Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

58 / 107
槍クレスのやりすぎた感。
シンプルにアーチャーとかにするべきでしたね!!


第十一節『人類最古の海賊船』-2

 

 

 此方の驚愕、絶望に、堪え切れないとばかりにイアソンは腹を抱えた。

「はははははははは! 最高だよその表情! そうだろう、恐ろしいだろう! 敗北なんて存在しない、最後には神の座に迎えられた! それがこのヘラクレスだ! 君たちのような二流三流の雑魚など、話にならないんだよ!」

「ヘラ、クレス……」

 ギリシャ最大の英雄が敵として立ちはだかる。

 数の差など、彼の前ではなんの意味も持たない。

 英雄を相手取っても一騎当千。それが、ヘラクレスだ。

「さて、君たち。そこの女神、エウリュアレを私たちに引き渡せ。そうすればヘラクレスを嗾けることだけは勘弁してやろうじゃないか」

 そんな存在を有していることを誇示しながら、イアソンは提案してきた。

 ヘクトールがエウリュアレを攫ったのは、イアソンが欲していたからなのだろう。

 何故、彼女を求めているかは分からない。

 だが――。

「……ハクト」

 ヴァイオレットはエウリュアレを抱える手を僅かに強める。

 分かっている。考えは同じだ。シンジも、カレンも、また同じ。

「ああ。勿論だ。エウリュアレは渡せない。たとえ、ヘラクレスと戦うことになっても」

 宣言すると、ほんの少しの間だけ、イアソンは呆けたような顔をして。

「――ハッハー! そうか! そうかそうか! いやあ、なんて勇気だ! そっちの彼女はサーヴァントかい? 可愛いじゃないか! いいよ、君はまるで英雄みたいだ!」

 次の瞬間には、手打ちしながら大笑する。

 反抗など恐るるに足らない。

 寧ろそれが良い余興だとでも言うように。

「ヒュー! カァッコイイー! ――――ったく。ゴミクズが、生意気な。サーヴァント諸共今すぐ消えろよ」

「――イアソン様」

「メディア。私の愛しいメディア! 私の願いは、分かるね? アイツらを木端微塵に殺してくれ。君が弟をバラした時みたいにね!」

 控える少女を呼び、イアソンは嗾ける。

 その名もまた、驚くべきものだった。

 魔女メディア。魔術が当たり前であった神代でさえ「魔女」と称される程の魔術の担い手。

 ヘカテーから教えを受けた彼女は、イアソンによってコルキスから連れ出され、アルゴナウタイに参戦した。

 キャスターとしての適性は全てのサーヴァントの中でも上位に位置するだろう。

「……? 弟を……?」

「ああ、気にしなくて良い。私は反省した! もう二度と、君を裏切ることはないとも!」

「時々、妙な事を仰いますねマスター。でも、承りました。王女メディア、貴方の望みを叶えましょう」

 愛し合い、イアソンとの子まで儲けたメディアだが、王座を求めたイアソンによって捨てられることになる。

 イアソンはそれを反省したと宣い、メディアは何のことやらと首を傾げる。

 何か……妙な……。

「わー、DV。DVだよダーリン」

「それよりタチ悪いぞ。あの二人、どっちも相手を見てねえ」

 だが、その不穏な様子さえ、僅かな気慰みにもならなかった。

 彼女を嗾ける。つまり、神代の魔女との戦いは避けられなくなったということ。

「ヘラクレス。お前も行け。皆殺しだ」

「アイツは戦わないのかよ……」

「この世にオレ以下のクズがいるとは。世界って広いな。そしてギリシャ狭いなぁ」

 どこか感心した様子のオリオン。

 だが、油断は一切ない。

 最悪の組み合わせを前に、逃走は許されない。

 ヘラクレスが前に出て、メディアが杖を構える。

「では、覚悟を。生憎だが、加減は出来ぬ」

「必要はありません。マスターの命です。それを完遂するのみ、でしょう?」

「……やるしか、ないか」

「ええ……解くけど、前に出るんじゃないわよ」

 聖骸布が解除される。だが、前に出ようとは思わない。

 メルトの警告以前に、ヘラクレスを相手にしてのその行為には何の意味もないだろう。

「チッ、やるっきゃないね。無理でも突破するよ! 黒髭共をどうにか出来たんだ。出来ない道理はないだろ!」

 ドレイクによって放たれた開幕の弾丸。

 聖杯の力も相まって、サーヴァントに傷をつけられる程の神秘を伴っている。

 だが、それを――ヘラクレスは弾くこともなく、その身で受け止めた。

「ハッ。なんだ、豆鉄砲か? ヘラクレスにそんなもの、一万発撃ったところで全く無意味だよ!」

 ヘラクレスは傷一つない。弾丸はヘラクレスの肉を貫くことなく、勢いを失い落ちた。

「『十二の試練(ゴッド・ハンド)』にすら届かない! これじゃあ『人理食む獣の裘(コスモス・パノプリア)』だけで十分だな!」

「ネメアの獅子皮――!」

「ハハ、正解だよ! 人理を喰らう神獣の皮は、人の手から成ったモノを決して通さない! さあ、お前らの手持ちに人でなしが作った武具は幾つある! ヘラクレスを傷つけられる武器が、お前らにあるか!?」

 ヘラクレスの逸話で最も有名だろう十二の功業。その一つで手に入れた毛皮か。

 あらゆる武器を通さない獅子を退治するにあたり、ヘラクレスは自身の膂力で絞め殺すという離れ業をやってのけた。

 つまり――同等の、肉体による攻撃か、人以外が作った武器でしか、あの毛皮を纏うヘラクレスには通用さえしない、と。

 この時点で此方の手札は制限される。或いは、高ランクの宝具であれば通用するかもしれないが――

「さあ行け、ヘラクレス!」

「ふっ――――!」

 その巨体に見合わない速度で、船に乗り込んでくるヘラクレス。

 狙いはアステリオス。咄嗟に反応できたのは、ヴァイオレットだった。

 エウリュアレを抱えたままでも、ヴァイオレットはその身を繊維化させることで対応できる。

 しかし、ヘラクレスの行動は完全に予想を超えてきた。

 無数の繊維を潜り抜け、その何れに捉えられることもなく、アステリオスに迫る――!

