Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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第二夜『その覇道は誠に集い』

 

 

 抱えられたまま山を下り、どれくらい経っただろうか。

 暫く経った頃、唐突に離され、受け身もままならず地に落ちた。

「この辺まで来りゃ無理に追ってはこないだろ。まあ、地獄共の目はあるだろうが」

「こればっかりは仕方ないですよねぇ。私たちにキャスターなんていませんし」

 そこで初めて、僕をここまで抱えてきた男性――土方 歳三の姿を見た。

 洋装の上に羽織る黒い外套。刀と銃を腰から下げた、強面の男性。

 桜色の少女――沖田 総司より幾分か近代的な様相をしている。

 二人は生前よりの知己であった間柄だ。

 新選組。幕末、京都を中心として活動していた治安組織。

 剣客集団として未来においても長く語り続けられるそれの、副長と一番隊隊長。

 その苛烈さから戦場の鬼と恐れられた土方と、隊最強の天才剣士と言われる沖田。

 沖田の剣技は先程垣間見た。キャスター・ナルを瞬殺し、茨木でさえ紙一重で躱すことを強いられた神速の一振り。

 瞬間移動にも等しい速度を目にすれば分かる通り、彼女の敏捷ステータスは群を抜いている。

 そのランクはメルトと同等のA+。土方は特別秀でたステータスこそないが、平均ランクで纏まっている。

 両者とも近代の英霊だからか、魔力ステータスは低いものの、彼らは元より魔力を重視した存在ではないゆえ当然だろう。

「で? なんだお前。この時代の人間にしちゃ奇妙な装いだが」

「ああ、それは――」

 状況からして、彼らが地獄たちと敵対していることは明らかだ。

 ひとまずは名前、特異点の概要と、未来から来た事、仲間と共にこの時代に降りたこと――

 そして、茨木童子の策により、連れ去られたことを話す。

「はへー……何が何やらですが……とりあえず、アレとは敵同士ってことですね」

「そういうことになる。ところで、君たちは――」

「同じようなモンだ。喚ばれた以上気に入らねえ奴は叩き切る。何も悪事を起こしてねえ民衆を焼いてるってんなら猶更だ」

「そんな訳で、偶然か必然か揃って召喚された私たちはここを拠点に戦っているんですよ」

 この辺りは、火の手が回っていない。

 彼らはこのうち一つの小屋を拠点としているらしい。

「即ち、此処は新選組の屯所です。まあ、ちょっと風変わりな人たちも集まってますけど」

 そういえば――小屋の中からは幾つかのサーヴァントの気配がある。

 居士の陣地であったあの小屋と同様、複数のサーヴァントが集まった場所なのか。

「それで、どうします? 貴方が望むのであれば、暫く此処にいてもいいですけど」

「……」

 ――それは、正しい選択かもしれない。

 だが、その前に。

 あの山からは下りた。令呪の効力が失われた理由があの山に起因するのであれば、今はその制約は存在しない筈だ。

 ミコやピエールからメルトを離すことになる。

 そして、どうやら今はカズラの観測が此方に向いていないらしい。作戦開始前に危惧していた事態だろう。

 それらを考慮しても――メルトが傍にいないというのはこの上ない不安だった。

 自分が自分でないかのように、存在が激しく揺らぐ。

 だから、躊躇いはなかった。

「令呪をもって命ず。メルト、この場に」

 令呪が膨大な魔力を発露させる。

 今度こそ、命令は絶対的なものとなり、メルトの召喚は完了される。

 それが、マスターの証であるこの刻印の力。

 ――――だからこそ、何を成すこともなく消えていく令呪が信じられなかった。

「…………え?」

 令呪は確かに使用された。

 しかし、周囲を見渡しても、メルトの姿はない。

 僕の様子を怪訝そうに眺める沖田と土方がいるだけ。

 この近辺に新たなサーヴァントが現れた気配もない。

「……なんで」

 また数を減らし、残り一画となった令呪。

 最早感じた事のないほどの焦りしかなかった。

 考える間もなく、最後の令呪に魔力を込めていたのを――

「そこまでです。なんだか知りませんが、落ち着いてください。目の前でとんでもないもの無駄遣いするのは見逃せませんよ」

 ――沖田にその手を掴まれてから、ようやく気付いた。

「一回駄目でもう一回ってのは悪くねえが、そこまで無意味ならやらねえ方がいい」

「いや、だけど……」

