Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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明日はバレンタインデーですね!
皆様へのプレゼントとして、とびきり甘い一話をお送りします!
チョコのようにとろけていただけたら幸いです!


第二夜『人為らざる狂気の宴』-1

 

 

 翌日――この特異点における二日目。

 キャットが用意したという食事を済ませ、外に出て、驚いた。

「……」

「……丸一日、寝てたかナ?」

 黒煙の如き空は、昨日見たものと同じ。

 変わったものといえば、周囲を焼く炎が少し大きくなったくらい。

 空の色に変化はない。見た者に絶望感しか抱かせない夜が、そこにはあった。

「朝なんて来ないわ。多分、この特異点……だっけ? それが解決するまでは」

 先に外に出ていた天国は、同じように空を見上げながら呟く。

「はい。私も地獄と呼ばれる英霊が確認されてから、青空を視界に入れたことはありませぬ」

 ……絶望の黒と赤。

 視界の一切から希望が途絶えた世界。

 なるほど、人の精神を砕くにはこれ以上ない程に有効だ。

 ごく僅かになり、日に日に更に数を減らし続けるこの時代の人間。

 彼らは地獄により、希望を剥奪された上で惨殺されているのだ。

「……地獄たちが、何処に現れるのか。それは分からないのか?」

「分からないわ。ただし、間違いなく人の在る場所。何処に逃げても、人々は逃げきれずに殺されていく。だから……」

「生者を探してやってくるのを待つ、か。それとも私たちがそのまま釣り餌になるかしら」

 僕たちはこの時代の人間とは言えない。

 僕たちがその、地獄が狙う生者に分類されるのかどうか。

 どの道、地獄たちを倒していかなければこの特異点の解決は見込めないだろう。

 それらと遭遇する手段は見つけておかなければならない。

「ところで、貴女。それは?」

 気になって仕方ないと、ミコは天国の手に握られたものを指して問う。

 確かに、それはこの体躯の少女が持つには不相応に過ぎる。

 彼女はサーヴァント。それも、“その道”において名を残した英雄ならば、当たり前なのだが……。

「これ? まあ、そうよね。突っ込まれるわよね」

 ――刀。

 自身の身の丈ほどもある一振りを、天国は片手で持っていた。

「わたしは刀匠。剣を鍛つ者。わたしの英霊としての、唯一の力。鍛つ相手がいないと、この程度しか造れないけどね」

 軽く振るいつつ、天国は溜息をつく。

 剣に造詣のない僕には、この刀剣がどれ程の業物かは分からない。

 だが、天国にとって納得のいくものではないらしい。

「ふむ。結構なモノに見えるけど、やはり英霊の目にかなうものではないのかね?」

「これしか能が無いもの。そりゃあ拘るわよ。ただ、刀は振るう相手を想って鍛つもの。これはその信念も籠ってない――まあ、腕が鈍らないようやっている日課ね」

 それは、天国の――もしかすると、刀匠に共通する思想かもしれないが――ポリシーのようだ。

 振るう相手がいるからこそ、刀を鍛つ。

 当たり前だが、刀は振るう者がいなければ真髄を発揮できない。

 これは、自身の役割を失わないためのルーチンワークなのだ。

「でも……これはイマイチね。今回の召喚で一番酷い出来。なーんか、不吉ねぇ……」

「……刀匠って、そんな占いしてるの?」

 ……まあ、日課であるならばその如何で一日を占うこともあるだろう。

 それはともかく。まずは何かしら、地獄の手がかりを掴まなければ……。

「天国、この辺りで、人の残っている場所はないのか?」

「あるわよ。何故か一切、地獄の手に掛かっていない一角。そこに逃げ延びれば、まだしばらくは生き延びられる――そんな場所。集落ほどの規模もないけどね」

 天国がその方角を指さしながら言う。

 そうか……まだ、そんな場所が。

 どういう理由か、未だ無事の一角。そこは必然、人々が縋る場所となっているのだろう。

 たとえその先の絶望が、確たるものであるとしても。

『……? 天国さん、その集落は、どのくらいの距離ですか?』

「歩いて一時間とかからないわよ。わたしたちサーヴァントがいると不安がられるから離れたところにいるの」

『――――』

「……カズラ、どうかしたの?」

 どうもカズラの様子がおかしい。

 その理由に、ふと行き着いてしまった。

 もしかして――

『……人の反応が、ごく僅かしか残っていません』

「ッ――――!」

 襲撃の最中――!?

