Fate/Meltout -Epic:Last Twilight- 作:けっぺん
周回の効率等が段違いで上がって世界が変わりました。
「――段蔵、起動しました」
目覚めた段蔵は、抑揚のない声で告げてから起き上がる。
その動きに、機械的なものは見られない。
動きだけを見ていれば、絡繰人形とは思えないだろう。
「目覚めましたか、段蔵。自身の事は分かりますね? 何か異常は?」
「はい。居士様。サーヴァント・アサシン、加藤 段蔵。行動に支障は感じません」
「よろしい」
その雰囲気は特殊なものだが、確かにサーヴァントと分かる。
ただ、依り代となる実体がある分、通常のサーヴァントとは違うのだろう。
「此方の皆様は?」
「そういえば、名を聞いていませんでしたね。それと、一応目的をお聞きしても?」
居士は僕たちを月よりの者と断定していたが、それは確信ではない。
「ああ、僕たちは――」
それぞれが名乗り、目的を話す。
未来の消失の原因は、未だ判明していない。
だが、それでも原因と見られる聖杯をこれまでの特異点で回収してきて、次の舞台としてこの時代にやってきた。
「ふむ。聖杯、ですか」
「何か心当たりはないか?」
「ええ。無い事はありません。憶測の範囲、ですがね」
憶測でも、ひとまずは何か情報が必要だ。
まだこの時代に何が起きているかすら分かっていない以上、小さな手掛かりでも得ることは重要だろう。
「それではお話しする前に、ひとまず、移動を」
「何故? 別に熱も感じないけど?」
「ええ。この炎はこの時代を焼くものですから。未来から来た貴方たちには、影響を及ぼさないでしょう」
ミコの疑問に答えながらも、居士は踵を返し歩き始める。
長い白髪が靡き、妖しい輝きを放つ。
周囲の破壊の色とあまりにミスマッチな神秘性。
しかし、居士はその異質性があって初めて世界のモノとして馴染めている――そんな、自然な雰囲気を持っていた。
「この時代を……しかしそれでは、歴史としてこの時代に生きた人間であるキミや体の残るダンゾウちゃんはどうなるんだイ?」
「私はあくまで英霊ですからね。しかし、段蔵はこの炎の影響を受けますよ」
「はい。直接触れなければ問題はありませんが、この炎を踏み越えることは出来ませぬ」
この時代にあるもののみを焼く炎……サーヴァントや僕たちには効果がないらしい。
しかし、それは逆を返せばこの時代を焼き払うことに特化しているということ。
効率的に時代の破壊を行っている――そういう意味では、有効だ。
「この炎は貴方たちの脅威ではありません。ですが、地獄はその限りではない」
「地獄……?」
「語るも悍ましき七つの地獄。しかし、この場で話すは相応しくありますまい。何処で地獄が聞き耳を立てているかも分からない」
察するに、その地獄なる存在こそ、この特異点の敵となるもの。
この場はその話をすべきではない場所とのことだが――だとすれば、今向かっているのは相応しき場所。
即ち、その地獄とやらが聞き耳を立てていない場所、ということだろうか。
「ここです」
「……普通の小屋に見えるけど」
「ええ。普通の小屋ですよ」
辿り着いたのは、特に大きいとも感じない一軒家だった。
周囲と異なる点と言えば、この燃え盛る世界の中で炎の影響を受けることなく、その形を保っている点か。
「ただし、私が術を施し簡単な陣地にしてあります。炎を受けないのはそのためです」
「ふぅん。ここなら誰に聞かれることもなく、話が出来るって訳」
「そういう事です。幸い、この時代には私以上のキャスターは召喚されていないようですし」
つまり、居士はこの時代に召喚されたキャスターの中では最上位に位置する、という事だ。
彼が張った陣地であれば、簡単に突破されるということはない。
情報を交換する場としては最適なのだろう。
居士が小屋に入ると、段蔵もまた続く。
二人に続いて小屋に踏み入る。特に「誰かの陣地に入り込んだ」という気配の変化は感じられなかった。
「む。残念、帰ったか。そのツラ三度と見たくないと思ったがやはり願望は叶わぬもの。物欲センサーと呼ばれる類の呪いであるな」
「――――」
そして、足が止まる。
正しくは、その声を聞いてそれ以上進みたくないという気持ちが足を止める。
メルトは引きつった顔で僕の背に隠れ、通信越しでカズラが溜息をついた。
「……私に何かあれば陣地の異常で分かるでしょう。紛いなりにも呪術の心得を持っているならば」
「然り。ゆえにいつ壊れるものかと鞠を転がしつつ期待していた。で? いつ死ぬ?」
「予定はありませんねぇ。不幸だったと諦めなさい」
戻って早々の居士と舌戦を繰り広げる、小屋内部で丸くなっていた女性。