「焦った奴から死んでいくのは世の道理だ。絶対命令の無効化か……大方、術懐辺りに魅入られたな」

 術懐地獄――七つのクラスにそれぞれ据えられた地獄の中で、キャスターに位置するサーヴァント。

 気付かないうちに、僕はその術中に嵌っていたらしい。

 そんな兆しはなかった。だが、現として令呪の効果は発揮されない。

 使用を無効化するという単純なものではない。使用した上でその効力のみを無に帰す、より難解な術理だ。

「とりあえず、今貴方のサーヴァントを此処に呼ぶのは諦めてください」

「だけど……」

「ソイツが駄目なら足使って自分で探せ。近いか遠いかの差だろうが」

 傍に当たり前のようにいる存在がここにいない。

 粉々になりかけた理性が、土方の言葉で繋ぎ止められる。

「恐らくですが、此処は今この世界で一番安全な場所です。一旦、気持ちを落ち着けるには最適の場所ですよ」

「……ああ」

 本当なら、今すぐメルトを探しに行きたい。

 だが、今一人で飛び出しても、地獄らの格好の獲物となるだけだ。

 痛みを通り越す程に強く唇を噛み、衝動を抑える。

 暫くそれを続け、ようやく、その選択を選ぶことができた。

「……ごめん。ありがとう二人とも。少しの間、世話になる」

「ふん。言っておくが、此処にいる以上仕事はしてもらう。役に立たなきゃ食いはぐれる。それだけは頭に叩き込んどけ」

「まあ、マスターとしての能力があれば役目には困らないと思いますけどね。――ようこそ、新選組へ」

 周囲にある他となんら変わらない小屋。

 唯一違う点と言えば、小屋の前に立ててあるそれ。

 そこが自分たちの拠点であるということを一切隠さない、隠してはならない証明。

 誠の一字を掲げた旗。

 彼らの信念そのものとも言えるそれの傍を通り、この時代において味方をしてくれるサーヴァントたちのいる新選組の屯所へと入る。

 

 

 先程から、中から喧噪は聞こえていた。

 何をしているのだろうとは思っていたが、正直なところ、予想外の要素しかなかった。

「丁半コマ揃いました、勝負」

「ぬはははは! また勝ちじゃな! ノッブ無双止まらぬわ!」

「む、むぅ……! どうしたというのだ私の幸運!」

「いや、アンタもそれなりに勝ってんじゃん……」

「ぶっちゃけ半々だし、全員勝ち数そんなに変わらねえしな……」

 ……丁半賭博という賭け事がある。

 簡単に言えば、二つのサイコロの出目の和を予想し、奇数か偶数かで賭けるゲームだ。

 その、江戸時代も半ばに成立したと言われる賭け事に興じる、未来に生きる者たちが屯しているとは。

「お。そーちゃんにヒッジ、おかー。丁半やってるけどどうする?」

「此処は賭場じゃねえ。人が外出てる時に何してんだお前ら」

 本来のもの程大きなものではない、即席で作られた盆茣蓙を囲む五人。

 そのうち一人は――知った顔だった。

「――白斗殿!」

「牛若――?」

 見違えようのない、要所のみに纏う鎧姿の少女。

 長い黒髪を横で一つに纏めた彼女は、二つ目の特異点で力を借りたサーヴァント。

 ああ――別れの時、確かに言っていた。

 “次は……そうですね。やはり日本が良い。戦い慣れた土地であれば、私も本領が発揮できるというもの”

 あの時の言葉通り、彼女は今一度、日本を舞台に召喚に応じてくれたのだ。

「またお会いできるとは! 壮健でしたか?」

「ああ……牛若は、記憶は引き継いでいるのか」

「はい。あの時の退去より、地続きの召喚のようです」

 牛若は盆茣蓙から離れ、走り寄ってきた。

 彼女は以前の記憶を持ったままの状態らしい。

 彼女の存在で、幾分気は楽になった。既知の仲がいるというのは、それだけで心強い。

「おや、メルト殿の姿が見えないようですが……」

「……少し、離れている。この時代の何処かにはいるんだけど」

「……そうですか。どうか気を落とさぬよう。此度の戦場においても、私の可能な限り手を貸しましょう」

 頼りになる笑みで、牛若は言った。

 地獄に仏、ともいうべき、途轍もなくありがたい助力だった。

「なんじゃ、牛若の知り合いか。また珍妙な成りじゃな」

 ――サーヴァントのみならず、人間もこの場にはいた。

 強大な力を持つサーヴァントたちに囲まれていながら、彼らに一切劣らぬ存在感を有する女性。

 珍妙な成り、とは言うが彼女もいい勝負だ。時代を超えた英霊ならまだしも、この時代の人間で近代の軍服に身を包んでいるなど、浮いているというレベルではないように見える。

