Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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殺生院何とかさんの登場での困惑が見られてほくそ笑んでます。
あっちのインパクトに霞んだ感じですが私はミコよりピエールのがお気に入りです。


第一夜『地獄、幕開けりて』-1

 

 

 ――汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 

 ――聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 ――誓いを此処に。

 

 ――我は常世総ての善と成る者。

 

 ――我は常世総ての悪を敷く者。

 

 ――汝三大の言霊を纏う七天、

 

 ――抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――

 

 

「……これで」

「はい。貴方の勝利は、約束されました」

 ――それは、正に悪魔の囁きだった。

 ――それは、正に悪魔の誘いだった。

 戻ることなど許されない。逃れることなど許されない。

 最早邪悪は確定し、縛る楔は消え去った。

「後は、残る座に吾がつけばいい。それで七の座が集う。この国を洗い焼き尽くすも容易いことよ」

「……」

「この期に及んで何を迷う? 汝は既に悪逆に足を踏み入れた。迷う理由など無かろうて」

「それが人間というものです。我々には分からぬことですよ」

 尚も心を満たす後悔と葛藤を、魔性は溶かしていく。

 抗いがたい欲望は、その思考そのものが不要だと消し去っていく。

「クハ。その苦悩、理解は出来んが面白い。好い、いつの世も人間の葛藤の果ては美味なるものよ」

「その欲望を叶えましょう。貴方の思うままに、命じなさい。この地獄は、貴方の願いに呼応し目覚めた。ならば――」

「然り。その果てで、汝、天下人とならん」

 ――剣牢(けんろう)地獄。

 ――弓境(きゅうきょう)地獄。

 ――槍克(そうこく)地獄。

 ――騎願(きがん)地獄。

 ――殺爽(さっそう)地獄。

 ――術懐(じゅっかい)地獄。

 ――狂宴(きょうえん)地獄。

 七つの魔性が、この手の中にある。

 彼らの力を使えば、天下など取るに容易い。

 だが、それは――――私が最も尊ぶものを穢す行為ではなかろうか。

 分からない。判らない。解らない。私は、何をすれば良いのか。

 この手に舞い降りた杯を以て、何を成すべきなのか。

 自身の、本当に望むことは、何なのか。

「さあ! 全てを侵せ! 全てを喰らえ! 汝の欲望全て、吾らが叶えてくれようッ!」

 

 

『第六特異点 第六天魔王波旬

 AD.1582 焦都聖杯奇譚 京都

 人理定礎値:B』

 

 

