Fate/Meltout -Epic:Last Twilight- 作:けっぺん
FGOという下地がある以上、三章くらいは短い間隔での更新を心掛けたいところですね。
――眠りから、覚醒へと近付くのを感じる。
だが、少しだけ違和感を感じた。
昨日の――カグヤに妨害をされるという事態がありながら、今日顔を見せることがなかった。
何故なのだろう、と考えるより先に、意識は表側へと急速に向かっていく。
「目覚めましたか。六時間二十分。やや余分がありますが、疲労と精神的な負担が大きい様子でした。その事を踏まえれば、もう少し休んだ方が良いのではないでしょうか」
その日最初に聞こえてきた声は、月に住まう家族の一人のものだった。
ドレイクの船の一室。波に揺られながら眠るのはどうにも慣れなかったが、一度意識を落としてしまえば朝まで目覚めることはなかった。
目を開ける。隣に眠るのはメルト――そして、ベッドの傍に、彼女は座っていた。
「……ヴァイオレット?」
「おはようございます、ハクト。メルトリリスも――目覚めたようですね」
「あら……ヴァイオレット……?」
「あぁ……おはよう、ヴァイオレット。どうしてここに……?」
本を片手に椅子に座る長身のアルターエゴ――ヴァイオレットは、眼鏡の奥からその魔眼を此方に向けていた。
『頼まれたのであたしが下ろしましたー。一人くらいはリソースも余裕があるしね』
「不測の休養をいただきましたが、今特異点より作戦に復帰いたします。カグヤが目覚めているのは……本当に、予想外でしたが」
はぁ、と溜息をついて、ヴァイオレットは説明した。
彼女はカレンの最初の特異点に同行し、そこで何があったのか、心労で倒れてしまっていた。
よってマケドニアでは不参加だったのだが、ようやく回復した、ということだろう。
「特異点の状況はカレンより聞きました。私の仕事ですから、カレンの護衛は続行します」
「心強い。頼む、ヴァイオレット」
彼女の戦闘能力は、アルターエゴなだけあってかなりのものだ。
特異点攻略においても、とても大きな力になってくれるだろう。
目覚めたメルトとヴァイオレットを連れ、甲板に出る。
カレンとシンジはまだいない――何人かの船員と、ドレイクが潮風を浴びていた。
「ああ、起きたかいハクト。ちょうどいいところに」
「おはよう、ドレイク。何かあったのか?」
「ん。空気の味が変わったんだよ。海賊は気温や海流を味で感じられるものさ。違う大陸、違う陸地に来たってことさね」
――確か、この海は様々な海域が確認されているのだったか。
であれば、今までいた海域から別の場所へと移ったということだろうか。
「海図の通りなら、この先に島がある筈だ。カグヤっつったっけ。どうだい、何かわかるかい?」
『んー……サーヴァントの気配があるね。二騎ほど。なんか変な魔力の動きがあるけど』
「変な魔力の動き……? 宝具か? それとも戦闘中?」
『ん、分かんない!』
「……間違いなくオペレーターの人選ミスですよ、ハクト」
「いや……カズラを犠牲にしたくなくて……」
本当に、このオペレーターでこの特異点を乗り切れるのか。ある意味、最大の不安だ。
サーヴァントがいるのは分かったが、不安の対象であるそれがまったく分からない。
「……ま、いいや。そのサーヴァント、ってのがいるならとりあえず船を進めるよ。そのいつの間にかいたカレンの護衛ってヤツみたいに力になってくれるなら幸運だ」
行き当たりばったりだが、ティーチと戦うのに、戦力は多い方が良い。
そのサーヴァントが、味方になってくれる存在か、敵なのかは分からないが……。
「そういえば、昨日あの髭が言ってた聞き覚えのない名前のヤツも、サーヴァントなのかい?」
「っ……」
髭、と聞いただけでメルトが小さく震えた。
ひとまず、安心させるべく肩に手を置き、何を言っていたか、と思い出す。
出来れば一瞬たりとも思い出したくない存在だが、考えてみれば――誰かの名を言っていたような。
「確か――エウリュアレ、だっけ」
「ッ――――――――!?」
