Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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VSヘラクレス。
タイトルをナンバリングにしたからか節が少なめですね。


第十三節『全額勝負』-1

 

 

『さて、来たよ。準備はいい?』

「ああ、万端だ」

 圧倒的な相手を前に、やはり、恐怖は拭えなかった。

 自分を殺した存在が近付いてくる。

 メルトが守ってくれるという信頼があっても、あの姿を見て、身が強張るのを自覚する。

「――まさか、生きていたとは」

 ヘラクレスは、目を見開くこともなく、そんなこともあるかと事実を受け入れた。

「だが、それもここまで。私はアルゴナウタイの一員として、貴方たちを殺さねばならん」

「やはりか、大英雄。汝が何故そこまでイアソンに肩入れするかは知らんが、私たちは奴を止める。悪く思うなよ」

「――アタランテ。貴方も、か。敵対は避けたかったのだが、これもまた運命。どうか、覚悟を」

 ヘラクレスが体勢を低くする。

 来る――今から僕がやるべきことは、ただ一つ。

「……信じるわよ、人間。いえ……ハクト!」

「ああ――――!」

 エウリュアレを抱え、今度は、落とすことなく、走り切る。

 ある場所まで。そこまでは、何があろうとも止まれない。

「行って、ハク!」

 メルトの合図で、走り始める。

 身体強化を掛け、速度と持久力を兼ねるべく体を補強していく。

 片目の視界はメルトのそれと共有する。

 契約サーヴァントとの合意によって成立するコードキャストの一種。

 自分の視界が奪われることから、あまり好ましいものとは言えないのだが、今回は片目でメルトの視界を確認する。

 ヘラクレスが迫る。メルトは打ち払い、受け流し、その槍から逃れる。

 追撃は許さない。マリーのイバラがヘラクレスの手足を拘束し、退避の隙を作り出す。

 シンジが連れる四騎のサーヴァントのうち、唯一その攻撃が通用するのがマリーだ。

 あのイバラは人によって作り出された武器ではない。動きを縛ることは有効だ。

 動きが止まったところに、アタランテの、ダビデの、アルテミスの矢が卒倒する。

 だが――そのうち弾かれなかったのはアルテミスのもののみ。それでさえ、ダメージには至らない。

 イバラが引き千切られる。ほんの五秒の拘束にさえならない。

 そして次の瞬間には、僕との距離を詰めてきた。

 回避は――間に合わない。だが、その槍をデオンのレイピアが受け止める。

「……ほう。その細身で私を止めるか」

「侮るな大英雄。これでもフランス王家を守った騎士。劣るつもりはない!」

 光の槍さえ対応する剣の舞踏。

 後退しながらも刺突を受け止めるその姿は、守りとして洗練されている。

 その苛烈ながらも美しい舞で周囲に撒き散らされるは、百合の花弁。

 それはフランス王家の象徴。シュヴァリエ・デオンが護り、死後であっても忠義を捧げる拠り所。

 故に、その宝具の真名は決定された。

「王権よ、永遠なれ――『百合の花散る剣の舞踏(フルール・ド・リス)』!」

 単一の対象への幻惑とステータス低下。

 僅かに動きが鈍ったヘラクレスに叩き込まれる剣は、やはり傷を付けるに及ばない。

 だが、あの大英雄のスペックを落とすことはあまりにも重要だ。

「ぅおおおおおおおおおおおおっ!」

「っ、甘い――!」

 その隙を狙うアステリオスの斧を、しかし素早さを失っていないヘラクレスは回避する。

「ぐっ――!」

 素早く蹴り飛ばし、ヴァイオレットたちの追撃もあしらう。

 ステータスが低下してもその武芸に衰えはない。

 だが、此度は勝つつもりで戦っている。誰がやられても、最後に一人でも立っているのだ。

「マリー! 行けるな!」

「ええ――ええ――! さんざめく花のように、さあ、踊りましょう!」

「心苦しい――ですが、王妃。この王権の光を、どうか――!」

 百合舞う戦場に、およそ相応しくない王妃が立つ。

 否、ここは最早彼女の舞台だ。

 王権の光は周囲に満ちている。デオンの宝具は、彼女を引き立てるために発動された。

 マリーに向けて突き出される槍。それを、アマデウスが弱め、サンソンとデオンが二人がかりで停止させる。

