Fate/Meltout -Epic:Last Twilight- 作:けっぺん
「よし、『
「あいよ、姐御ッ!」
翌朝、日が昇った頃、僕たちはドレイクの船に乗っていた。
聖杯を探すため、今から海に出る。
景気づけにとドレイクは一発大砲を放ち、それを合図に船は動き出した。
「……」
ようやく、落ち着いて海を見ることができた。
良い船だからか、揺れも昨日の船ほどではない。
あまり不快感もなく、辺りを眺める余裕があった。
――美しい。キャメロットでも、マケドニアでも見ることが出来なかった風景だ。
何処までも続く大海原。遥か遠方の地平線。空を気ままに飛ぶカモメ。
月の世界という、虚像の海ではない。これが、真実の海の姿……。
「んで、聖杯以外にもあるのかね? 財宝」
「あると思うよ。確証はないけど。この海域の基になった海に財宝があったならね」
「なら心配ないか。アタシが見つけた宝も一つや二つじゃない。アテはないけどそれもまた面白い」
ドレイクはこの航海の中でも、新たな宝を探しているらしい。
僕たちに協力しているだけではない。自身の利益も求めているのだ。
『あっ――』
海賊島が見えなくなり、暫く経った頃。
飽きの来ない海の景色を眺めていたところ、カグヤが声を漏らした。
「どうかしたかしら?」
『ん。前にサーヴァントいるよ。もうすぐ見えてくるんじゃない?』
そんな、最大限に警戒すべき事柄をさらっとカグヤは言い放った。
その後通信の向こうからはポリポリとスナック菓子を齧る音と、ストローで何かを啜る音が聞こえてくる。
一体どれだけオペレーターを片手間にしてエンジョイしているのか。
何か大事なことを見落としてるんじゃないかとか、そういう心配さえ浮かんでくる。
「船だ! 姐御、前方に船です! しかもあの旗――アイツらです、姐御!」
「んな!? 野郎、生きてたのかい!」
それまで暢気に鼻歌を歌っていたドレイクは、すぐさま銃を構え、臨戦態勢をとる。
「ドレイク!?」
「気を付けな! この間アタシの船を散々追い回した海賊だ。船員どもも馬鹿みたいに強い。悪いけど、手伝ってもらうよ!」
構わない。正体は不明だが、ドレイクを襲ったということは現状、僕たちも敵だということになる。
会話が不可能であれば、戦うまでだ。
「よし、ここで会ったが百年目、ぶっ飛ばしてやる!」
ドレイクは船員たちに素早く指示し、相手の船に接近する。
近付けば近付くほどに、その船の魔力が伝わってくる。
あれは宝具だ。恐らくはその海賊の船長たるサーヴァントが召喚したものだろう。
海賊のサーヴァントとなれば、必然的にその正体は絞られる。
その誰しもが、厄介なのだろうが……ともあれ、此方の戦力も強力だ。船上での戦いは慣れないとはいえ、劣るつもりはない。
「おい、聞いてんのか髭ェ!」
ドレイクが、声が届くほどにまで接近した相手の船に向かい怒号を飛ばす。
それに返ってくる声は――
「――はあ? BBAの声など聞こえませんな?」
――そんな、ぬめぬめとした、煽るような口調だった。
「――――――――は?」
「……………………え?」
此方の船の誰もが停止した。
それを好機と見たのか、船長と思しきサーヴァントが高らかに謳いあげる。
「――冒険とロマンを求めて、大航海時代の大海原を行く英霊たちがいた! 赤BBAに反旗を翻し、海賊の汚名を誇りとして名乗る豪快な奴ら、その名は――!」
ザッ、ザッ、と素早く隊列が組まれる。
横一列。並んでいるのは、五人の男女。
間違いない。その全員がサーヴァントだ。
「――パイレーツブラック!」
先頭の、先程の口上を上げたサーヴァントが気取るようなポーズを取って、名乗る。
そして……静寂に包まれた。
「……爆発遅いよ、何やってんの! 段取り決めたんだからその通りにするでござる!」
「へ、へえ! すみません船長!」
サーヴァントは後ろで何やら準備をしている海賊たちを叱咤する。
今度こそ、準備は整ったらしい。
再び気を取り直し、同じポーズと共に更に声を張り上げる。
「パイレーツブラック!」
と、同時に後ろの海賊たちが何かを起動し――
「おんぎゃあああああああああああっ!?」
巻き起こった爆発に、そのサーヴァントは巻き込まれた。
他の四人は察していたらしく、多少離れていたために難を逃れる。
そして、そのサーヴァントの安否を確認することなく、一人が叫んだ。
「ウォオオオオオオオ、パイ、レ、ツ……! ブラウゥゥゥゥゥゥゥゥンッッ!」
筋肉を蓄え、双角を生やした大柄な男性。
その手に握っていた斧を船に突き刺し、咆哮しながら、片手で帽子を直す仕草を取る。ちなみに、帽子は被っていない。
「パイレーツレッド!」
赤を基調とした派手な海賊衣装の、金髪の女性。