ティーチが執着していた節のある名前だった――口に出した瞬間、先程のメルトよりも震えた者がいた。
「……ヴァイオレット? どうしたんだ?」
「い、い、いいいいいいえ。何か、私とは違う何か。私の根底が心の底から怯えたような。妙な動悸が止まりません」
「ああ……エウリュアレって確か……」
そうか。エウリュアレと言えば、ギリシャ神話におけるゴルゴン三姉妹の次女だ。
形のない島に住まう、真正の女神。
そして、他でもない、メドゥーサの姉。
ヴァイオレットを構成する女神の一柱と、因縁どころか血縁関係のある存在なのだ。
ヴァイオレットがこんな反応をするのは初めてだ。
恐怖……のような、忌避……のような。どうにも例えようのない表情で、ヴァイオレットは身震いしていた。
「……大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫です。まだ、そのエウリュアレがこの特異点にいると確定した訳ではありません。いたとしても、遭遇しない可能性もある。ふ、ふふ……」
おかしい。ヴァイオレットが明らかにおかしい。
BB辺りが見ていれば、揶揄うのをやめて本気で心配しだすレベルだろう。
「あー……とりあえず、向かうよ?」
「あ、ああ……頼む」
何やら察したのか、追及はしないでくれたドレイクに感謝する。
どうやってヴァイオレットを落ち着かせようか――。
そして、エウリュアレにもし遭遇したとしても、ヴァイオレットの心労の種にならないよう。
そんなことを考えながら、新たなる島への到着を待った。
その最中――
「ところで、ヴァイオレットだっけ? どうやってこの船に来た訳?」
『あ、それあたしのおかげ。他にも、色々そっちの世界に物資を送ったりできるよ』
「へえ? ラム酒とか、肉とか?」
『ん。あと、こんなものとか。ほら、胡椒』
「こりゃ凄い。瓶一杯の胡椒だ。便利なもん――――でえええええええええええええっ!?」
「カグヤ! ドレイクが卒倒した! そういう事するならその時代の価値とか考えて!」
――この時代、胡椒は同量の黄金にも勝る宝だったという。
その事を知っているのか、知らないのか。
カグヤの悪戯で水平線の彼方まで届かんばかりの叫びを上げて倒れたドレイク。
その叫びでカレンやシンジたちが焦って甲板に出てくることで、島に辿り着く前に全員が揃ったのであった。
「――――!」
島に辿り着いた瞬間、カグヤの言っていた魔力の動きを肌で自覚する。
「これは――」
「結界……!」
結界の内部に入り込んだ――というより、僕たちが入ったと同時に、結界が発動したのか。
「あ、姐御! 船が動きません!」
「はぁ!? 何を……なんだいこりゃ。ガッチリじゃないか」
船が動かない――脱出が封じられているのか。
恐らくは、この島にいるというサーヴァントの能力だろう。
「……どうする? ハク」
「行くしかない。結界を張ったのがこの島のサーヴァントであれば、どうにか解かせないと」
防衛のための発動だとすれば、まだ出会ってみるまで、協力してくれる存在かは分からない。
数は二騎。慎重に動くに越したことはないが、対処できない数ではない。
「んじゃ、とっととその結界とやらを解除してもらうよ。野郎共、アンタらはここで待機してな。何処にいるか、直感――向こう!」
「あっ、ドレイク!」
「ああ、もう……! サンソン、デオン。ここで待機だ。船員たちの護衛をしてくれ」
シンジがサンソンとデオンに命じ、走ってドレイクに追従する。
直感に任せて進むドレイク。
カグヤに聞けば、とりあえず反応の位置くらいは調べられるだろうが……。
何も言わないということは、方向は合っているのだろう。
――随分と広い島だ。
幾らか古い建造物があるが、どこも人の気配はない。
「……あ、あった。これだこれ!」
その建造物のどれにも興味を示さなかったドレイクだが、ふと視界に入れた洞穴に躊躇せず入っていく。
「……何なんですか。どうして断言できるんですか」
「多分、勘以外に理由なんてないと思うよ。コイツ、そういう奴だから」
