Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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三章の後半はギャグが少なめなのでギャップで微妙に書きにくさを感じています。
おのれ黒髭。


第十一節『人類最古の海賊船』-1

 

 

「ど、どうどう! アステリオス! 鎮まり給えー!」

「ぅ、ぅううううううううううッ!」

 ヘクトールが此方に気付き、振り向く。

 最早我慢ならないとばかりに飛び出そうとするアステリオスを、オリオンはその小さな体で必死に抑えている。

「はなせ、はなせ、はなせえええ!」

「分かった! 離してやるからもうちょっと待て! 十秒前! 十、一、ゼロ!」

「ダーリン手抜きした!」

「ぬいぐるみだもん抑えられる訳ねえよ!」

 振り解かれ、吹っ飛ばされるオリオンをアルテミスがキャッチする。

 マズい、如何にアステリオスとは言え、単独で先行するのは危険が過ぎる。

 船の大きさからして、サーヴァント全員を攻め込ませることは出来ないが――

「私も出ます!」

「ヴァイオレット!」

 接近した小舟にアステリオスが着地すると同時、ヴァイオレットも飛び出す。

 此方からは援護しか出来ないか――彼女たちを信ずるほかない。

「アステリオス! メドゥーサ!」

「えうりゅあれ!」

「助けに来ました。ヘクトール――下姉様を離してもらいます」

「……随分と早いじゃないの。いや計算違いだ。もうちょっとだったんだけどねぇ」

 遂に追い詰められ、これ以上逃げる手段も無い。

 危機的状況である筈なのに、ヘクトールは余裕を崩さない。

 エウリュアレを小脇に抱えたまま、片手で槍を回し、戦闘態勢に移行する。

「だけどまぁ、だったら持ち堪えりゃ良いだけだ。オジサンねぇ……守る戦いってのは、イヤになるほど得意なんでな!」

 不意打ちの如く放たれた、ヴァイオレットの鞭。

 それを槍の一振りで防御し、続くアステリオスの斧を機敏な動きで回避する。

 捉えた――そう思って放った弾丸は、石突で弾かれる。

 対魔力を備えたサーヴァントでも、命中すれば僅かに動きを止める。その特性を知っていたのか、或いは単純に攻撃と判断したのか。

「はっ――!」

 ヴァイオレットの苛烈さは、かつて――月の裏側での彼女との決戦を思い出させる。

 サーヴァント数騎を相手取れるほどの戦闘能力。両手を無数の繊維に変え、その全てがヘクトールを睨み据える。

 だが、そのヴァイオレットを以てしても、ヘクトールを攻め切れない。

 小さな船を縦横無尽に駆け回り、決してヴァイオレットの視界に己の全体を入れないよう、注意しているような節さえある。

「その魔眼、喰らったら流石に厄介なんでね。アキレウスから逃げ続けた脚は伊達じゃねえぜ?」

 先程の戦いで、ヘクトールはヴァイオレットの魔眼を確認していたのか。

 魔眼を対策し、その上でアステリオスとヴァイオレットを相手に守戦が出来ている。

「ええ――アキレウスが苦戦した理由も分かります。その悪辣な戦い方ならば、当然でしょうね!」

「悪辣結構、トンズラにトンズラ重ねて、最後に立ってた方が勝者ってな。いやあ、生前は欲が出たわ。不死を考慮しなきゃ勝てる――なーんて、ほんの少しでも考えちまったからなぁ」

 呑気に生前を語るヘクトール。

 彼は、大英雄アキレウスを相手に幾度となく交戦を繰り広げたトロイアの守護者だ。

 撤退を重ね、アカイア軍を苦しめた彼は取り分け守勢に特化しているのだろう。

 守りにおいてはヴァイオレットであっても攻め切れない。

 アステリオスの二本の斧を、ヴァイオレットの無数の繊維を、エウリュアレを抱えた上で相手取る凄まじさ。

 このまま押し切れる確信はない。せめてあと一騎、あの船に乗り込めれば――

「えうりゅあれ!」

「やれやれ、煩いねえ……そんなに欲しけりゃ返してやるよ、ほら!」

「きゃっ!?」

「なっ――!」

 突然のその行動は、あまりに予想外だった。

 エウリュアレを軽く放るヘクトール。

 それを誰もが目で追い、しまったとヘクトールに視線を戻した時には、既に槍を逆手に持ったヘクトールが二人から距離を取った上で強大な魔力を現出させていた。

「単純だなあ、バーサーカー!」

 宝具――――!