「まさか……! たま、居士、段蔵! 留守番お願い!」

 小屋に向けて叫び、天国は駆け出した。

 英霊としての超常の速度は、人の追いつけるものではない。

「メルト!」

「ええ!」

「アーチャー、頼むわ!」

「セナちゃん! ……ちょっとは手加減しておくれ?」

「本気は出さない。……本気は」

 だが、僕たちにも追いつくすべがある。

 ……ピエールがアサシンに引っ張られ、死にそうになっているが。

「貴方たち……!」

「僕たちも同行する。カズラ、サーヴァントの反応は!?」

『ありません! ですが……反応、現在も減少中です!』

 何が起きているのか……地獄が関わっていることは確実視しても良いだろうが。

 とにかく、急がなければ。

 終末を想起させる世界でも――否、そんな世界だからこそ、無為な犠牲など許容できない。

 然程時間も掛けず、その場所に着く。

「――!」

 だが、人の気配はない。

 今まで見ていた世界ほど、炎の影響は酷くはないが、最早一時間と経たないうちにここも同じことになるだろう。

「誰か……誰かいる!?」

 しかし……人がいないのは、どういう事か。

 屍を見る覚悟はしていた。惨状を目に焼き付ける事になると思っていた。

 だが――想定していたものも、生きている人の姿も、そこにはない。

『皆さん! その先に生存者がいます! ただ……』

 言い澱むカズラ。もう、その先を言わずとも分かってしまう。

 焼ける小屋の陰に、生存者はいた。

「君! 大丈夫!?」

 駆け寄るも、助けられるものではないと一目でわかる。

「ぁ……」

 十にも満たない少女だ。

 傷は大きい。あと数分ももたないだろう。

 長い金髪も赤い血に染まり、か細い息は次第に弱くなっていく。

「……ハク」

「……っ」

 ――思えば、英霊ではない、生きている人間の死と対するのは、この事件では初めてではないか。

 メルトは、この少女は既に助からないものだと割り切っている。

 ミコも、ピエールも、理解している。

 我先にと駆けてきた天国も、諦めている。

 僕も分かっている。彼女を助けられる技術は持っていない。

「……かあ、さま、は……?」

 傷ついた喉から零れた消えるような声は、母を心配するものだった。

 だが――周囲にもう人はいない。

 少女が満足する答えを返すことは出来ないだろう。

「…………、あ、なた、誰……? その、かっこう……」

 ああ――不思議にも思うだろう。

 この服装はこの時代には相応しくあるまい。

 少女は僅か開いた目に、疑問の色を持たせる。

「ふしぎ、な、ひと……まるで、先の世から、来たひと、みたい……」

 最期に滑稽なものを見たように、その表情は笑みへと変わる。

 助けることは出来ないけれど、終わる瞬間に、笑わせることが出来たならば――

「――――マスターとやらも、腑抜けたものよな」

「ッ!?」

 その瞬間、声の性質が決定的に変質し、首に強い圧力が掛かった。

 そしてそのまま、体が大きく引っ張られる。

「ハク――!」

「クハ、甘い甘い! 地獄を払わんとしていながら、死に際の童一人に情を掛けるとは片腹痛いわ!」

 体が浮いている――掴まれた上での、跳躍!?

 この首を掴んでいる者の仕業、であるならば、先程のタイミングでそれが出来るのはただ一人――

「君、はっ……!」

 凄まじい跳躍力。

 追ってくるメルトをも引き離し、逃走する少女。

 気付けば、傷など何処にもない。

 黄色の着物。額から伸びる、二本の角――

「鬼……!」

「然り。汝らが捜す地獄が一角よ」

 まさか、あの少女が……!

 いや、考えている暇はない。このままでは……!

「っ、令呪を以て――――」

「おっと。させぬよ。少し黙っているがいい」

「ぁ――――」

『ハクトさ――』

 令呪による即時招集ならば、メルトも追いつける。

 しかしその命令が成立するよりも早く、腹に強い衝撃が走り、瞬く間に意識は刈り取られていった。

 

 

「――――」

 目が覚めると同時に感じたのは、腹の痛みだった。

 五体は……無事だ。

 だが、ここは一体……。

「目覚めたか人間。そら、体は動くな?」

「ぐっ……!」

 左手を踏む、血色に染まった足。

 鋭く尖った爪。聞こえた声は、先の少女と同じもの――

「サー、ヴァント!」

「名を聞く余裕はあるか? ならば良し。狂宴地獄、真名を茨木童子。大江山の鬼の首魁よ」

 ――茨木童子。

 それは、人として名を残した存在ではない。

 平安時代、この京の都において悪逆の限りを尽くした鬼だ。

 この特異点における敵たる地獄。その一角に、こんな存在がいるとは――!