胸の前で腕を組み、右手のみで決めポーズらしきものを取る。
「はぁ……パイレーツグリーン!」
緑の装束に身を包んだ、至極やる気のなさそうな男性。
槍を肩に引っ掛けて放し、両手の汗を拭うようなポーズを取る。明らかに一人だけ、決める気がない。
「パイレーツホワイト!」
最後に、赤の女性と対照的な、黒で包まれた白髪の少女。
右手を胸の前に置き、さながらお嬢様のような仕草でトリを務めた。
『黒髭
そして――そのチーム名らしき至極微妙な名称を、ブラックなるサーヴァント以外が口を揃えて言う事で、その名乗りは終了した。
一連の流れが終わると、ブラウン以外が溜息を合わせる。
やっと終わった。そんな言葉が零れてきそうな、疲労の様子が見て取れた。
「まったく……こんなくだらない事を何回練習したのかしら」
「結局、何が良かったのかな、コレ。まったく理解できないんだけど」
「いやアンタらもよく愛想つかさないわ。オジサンにはこういうの堪えるわー」
思いっきりリラックスしての、愚痴の言い合いが始まった。
どうやら、この意味の分からない名乗りはブラックの発案らしい。
彼女たちは渋々付き合っていたのだろう。解放されてスッキリした表情を隠さない。
「……アンタら、何?」
すっかり怒気を抜かれたどころか、最早これ以上ない程に呆れ返ったドレイク。
その混乱と困惑から、ようやく絞り出されたのは、そんな疑問だった。
「ふっ……流石はフランシス・ドレイク……始まる前、から、拙者をこれだけ、追い詰めるとは……!」
「いや、アタシ何もしてないけど。本当に何もしてないけど」
煙の中から、爛々と目を輝かせ、不敵な笑みを浮かべながら、サーヴァントは再びその姿を晒した。
勝手に戦慄しているが、此方はそもそも状況すら掴めていない。
この……いや、この……サーヴァントは、うん。なんなんだろう。
「生きてたんだ。まだ生きてたんだ」
「何メアリーたん、心配してくれたの? きゃっ、拙者うれぴー!」
「ねえアン。もうコレ海に投げ捨てておこうよ。生かしておいても絶対良いことないよ」
「駄目よメアリー。ミミズだってオケラだって生きてるんだから。それ以下の存在でもきっと生きる権利はある筈よ」
「デュフフ、相変わらず手厳しいですなお二人は! そんな冷めた目で見られたら拙者傷ついちゃう! でも負けない、黒髭だもん!」
……少し、吐き気のようなものを覚えた。
心なしか頭痛がする。もしかして、海賊だと――サーヴァントだと思っていた彼らはこの海域に迷い込んだお笑い芸人だったりするのだろうか。
「……ま、良いんじゃないの? 死んだら死んだで困るし」
「ヘクトール氏は優しいでござるなぁ、拙者そっちの趣味はないですが、海賊はその手の輩多いし? 他の船でもやっていけますぞ! あ、ちなみに拙者はこの程度なら何度でも蘇るのでセーフ、ガッツあるしね!」
「なあアンタら、辛くない? こんなのの下にいて気ィ滅入ったりしない?」
二人の女性と、緑の男性からは苦労がありありと見て取れた。
しかし……彼らの発言。そのチーム名らしき名。
僕の聞き間違いでないならば、それは紛れもなく、世界最高峰の知名度を持つ海賊の異名だった。
「黒、髭――エドワード・ティーチ……?」
「ん?」
あまり向けられたくない視線が、此方に向けられる。
「んー、まさか本当の名を知られてしまうとは……拙者、掟により名前がバレた時は元の世界に帰らないとならないのでござるが」
「誰も困らないと思うよ、船長」
「辛辣ゥ! ま、しょうがにゃいにゃぁ……然り、この黒髭ことエドワード・ティーチ、名を知られることで発動する脅威の必殺技を遂に見せる時が来たってことで!」
「設定がグシャグシャですわ。まるで船長の見た目みたいに」
何処までも辛辣に、何処までも容赦なく、女性二人は“船長”にツッコミを入れる。
蓄えられた黒い髭。獰猛な性質を……一応は隠さない瞳。
ドレイクという海賊らしい海賊を知っている以上、非常に認めたくないのだが……どうやら、彼はエドワード・ティーチその人らしい。
大航海時代の後、海賊時代に生を受け、後世における海賊のイメージを決定付けた海賊黒髭。
その恐ろしさの一切は、目の前の男からは感じられなかった。いや、ある意味恐ろしさは感じているが。
「――――ん? んん?」
そして、その目が動き――デオン、マリー、カレン、メルトと順に向けられる。
デオンとメルトがその瞬間一歩後退ったのを見逃さない。
「……ふむ。男の娘、男装、どちらでもないと見た。寧ろそういった概念を超越した、“どちらでもある”――されど両性具有とはまた違う。男にも女にもなれる存在、なるほど……そういうのもあるのか。いや良し、あの中では唯一の金髪女騎士、くっ殺属性も十分に才能アリ! 九十点!」
