて紡がれるはカリオストロの魔術。

 弾丸のような小さなダメージはないが、それゆえに束縛に特化した術式だ。

 鎖の如くバーサーカーに絡みつき、その動きを封じる。

 強力なサーヴァントが相手であれば、一つ一つ、隙を確実に突いていけばいい。

 此方の人数が多ければそれもまた少しは容易になる。そして、歴戦のサーヴァントが多くいれば、たった一つの隙でさえも決定的なものとなる。

「あら、まるで操り人形じゃない――の!」

 牛若の第一撃は浮遊する剣が迎撃する。

 しかし、それで空いた死角から素早くメルトが迫る。

 先のように防ぐことはなく、今度こそその棘はバーサーカーを捉えた。

「ッ、この……!」

「上出来だ。そらオマケだ、取っときやがれ!」

 クー・フーリンの杖が床に叩きつけられる。

 発動されるルーンはアンサズ――噴き上がる火の柱は、一撃与えたメルトが下がるや否やバーサーカーを包み込んだ。

「オ、オオオオオオオオオォォォォォォォ――――!」

 蔵の天井にまで容易く届き、焦がしていく炎は、サーヴァントであろうとも焼き尽くすだろう。

 炎の奥から聞こえてくる咆哮は、すぐさま断末魔となった。

 影すら見えなくなった。だが、油断は出来ない。

 首を飛ばしても復活した相手だ。心臓諸共全て焼いたとて、殺しきったとは確信できない。

 事実――

「――――■■■■■(■■■■■■■■)ッ!」

 内部から、宝具の真名を解く絶叫が、確かに聞こえた。

 その宝具の閃光は天井へ激突し、大破させる。

「ハク、こっち!」

「ッ」

 崩れ落ちてくる瓦礫。震撼する蔵の中で、メルトの手を取る。

「チィッ……これだから手負いは……何仕出かすか分かったもんじゃねえ。外まで退くぞ!」

「カリオストロ殿! キャスター殿! 此方へ! 私が運びますゆえ!」

『蔵内部の自衛機能で崩壊が鈍っています! 落ち着いて撤退してください!』

 戦っていた場から、みるみるうちに離れていく。

 杯の回収は叶わなかったが、これでは仕方がない。

 蔵を脱出する。外は入った時と変わらず、魔獣の殆どいない廃墟が広がっている。

「バーサーカーは……」

『確認しました! 蔵の破壊によって空いた穴から脱出――杯の反応と共に……真後ろです、紫藤さん!』

「なっ――」

 振り向いた時にはもう遅い。

 メルトでさえ対応しきれない速度で迫ったバーサーカーが、剣を振り下ろしていた。

 あの火の柱を耐え、当然のように彼女も脱出していたのだ。

 此方が何をするよりも迅速に、その剣は獲物を捉える。

 全てが手遅れ。僕が確信したその時。

「――させるかよっ!」

 何の前兆もなく、ルーンの壁が展開された。

 バーサーカーの刃の前では、防御は殆ど無意味。

 だが、幾重にも重なる防壁は退避するまでの時間稼ぎにはなった。

 メルトの跳躍によって、大きく距離を取る。

 バーサーカーはやはり無傷だ。大きなダメージでさえ、その能力によってリセットされているのか。

「……またアナタなの。邪魔するオトコは嫌われるわよ?」

「ご生憎様。こちとらアンタみてえなのは趣味じゃねえ。念のためで張っておいたルーンが必要になるほどしぶといとは思わなかったぜ」

 大胆不敵に笑ったクー・フーリンに、バーサーカーもまた笑う。

 ただし、性質は全く違う。

 根底にある狂気を隠さない笑顔。

 それを崩さぬまま、放たれた火炎をバーサーカーは真っ向から切り払った。




バーサーカー戦でお送りしました。
こんな感じのキャラクターになります。書いてて楽しい。
真名はまだ不明ということで。
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