「震えているか? ん? だろうなあ。サーヴァントも傍にいぬ身。この上なき絶望だろう?」

「ッ、メルト――」

 周囲を見渡すも、メルトの姿はない。

 炎はない。見たところ、何処かの山奥――

 メルトがいない。それは、どんな事よりも危機感を覚えることだった。

「ああ。その刻印、使っても構わんぞ? この場は吾らが領域。その程度の妖術が通用するものならば、試してみるがいい」

 失敗を確信しているように、愉快そうに茨木は嗤う。

 令呪の浪費、そんな事を考えている暇はなかった。

 いつも傍にいる筈の存在がいないということが、思考を奪う。

「――メルト、此処へ!」

 令呪が輝きを放つ。

 しかし――不可能を可能にする奇跡は成立しない。

 輝きが収まる。

 メルトは現れることなく、令呪はその数を減らしていた。

「――――!」

「クハ、ハハハハハハハ――! 良いぞその表情! なんと心地良い絶望か! もう一度試すか? 構わんぞ!」

 ――呼吸が荒くなるのを感じる。

 危機感は膨れ上がり、絶望へと転じていく。

 それが心から面白いと、茨木は高笑いする。

 消えた一画が齎した絶望に、体が底冷えするのを感じる。

「……僕、を」

「ん?」

「僕を、どうするつもりだ……?」

「さて、どうするか。(はらわた)を引き摺りだすも良し。皮を剥いでいくも良し。先の世の人間はどう啼くか、確かめてみるも悪くない」

「ッ……」

 命を握っている者の優越感か。茨木は脅すように嘲笑う。

 目の前に突き刺さった刀。

 骨を削って作ったような武骨なそれは、やろうと思えば簡単に此方を殺せるという茨木の脅迫か。

「む? なんだ、然程恐怖せぬではないか」

 死の実感がない訳ではない。

 前の特異点でもこの命は一度貫かれた。

 死というものを、より明確に感じられるほどには、僕の価値観も変わっている。

 だが、今僕をより大きく支配している恐怖は、それではない。

「ああ――よもやサーヴァントと引き離された事、か?」

「――――」

 僕という意思が目覚めた時から、常に共に居た存在。

 誰に指摘されるまでもなく、僕はメルトに強く依存している。

 メルトと引き離されたことによる絶望は、あまりにも大きかった。

「他者がいなければ何も出来ぬか。やはり人間は弱い。群れて粋がるのも頷けるわ」

「ええ、それが人間。我々には分からぬ価値観です」

 呆れた様子の茨木の言葉に答える、若々しい男の声。

 その方向を見れば、もう一人、サーヴァントの姿があった。

 この自然の中に立つにはあまりにも調和の取れていないベージュのスーツ姿。

 明るい橙色の髪。そして目元を隠すサングラス。

 僕たちが生きる時代にいても不思議ではない近代的な風貌。

 だが、何処か決定的に人間とは違う――そんな確信があった。

「……貴方も、地獄の一人……なのか?」

「――まあ。そう思うなら、それで。想像、空想は人の営み。であれば妄想の産物である私が否定はしません」

 飄々とした笑み。

 他愛のないものでありながら、果たして人が浮かべられる表情なのかという程に不気味な笑顔。

「回りくどいわ。汝のような化生はそういうものなのか?」

「ええ、まあ、それなりに。いえ、他の者に会ったことはないのですけれど」

 サングラスの位置を直しつつ、茨木の悪態にサーヴァントは答える。

 化生……彼もまた、茨木のように通常の英雄とは異なる存在なのか?

「さて。貴方が今からどうなるかはともかく。名乗るのは悪くない。まあ、真名の真髄も分からぬ身ではありますが」

 真名の真髄が、分からない――?

 それがどういう事なのか、その疑問を察したのか、男は僅かに笑みを深くする。

 だが真名を名乗ることはない。当然だ。弱点に通ずる可能性もある真名を名乗るのは、大きなリスクが伴うのだから。

「では、こうしましょう。我がクラスはキャスター。それだけでは面白みに欠けるので、キャスター・ナル(Null)と。ええ、私には中々に相応しい」

 ――何もない(ナル)

 そう名乗るキャスターのサーヴァント。

 たった今考えたものなのだろうが、ああ――相応しい名だ、と思った。

 何故ならば。

 

 ――彼のステータスは、宝具を除き全てに数値が割り振られていないのだから。




(ハクが)とびきり甘い一話でお送りしました!
いや、二章でもハサン相手にやらかしたのに学習しませんねこの主人公は。
変化持ちに弱いんじゃないでしょうか、この人。

という訳で地獄の一角、狂宴地獄こと茨木童子、そしてキャスター・ナルの登場です。よろしくお願いします。
ナルはオリ鯖ではありません。正体に行き着かない方は、是非とも真名が明かされるまでお待ちいただけたらなと思います。
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