Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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明けましておめでとうございます。
今年も何卒、よろしくお願いいたします。


第十四節『星の開拓者』-1

 

 

 それから十分と経たず、空間が揺らぎ、戦いの勝者が帰還した。

「――アステリオス。ヴァイオレット」

「……ただいま、帰還しました」

「…………」

 ヴァイオレットのダメージは大きい。

 すぐさま回復のコードキャストを紡ぐ。彼女の回復には、それほど時間は掛からないだろう。

 だが――

「……アステリオス」

 迷宮の主、アステリオスは、壮絶な状態だった。

 満足な箇所は、右腕だけ。

 曲がり、抉れ、喪失し、粉砕され、その他の全てが破壊されていた。

 ヘラクレスは戻ってこない。

 つまり、迷宮にて大英雄は果てたのだ。

「……ありがとうございます、アステリオス。貴方に、助けられました」

「…………」

 俯いて沈黙するアステリオスは、答えない。

 既に消滅が始まっている。彼は、全ての力を使い果たしたのか。

「――アステリオス。答えなくてもいいから、聞きなさい」

 いつの間にか離れていたエウリュアレが、アステリオスに近付いていく。

「よくやったわ。貴方は、英雄として成すべきことを成した。世界のために戦って、皆を守ったの」

 唯一無事であった右手に触れて、愛おしむように、その顔を見上げる。

 答える声はない。

 ゆっくりと消えていく肉体。腕が消える前に、エウリュアレはしっかりと握り込む。

「だから、誇りを持って、帰りなさい。そうすればきっとまた、素晴らしい召喚に呼ばれるわ」

 反英雄である彼は、英雄として戦うことが出来た。

 彼が望むならば、次も英雄として、召喚されることが出来るだろう。

 押し付けになってしまうが、僕も、そうあってほしいと思う。

「最後になるけれど……(メドゥーサ)を守ってくれて、ありがとう。アステリオス」

「……」

 メドゥーサと呼ばれるたびに否定していたヴァイオレットも、今回は何も言わなかった。

 アステリオスの最後の戦いを目に焼き付けただろう彼女は、少し離れたところで見届ける。

 もう礼は言った。告げることは、何もない、と。

「…………ぅ、ん」

 エウリュアレの礼の言葉に、ゆっくりと、時間を掛けて、囁くような声で答える。

 それは、もしかすると気のせいだったかもしれない。

 それでも、その時、アステリオスが頷き、笑ったのは確かだった。

 そうして、大英雄を倒した小さな英雄は、満足気に消滅していった。

「……さあ! 残るはいけ好かないイアソンの奴だけだよ。とっととやっつけて、この海を解放しようじゃないか!」

 別れを惜しむ時間はない。

 ドレイクが全員に喝を入れる。

 そうだ――これで終わりじゃない。最大の敵は倒したものの、まだ聖杯を取り戻した訳ではない。

 行こう、最後の戦いだ。イアソンたちを倒し、この時代の正常を取り戻そう。

 

 

 『黄金の鹿号』に乗り込み、沖にあったアルゴー船に接近する。

 アタランテはメディアの魔術を掻い潜り、ヘクトールの槍を躱しつつ時間を稼いでいた。

「いたいた。聞こえるかいイアソン! 来てやったよ、決着付けようじゃないか!」

「ッ……! なん、だと……おい、ヘラクレス! ヘラクレスはどうしたんだ!?」

「言っただろう。ヘラクレスは倒れた。アステリオスとヴァイオレットに敗れるだろう、とな」

「馬鹿な! ふざけた事を抜かすな! 魔眼の怪物と半獣の化け物だぞ! そんな英雄の餌になるが道理の汚物共に、ヘラクレスが負けて堪るか! 冗談も大概にしろ愚図共っ!」

 ああ――信じられないだろう。信じたくないだろう。

 だが、その道理を、アステリオスは打ち破った。

 だからこそ、僕たちはここにいるのだ。

「アイツが生きてたら僕たちが生きてる筈ないだろ。こういう事だってある、認めろよイアソン」

「死ぬ筈があるか! ヘラクレスは不死身の英雄だぞ! 誰しもが憧れ、挑み、一撃で返り討ちにされた英雄たちの頂点だ! お前らみたいな寄せ集めの雑魚共が倒せる筈ないだろうがっ!」