「おおおおお!」

「ほう。防ぐか」

 しかし対処に使った僅かな時間が、アステリオスの防御を間に合わせた。

 どうやらあの無形の槍は、防ぐことは可能であるらしい。

 だが、あれが宝具であることは明白だ。問題は、その真価――

「あの牡牛は強き存在だった。その仔たる貴方は――一体どれほどか。いいだろう。貴方は我が新たなる試練に相応しい」

「ぐぅうううううっ!」

 膂力であれば、アステリオスが勝る。

 だが、十二の功業を成し遂げたヘラクレスに、その技術は遠く及ばない。

「ハクト! 下姉様を!」

「え――うわ!?」

 走り寄ってきたヴァイオレットに、エウリュアレを投げ渡される。

 次から次へと切り替わる状況にエウリュアレは対応できていない様子だが、ともかく彼女を受け止める。

 ヴァイオレットは戦いに集中する。ゆえに任せる。そう言っているのだ。

「ちょっと貴方、気安く女神に――」

「ちょ、暴れないで――ッ、メルト!」

 眼前に現れた“何か”を、メルトが素早く砕く。

 すぐさま霧散し消えていくが――その数倍の数が続けざまに出現した。

「竜牙兵……!」

「あら、ヘカテーちゃんの十八番じゃない。じゃああの子、本当にメディアなんだ」

 竜の牙を媒介にして生み出される簡易の使い魔。

 しかし、それにしても一度にここまでの数を生み出せるのは異常だ。

 神代の魔女メディア。彼女はそれを、杖の一振りで数十作り上げている。

「ほら、早く退治しないと、彼らの重みで船が沈みますよ」

「くっ……こっちには弾丸も剣も通用するんだろ? あのデカブツに武器が通じないヤツはこっちを頼むよ!」

「お前らも頼む! 全員、ヘラクレスには近づくな!」

 シンジが素早くマリーたちに指示を出す。

 全員、人として時代を生きた者たちだ。あの毛皮の護りを突破するのはかなり難しい。

 だが、それでも一サーヴァントとして、数十の竜牙兵など相手にならない。

 四人が各々の戦いを始めれば、生成速度に増して竜牙兵を砕けるまでになった。

「メルトも、ヘラクレスを! くれぐれも――」

「ええ。これだけいるんだもの、気を付ければ当たらないわよ」

 アステリオスとヴァイオレット。二人がかりでも、ヘラクレスを相手に劣勢だ。

 サーヴァントを凌駕するアルターエゴとはいえ――いや、アルターエゴだからこそ、この地上に降りるにおいて大きくその階梯を落としている。

 だがメルトも加われば、きっと、大英雄にも劣らない。

「貴方、こんな状況で自分のサーヴァントを離すなんてどういうつもり?」

「こうでもしないと、勝算は薄い。大丈夫……竜牙兵くらいなら、何とか」

 幸い強度はそこまででもない。コードキャストである弾丸でもどうにかなるくらいだ。

 エウリュアレを抱えている以上、手を使う切り札たちは扱えないが、これならまだ。

「そうだな。だが、少しくらい不測の事態に備えるべきだぞ」

「という訳で、貴方のサーヴァントの三分の一が来ちゃいましたー!」

 周囲に展開された竜牙兵が、飛んできた矢に砕かれる。

 オリオンとアルテミスはあまりにも頼りになる笑みで、僕たちの前に立った。

「まあ、私たちアーチャーだし? このくらいなら相手しながらあっちにも攻撃できるから」

「コイツの矢ならネメアの獅子皮も効果を成さねえ。援護くらいなら任せな」

