Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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今更風邪を引きました。
皆さんは体を壊さないようお気を付けください。


第十三節『ローマへ』

 

 ――そう。

 元を辿れば、私のせいなのだろう。

 偉大なる先達のように、私は己を“鉄たれ”とした。

 罪には苛烈に。敵にはより苛烈に。

 過ちなど絶対にあってはならぬこと。そう、己を戒め、私は鉄の英雄となった。

 だが、私にも過ちがあった。

 過ちを起こした。

 過ちに、引き込んでしまった。

 

「――ああ。これで君の悩みが解消されるなら、きっと赦される筈だ」

 

 その時は、心からの本心だった。

 家を離れる事の多い私に代わり、彼女の拠り所が必要なのだと思っていた。

「本当に……本当に、こんなことが? これって、悪いことじゃないの?」

「そう。それでも、君は、僕が正義を成すための希望。僕の成す正義と、君が平穏に笑える為の犠牲。釣り合いは取れている」

 今思い返してみれば、ああ――あの時から私は狂っていたのだろう。

 だが、私にとって彼女の微笑み、心の安寧は、何より私が優先するべきことだった。

 無垢なる血を流し、彼女が笑う度に、私はその数倍の敵を貫けばいい。

 それで釣り合いは取れている。

 取るに足らない小さな犠牲で、この国を私は守るのだ、と。

 

「ねえ、新しい趣向を考えたのよ! アナタにも見てほしいの!」

 

 数年の時が流れるうちにそれが苛烈になっていくのを、私は理解していた。

 そうでもしなければ立ち行かない程に、彼女は苦痛に苛まれていたのだ。

 私が他者に対する罪の清算としていたことを、彼女に教えた。

 彼女はみるみるうちにそれを取り込み、自分の趣味としていった。

 彼女は、よく笑うようになった。

 私は嬉しかった。そして、これは正しいことなのだと確信もした。

 しかし。

「楽しいわ! ええ、とても! こんなオモチャがこの世にあったなんて!」

 ――やはり、間違っていたのだ。

 私は断罪のためにそれを成し。

 彼女は悦楽のためにそれを成した。

 それでも、私は良しとしたのだ。

 それが彼女のためになるならば、きっと――これ以上はないのだろう。

 何故私は彼女のそれを罪と定め、咎めることをしなかったのか。

 何故私は彼女にこんなことを教えてしまったのか。

 何故私は最期まで、彼女の異常さを告げなかったのか。

 ――間違っている。許されない、と。

 

 ああ、そうだ。誰も言わなかった。

 これが間違いだなんて。誰より言うべき、私が言わなかった。

 だから彼女は、ああ成り果てたのだ。

 機会があるならば。

 願いが叶うならば。

 どうか彼女に救いの道を。

 美に拘り、無邪気に笑い、年経てなおもお転婆さを残すあの娘を。

 血に塗れたその人生を変えてあげたいのだ。

 ああ、ああ――あの愛すべき――

 

 

 +

 

 

 ――暗い、とても暗い夢を、見ていた気がした。

 アルジュナとの激戦を終え、新たにランサーを迎えた翌日。

 エサギラ寺院の周囲にある修復された家屋の一室で一夜を過ごし、目が覚めた。

 目覚めは最悪とも言って良い。

 独白のような、暗くて赤い、鮮血の夢。

 吐き気のような感覚を堪え、起き上がる。

 メルトはまだ眠っている。どうやら、まだ随分と早い時間のようで――

 

「眠っているか、ハクトにメルトリリス! 疾く目覚めるがいい!」

 