 一体どういう仕組みなのか、ヘクトールの籠手から魔力が噴き出し、その一撃の威力を底上げする。

 エウリュアレを繊維で受け止めるヴァイオレット。しかし、それにより宝具への対応が出来なくなっている。

 狙いは命中を確信しているらしいアステリオス。その前に盾を展開するも、それでは恐らく話にならない。

「ぅ……?」

「標的確認、方位角固定――!」

 両手を繊維化させている今、ヴァイオレットは咄嗟に眼鏡を外すこともできない。

 防御は不可能である、その状況をエウリュアレをも利用して作り上げたヘクトール。

 このままでは――盾に集中しながらも、シンジに目を向けると言われなくとも、と手を翳す。

shield(防御)! アマデウス!」

「良いとも! よく見ておくといい、これが音楽魔術さ!」

 これで盾は二重。

 そして宝具が発動する直前、アマデウスが指揮の如く腕を振るう。

「――弱化(ピアニッシモ)!」

「吹き飛びな――不毀の極槍(ドゥリンダナ・ピルム)!」

 後方に噴出する魔力を推進力に、速度と威力を極めた投槍が放たれる。

 寸前にヘクトールに絡みついた、アマデウスの音楽魔術。

 その効果が成立し、阻害をして尚、僕とシンジの盾を容易く破る。

「ぉぉおおおおおおおおおおっ!!」

 しかし、三重の妨害は功を奏し、力を失った槍はアステリオスの斧によって弾かれた。

「……チッ、アイアスの小坊主以外にゃ防がれない自負はあったんだがね。だいぶ投げる力が落とされた。厄介な魔術だ」

 弾かれるとしても、その方向は計算していたのだろう。

 自身に向けて飛んできた槍を受け止め舌打ちするヘクトール。

 決定的だったのは、アマデウスの音楽魔術か。

 あれはごく僅かな時間のみの、強力な弱体魔術だ。

 似た効果のコードキャストは修得しているが、その効果は段違いだ。

 僕ではあの宝具の投擲をここまで弱体させることなど出来ない――

「ま、今回はオジサンの粘り勝ちだ。いやはや疲れた疲れた。腰にくるねえ、戦いってのは」

 宝具は防がれ、エウリュアレは奪還された。

 だというのに、ヘクトールは飄々とした笑いを浮かべ、勝利を宣言した。

「あ、姐御! 前方に船が一隻! 見たことのない船です!」

『サーヴァント反応も三騎! これってもしかして――』

「大正解だよ、オジサンの上司って奴でね。さあてどうするね? 接近してくるぜ?」

 彼方に見える、凄まじい速度で近付いてくる大船。

 それは、ティーチの宝具を遥かに上回る魔力を持っていた。

「クソ、とにかく攻撃だ! 大砲用意! 撃ぇえええええええええい!」

 放たれた大砲。ヴァイオレットの宝具によって、サーヴァントにも通用するだろうそれは、しかし容易く防がれる。

 その姿をはっきりと確認する。

 『黄金の鹿号』を超える大きさ。そして、その船首に立つのは古風な装束に身を包んだ、金髪の男性。

 

「――あっはっは! なんだアレ、あのバカでかい獣人は!」

 

 サーヴァントは、手打ちしながら不遜な言葉でアステリオスを嘲笑する。

「あの方、恐らくアステリオス様でしょう。ミノス王の子たる、天性の魔ですわ」

「ああ、ミノタウロスか。人間の出来損ないでもサーヴァントにはなれるんだな。英雄の武勇伝の肥やしになるしか役目のない愚物でも!」

 その傍にいる少女もまた、サーヴァントだ。

 長い紫の髪を後ろで一つに括る、大きな杖を持った少女。

 装備からしてクラスはキャスター。どうやら、青年に付き従っているらしい。

「で、ヘクトール。見たところ大勢に狙われてピンチだが、助けは要るかい?」

「そうですねぇ。一つ助けてほしいですね。守り切るにしても、どうにも狭いんで、やりづらかったんですよ」

「構わないとも! 女神は――ふうん、奪われたか。まあ良いさ、聖杯はあるね? なら女神を取り戻そう。せっかくだし、ここでその愚か者たちと決着をつけようじゃないか!」