 その背後からヴァイオレットが無数の繊維で縛り上げる。

「ええ! 私が受け止めるわ! この光に影なんていらないの!」

 マリーの手足を、体を、イバラが覆う。

 自身を縛り、傷つけ、その犠牲を一手に受け止める。

 その傷を望むべきものだと、さも喜ぶように笑っている。

「宝具――『百の虚飾に浸る王権(ロサ・センティフォリア)』!」

 自分を縛るそれらから噴き出るイバラに込められた魔力は、それまでの比ではない。

 拘束を振り払ったヘラクレスは、槍でイバラを打ち払う。

 だが、迎撃から逃れた一本が脇腹を掠め――傷を作った。

 マリーが発動した宝具はAランク。ヘラクレスを殺し得る虚飾のイバラ。

「いい時間稼ぎね……今の内に少しでも距離を開きなさい!」

「分かってる――!」

 自身を傷つけると分かれば、その対処はより一層慎重になる必要がある。

 ヘラクレスは一旦防御に回り、その疾走を止めた。

 背後の確認はエウリュアレに任せる。

 比較的至近距離でメルトは警戒しつつ、僕たちに追従する。

「ッ、ハク!」

「なっ――!」

 メルトの警告の直後、体が突き飛ばされる。

 エウリュアレを下にしないよう倒れ込む。それまで走っていた場所を、ヘラクレスの得物たる光が突き抜けていく。

 シンジたちを振り払い、即座に攻勢に出る柔軟さ。

 やはりその技術は規格外が過ぎる。

 追撃もまた速い。

 反対側に立つメルトを吹き飛ばし、咄嗟に動けない僕たちに槍が突き付けられる――!

「はっくん!」

「アルテミスッ!」

 その場を通り抜けざまに僕たちを回収し、アルテミスは軽いステップでヘラクレスから離れていく。

「さて、大英雄くん。貴方もギリシャに名を残したなら分かるでしょ? 女神の奔放さ。呪いを受けたくなかったら、今すぐ投降をお勧めしまーっす」

「……女神アルテミス。残念ながら、それは承諾しかねる。此度、私は敵が誰であろうと我が友のために動くと誓った。この誓いはオリュンポスの神々全ての呪いを受けたとて折ることはない」

「筋金入りだなぁ……お前も。イアソンのヤツも、アンタっていう友達がいながらなーんであんな身の振り方しか出来ないんだか」

 同じ国の女神と対面しようとも、ヘラクレスは決して折れない。

 その槍は必要とあらば、父ゼウスにさえ振るわれるだろう。

 他ならぬ友、イアソンのために。

「だがよ、ヘラクレス。言っとくけどコイツは相当しつこいぜ。ヘラ程じゃないが、呪いやら毒やらにはとことん通じてるからな」

「やだダーリン、人聞きが悪いわ。私が出来るのは狩りと炊事洗濯だけ。だって病も毒も、円満な家庭には必要ないでしょ?」

「あの時代じゃないんだし狩りもいらないと思うんだけどナー……」

「ふっ……」

 ごく自然に繰り広げられる漫才に、思わずヘラクレスも小さく笑う。

 だが、当然それで槍を収める筈もない。それは、僕たちも全員が理解している。

「やあその通りだ。妻たる者は弓も剣も持たなくていい。ただ傍にいてくれればね。そうだろう、美しい君」

「普段なら勝てる筈もなかろうがな、覚悟せよヘラクレス。此度の私は数多の心労で大きく成長した。今やカリュドーンの猪すら単独で狩れる存在と知れ」

 ダビデの問いがまるで耳に入っていないかのように無視しつつ、駆けてきたアタランテは宣言する。

「スルーかいアビシャグ。冷たいが、まあそういう女性も良いよね。僕の周りにはいなかったけど」

「んー? あの()じゃ物足りなかった? むー、でもあんまり一方的な神罰はつまらないし……」

「ああもう! ああもうっ! ともかく! 私を侮るなヘラクレス! 今の頭痛とか色々に比べれば、汝の試練も生温いっ!」

「なあ、アタランテの姐さん、アレ自棄になってないか?」

 戦いの最中と感じさせない呑気なダビデと、信仰するゆるふわ女神に挟まれつつも、その現状でアタランテは己を鼓舞する。

 まあ……確かに今のアタランテは、尋常ならざる程に強いだろう。

 自棄になれば人は普段以上の力を発揮するものである。

「いや、何とも愉快だ。アルゴー船に乗っていた頃から貴方は変わらないな」

「周りがどうにもズレていてな! まあ此度はそれなりにまともなのもいる。何故か倍ほど頭が痛いが、カイニスとペレウスくらいしか大人しい者がいなかったあの頃より余裕がある筈だ!」