「ひゃっ……!?」

 ……どうしてこう、このファラオは早起きかつ時間帯を弁えないのだろうか。

 メルトは飛び起き天変地異にでも対したような驚愕の表情で周囲を見渡す。

「……ちっ。また貴様は……。女の一人も抱けぬようでは甲斐性なしと言われても仕方あるまい」

「一体僕に何を求めてるんだ……?」

 大声と同時に部屋に入り込んで早々、悪態をついてくるオジマンディアス。

 少なくとも、こんな特異点でそういうことをすべきではないのでは……。

 オジマンディアスの価値観は分からない。

 ただ揶揄っているだけという可能性もなくはないが……。

「……それで何の用よ。何も無いっていうなら……」

「いや、特に何もないが。少々考えに耽っていたら夜が明けたのでな。暇だったので来たまでだ」

「ハク。このファラオ殺していいかしら」

「気持ちは分かるけど落ち着いて、メルト」

 安眠妨害、許されざる。

 メルトから向けられる殺意を意にも介さず、オジマンディアスはさて、とその愉快そうな表情を改めた。

「とは言え、どうせ来たのだ。話しておこう」

「何を……?」

「ローマ領が、ラーヴァナに攻撃された。被害は甚大だそうだ」

「ッ――――!?」

 言葉の意味が、暫く分からなかった。

 つい昨日、カルナや牛若を送り、その戦力を補強していた筈だ。

 あまりにも急で、理解しがたい情報だった。

「……どういう事?」

「どうもこうもない。奴が一枚上を言っていただけよ。カルナらがローマに辿り着く前にラーヴァナが攻め込み、ローマの大半は陥落した。会議によりローマの守りが薄くなったところを狙われた訳だな」

 さして大したことでもないかのように言っているオジマンディアスだが、これは大事だ。

 三国のうち、一つが落ちた。ラーヴァナの存在以前に、この特異点は三国の均衡によって成立している。

 一つでも国が落ちればそこに孔が空く。

 最悪、そこから特異点が崩壊する可能性もあり得る。

「……落ち着け。最悪の事態はまだ起きん。百貌めの話では、到着したカルナらの抵抗により、領域支配権自体は未だローマのもの。余の見立てではあと数日は持つだろう」

「だけど……」

「そう。“持つ”だけだ。英霊共に限界が訪れた時、この特異点は終わる。その前にラーヴァナを討たねばならん」

 当然、行動が遅くなれば遅くなる程、状況は悪くなる。

 ローマが落ちる前に救援を送り、ラーヴァナの侵略からローマを守らなければ。

「度重なる命、苦労を掛けるがな。自由に動ける貴様が頼りだ」

「いや……構わない。今すぐに?」

「日が昇ってからで良い。ラーマにも伝えねばならん」

 やはり、ラーマを同行させるらしい。

 ラーヴァナと戦うにおいて切り札であり、誰より勝率の高いだろうサーヴァント。

 ……恐らくは、ラーヴァナとの決戦となる。彼がローマに赴かない理由がないのだろう。

「それから、他の英霊なりを同行させるならば話を付けておけ。バビロンの守りを薄くし過ぎぬ程度ならば問題はない」

「ああ。分かった」

 話を終えて、去っていくオジマンディアス。

 今もなお、カルナや牛若――そしてローマの戦士たちは戦っている。

 気を抜いてはいられない。

 騒がしく、しかし厳かにその日は始まった。

 

 