 激昂するイアソン。

 彼なりの、ヘラクレスへの信頼なのだろう。

「ふぅん、アンタにも一角の友情はあった訳だ」

「黙れ! クソ、聖杯まで使ったのに――撤退、撤退だ! この聖杯を使って新しいサーヴァントを召喚し、奴らを殲滅する!」

「逃がすか! 行くよ野郎共! 最後の航海、最後の海賊だ! 全額勝負は終わっちゃいない、アンタたちの命、アタシがとびっきりの掛け金にしてやるよ!」

『おおおおおおぉぉ――――!』

 逃げようとするアルゴー船。だが、突き放されることはない。

 ヴァイオレットによって船は強化されている。加えて、此方の操舵主は生粋の海賊だ。

 海と共に生きてきた人間の技は、目的があって海に出た者とは決定的な差がある。

「クソ、クソクソクソがぁ! なんで追いつかれるんだチクショウ――メディア、メディアァ!」

 張り裂けんばかりの叫びで、イアソンは傍に仕える少女を呼ぶ。

「アレを使え! その聖杯を捧げてやれ! こんな奴らに、私たちが負けるものか!」

「――――はい、イアソン様。全て、貴方の思うままに」

 ヘクトールの槍を躱し、一旦体勢を立て直すべくアタランテが此方の船に戻ってくる。

 それと同時、イアソンが聖杯をメディアに投げ渡した。

「一体何を――」

「は、ははははははは! お前らはこれで死ぬ! 私に逆らった罰だ! この時代諸共消し飛べ!」

 メディアは聖杯に杖を突き立てている。

 まさか――まだ、イアソンたちには隠し玉が?

 ヘラクレスを倒してなお、脅威は去っていないというのか――!?

「聖杯よ。我が願望を叶える究極の器よ。我が名はメディア。我、果てなる救いに選ばれし者なり」

 煮え滾る釜を掻き混ぜる魔女を連想する。

 しかし、そんな悍ましさとは裏腹に、詠唱には善なるものを感じた。

 その相反、表裏の性質が、より一層不気味さを醸している。

「ここに告げるは救いの欠片、第二の大地。新たなる世界の土台となりなさい。滅びの先へと我らを導かんために、星の終点となりなさい!」

 高らかに歌い上げながら、メディアは聖杯を海に放った。

 そして、周囲の空気が変質する。

「これは――!」

『水中に巨大反応っ、これ――――』

 そして、顔を出した。

 白い皮膚。赤く輝く双眸。

 長い首。海の底にまで届いているのではと思う程に巨大な四つの足。

 そして、山の如き甲羅。

 亀だ。英霊を凌駕する凄まじい魔力を持った、巨大な亀。

 正体の知れぬ相手は、前の特異点でも出会った。

 二つが一つとなった人型の肉塊。

 ――いや。根本から、コレは異なるものだ。

 アレほどの醜悪さは感じない。だが、感じ取れる脅威は同等だった。

「こいつ……倒せる、ものなのか?」

 シンジが驚愕に思わず声を漏らす。

 肉塊と同じならば、多くの英雄が束になっても、勝てるかどうか分からない相手。

 ゆえに、誰も答えを返さない。そう、思っていた。

 だが、銃声と、続いて亀の額に小さな傷がつくのを見て、力強く笑う者がいた。

「ハハッ、当たった! 当たるんだったら倒せるさ! 弱気になってんじゃないよシンジィ!」

「ッ」

 バシバシと背中を叩きつつ、ドレイクはシンジに笑いかける。

 与えた傷はほんの僅か。傷と言っていいかすら怪しいものに過ぎないというのに。

「あんなのに負けるもんかい! こっちにゃ頼りになる仲間がたくさんいる。あんな怪物に負けるような軟弱な奴、一人もいないさね!」

「分かった、分かったから! お前は力が強いんだよ毎回!」

「ん? アンタの背ェ叩いたの、これが初めてだろ?」

「っ……ああ、そうだった。ともかく――確かに、疑問に思うのは早かったな。お前みたいな馬鹿がいるんだから」

「その通り。アタシみたいな馬鹿は諦めるってこと知らないからね! それにご生憎様! こちとらとびっきりの大一番に負けたためしなんざないほど幸運なんだよ!」

 そうだ――今の僕たちには、星の開拓者がついている。

 どんな難航でさえ可能にする、幸運と人間力の持ち手。

 彼女がいる限り、どんな物事も不可能はない。諦めない限り、どんなことだって可能に成り得る――!