「…………は?」
ふしゅー、ふしゅーと鼻の穴を広げながら――多分、デオンをそう評した。
デオンが自身の体を隠すように、身を抑えて僅か体勢を低くする。
「そして……そっちは……むぉぉ、眩しい! 高嶺の花とはこのことか! それを評するのはちょっと間違っているような気もしなくもないでござるが、手に入らぬからこそ美しいものもある。あの王宮に飾られし人形の如き純真無垢さ、ゆえにこそのキラキラ……!」
「あら、お分かりになって? えっと……ムッシュ・クロヒゲ、だったかしら?」
「ゴフゥ……! 天然……ッ! あそこまで純粋な笑顔を向けられると逆に圧されるというか……否、ここで折れては海賊の名折れ! 拙者としては見出した無自覚サドッ気と女王様気質を高く評価したいっ! 属性盛り過ぎな気がするけど九十五点!」
どうやら、あの言動にも一切嫌悪感を感じていないらしい。
というより……多分、あれは何を言っているのかわかっていないだけか。
そして――カレン。
「――来た! 無知っ子キタ! これで勝つる! フヒヒお嬢ちゃん、お菓子買ってあげるから一緒に来ない?」
「……」
「知らない人には付いていってはいけないと言われているので」
「んんんんんん、教育がしっかり行き届いてるっ! いや、うん、良し! 寧ろこういう子の知識と判断の穴を突いて……デュフフフフフフッ! いや失敬wwwここは今後の成長にも期待を込めて九十点とさせてもらいますぞ!」
きっぱりと告げたカレンに安心はすれど、この状況に一切安心はできなかった。
寧ろ……この流れは……。
「……」
「……」
「……」
メルトが一歩、下がったと同時――
「――フォオオオオオオオオオオオオ!?」
「きゃっ!?」
眼を大きく広げ、黒髭は吼えた。
「おかしくなっちゃいそう! 心臓が破裂しそう! これぞ正しくディスティニー! エウリュアレたんとはまた違う一つの芸術の極みっ! まずあの厳しそうな目からサディストだと一目でわかるよね。だけどその実マゾッ気もあると見た。そのプライドと高飛車さ、正にテンプレ、しかしそれを突き詰めることは決してマイナスポイントにはならない。デュフ、デュフッ! ぜ、是非お近づきになりたいっ!」
「――――」
「あ、良い! その目イイ! 強気な娘が時々見せるそのちょっと恐いモノを見た感じの目! それが拙者に向けられることが残念でござるが心配ご無用、実は拙者これでも紳士的な愛を備えておりますゆえ。ブヒヒ、不安から内股になる細かい萌えポイントもしっかり押さえておりますな! 大腿から臀部にかけてのラインは筆舌しがたい美とエロスを――」
「
「んほぉおおおおおおおおおお――――――――ッ!?」
――気付いた時には、顕現させたガウェインの聖剣を力の限り振り抜いた後だった。
むしゃくしゃしてやった。反省は絶対にしない。
何も考えず、咄嗟に放ったため威力が伴わなかったことが残念でならない。
確実にアレを消し飛ばせるくらいの力を込めるべきだった。
「グフ、拙者は滅びんよ。何度でも蘇るさ! さあかわいこちゃんたち、名前を聞かせるでござる。さもないと――」
「さ、さもないと……?」
「拙者、今夜寝る時に君たちを夢で見ちゃうゾ?」
「メルトリリス! メルトリリスよ!!」
「知らない人に名乗るなと――」
「今すぐ名乗って! こういう場合は!!」
「……? はい。カレン・ハクユウです」
「マリー・アントワネットよ。ところで、何故皆焦ってるの?」
「デオンだ! 王妃、貴方はもう少し緊張感を持ってください! それと私の後ろへ!」
……なんと、今まで類を見ない脅しだろうか。
対象でない僕でさえ怖気が走った。とりあえずカレンを後ろに隠し、メルトにも促そうとして――
「メルトリリス……メルトリリたん……デュフ、蕩けてしまいそうな名前ですな! 今日の貴女は可愛いのよ、なんちて。フヒヒ、これは拙者ベッドの上で騎乗スキルを発動してほし」
「
「らめええええええええええええええ――――――――ッ!?」
今度もまた咄嗟のものだったが、先程より力を込めることが出来た。
そして、次の一撃を与えようとしたところ、シンジに思い切り止められる。
「お、落ち着けよ紫藤! これ多分アイツの作戦だぞ!」
「放してくれシンジ! そうだとしても……っ!」
「クク……メルトリリたんへの気持ちは燃え上がる! この炎こそ拙者の情熱の証明! 感謝しますぞ!」
「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁ――――!」
「落ち着けって紫藤!」
何てことをしてしまったんだ、僕がまさかあの暴走に拍車を掛けてしまうなんて――!