 そして、数時間が経過し、オジマンディアスと合流する。

「来たか。ふん、貴様が昨日参じた英霊だな」

「大英雄などとは程遠いがね。大したものではないよ」

 話をしたところ、快く同行を引き受けてくれたランサーは、オジマンディアスに然程萎縮した様子もなく接する。

 彼は自身を大した英霊ではないと言う。

 確かにステータスは平均の域を抜けないが、メルトと二人掛かりとは言えアルジュナと戦うことが出来ていた。

 彼は自己評価以上に力を有していると思うが……。

「だがアルジュナと戦い、退けたと聞く。主として戦ったのでなくとも、それは力の証明だろう」

 そんな風にランサーを評価しながら、ラーマもまたやってくる。

「ふむ……なら、それに恥じない成果を出さないとな」

 今回ローマへ向かうのは僕とメルト、ラーマ、そしてランサー。

 更にカエサルとクレオパトラが同行する予定だったらしいが、どうやら先に向かったらしい。

 自身が所属するローマの危機。すぐにでも向かいたいだろう。

「さて。貴様らにはこれからローマへ向かってもらうが……クレオパトラが炎の蛇(ウラエウス)を残している。それを使い向かうがいい。アレならば騎乗の才も必要ない」

「む? スフィンクスは使わないのか?」

「此度の件もあるからな。我が神殿も、バビロンの護りも気は抜けん。スフィンクスはバビロンにそう置いていないのでな」

 ……確かに。

 ローマで戦うためにスフィンクスを使い、その隙にバビロンを攻撃されては同じことの繰り返しだ。

 スフィンクスは英霊にも勝る力を持った神獣。

 規格外の英霊にはさすがに及ぶまいが、魔獣の群れを単騎で相手出来る力も持っている。

 エジプト領における守りの要だ。

 これまでとは状況が変わったのだ。そう簡単にスフィンクスは使えまい。

「それで、ウラエウスとは?」

「ファラオの使役する神獣の一つ、炎の蛇。我が威光の一かけらとして呼び出せはするが……この力はクレオパトラの方が向いているのでな」

 オジマンディアスが指を鳴らすと、巻き起こった炎が蛇を形作る。

 スフィンクス程とはいかなくとも、強力な神獣だ。

 ウラエウス。ファラオの王権と神性の象徴であるコブラの女神。

 騎乗スキルのないクレオパトラでも乗りこなせることから――どうやら、守護の獣というよりは騎乗物という側面が強いのだろう。

「恐らくだがな、これは此度の戦において、大きな転換点となるだろう。この特異点は貴様らにかかっていると言ってもいい」

 ラーヴァナと、その配下であるサーヴァント。

 彼女に加えてアルジュナと戦うことになる可能性も高い。

 オジマンディアスの言う通り、これは一大決戦になるかもしれない。

「此度は手柄を気にするな。エジプト領の神王として命ずる。ラーヴァナを打倒してくるがいい」

「分かった――行こう、皆」

 ラーヴァナを倒し、彼女が持っているという聖杯を奪取すれば、この特異点も解決されるだろう。

 彼女の配下である残り三騎のサーヴァントとも戦闘になると見ていい。

 間違いなく、長期戦だ。だが、負けるなどということは考えていない。

 ウラエウスに乗る。

 スフィンクスよりも面積は小さいが、荒々しさは感じられなかった。

 初対面で会話をしていたラーマとランサーもまた、それぞれに用意された蛇に騎乗した。

「サクラ。カレンと凛、カリオストロには伝えておいてくれ」

『わかりました。皆さん、お気をつけて』

 凛とカレンはそれぞれ指揮官、文官としてそれぞれ働いているらしい。

 昨夜催された小さな宴では、イスカンダルや酔ったレオニダスからよく話を聞いた。

 二人と僕は酒を手に取ることはなかったが……カリオストロはイスカンダル、オジマンディアスと共に最後まで酒を呷っていた。

 容姿以上に酒豪であるらしい。僕であればあの四分の一でさえ持つ気がしない。

 ……ともかく、三人はバビロンで役割がある上、戦闘に向いたサーヴァントを持っていない。

 未だ戦闘している姿を見ないゲートキーパーは不明だが、戦えない可能性を考えると数として数えない方が無難と言える。

 それに、ラーヴァナとの戦闘経験もある。

 僕たちが向かうのが一番だろう。

「正念場……だな」

「ああ――君が主力になる。ラーマ、頼む」

「うむ。最早こうなれば一度も二度も同じこと。必ずや打ち倒そう。そうして、凱旋した時にこそ――」

 余は、シータに会いに行くのだ。

 ラーマは口にしないながらも、それを信念として持っている。

 それを思っている限り、ラーマが負けることはない。

「帰ってからのことを考えるのか?」

「そうだ。ラーヴァナは強敵――故にこそ、心の拠り所というヤツがあった方がいい。シータを必ず連れ戻す――余がヤツと戦った時、そう思っていたようにな」

「……なるほど。であれば、僕も――」

 ランサーもまた、彼方を見やりながら何かに思いを馳せる。

 彼にも、思うものがあるのだろう。

 ――そういえば、まだランサーは真名さえも聞いていない。

 此度の事件では基本的にサーヴァントを真名で呼称しているが、このランサーは別だ。

 特に名を聞いた訳でも、それで困っている訳でもないから、気にはしないのだが……。

「それじゃあ、行くわよ。ハク、しっかり捕まっていて」

「分かった」

 まあ、今回の戦いは小さいものでは済まされないだろう。

 戦いの中で、ランサーが宝具を使い、真名に行き着くこともあるかもしれない。

 そんなことを考えているうちに、炎の蛇はゆっくりと移動を始める。

 徐々に速度を上げていき、エサギラ寺院から離れていく。

 オジマンディアスに見送られ、僕とメルト、そしてラーマとランサーはローマへと向かう。

 カルナや牛若――見知った英霊たちが今も戦っている。

 どうか、無事でいてほしい――そう、願いながら。




決戦に向けてローマへと出陣。
パーティには引き続きランサーと、更にラーマが参戦です。

最初の独白については近いうちに。
二章も終盤な雰囲気です。
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