 噎せ返るような、灰の臭いが鼻腔に突き刺さる。

 肌の表面から体内にまで届く熱が体全体を覆っている。

 それらはすぐに最適化され、この時代、この環境での活動を可能にする状態へと体が変化していく。

 目を開く。

「――――」

 そこにあると予想していた古き街並みは無かった。

 一面の灼熱。残っている建造物はごく僅か。

 空は黒く染まり、目につく明るい色は破壊を齎す炎のみ。

「……これは」

「――聖杯の影響でしょうね。ただ、普通の炎じゃあないみたいよ」

 確かに――この熱に体が適合するというのは異常だ。

 最適化はあくまでも、その時代、その場所における魔力濃度と環境に適応させるもの。

 燃えていることが当たり前でもない限り、この熱に体が適応するのはあり得ない。

 これが普通の筈がない。

 これだけ燃え盛る地獄の只中にいれば、適応しているからこそ人が生きられる場所ではないと体が警告を発するだろう。

 だが、それさえない。

 すぐ近くが燃えているというのに、不気味なまでに平温だった。

「――ハク」

「何? メルト」

「これ――――」

 そんな周囲の異質に目を向けるでもなく、メルトは自身の右手の甲を見つめていた。

「――――――――え?」

 そこに、ある筈のないものがある。

 咄嗟に己の左手を見た。

 当然のように、メルトとの契約の証――令呪はそこにある。

 そして、形は違えど同じ性質を持つ三画の文様が、メルトの右手にも浮かんでいた。

「サーヴァントに令呪? 貴女、魔術師でもないのに?」

「……。カズラ、どういう事か分かる?」

『いえ……メルトは通常のサーヴァントとは異なりますから、マスターとしてサーヴァントの楔となることは不可能ではありません。ですが、令呪が発生するなんて――』

「地獄が如き炎の世界。そしてメルトちゃんには謎の令呪。ンン……早々に妙な事になったねェ」

 メルトとの契約は断たれていない。一先ず、その事に安心する。

 だがそれはそれとして、令呪があるという事はメルトもまたマスターとして成立するという事。

 どういう理屈かは不明だが、メルトはこの時代四人目のマスターとなったのだ。

「……一先ず、辺りを探索するわよ。この令呪については後回しでいいわ」

「でも……」

「出力に問題はない。サーヴァントとしても戦える。貴方を守る分には問題ないわ、ハク」

 ……メルトがそう言うならば、仕方ないか。

 確かに、ここで手掛かりもなく考えていても埒が開かない。

 であれば、少しでも動いて何か情報を見つけた方が良いだろう。

「炎の中を歩く、か。そんな修練、二ホンで体験した事はあるけド……いやぁ、懐かしいなァ」

「貴方わざわざ日本まで来て何やってんのよ」

「いや何、友達に誘われてネ。ここ何年か会ってないけど何してるのかねぇ……『真なる女神をまた探しに行く』とか言ってエベレスト登頂に挑むとか聞いたけど」

「……」

「……ン、何?」

「いえ。変人の友人は等しく変な奴なんだって」

 ――何か、聞き覚えのある話だが、気のせいだろう。

 違うと思うが、ふと、彼は元気にしているだろうかと気になった。

「真なる女神……?」

「ん? セナちゃん気になる? 僕も詳細は知らないんだけどネ。とんでもなくワイルデン、なんだってさ」

「ワイルデン…………」

「ワイルドとゴールデンを掛けた造語だって」

「アサシン、こっち来てなさい。馬鹿が伝染るわ」

「今の人間の言葉って、分からない……」

 ――また、聞き覚えのある造語が飛び出したが、気のせいだろう。

 こんな偶然あり得まい。

 同じような奇妙な造語を作る人間が二人もいるとは思えないが、きっと別人だろう。

『あの……よろしいですか?』

「あ、ああ。どうしたの、カズラ」

『えっと、お話の最中ごめんなさい。何か、妙な反応があったので……』

 申し訳なさそうに、カズラが口を挟んできた。

 メルトが頭を痛そうにしている。ちょうど良いタイミングだっただろう。

「妙な反応……?」

『はい。人ではなく、サーヴァントでもなく……何でしょう、ホムンクルス……?』

 ホムンクルス……この時代の日本に……?

 いや、カズラの言葉は断言ではない。

 その他の存在であることも否定できないか……。

「とりあえず、行ってみないことには何も分からないか」

『気を付けてください。衰弱していますが、人ではないことは確かなので……』

 カズラの案内に従い、その場所に向かう。

 焼けた世界。やはりと言うべきか、人らしき影一つ見かけない。

 そんな中で、弱っているという何者か――人ではないというが、一体、なんなのだろうか。

 

 