「ワオ、ダーリンかっこいい! 戦うの私だけど!」

「俺を戦えなくしたのは一体誰ですかねえ!?」

「……ねえ。私、この上なく不安なんだけど」

「……うん」

 エウリュアレと同じ感情を抱かずにはいられなかったが、事実アルテミスの矢によって、竜牙兵の危険は完全になくなった。

 縦横無尽に飛び回る矢は僕たちだけでなく自身とカレンのみを守るように防御宝具らしきものを展開しているゲートキーパーを攻撃する兵にまで及んでいる。

 あの宝具はどうやらそれなりのランクのようだ。カレンたちは、とりあえず竜牙兵を相手にする分には問題ないか。

 ドレイクもまた、量産される兵に後れを取る存在ではない。メディアは積極的な攻撃をしてこない様子だ。ならば、問題はやはりヘラクレスのみか。

「終わりです――!」

 しかし、どうやらメルトの参戦もあって、状況は思いのほか好転したらしい。

「ッ――――」

 ヴァイオレットの、繊維を集合させた鞭の先端がヘラクレスを突く。

 貫くことはなく、僅かに傷をつけたのみだが、その瞬間ヘラクレスは膝を折った。

「これ、は……」

「ヒュドラの毒。サーヴァントにとって、死因は何よりの弱点となる。さぞ貴方には効くことでしょう」

 ヴァイオレットがその身に宿す、魔獣の因子。

 その中でも最大級の毒を持つそれは、ヘラクレスによって駆逐されながらも彼の死因となった死の毒。

 動きが止まったヘラクレスに、アステリオスの渾身の拳が叩き込まれる。

「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおお――――っ!」

「――――っ!」

 拳であれば、あの毛皮も無効化は出来ない。

 首が捻れ、あらぬ方向に曲がり、メキリと嫌な音が響く。

 毒に苦しみ、そして頭蓋を砕かれ、ヘラクレスは停止した。

「……あら。思ったより呆気ないわね。ヒュドラ毒を持ってたヴァイオレットもいたからだけど」

 拍子抜けしたように呟きながら、メルトは一跳びで戻ってくる。

 ヘラクレスは明らかに死んだ。弱点たる一手を有していたのが功を奏した。最大の敵はこれで――

「凄いな! いや驚いた! 私としたことが感心してしまった! まさかヘラクレスを殺すなんて!」

 しかし、それを危機と感じていないように、イアソンは嘲笑と共に此方を評価していた。

「それじゃあここで良いことを教えてあげよう。君たちの頑張りを讃えて、ね」

 

 

「――ヘラクレスはね、死なないんだよ」

 

 

「……、は?」

 もう一度、ヘラクレスに目を向ける。

 信じがたい光景だった。

 歪んでいた首は元に戻り、傷一つない大英雄がそこに屹立している。

「いや、懐かしい苦しみだった。よもやサーヴァントになって、今一度ヒュドラの毒で死ぬとは。少々、侮りすぎていたか」

「――なんで」

「は、ははははははは! そうだその絶望の顔! それが見たかった! ヘラクレスは十二の功業を成し遂げ、その末に不死となった! サーヴァントとしてのヘラクレスは、その数に因んであと十一回殺さないと死なないのさ!」

 ――逸話を元にした、蘇生宝具。

 ラーヴァナも、類似した宝具を持っていた。

 ただでさえ強力極まりない大英雄もまた、殺しても蘇生する、と?