「ハッ! その通りさねデカブツ!」

「ッ!」

 銃声。

 アタランテたちに続いてやってきた此方の船長は、以前効かなかった拳銃を構えている。

 学習力が無い訳ではない。牽制でもない。

 それが、大英雄を傷つけるに足るものだという確信からだ。

 そして事実、その弾丸は獅子皮の護りを貫き、ヘラクレスの肉を裂いていた。

「ドレイク、今の……」

「ああ、聖杯の力さ。ヘラクレスを倒したい。あの海を乗り換えたい。確かに、酒と肉を出すだけじゃあ勿体ない宝だ!」

 聖杯は、持ち主の願いを叶える願望器。

 その力が、サーヴァントの打倒を可能にした。

 しかし、聖杯の限界はそこではない。

 ドレイクが望めば、人の文明を寄せ付けない宝具でさえ貫くことを叶える――!

「今のコイツらにはアタシという船長がついている。アンタという嵐くらい屁でもないってね!」

 確信があるからこそ、ドレイクはヘラクレスに立ち向かう。

 彼女という船長がいるからこそ、僕たちもこの無茶な作戦を信じられる。

 難攻不落の大英雄さえ、乗り越えることが出来ると。

「――なるほど」

 シンジたちも僕たちに追いつく。囲まれる形となったヘラクレスは、しかし微塵も動じない。

「これは強敵だ。十二の試練全てが同時に襲い来るにも等しい。ゆえにこそ、乗り越えさせてもらおう。我が拓いた可能性で以て!」

 槍が掲げられる。

 武器としての形を保っていた光がより広く周囲に飛び散っていく。

「宝具――!」

「ハク、離れるわよ!」

 身体強化を掛け、走る。

 走った跡にはメルトが防御膜を張っていく。

 何より、エウリュアレを守るのが役目の僕は、あの宝具からは逃れなければならない。

 メルトとの視界の共有で、その光がより巨大化していくのを見た。

 全員が、その宝具に対し何らかの行動を起こす。

 発動を阻止せんとするもの。逃れようとするもの。僕たちの防御を強固にするもの。

 しかし、その全てを歯牙にもかけないようにヘラクレスは槍の真価を発揮する。

「果てを見よ。その先に、汝らは何を見る。希望があるならば、それを祝福せんがために私は果てを切り拓く。その無限の可能性を――!」

 狙いは――僕たちだ。

 解放の時を待つ光が突き付けられる。

 あれこそ、自身に降りかかる全ての難行を乗り越えてきたヘラクレスの可能性。

 そして、人類全てに対する可能性の示唆――!

 

「難攻不落のアトラス、今一度切り拓かん! 果てにて果てなき偉業の門(プルス・ウルトラ)!!」

 