正直なところ、あまり――いや、かなりいてほしくなかった人物である。
「――ほほう。これはこれは。妙な土産を持ってきたな外道」
気付かれないようそっと小屋を出ようとしたが、それより前に獣の目に捕捉される。
「壮健だったかサクラハーレムS、そして我が仇敵よ。ネコの迷い家に何用か?」
「少なくとも、貴女に用はなかったわよ……」
失策だった。彼女がいるという可能性を僅かなりとも考えなかったとは。
赤い和服に獣の手足。そして珍妙極まるこの言動の人物など一人しか知らない。というか、世界中探しても彼女しかいまい。いたら怖い。
「白斗たちはこの獣と既知だったのですね」
「まあ……一応」
「何が一応か。あれほどくんずほぐれつを繰り返し互いを貪り合った仲であろうに」
「頼むから誤解を招く言い回しをしないでくれ」
タマモキャット。二つ目の特異点において力を借りたタマモ・オルタと同じ、友人のアルターエゴたる存在の一人。
全員が全員厄介な八人のワケミタマ。
その中で最も関わると災難に見舞われるのが、彼女である。
「キャットは、どうしてここに?」
「どうしてもこうしても。ネコの目的と結果を結び付けようとするな。気付いたらここにいた。初めて会った時もそうだったろう」
初めて会った時――何があったかは覚えていない――思い出したくないが、とにかく厄介な事だった気がする。
ともかく、今回も特に考えなくこの場に辿り着いたらしい。
そうして、恐らくはまた妙な経緯で居士と出会ったのだろう。
何故ここまでキャットが辛辣なのかは分からないが……。
「貴方たちの知り合いって、変なのね」
「ガトーくんに負けてないねェ」
「……」
ミコの言葉に一切否定が出来ない。
そしてピエールが口にした名詞もまた非常に聞き覚えのあるものだったが、きっと気のせいだ。
「騒がしいわね。また何か厄介事を持ってきたのかしら」
此方の騒ぎを聞きつけたらしい。
小屋の奥から幼い少女が顔を見せる。
彼女もまた、サーヴァントのようだ。
浅い褐色の肌に、雪のように煌く銀の髪を持つ、十歳前後の少女。
黒い袴に、右腕に巻かれた赤い布。見たところ――あの布は平均より高いレベルの概念礼装だ。
しかし……その布と胸を隠すさらし以外、上半身に纏うものがないというのはどうなのだろうか。
「あら、また奇天烈な風体のお客ね。
「うむ。永遠のライバル、即ちズッ友であるな。クロにも覚えがあろうて」
「さあねぇ……わたしには覚えがないわ。こっちの依り代は……どうかしら」
少女は外見以上に大人びた声色で答えつつ、キャットの頭を撫でている。
せめて逆だろうという異様な光景だった。
「初めましてね、お客さん。たまの知り合いってことは……サーヴァントは知っているって認識で大丈夫かしら?」
「ああ。君は――」
「そうね。まずは自己紹介。わたしは
何でもないことのように、少女は己のイメージとかけ離れた真名を名乗った。
天国――それは、日本刀の祖たる刀匠の名。
天叢雲剣をはじめとして多くの名刀を鍛え上げた伝説の刀鍛冶。
だが目の前の少女は、見た限りでは西洋人。
天国の名を持つ英雄とは、どうにも思えなかった。
「……その疑問の顔。大方、わたしの体の事でしょ。ええ。この体は間違いなくわたしのものじゃないわ。この体はわたしの霊基に相応しい誰かから借りてるものよ」
「借りている――?」
他者の体を依り代とした召喚。それで思いつくのは、月の裏側における事件でのサーヴァント・オブザーバーだ。
ライカはAI・カレンに憑依する形で召喚され、月の裏側を観測すべく動いていた。
あの例と似たようなものだろうか。
「カズラ、何かわかる?」
『はい。データベースに記述がありました。疑似サーヴァント――サーヴァントとしての霊基を作れない英霊を人間等の器に注ぐ事で召喚可能とした存在です』
カズラは素早く情報を見つけ出した。
サーヴァントというのは複雑怪奇。幾らでも例外や不可思議が存在する。
これもその一つか。何らかの理由でサーヴァントとなれない存在を無理矢理サーヴァントとする手法。
「そう、それ。
「凄い話だねェ……ん? それじゃあ、今のキミの性格ってドッチのものなんだい?」
「ベースはこの女の子のよ。正確に言えば、“この女の子の人格に
……つまるところ、現状この少女の人格は天国でも、依り代たる少女でもないが、どちらでもある状態だと。
まったく違う時代、まったく違う国、まったく違う人間の二つの人格が溶け合って一つになるとは思えないが、それが適合するという点こそ、この少女が依り代に選ばれた理由なのかもしれない。
