Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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今回から四章となります。
三章のマトリクスも同日更新しましたので、よろしければどうぞ。


AD.1582 焦都聖杯奇譚 京都
アバンタイトル


 

 

 ――地獄と天国混ざり合う世界から、ようやく脱出できた。

 “人”の感覚のままでは、完全に寝不足になっていただろう。

 私事ではあるが、特異点攻略に支障をきたす訳にもいかない。

 ゆえにやや多めにリソースを使い、どうにか二時間ほどの睡眠で活動可能なまでに回復できた。

 メルトはまだ眠っている。その間――次の特異点攻略開始までに確認すべきことがある。

 やってきたのは、ダ・ヴィンチの工房。戸を叩けば、やはり呑気な声が返ってきた。

「はーい、どうぞー」

 扉を開くと、聞こえてきたのはオルガンの音。

 軽く、それでいて重い。しかし、一貫して弾むような調べ。

 工房に設置されたオルガンを奏でているのは、カレンだった。

「おやハクト。いらっしゃい」

 その音色には、これまでとはやや違うものを感じた。

 カレンの心情の変化によるものか。

 それが成長によるものならば嬉しいことだが、僕に分かる造詣はなかった。

「……いやあ、メルト一筋なのは良いけど、男としてスルーするのはどうかと思うよ?」

「少なくとも男が言うことじゃないよ、ダ・ヴィンチ」

 どうやら一作業を終えて風呂上りだったらしいダ・ヴィンチは、タオル一枚巻いただけの姿だった。

 いつもの事だ。作業後に暫く裸でいると、インスピレーションが沸くとか何とか。

「少なくとも今の私は女なんだけどねぇ……かく言うハクトも、風呂上りのようだけど?」

「……」

「これはアレだな。リソースの使用履歴と睡眠時間、その体力の回復量から見るに。こっ酷くやられたねぇ。特異点で去り際に厄介ごとでも背負い込んだかい?」

「カレンの前でペラペラ言い当てるのやめて」

 ……まあ、確かに色々とあった。

 果たしてこれは一晩の出来事かと疑う程に濃いものがあった。

 だが、もう過ぎたことだ。何事もなかったように、次の特異点に向かうことになる。

「大丈夫大丈夫。カレンは演奏に集中してるから」

「……そういえば、なんでここに?」

「礼装の調律さ。アレ、カレンの部屋のだよ」

 ああ――カレンの部屋にあったオルガンなのか。

 アレはカレンが作った礼装だが、ダ・ヴィンチに調律を任せていたらしい。

「ふぅ……おや、お父さま」

「おはよう、カレン」

 演奏を終えたカレンが、此方に気付く。

 どうやら今の会話が聞こえないほどに集中していたようだ。

「どうしてここに?」

「ああ。聖杯の解析状況について聞きに来た」

「やっぱりその話か。その事なら、実はちょっとばかり予想外に難航しててね」

「え……?」

 以前聞いた話では、あと数日で解析完了というところだった。

 ダ・ヴィンチが己の見立てを間違えるとは珍しい。

「構成の半分がなんだか違うもので出来ているみたいなんだ。ただ“悪意”だけじゃない。ちょっとばかり、きな臭くなってきたな、これは」

 聖杯の構成要素は悪意だけではない――

 残る要素が何なのか。ダ・ヴィンチはそれの解析中ということか。

「とはいえだ。構成する要素は全ての聖杯で共通らしい。一つ解析が終われば後はトントン拍子さ」

「そうか……不安要素は残るけど、引き続き頼む」

「了解。君らは――そろそろ次の特異点かい?」

 予知していたようなダ・ヴィンチの言葉が終わると同時、端末に連絡が届く。

「――第六特異点」

「わたしは、第十二特異点。今回は別々ですね、お父さま」

「ああ――気を付けて。決して無茶はしないように」

 工房を後にする。

 集合場所はそれぞれ異なる。

 カレンと別れ、メルトと合流すべく部屋まで歩く。

「もし。貴方が月の管理者?」

 その道中、声を掛けられる。

 聞き覚えはない。しかし、その声を聞いた瞬間、肌に冷たいものが走った気がした。

「――――」

「……聴覚に異常かしら。そんな面倒なものとは思いたくないけど」

「……いや、聞こえてる。間違いなく、月の管理者――紫藤 白斗だ」

 幼い。十五にも満たない程の少女だ。

 楚々とした佇まいを、表面だけ繕ったと一目でわかる。

 その立ち居振る舞いと雰囲気だけは物静か。ながら内面はまったく違うものと、今の言葉だけで分かる人物も珍しいだろう。

 法衣に長い黒髪。恐らく、感じた嫌な予感は、その容姿がためだろう。

 まさか、こんな少女に、あの魔性を重ねてしまうなど。

「そう。それは良かった。次が第六でしょう? 私も同じなのよ」

「そう、か。よろしく。君の名前は――」

 だが、違うと分かっていても、拭えないものがある。

 脳が発する警鐘は、少女が名乗ることで全身の鳥肌へと変わった。

 