このメンバーの中で誰よりもドレイクを知っているであろうシンジは、彼女の直感も信頼し得るものなのだろう。
その洞穴の内部は、さながら迷宮だった。
人工物であるのは確かだが、この魔力に満ちた空間――間違いない、この結界の中心点だ。
「へえ。結構なダンジョンじゃないか。宝の一つや二つありそうだ。行くよアンタら!」
「ええ! 楽しみよ! 何が待っているのかしら!」
「あ、マリー!」
決して物怖じすることなく、ドレイクは奥へ奥へと進んでいく。
マリーは遠足感覚だ。この先に待ち受けるものを期待しながら、どんどんと先に進む。
一応、進んだ道のマークはカグヤに任せ、僕たちもドレイクに続く。
途中、動く骸骨やら魔獣やらがいたものの、サーヴァントたちに加え、聖杯により神秘への攻撃を可能とするドレイクがいる以上、相手になるものでもない。
そうして、迷宮を歩き始めて数十分。
「――――――――」
近くから聞こえてきた、唸り声。
地の底から響くようなそれは、サーヴァントのものか。
「……いよいよだね。とびっきりのヤツとご対面だよ」
曲がり角を曲がり、そして――見つけた。
「……大きい」
「ひゅう。薄々勘付いてはいたけど、牛の面にこの迷宮。間違いないな」
カレンが思わず、感嘆の声を漏らした。
アマデウスの口笛で、その巨体が此方に振り向く。
顔を覆う牛の面。それぞれの手に持つ、その体躯と同じくらいの大きさはあるだろう大斧。
無数に傷のついた、浅黒い肌。
「……ぅ」
「あら……見つかっちゃったのね」
そして、その傍に寄り添う、巨体の半分もない体躯の少女。
紫の長い髪を左右で二つに纏めた、古めかしくも優美な装束を纏う彼女もまた、サーヴァントだ。
「ッ、……」
ヴァイオレットが、息を呑む。
姿は知らないまでも、やはり己を構成する存在は覚えているのだろう。
「……メドゥーサ?」
「――いえ、私は……」
怪訝そうに、少女は幼い声で、ヴァイオレットをそう呼ぶ。
確定だ。彼女こそエウリュアレ。
女神たる少女は、その怪訝な表情を一瞬、歓喜に変え――そしてすぐに怒りへと転じる。
「メドゥーサ! メドゥーサね! 貴女何してるのよ、こんなところで!」
「いえ、ですから、私は正確にはメドゥーサではなく――」
「口答え!」
「はい、すみません!」
……なんだろう。
初対面である筈なのに、一瞬で彼女とヴァイオレットの力関係は確定した気がする。
道理、理屈を重んじるヴァイオレットが、初めて出会った者に対し、完全に圧されている。
仕方あるまい。エゴたちのように、互いに複雑な感情を抱いていながらも、同等として見る、という関係が姉妹の全てではないのだろう。
少なくとも、ゴルゴン三姉妹のうち、エウリュアレとメドゥーサに関しては、こういう間柄だったのだ。
「それで、駄メドゥーサ。
「だ、駄メドゥーサ……!? い、いえ。上姉様は知りません――って、何故自然と姉様と――」
「………………よく見たら、女神複合体じゃない、貴女」
「だからそう言っているじゃないですか!?」
「……コイツ、こんな大声出せたんだな」
うん、僕もそう思った。
あのヴァイオレットが翻弄されている。
いや、割と事件に巻き込まれる時はそんな役回りな彼女だが、それでもここまで一方的なのは珍しい。
しかし……エウリュアレは、誰に説明されるまでもなくヴァイオレットが女神複合体であることを見抜いた。
女神特有の感性があるのだろうか。多分、聞いても分からないのだろうが。
「メドゥーサと、あと二人は知らないけど…………そう。貴女、そんなモノを……」
「……? なんですか?」
「……なんでもないわ。そのくらい察しなさい、駄メドゥーサ」
「り、理不尽……」
「ぅ……えうりゅあれ、しりあい?」
「いえ、知らないわ。だけど、戦わなくて良いわよ。この連中、アレとは関係なさそうだし」
巨躯のサーヴァントが、その体型に似合わぬあどけない声色で、エウリュアレに問う。
「で? よく分からないけど、アンタらがこの結界とやらを張ったのかい?」