「な……インチキじゃないか! 幾らヘラクレスだからって!」

「しかし、ならば幾らでも仕留めればいいだけ――!」

 先程と同じように、ヴァイオレットが鞭を作り出し、ヘラクレスへと伸ばす。

 その脅威は既に知っているだろう。生前の死因であるヒュドラ毒、それは幾ら死しても脅威の筈だ。

 だが――ヘラクレスは動かない。

 迫る鞭を確かに視界に捉えたまま――それを受け入れた。

「なっ……」

 先端は、肉の内へと至らない。

 先程とは違う。一切傷がつかず、毒もまた入り込むことは無い。

「すまないが、最早その毒は二度とは効かん。この身は、同じ死を二度受け入れることはない」

「ッ――」

 鞭が握り込まれる。誰が反応するより早く、ヴァイオレットは船の壁に叩きつけられた。

「ヴァイオレットッ!」

「……しかし、殺すことなく蝕む何かがあるな。これは――貴方か」

 その鍛え上げられた直感によるものか。

 ヴァイオレットがすぐに体勢を立て直すことはないと確信しているように、一瞥さえしない。

 どころか、ヘラクレスは己の体への異常に気付き、その毒を打ち込んだ張本人へと目を向けた。

「……あら、よく気付いたじゃない」

「これが何なのか、分からぬが。ふむ、コルキスの王女よ。解毒は成るか」

「……いえ。これほど奇妙な毒は見たことがありません。ですが――その仕掛けた本人を殺すことで、働きも止まる類かと」

「そうか。では――そうするしかあるまいな」

 メルトがその場を離れようとする。

「ッ!?」

 だが、その足は動かない。メルトのみがその場に固定されたように、完全に動きを封じられている――!

「世界からの重圧。空間との擬似契約です。ご安心を。十秒程度で、動けるようにはなりますわ」

 メディア――!

 メルトが逃げようとすることを見越し、既にメルトに魔術を掛けていたのだ。

 彼女にとっては杖の一振り。一節の詠唱による簡単な魔術。だが、その実サーヴァントにさえ通じる強力な拘束。

 その間にヘラクレスはしかと狙いを定め、体勢を低くしていた。

 この数秒後が、否が応にも分かってしまう。

 その最悪の状況が、未来視のようにイメージ出来てしまう。

 それは何より避けなければならないことで――何があろうとも、それだけはあってはならないこと。

 ヘラクレスの眼は狩人のようだった。

 獲物一つへと向けられ、それを仕留める事以外を考慮しない極限の集中。

 ああ――それをする余裕があるのだろう。ヴァイオレットは動けない。アステリオスの強大な筋力も、最早彼を殺すには至らないかもしれない。

 ヒュドラ毒とアステリオス。どちらがヘラクレスを殺したのか分からないが――今は、アステリオスすら彼は考慮の外に置いている。

 マリーたちはそも、ヘラクレスを殺せない。アルテミスやゲートキーパーがその手段を持っているとしても、復帰までほんの数秒だ。動けないメルトを仕留めるにおいて、時間稼ぎにもならない。

「――――」

 盾が何の役に立つだろう。あの拘束の解除を試みることに、なんの意味があるだろう。

 防御コードキャスト程度ではヘラクレスの障害にさえならない。神代の魔女に魔術勝負を挑むなど地獄の釜に自ら落ちるより愚かしい。

 自分の持つ術式では、この状況をどうにもできない。決着術式も、展開時間が足りない。

 だが――――だからと言って、何も出来ない訳ではなかった。

 術式一つなら紡げる時間がある。たった一つでこの状況をどうにかする方法など、一つしか思いつかなかった。

「きゃっ!? ちょっと――」

 エウリュアレをその場に下ろす。

 下ろす、というより落としたのかもしれない。多分、今の悲鳴はその驚愕からだったのだろう。

「おい、馬鹿何やって――」

 制止は、オリオンのものだった。

 僕の行動にいち早く気付いた。やはり、彼もまた神話を生きた英雄なのだ。

 ヴァイオレットに心の内で謝罪する。エウリュアレの守りを、ここにきて放棄した。

 そして、メルトに心の内で謝罪する。あれだけ釘を刺されたのにも関わらず、メルトの前に出た。

 足を止めると同時、ヘラクレスの巨躯が寸前に現れた。恐怖はない。寧ろ、間に合ったのだと安堵した。

 