「殺生院 ミコ。ミコでいいわ」

 

「――――――――ッ!」

「ッ、ぁ……メルト」

 ちょうど反対側から歩いてきていたメルトが、警戒心を剥き出しにして目の前に立った。

 その姓は、何より、どんなモノより、多くの負の感情を爆発させる単語だった。

 僕とメルト共通の、トラウマにして憎悪の対象。

「そっちは片割れね。二人に聞きたいことがあったのよ」

 此方の警戒と驚愕を一切気にしていないように、少女――ミコは話を切り出す。

「“キアラ”という名に心当たりがあるかしら?」

「――知らないわ」

 メルトの声は、苛立ちを隠さないものだった。

「聞いたこともない。人探しなら帰りなさい。そんな理由でムーンセルのデータベースは貸せないわ」

「頼んでないわよ。一応、世界の危機とやらを正すために来たんだから」

「……なら、行くわよ。次の同行者なんでしょう?」

「ええ。よろしく、メルトって言ったわね?」

「気安く名前を呼ばないで。ハクの名も、よ」

「嫌われたものねぇ。意味が分からないわ」

 ミコは集合場所へと歩いていく。

 ――マスターを選んだのは、サクラたちAIの皆だ。

 CCCを――キアラの名を知っているのは、僕とメルトを含めてほんの数名のみ。

 この月に関わったキアラの記述は、ムーンセルから消滅している。

 だから、ミコは彼女とは関係ない。

 そう信じたい。だが――どうにもならない疑念は、消えることがなかった。

 

 

 前の特異点攻略前に言ったように、次のオペレーターはカズラだ。

 またもカグヤに色々詰め寄られたようだが、今回ばかりは役割を死守したらしい。

「来ましたね。此度の特異点は、三名での攻略となります」

 僕とミコ。そして残る一名は、既に此処にいた。

「んふふ。次の特異点は遂に月の管理者といっしょかネ?」

 ――やたらに、背が高い。

 二メートル前後という長身と、ホストを彷彿とさせる白いスーツ、真っ白い手袋。

 後ろに流した金髪と、口元の綺麗に整えられた髭。

 腰が真っ直ぐなため、必要ないだろう杖を片手に持った、五十代と思しき壮年の男性だ。

「ああ。紫藤 白斗とメルトリリスだ。貴方は――」

「よろしくゥ。僕の名はピエール。フルネームならばピエール・ゴッデスマン。芸名のようなものサ。本名を調べるのはエヌジー、そこは追及無しの方向デ!」

「うざい」

 三人目のマスター、ピエールの自己紹介をバッサリと切って捨てたのはミコだった。

 向けられる嫌悪の目に、ピエールはガックリと肩を落とす。

「んんん。どうも、僕の第一印象大体そうなるんだよねェ……何故なんだろ」

「私はそのうざさに疑問を持つわ」

「辛辣だねェ。それで、君は?」

「殺生院 ミコ。あまり名は呼ばないで」

「了解だミコちゃん。ミコちゃん、うん、ミコちゃん。良い名だ。此度の冒険はハクトくんとミコちゃん、二人とランデブーな訳だネ」

「死ね。呼ばれた分だけ言うわ。死ね。死ね。死ね。あと気持ち悪い言い回しをしないで」

 なんだこれは。

 杖をクルクルと回しながら名を連呼したピエールに、ミコは容赦なく毒を吐く。

 今回の特異点は初めて、既知のマスターがいない状態となる。

 しかしどうも、濃すぎる。

 カグヤがオペレーターをする程ではないが、早くも頭が痛くなってきた。

「ああ、そうだ。サーヴァントの紹介もしたいんだけど、カズラちゃん、構わないかイ?」

「え、あ、はい。どうぞ。作戦開始までまだ少し時間がありますので」

 突然声を掛けられ、その独特な発音に引いた様子のカズラ。

 その許可にニッコリと笑い、指を鳴らしてサーヴァントを出現させる。

「カモン、セナちゃん」

「……その呼び方、やめてって言った」

 現れたのは、首から下を白い布で隠した幼い少女だった。

 顔以外に、露出している肌はない。指先一つさえ、外に晒していない。

 胸の部分に付いた海色のブローチ以外に、目立った装飾はない。

 顔の上半分を覆う青い髪は左目を隠す。

 頭にはピコピコと動く犬の耳。右目は水底の如く深い青。

 彼女がサーヴァントか。真名は、セナ……?