 ヴァイオレットとアステリオスは『黄金の鹿号』に戻ってくる。

 あちらは戦意を露わにしている。すぐに逃げることが出来ない以上、迎撃が必要だ。

 ならば戦場は広く、僕たちもまた戦える方が良い。

「おい――ドレイクの姐ちゃん」

「なんだいオリオン、どうでも良い話なら後にしとくれ!」

「……これは警告じゃねえ、指示だ。今すぐ逃げろ。無理でも逃げろ」

 低く、今までにないほどに真剣なオリオン。

 その目は敵の船に向けられている。苦々しい表情で、在ってはならないものを見るように。

「……どういう事だい?」

「ありゃあアルゴー船だ。金羊の毛皮を手にせんために旅立った、ギリシャの英傑たちの船。言わば、人類最古にして最強の海賊団だ」

「アルゴー船――!?」

 円卓の騎士。シャルルマーニュ十二勇士。

 サーヴァントとして召喚されれば、誰であろうと強力だという一団がある。

 アルゴー船に乗った英雄たちも、また同じ。コルキスにあるという金羊の毛皮を入手しに向かうため、造られた大船、アルゴー船。

 それに乗ったのはギリシャ屈指の英雄たち。神話に名を残した、大英雄の集合。

「……アルゴー船の英雄たち(アルゴナウタイ)。つまり、アイツは――」

「アルゴー船の船長、イアソン……!」

「いあ、そん、いあそん……!」

 名を呼ばれた青年――サーヴァント・イアソンは不快に顔を歪める。

「不敬な。ミノタウロス、私の名は畏怖と崇拝を以て呼称されるもの。礼儀を知らない魔獣が呼んでいいものではない」

 アステリオスが自身の名を呼ぶことが、そもそも間違っている。

 そう言わんばかりのイアソンは、しかし、再び愉快そうに破顔する。

「だが、許そう。醜悪な魔獣よ。英雄として君を倒してあげよう、掛かってきなさい!」

「どうするんですかい? キャプテン。このまま押し潰します?」

「勿論だとも。正義の味方、としてね。真っ向から押し潰す! 私たちにはその力がある! ははは! 気分がいいな、正義とは!」

 ヘクトールは小舟を捨て、アルゴー船に戻る。

 距離は離れていない。会話が成立する程に近い。

 サーヴァントの数でならば、此方が勝っているが……。

「戦おうなんて思うな。誰しも知ってるだろ。アルゴナウタイには特別ヤバいヤツがいるって」

 オリオンの警戒の目は、イアソンにも少女にも、ヘクトールにも向けられていない。

 アルゴー船に乗っている、あと一人のサーヴァント。

 そのステータスは、それだけで破格の英雄であることを証明している。

「――――まさか」

「……嘘だと思いたいわね。あんなのが召喚されてるなんて」

 メルトでさえ、最大級の警戒を隠さないサーヴァント。

 何処までも荘厳だった。何処までも圧倒的だった。

 神気に何千年と浸った大岩を削って造り上げたような、究極の彫像。

 二メートルを超える筋肉隆々とした巨躯は、決して見せかけのものではない。

 筋の繊維一本一本が、鉄をも超える強度で以て鎧と成す。

 その右腕には、縁に毛皮を残し、中央を金の刺繍で彩った布が巻き付けられ、余った部分は風に靡く。

 爛々と輝く瞳は、見据えただけで生半な人間を貫くだろう異常なほどの眼力を有している。

 たとえ、その真名に行き着かなくとも、彼を見て抱く印象は同じだろう。

 ――この大英雄――否、そんな言葉さえ不足だろうサーヴァントは、相手してはいけない存在であると。

 古今無双。ギリシャ最大の英雄は、イアソンに並ぶように前に出る。

「……この時代、この海に集った者たちよ。その勇気に対する存在として、名乗らせてもらおう」

 厳かな声が、耳朶を震わす。

 如何に剛力が増すとしても、その武勇を成し遂げた技術が失われるバーサーカーとして召喚されていれば、まだ多少なり気は楽になっただろう。

 だが、その言葉には理性があった。

「英霊となりて、新たなる試練に立った。旧友の願いを受け、不完全なりし海に立った」

 イアソンの余裕には、理由があったのだ。

 彼が召喚されているならば、敗北、失敗など一切考える必要もないのだろう。

 それほどまでに、イアソンは彼を信頼し、そして彼には信頼に応え得る圧倒的な力がある。

「ミュケナイのアルクメネと主神ゼウスの子。ヘラの栄光の名を以て、神々の酔狂に身を投じた。かつての名を、アルケイデス、アルカイオス」

 現出させた得物を握り込む。武器もまた、その英雄のように常軌を逸していた。

 正確な形は持っていない。勝手気ままに放出される魔力の中心、棒状の輝きこそ、彼の武器。

 雷のようにも、炎のようにも見える、飛び回る光輝。

 それらがぶつかり、弾け、絶えず魔力を周囲に飛散させ、その武器の装飾を演出している。

 無形にして有形。彼以外では、この輝きを握り込み、得物とすることなど出来まい。

 その光に触れればたちまち身は焼け、引き裂かれるだろう。

 しかし、自身の武器で彼が傷つくことはない。だからこそ――あのクラスの彼はこの光を武器としているのだ。

「――そして、サーヴァントとしての真名を、ヘラクレス。此度、クラス・ランサーとして現界した」

 三騎士の一角に据えられ、大英雄は召喚された。

 この特異点における、最大級の災厄(てき)として。




という訳で三章後半の敵となるアルゴナウタイ、イアソンとメ何とかさん、そして三章オリ鯖二騎目となるランサーヘラクレスの登場です。サプライズサプライズ。
ただ後半を同じようになぞるだけでは面白みに欠ける。そんなこんなでクラスを変えました。やっちまいました。
考案段階ではセイバーとどちらにしようか迷いましたが、ランサーの方が恐らく公式とは被りにくいでしょう。
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