そういえばメルトが先程から静かだ。
まさか、と思いメルトを見る――
「――メルト!」
「……は、はく」
「メルト?」
「……………………はく。たすけて。ふるえて。からだ。うごかない」
――今まで一度も見たことのない、混沌とした恐怖を映した表情で震えていた。
もう怖いとかそういうレベルではない。それは、明らかに人に相対したものではない。悍ましい神話生物を前にしたときでさえ、ここまでメルトが震えることはないだろう。
その目に涙を浮かべつつも、決して流すまいとする一片の矜持だけが、メルトを支えていた。
そして、その様子を見て――スイッチが入るのを自覚した。
「……メルト。大丈夫、安心して。メルトには指一本触れさせない」
「は、ハク……?」
「絶対に、触れさせない」
嫌悪感はある。サーヴァントに対して、マスターが前に出るべきではないというのも分かっている。
だが、それよりも今、僕の中で『メルトを守る』ことが最優先となった。
ゆえに、確定した。
アイツは――エドワード・ティーチは、僕が倒す。
「はぁ~~~~~~~~? 何主人公みたいなコト言っちゃってんですかぁ? 拙者どうせならメルトリリたんと戦いたいのですがぁ? 大人しくすっこんでてくれませんかねぇ?」
「黙れ。メルトとカレンに汚らしい目を向けるな。絶対にオマエは、僕が倒す」
思えば――これほどの敵意を抱いたのはあの女以来か。
此度の殺意、害意とどちらが上だろう。
いや、そんなことはどうでもいい。
あの男を打倒するという意思は確かなものだ。
誰かが幼いと言っていた心。されど大切な家族に向けられる獣欲を看過出来るほど、何も知らぬ心ではない。
「うわ、ギャグの中で空気読めてないみたいになってるでござるよ。地の文までまともになっちゃって。いや、この場合空気読めてないのは拙者の方……!?」
「今更だよ船長」
「本当。あちら側が正しいのですよ。ちょっとは真面目になってくださいまし」
「ラジャー! デュフ、総員突撃! エウリュアレたんを見つける前の景気づけでござる!」
「チッ……接舷する――! 野郎共、アッチのヤツらにお前らの攻撃は効かない! 下がってな!」
銃に弾丸を装填しつつ、ドレイクは船員たちに命令する。
そうしている間にも、黒髭の船から投げられた網が、『
「アンタたち、悪いけど少し力を貸しとくれ! アイツらをぶっ飛ばす!」
「BBAの船団に遅れを取る我々ではありませんぞwwwヘーイピッチャービビってるー?」
「間違えた! ぶっ殺せ! 特にあのボケ髭だけは生きて帰すな!」
「やれやれ。物騒な話だ。じゃあ、僕も逃げるから君たちで頑張ってくれよ?」
「貴様も手伝えアマデウス! サーヴァントなんだから何かしら出来るだろう!」
最初に跳び上がったのは、ブラウンと名乗った巨大な男。
血色の脈が走る斧を振り上げ、男は咆哮する。
「ギギギ……オオオオオオオオォォォォォ――――!」
彼が船に乗り込んできたのが狼煙となり、この特異点最初のサーヴァント戦が始まった。
※今回の問題発言は全て黒髭の所感です。
けっぺんは一切関与しておりませんのでご理解ください。
しかし、黒髭に喋らせたら止まらないの何の。
いつまで経っても話が進みやしない。一番進展の無かった一話じゃないですかね、今回。
という訳で初めてのナンバリングとさせていただきました。いいのかそれで。
さて、三章の主要敵である黒髭一味の登場です。
少々原作であるFGO三章と話の順番が入れ替わっていますが仕様です。