「そうだけど? なに、まだ理解できてなかったの? 冒険さえ碌にしてない三流海賊かしら?」
「こ……このガキ……」
分からなくても仕方がない。
ドレイクは英霊ではない生身の姿であり、生前魔術の見識があった訳でもない。
サーヴァントという神秘の存在に触れている、現状が異常なのだ。
「まったく……数ばかりは立派ね。人間までいるし、そっちは――」
「……?」
エウリュアレの怪訝な目が向けられる。
僕、そしてカレンと移り変わり――自分には関係ないと首を横に振る。
「……ま、いいわ。それで、何の用かしら? 貴方たちも、あの下賤な男と同じ?」
「下賤なって……誰の事ですか?」
「はあ? 知らないの? 躾のなってない、究極最低なド変態サーヴァントのことよ!」
「……とりあえず、誰の事かは分かったな」
ティーチはエウリュアレを追い求めていた。
或いは――それでここまで逃げてきた、ということだろうか。
「僕たちはこの海の異常を払うため、そしてあのサーヴァントに対抗するために、力を貸してくれるサーヴァントを探してる。君と、そっちのサーヴァントは――」
「……あまり巻き込みたくないんだけどね。この子はただここにいただけだし。どうする? アステリオス」
エウリュアレは牛の面のサーヴァントに聞く。
アステリオス――それが、彼の真名か。
生まれついての魔獣であり、反英霊。ラビリンスの怪物。
ミノス王の望まれぬ子どもとして迷宮に幽閉され、英雄テセウスに殺されるまで怪物を宿命付けられていた悲しき存在。
神話においてその
より知られた名を――
だが、見る限り、神話で謳われる凶暴性は見られない。
「えうりゅあれが、いくなら、ぼくもいく」
アステリオスはその牛の面を外し、その幼い素顔をエウリュアレに向ける。
肉体の巨大さはともかくとして――顔つきも、言動も、子供そのものだ。
「私も行く気はなかったんだけど……メドゥーサがアレを抱えているなら……まあ、仕方ないわね」
「アレ……? 何のことです?」
「分からないなら、分からないままでいいわ。自覚しないのが一番だもの」
何処か――物悲しい目のエウリュアレは、ヴァイオレットから視線を外し、ドレイクに向き直る。
「で? 貴女が船長?」
「ん、ああ。フランシス・ドレイクだよ」
「いいわ。メドゥーサの目付もしなきゃだし」
「いえ、私に目付は必要ない――あ、はいごめんなさい。付いてきてくださるならば、光栄です」
「よろしい」
エウリュアレが微笑みを向けるだけで、反論をしようとしたヴァイオレットは折れた。
もしかすると――ヴァイオレットはこの特異点が終われば、また心労で倒れるかもしれない。
今回はカレンでもゲートキーパーのせいでもなく、構成女神の血縁という複雑な関係で。
「船には女神の加護が必要でしょう? 船首に括られる気はないけれど、私が同乗してあげる」
「話が早い。どうやらアンタのおかげだね、ヴァイオレット」
「…………はい」
何事も起きなくて良かったが――ヴァイオレットの頭痛の種は増えた。
――来なければ良かった。ヴァイオレットの内心が、不思議とよく伝わってきた。
「私は女神エウリュアレ。ゴルゴン三姉妹の次女。そして、こっちが――」
「……あすてりおす」
「はい。自己紹介は終わりね。肩に乗せなさいアステリオス。結界は解除出来るわね?」
「ぅ……」
アステリオスの巨体は、肩にエウリュアレを十分乗せられる。
どうやら彼は穏やかな性質のようで、大人しくエウリュアレに従い、彼女を乗せた。
「あら、駄メドゥーサより高いじゃない。天井に私の頭が擦れないよう気をつけなさい」
「ん……わかった」
「あっはは! 注文の多い女神様だねえ!」
彼女がいなければ、エウリュアレもアステリオスも仲間になってくれたか分からない。
やはり、ヴァイオレットの参戦は非常に大きかったといえる。
……本人の心情は、まあ別として。
ヴァイオレット参戦、そして当然の如くエウリュアレの餌食になりました。
三章の癒しコンビことエウリュアレ、アステリオスの登場です。
既に過剰戦力感が見え隠れしていますが、勿論、“彼ら”も登場します。