「アサシンでいい。今の人間に、名前を呼ばれたくない」

「あ、あぁ……分かった」

「相変わらずだねェ、セナちゃんは」

「そもそもそれ真名じゃない」

 ……愛称のようなものだろうか。

 セナと呼ばれたサーヴァント、アサシンは、用事は終わったとばかりに再び姿を消した。

 どうやら……人間嫌いらしい。

 今の時代、というのが気になるが……マスターに聞いても、良い顔はしないだろう。

「それで? それで? ミコちゃんのサーヴァントは?」

「死ね。名前を呼ばないで。……はぁ。出てきて、アーチャー」

 ミコの一言で、サーヴァントは傍に立った。

「ッ!?」

「メルト……?」

「…………」

 ――その時のメルトの表情は、初めて見るものだった。

 初対面の筈だ。だが、その表情にはあまりにも多くの感情があった。

「アーチャーだ。真名など無い。無銘のサーヴァントという奴さ」

 黒い男だった。

 黒い肌と黒い外套。短く切りそろえられた白髪。

 自らを無銘と称するサーヴァント・アーチャー。

 その瞳には、底知れぬ絶望が映っていた。

「まあ、弓兵などという高率の悪いやり方はあまり好まないがね。アサシンとして使ってくれればいい」

 なるほど……アーチャーのクラスは三騎士に据えられているが、正面切っての戦闘能力はセイバーやランサーに一歩譲る傾向にある。

 ゆえに、アーチャーの中には遠方や死角からの狙撃――暗殺に近い戦法を好む者も多い。

 かつて聖杯戦争を戦ったロビンフッドも、その例の一人と言える。

 しかし――今回はアサシンとアーチャーか。

 直接戦闘になった場合は、僕とメルトが中心となりそうだ。

「それで? オペレーター。次の戦場は何処だ?」

「は、はい! 今特異点は西暦1582年、場所は日本。京の都と呼ばれていた都市です」

 ――日本。

 極東に位置する島国。そして――僕という存在のパーソナル上の国籍も、あの国となっている。

 とはいえその時代は、僕の元となった人間の兆しすらない時代。

 魔王と称された戦国武将が命を落とし、その天下に届かんという覇道が潰える年代。

「ふぅん。日本ねぇ……」

「やあ楽しみだ。二ホンに最後に行ったのは何年前だったカ! 気合が入るなあ!」

 ピエールは妙にやる気だ。

 別に旅行に行く訳でもなく、かなりの危険が予測されるのだが……。

「作戦開始前に一つだけ。今特異点は他以上に不安定です。私からのオペレートが場所により不可能になる事が予想されます」

 僕たちが赴かない事には観測さえままならなかった特異点。

 しかし、通信が不可能になるということはなかった。

 それがどうやら、この特異点は異なるらしい。

「存在の証明は?」

「それは保障します。皆さんの存在の確保を最優先、通信の優先順位は下がります。物資の転送も出来る時間が限られますが――」

「分かった。これまで以上に注意が必要だな」

 通信の制限。サーヴァントのクラス。様々な側面で、これまでと勝手の違う特異点となるだろう。

「メルト、大丈夫?」

「……ええ。ハク、分かってるわね」

「ああ――」

 メルトは警戒している。この事件の解決に協力してくれた、目の前のマスターを。

 殺生院 ミコ。その姓。そして、あの女を、彼女は知っている。

 どのような間柄か。実働部隊の僕は今回、マスター情報の管理は行っていない。

 だが、こればかりは確認しておく必要がある。

 緊急性はない。通信の出来る時に、カズラに依頼して情報を貰っておこう。

 目の前で個人情報を聞き出そうとするのに、良い気はしない筈だ。

「それでは……第六特異点、追記を開始します」

 初めて踏みしめることになる日本の土地。

 それも、“日本”らしい文化財が今なお多く残る京の都。

 ピエール程ではないが、楽しみという気持ちが一切なかったと言えば嘘になる。

 ――――だからこそ、この時代。最初に見る景色は、あまりにも衝撃の大きいものだった。

 

「全行程、クリア――時空干渉、開始」




Q.何やらかしてくれてんのお前
A.ごめん。

という訳で新キャラ四人追加。
オリジナルキャラクターとなるミコ、ピエール、アサシン。そして殺生院御用達のアーチャーとなります。よろしくお願いします。
今回の特異点はオリジナルマスターのみでお送りします。
その分、他章と毛色の違うものになれば良いなと。

年末年始の連日更新はここまでです。
というかオリジナルシナリオに戻ったので普通に更新遅くなります。
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