「天国から離れた天国、即ち冥府、冥府は黒の色。よってアタシはクロと呼んでいる。悪くなかろう?」
「そもそもわたし、“てんごく”じゃないんだけどね」
キャットは天国をクロと呼んでいるらしい。
論理的に説明しているように見えて多分適当だと思われるが、その名は不思議とこの少女に馴染むものがある。
もしかすると――可能性は低いだろうが――クロという名は、この少女に近い縁のあるものなのかもしれない。
「まあ、いいわ。それで? この時代について教えてくれるんじゃないの?」
「ええ。そのつもりです。お話は済みました?」
キャットがいる以上、下手に話を逸らすと脱線したまま延々と直進しかねない。
メルトが居士を急かすと、当の本人は囲炉裏の傍に座り寛いでいた。
のんびりとした佇まいで、関係のない話が始まったことに気分を害した様子はない。
段蔵は彼の後ろに控えている。小さく動くこともなく、ただ指示を待つように。
「すまない。それじゃあ、聞かせてほしい」
「ではまず……発端はこの時代に、杯を携えた一人の英霊が降り立ったことのようです。それが貴方たちのいう聖杯でしょう。英霊はその杯を以て、六騎の英霊を呼び出しました」
杯――この特異点の原因となる聖杯か。
「自身を含めて七騎。彼らは己の事を“地獄”と呼び――その炎を以て、この時代を一夜のうちに炎に包みました」
それが、あの炎。
自身を地獄と呼ぶ七つの英霊が、時代を効率的に焼き払うあの灼熱を発生させたのだ。
「ああ――その話」
天国もまた、合点がいったらしい。
キャットは何の話だと言わんばかりに首を傾げている。
「しかし、破壊を良しとしない英霊もまたいます。それらはこの時代の生者に力を貸し、地獄に対する存在となっています」
「生者……生きている人間が、まだいるのか?」
「ごく一部ですが。その中でも特に勢力を強く残す織田家当主、信長殿とその家臣は、地獄を討伐する戦果も挙げています」
織田 信長――この時代を語るにおいて、決して外せない武将だ。
かの武将とその家臣たちは、英霊を伴い地獄に抗っているらしい。
アルトリアや、マケドニア軍、そしてドレイクたちのように。
「……その地獄とやらの情報は?」
「真名については、何も。しかし名乗る地獄の名と、それらの戦はある程度ならば知っています」
今回の特異点における、恐らく最も重要な情報だ。
真名は分からずとも、その名や戦法、特徴を知る意味は大きい。
「――一つ、織田家が討った地獄。その弓、神域に通ず。揺らめく火を障害ともせず、風に靡く扇の芯をも穿つ武人。クラス・アーチャー。
たった一人、僕たちが来るより前に討伐された英霊。
しかし、それほどの達人。悍ましい被害を齎したことは想像に難くない。
「二つ、一時に百を突き、百の命を砕く魔槍。如何な地獄より堅実に、如何な地獄より素早く命を奪う老兵。ランサー、
言葉の先を受け継ぐように、天国が続けた。
「三つ、自身は静かに刀を振るい、傍に仕える美しき女子は脳漿を砕く。クラス・ライダー――
「四つ、ただ一騎、里に下りることも殺戮に加担することもなく、隠れ潜み術理を振るう魔性。キャスター、
「五つ、悦楽に潜み、遊興に笑う。人の営みさえ肴とし、全てを文字通り飲み込む艶やかなる娘。アサシン、
「六つ、人と相容れぬ己の悪逆を狂気と定義した、地獄の首魁。人々の手足を砕き、臓物を引きずりだし、目を焼き、そして喰らう邪悪の申し子。バーサーカー、
居士と天国が、交互に地獄を歌い上げていく。
いずれも、その手段だけで別の恐ろしさを感じさせる英霊だ。
織田家の人間たちが、英霊を伴い一騎倒すことが出来たのは、或いは奇跡ではないのかと思う程に。
最後の一騎、順番からすれば居士の番なのだが、彼は口を開かない。
穏やかに目を閉じ、何故か愉快そうに笑うばかり。
それを天国は恨めしそうに睨む。
「……本当、性格悪いわね」
そうして一つ溜息をつき、天国が代わりに歌い出した。
「七つ、里に下りつつも手を汚すことなく、己の道に耽るもの。己の鉄と炎を以て、その先の屍を夢想するもの」
地獄に名を連ねつつも、悪に並ぶことのない英霊。
その天国の歌は唯一、物語のような非現実ではなく、これ以上の無い現実感に満ちていた。
何故ならば――
「セイバー、
その歌は、己の人生であり己の心象に他ならなかったのだから。
はい。CCC編番外、夢の対決から続投のタマモキャット、及びオリ鯖その2、天国です。よろしくお願いします。
天国に関してはサプライズ。剣豪を踏まえ普通のオリ鯖から疑似鯖に転向です。プロットに然程支障はありません。
四章はこれらの地獄が敵となります。
そして織田家も言及。信勝? 誰そいつ。