 そして、見つけた。

 炎の中で倒れる、その存在。

「……ホムンクルス、でもないわね」

『あ、あれ……?』

「カズラ?」

『ご、ごめんなさい、観測の異常……? この魔力の反応、サーヴァントのそれとも一致しています』

 サーヴァント――いや、近くから見ても、その気配は見られない。

 だが、人ではないのは確実だ。

 肌に張り付くような黒い装束を身に纏う、少女の姿。

 その四肢は球体関節人形のように組み上げられている。

 黒髪を後ろで一つに結んだ、さながら忍びのような少女だった。

「……人、形?」

「絡繰人形、だネ。昔から二ホンにある、お茶とかを組むアレ。ここまで精巧かつ人と遜色ないモノは見た事ないなぁ」

 絡繰人形……オートマタ、か。

 機械仕掛けの人形製造技術は、何も日本のみの技術ではない。

 その手の魔術はゴーレム――人形工学(ドールエンジニアリング)にも通ずるところがあるだろう。

 霊子世界ではあまり必要とされない技術だ。僕も見るのは初めてだった。

「――君、大丈夫?」

 外傷のようなものはないが、あまりにも動かない。

 声を掛けて、軽く揺さぶってみるも、やはり反応はなかった。

 壊れているようには見られないが――。

「……メルト、どう思う?」

「いえ……ただ、こういうのもあるのね。手を付けた事のないジャンルだったけど、今後はこういうのも集めてみようかしら」

「……」

 駄目だ。不幸なことにメルトの審美眼はこの子を捉えてしまったらしい。

 こうなれば止まるまい。この方向に固まってしまったメルトの思考は今頃小宇宙の如き人形理論を構成していることだろう。

『――ハクトさん。北方からサーヴァントが向かってきます』

 此方の存在を察知したのだろう。

 味方にしろ敵にしろ、この特異点の情報を得られるかもしれない。

 この少女人形の存在も分かる可能性がある。

 暫く待つと、炎の中から生まれたように、そのサーヴァントはゆらりと姿を現した。

 妖しさのみを塗り固めて創ったような、人の型。

 絹の如き白い長髪が何より目を引く。

 黒の和装束に真っ白な肌。指先は不気味なまでに細く、長い。

 左目は閉じているが、開いた右目は、見ているだけで深い淀の中に沈んで行きそうな悍ましい感覚を覚える。

 そして、頭には狐の耳。

 それはさながら、人型で作り出せる妖しさの極みだった。

「――貴方たちは……その風体、この時代の者ではありませんね。さりとて英霊でもなく、ああ――月よりの使者でありましょうか」

 言の葉そのものが呪いであるように、声を聴くだけで肌がザワリと沸き立つ。

「おや……段蔵と一緒でしたか」

「段蔵?」

「ええ。その絡繰です。やはり無理な負荷をかけすぎましたか」

 どうやら彼はこの少女――段蔵と呼ばれた絡繰人形を知っているらしい。

「どういう事? この人形に何をしたの?」

 そして、気に入った人形に手を出したらしい発言に、メルトが詰め寄る。

 彼の方が少女を知っているようだし、それほど凄むようなことではないと思うのだが。

「英霊の座からの本人憑依ですよ。段蔵は絡繰人形ゆえ、やりやすいと思ったのですが……どうも魔力の消費が問題ですか」

 つまり……英霊の座に存在するこの少女を、今存在するこの体に憑依させた、と?

 人にそれをするのは無理だろう。だが、絡繰人形であればその構造を把握していれば可能、なのだろうか。

 しかし……絡繰人形が英霊に?

「失礼。貴方、真名は?」

 ミコの問いに、男は妖艶な笑みで答える。

果心(かしん) 居士(こじ)。不肖キャスターにて召喚を受けた身にございます」

 ――果心 居士。

 本来はこの時代に生きる妖術師だったか。

 稀代の術師として、多くの武将にその幻術を披露したと言われている。

「そしてその絡繰は加藤(かとう) 段蔵(だんぞう)。私が作り上げた絡繰なのですが、或いは私より有名でありましょう」

 確かに、加藤 段蔵は忍びとして有名だ。

 甲斐や越後において活動したという忍者、出自に謎が多いが、その名は歴史に刻まれている。

 彼女が人ではなくからくり人形というのは予想外だったが……。

 そして――

「貴方が、彼女を作った?」

「ええ。知られてはいないでしょう。ですが、段蔵は確かに居士の作品です」

 段蔵の製作者は居士……意外、というか考えもつかないことだ。

 二人に関わりがあるという事自体知らなかったが。

「一先ず、活動を可能とすべく魔力を送りましょう。段蔵はアサシンゆえ然程魔力消費は多くないのですが」

 居士がその細い指を段蔵の頭に置く。

 魔力の不足……そうか、現存する体を依り代に召喚されている。

 扱いとしては今を生きる存在であり、英霊ではないためムーンセルからの魔力供給を受けることが出来ないのだ。

 暫くの間、居士が手から魔力を送り続ける。

 ――しかし。果心 居士はこの時代も生きる存在の筈。

 最初の特異点たるブリテンのように、その時代に生きる人間が英霊として召喚されることもあるが……居士もその例に当てはまる存在だろうか。

 それとも、歴史の相違か。

 考えているうちに、魔力を送り終えたらしく居士は手を離す。

 そして、段蔵が目を開いた。




やや短めでお送りしました。
京の都は焼けました。炎上汚染都市です。
そしてこの時代の最初の出会い、加藤段蔵と最初のオリジナルサーヴァント・果心居士です。よろしくお願いします。
四章は舞台通り、日本サーヴァントが殆どとなる予感です。
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