「ふふ、頼りになる船長さんね。手伝うわ、マスター。最高の踊りにしましょう!」

「王妃、くれぐれもお気をつけて。人の形を成さぬ相手は僕に向かない相手ですが……危機からは全力で守りましょう」

「寧ろ守りやすいだろう。アレだけ図体が大きいんだ。精密な攻撃をしてくる輩より、何倍もやりやすい」

「それじゃあ、いつも通りの演奏で行こうか。死神に媚びを売るのも、延命のためなら幾らでも、ってね」

 マリーが、サンソンが、デオンが、アマデウスがシンジに並び立つ。

 アタランテもダビデも、巨大な敵に一切物怖じした様子は見られない。

「そういう訳だ。お前らはイアソンたちを頼む」

「――ああ」

 シンジは、あの怪物は任せろと言外に言っている。

 この特異点最後の戦い。僕たちの相手は、アレではないと。

 ならば任せよう。この船を発ち、僕たちはあちらの船で決着をつける。

「――カレン」

「なんですか、お父さま」

「ヘクトールを任せる。ヴァイオレット、エウリュアレ。二人も頼む」

「分かりました。カレンには、傷一つ付けさせません」

「ええ。人間に命じられるのは癪だけど、一回くらい構わないわ。任せなさい」

 カレンとゲートキーパー、そしてヴァイオレットとエウリュアレ。

 トロイアの守護者ヘクトールの相手は、四人に任せる。

 あとの二人――イアソンとメディアは。

「……ハク」

「メルト。もう一回だけ、無茶して良いかな」

「……馬鹿。言ってしまったら格好がつかないわよ。オリオン、ハクが無茶しないよう見張ってて」

「了解。そんな訳だ。引き続き、よろしく頼むぜ」

 オリオンが肩に乗る。

 相手は二人ともサーヴァント。僕には、サーヴァントほどの力はない。

 だが――負ける気はしなかった。負けない理由が、存在する。

「よし。この時代最後の敵だ。皆、絶対に勝つよ!」

 メルトたちと共に、アルゴー船に乗り込む。

 怒りに満ちた表情のイアソン目掛け、駆け出す。

 メルトは隣を走っている。

 改めて、嬉しさを感じた。メルトと共に戦うこと。

 後ろで指示をするのではなく、隣で一緒に『舞う』ことが出来る。

 共闘の無言の肯定は、無力に苦しむばかりだった僕を、メルトが認めてくれたかのようだった。

 

 

 +

 

 

 アルゴー船に降り立つ。

 ヴァイオレットは全快とはいかないまでも、戦闘が可能なほどに回復している。

 お父さまに任せられた、わたしたちにとっての最後の敵は、これまで通り飄々と構えていた。

「やあ、オジサンの相手は君たちかい。まあ何となく、最初に戦った時からそんな気はしてたけど、さ」

「はい。勝たせてもらいます」

 ヘクトール。

 アキレウスの宿敵として、トロイアを守り続けた守護の英雄。

 数の上では此方が勝っている。

 だが、それでも易々とは勝たせてくれない確信があった。

「いやあ、にしても驚いたぜ? まさかヘラクレスを倒すとは。倒すにしてももっとくたばってると思ったけど、二人だけだったかぁ」

「アルテミスとアステリオス。二人がいなければ、わたしたちはここにいませんでした」

「そうかい。いいねえ、美しき犠牲。お嬢ちゃんみたいな子供にはちょっとばかりショックだったんじゃないかい?」

 ――否定はしない。

 ほんの僅かだったとはいえ、同じ船に乗っていた。

 そんな彼らに何も思わない筈がない。

「だからこそ、わたしたちは貴方たちを倒します。二人が、わたしたちに託してくれたのです」

「それなら猶更負けられないなあ。ここで負けたらそいつらも浮かばれない」

「はい。なので――」

「おうよ。オジサンはこの時代の敵、そっちはこの時代の味方。やる事ぁ一つだ」

 ゆっくりと槍を回しながら、ヘクトールは不敵に笑う。

 その立ち居振る舞いには、これまで見てきた英雄と同じものは感じられない。

 何というか、やる気が見えないというか。

 だが、だというのに。

 隙は見えない。それさえ見つければすぐに攻め立てるであろうヴァイオレットも、一歩踏み出すこともしない。

「さて、とっとと終わらせて我らが船長を助けに行きますかね」

「いいえ。お父さまとお母さまの邪魔はさせません」

 わたしにも、彼にも、負けられない理由がある。

 わたしたちが負ければ、お父さまとお母さまに危険が及ぶ。

 お父さまがヘラクレスの槍に貫かれた時。

 胸が引き裂かれるような痛みに襲われた。

 もう、あんな事は嫌だ。だから、わたしが少しでも、守るのだ。

「なるほどねえ、そっちも負けられない訳だ」

「はい」

「そうだよなあ。頑張れば、パパとママがたくさん褒めてくれるだろうからなあ。子供にとって一番嬉しいことだよなあ」

 頷きながら笑うヘクトール。

「ッ――!」

 次の瞬間、槍の刃先は目の前にあった。

 ヴァイオレットがそれを絡みとってくれなければ、頭蓋を貫かれていただろう。

「――おう。褒めてもらいたいなら精々気張れよガキ。気ィ抜いてると、次の瞬間命は無えぞ」

 それまでの雰囲気の一切が消失した、ヘクトールの本質。

 この性質こそ、アキレウスを苦しめた核心。

 ヴァイオレットが押し返し、しかし一切体勢を崩すことなく再び踏み込んでくる。

 相手は大英雄だ。だが、負けることは許されない。

 これが――わたしの、この時代最後の戦いだ。




最終決戦開幕。
今回はこれまでほど長くならず、サッパリの予定です。

三章は次話で終わりになります。
節数をナンバリングしたので少なめですね。
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