 ヘラクレスの可能性そのものが、膨大な魔力となって奔流を巻き起こす。

 アトラス山をも切り崩すヘラクレスの、英雄たる証。

 勝手気ままに飛び交っていた光は全て、敵の打倒に向けられた。

 光輝は守りをまるで無いもののように切り崩しつつ、侵攻してくる。

「ッ――二大神に捧ぐ――『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』!」

「私もやるわ、一瞬だけ振り向きなさいハクト――『女神の視線(アイ・オブ・ザ・エウリュアレ)』!」

 迎撃に使われる、五月雨の矢。

 万軍をも屠る宝具も、威力でこの奔流には及ばない。

 そして、エウリュアレもまた宝具を撃つ。

 至高の矢もまた、光に立ち向かい、炸裂して果てた。

 勢いは幾分弱まったかもしれない。だが、それでもA級サーヴァントを呑み込んで余りあるほどに、恐ろしい威力を有している。

 逃げきれない――メルトの敏捷性でも、あの範囲から逃げ切ることは叶わない。

「しまっ――――」

 そして、メルトの最後の、渾身の護りさえ突破する。

 アマデウスの音楽魔術が、マリーの宝具たるイバラが築いた最後の砦も打ち崩される。

 シンジと、そして僕も作った二重の盾。そんなものは、足止めにさえならない。

 それでも勢いは弱まった、全力で走ればどうにかなるかもしれないと、信じて脚力への負担を強くする。

 背に熱を感じ始める。

 一度僕を殺した熱さ。それとは比にならない真名解放を伴う真髄。

 迫る輝き、片方の視界がそれに埋め尽くされようという時、僕たちと光の間に、立つ者がいた。

 

「それじゃあ、ダーリン。後お願いね」

 

 軽く放られる、愛すべき人。

 熊のぬいぐるみは、僕の肩に張り付いた。

「オリオン――?」

「行け。走れ。もっと速く!」

 ――多分、その選択は、二人が良しとした事なのだと思う。

 オリオンの声色はあまりにも強く、そして、確固たる愛に満ちていた。

 彼は愛多い英雄かもしれない。そして、そのために多くの悲劇を生んだかもしれない。

 だが、その中でひときわ輝き、何より愛すると決めた者がいたのだろう。

 その女性の信念を。強さを知っているからこそ、“残る”という選択を選んだのだ。

「アルテミス、貴女――!」

「私である事がショックだったんでしょ、メルト。なら、最後くらい月女神の面目躍如をしてあげなきゃ」

 ふわりと後退しつつも、逃げようとはしない。

 それは弓に番えた矢に力を込めるための時間稼ぎ。

 愛に満ちた一矢を放ち、そしてこの危機を払うため。

 月女神は一歩下がって、少しだけ此方に振り向いた。

「私の本質は愛に生きること。愛し恋し狩人のため、そして私を源流とする貴女が守りたい人を守るため。私は毒にも矢にもなりましょう!」

 凄まじい覚悟。それは、まさしく女神だった。

 アルテミスの目に悲哀はない。

 寧ろ、矜持が感じられた。

 ここを守る。自身が恋し、愛した狩人を守る――彼に勝る狩りの女神として。

「この世は永遠ならずとも、愛と恋だけは永遠のもの。その二つを併せ持つ今の貴女なら、これさえどうにかすればもう負けないでしょう?」

「――――ええ。そうね。いいわ、約束してあげる。私の欠片たる女神様」

「よろしい。おーいアタランテー! 更なる祝福をあげるから頑張りなさーい!」

 最後までアタランテに対しては軽く無邪気に。

 しかし、それもここまで。

 光に再び視線が向けられる。一瞬見えたその瞳は、紛れもない、狩人のものだった。

「恋の輝き、清風明月、玲瓏貴影! この身、今は古きオリュンポスの一柱、月女神アルテミス!」

 ヘラクレスの輝きに対する愛が、極みに達する。

 それでも、あの光には敵わない――溢れる魔力からして、殆ど確信だった。

 だというのに、恐れは一切感じない。

 アルテミスは負けることはない。それもまた、確信であるから。

「さあダーリン、愛を放つわ! 月女神の愛矢恋矢(トライスター・アモーレ・ミオ)ッ!!」

 愛を。恋を。アルテミスの全てを注ぎ込んだ一矢がヘラクレスに立ち向かう。

 壮絶な光が背後から、前方にまで走っていく。

「……何処出身だよ、お前は……まったく」

 そんな、オリオンの呟き。

 光が消える。ヘラクレスの宝具の奔流はなく、月女神の姿もまた、そこにはなかった。

「頑張ったよ、アルテミス。先に行ってな――お疲れさん」

 今、ここに神殺しを成し遂げた英雄は未だ健在。

 オリオンの弔いの声は、彼女に届いたか否か。

 それを知ることは出来ない。今の僕に出来ることは、ただ彼らを連れて走ることだけだ。




アルテミスはこれにて退場となります。お疲れ様でした。
全員にフラグを建てての戦いでしたが、彼女の退場を予想できた方はいらっしゃったでしょうか。
そしてヘラクレスの三つ目の宝具、及びバーサーカーマリーの宝具もお披露目です。
マリーの宝具名からは色々と設定が見えるんじゃないかなって。
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