 

 

 そして、体のあまりに多くが喪失した。

 

 

 

「――――――――――――――――」

 そこまで来て、自身のコードキャストの選択は間違っていなかったと確信した。

 ――身体強化。脚力に重きを置いて、メルトの前にまで走った。

 チリチリと内が焦がされる感覚に、成功を実感する。

「……己が大切なものを守ったか。なんという執念よ。我が槍が二つを貫ける可能性も考慮しないとは」

「――――」

 そうか。その可能性を忘れていた。

 首をゆっくりと動かし、振り返る。

 どうやら拘束は解除されたらしい、無意識に一歩下がった、メルトの呆けた顔がそこにあった。

「……案ずるな。そのサーヴァントを貫いてはおらぬ。一人貫くことのみを今の刺突に込めていたゆえな」

 なるほど。それゆえの速度。それゆえの威力か。

 他は今の獲物ではない。その刺突で穿つは、たった一人のみ。

 彼はそんなまっすぐな英雄だ。

 だからこそ前人未到、古今無双の偉業を成し遂げ、世界最大級の英雄として召し上げられたのだ。

 とは言え、よかった。メルトは無事だった。傷一つない彼女を見るだけで、安堵が包む。

「浅はかな人間よ。その勇気を讃えよう。此度、その命のみを奪うことで、私たちは去る。それが、弱き身を挺した貴方に出来る最大の礼だ」

 それが引き抜かれると、全身に力が入らなくなったことを自覚する。

 倒れる体を支える者はいない。どうやら、ヘラクレスはアルゴー船に戻ったらしい。

「どうしたんだヘラクレス。まだ一人殺しただけじゃないか」

「あの者の蛮勇に圧されてな。いつでも仕留められよう。今は女神も捨て置き、あの者を弔わせてやりたい」

「……ふぅん。まあ、いいさ。これで身の程、力の差が分かっただろう。今日は見逃してやろう。次に会った時は、エウリュアレを引き渡せ。でなければ、今度こそ皆殺しだ」

「良いのですか? マスター」

「良いのさ。あんな馬鹿な死に方をした奴が弔われもせず、恨みでもぶつけられたら鬱陶しくて仕方ない。さあ、一先ずは戦勝の宴でも開こうじゃないか」

 強大な敵は、去っていった。

 良かった――特異点の存在、未来の消失より、今自分を満たしていたのは、メルトが無事であったことの喜びのみ。

 それ以外について、特に何も思わないくらいに、それは僕にとって大きなことだった。

「――紫藤っ!」

「お父さまっ!」

 シンジとカレンの声が聞こえた。

 誰かが走り寄ってくる。

「……ハク?」

 困惑した声が聞こえた。

 消えゆく意識の中で、ふと、おかしいなと思った。

 どうやらまだ、彼女は状況把握が出来ていないらしい。

「ちょっと……どうしたのよ。ほら、立って。なんでそんな、お腹に孔まで開けて、ハク」

 ごめん。立ち上がることは、出来そうにない。

 気付けば目さえ動かせなかった。力の抜けきった体に、意識だけ宿っているのは、とても不快だった。

「ねえ、私を驚かせるつもり? 悪質に過ぎるわ。今なら、許してあげるから」

「お母さま! しっかり、――――――――!」

「―――――、――――――――」

「――――! ――――――――ッ!」

 やがて、誰が何を言っているかも分からなくなった。

 そこに来て、ようやく。

 ――ああ、死ぬのか。

 そう、自覚する。

 何も分からなくなる、その瞬間まで。

 誰より愛する少女の姿は、消えることなく脳裏に残っていた。




DEAD END

静謐ちゃん以来のハクのキルカウント更新。
マスターが出しゃばるとこうなるって十年以上前から士郎が言っていたのに。

今回のヘラクレスは三騎士として召喚されたため、高潔な人格となっております。
そして宝具が二つ判明。『十二の試練』も健在です。
もう一つはスノーフィールドでも猛威を奮っているネメアの獅子皮。コンセプトは「一番硬いヘラクレス」です。
そして何気にアステリオスくん生存。やったね! まだ味方に脱落者がいないよ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。