「ああ、白斗殿。紹介しましょう。身の上としてはやや気に入らぬところはありますが、この時代に残る、守るべき楔――即ち、織田 信長です」

「……は?」

 この場の生者という時点で、只者ではないだろうという予感はあった。

 だが牛若の口から飛び出した名は、その予感のかなり上を行っていた。

 信長、と呼ばれた女性は、それが間違いないと言うように獰猛に笑った。

「白斗、と言ったな。わしが第六天魔王・織田 信長。未だ生き汚くこの地に在って、小賢しい地獄共に抗っておる」

 織田 信長。この時代においてまずはじめに名が挙がるであろう、戦国の風雲児。

 三英傑の一人に数えられる大英雄。

 ここにいる牛若を好例として、男性として伝えられている英雄が女性であったというのは何度か見たことだ。

 だが、やはりその衝撃は大きい。かの魔王と恐れられた信長もまた、そうした存在だったとは。

「ん? なんじゃその顔。ああ、この装束か。洒落てるじゃろ」

「え、あぁ……」

「南蛮の戦装束らしい。鈴鹿が用意してくれてな」

「ノッブなら似合うと思ってたし。いいね、ゴールデンも似合ってるじゃん」

「おうよ。サンキューなベルディアー。アンタの仕立てた服、どれもこれも超クールじゃねえの」

 ……あの軍服は、どうやらサーヴァントの少女が用意したものらしい。

 小屋の中に集まっていたサーヴァントは、牛若を除きやけに時代錯誤な服装だった。

 一人、女性の方は、言うなれば女子高生のような白いブラウスと緋色のミニスカートという制服姿。

 胸元にはスカートと同じ色のリボンがあしらわれ、己が生きた時代とは異なるだろう異装を見事に着こなしている。

 そしてもう一人、男性の方は、僕たちの生きる時代からしてもやや浮く姿。

 服装としては地味ながら、装飾として身に付けている金のベルトや大小さまざまなアクセサリー。

 それらをはち切れんばかりの筋肉の上に着こなす、金のおかっぱ頭の男性。

 目元を隠すサングラスも相まって、マフィアか何かのような印象を受ける。

「で、アンタは人間? この時代の、じゃなさそうだけど」

「ああ。この時代の異変を払うために、未来から来た。紫藤 白斗だ」

「ほう、時を渡ったとな。なんじゃそれ、詳しく! もしかして料理人だったりするのか!?」

 信長が目新しいもの、珍しいものを好むというのは、歴史でもよく伝わっている。

 時代を渡るという技術は、彼女からしても見逃せないものなのだろう。

 ……何故料理人という予想に至ったのかは分からないが。

「ノッブ、ステイだし。まずは自己紹介。そーちゃん、新しい仲間なんでしょ?」

「はい。自分のサーヴァントとはぐれたとかで、匿ったと言った方が正しいかもですけど」

「ふーん。んじゃ、マスターなワケ。私は鈴鹿。よろしくっしょ」

「鈴鹿……鈴鹿御前?」

「そ。クラスはセイバー。そーちゃんと同じ」

 鈴鹿御前――立烏帽子の女剣士。

 坂上田村麻呂と共に数多の冒険を繰り広げ、多くの鬼を退治したという伝説の女性だ。

 悪路の高丸、大獄丸といった多くの名のある鬼を退治した、日本屈指の鬼退治のエキスパート。

 その出自にしてはやけに軽薄な印象を受けるが……まあ、似たような性質の知り合いもいる。サーヴァントとは、そういうものなのだろう。

「んじゃ、次はオレっちだな。つっても、この姿を見りゃ一目瞭然だろ? 英霊になって得た知識じゃ、先の世じゃ御伽噺になってるって話だしな」

 自信満々に胸を叩く男性。

 だが……その姿を見ても、ピンとくる真名など一つもない。

 先程鈴鹿に呼ばれていた名は……確かゴールデンだったか。うん、駄目だ。知識を漁ってみても、そんな名前の英霊は知らない。

「……ごめん。まったく分からない」

「んなっ……ソー・バッドじゃん……オレって知名度低かったりすんのか……?」

「いや、普通出てこないって」

 かなりショックを受けてしまった様子の男性に、鈴鹿は苦笑する。

 どうやら、彼もまたかなり近代に染まっているらしい。真名に行き着かなくても仕方ないと思う。

「クソッタレ、ならしょうがねえ。耳かっぽじって聞きやがれ」

 しかし、すぐに気を取り直し、豪快に笑いながら男性は立ち上がった。

 床を砕かんばかりに力強く踏みしめ、出現させた己の得物を肩に叩き付ける。

 その得物もまた機械的だが――間違いない、斧だ。

「源頼光に集いし四天王、その一角。爆砕、黄金、怪力無双! バーサーカー、坂田 金時、ゴールデンたぁオレのことだぁッ!」

「――――」

 ああ――確かに知っている。日本であれば、知らない人間の方が少ないだろう。

 坂田 金時。今の名乗りにあったように、源頼光に仕えた頼光四天王の中で、随一の知名度を誇るだろう男。

 その伝説、その武勇は、『金太郎』という御伽噺として今も伝えられている。

「――知ってるか?」

「――知ってる。少し、いや、かなり驚いた」

「だろ。サインなら年中無休でオーケーだぜ。イングリッシュの筆記体も覚えてきたからよ」

 ……英霊としての知識に、多分に影響されてしまったらしい。

 ともあれ、彼は最早確認するまでもなく、強力な英霊だ。

 山姥と龍神の子であり、その証左か筋力値はA+というトップクラスの位置にある。

 彼をはじめとした四天王は主の源頼光共々平安において最強の神秘殺しだ。

 先程出会った殺爽地獄――酒呑童子を討伐したのも、彼だという。

「ま、よろしくなホワイト。いや、パープルのがいいか?」

「ホワ……い、いや、呼び方は任せる。よろしく、金時」

「ゴールデンだ」

「え?」

「ゴールデン。オレのことはそう呼んでくれ。名前が嫌いな訳じゃねえが、ほら、フィーリングだよ。魂の問題」

「あ……あぁ、すまない、ゴールデン」

「オーケーオーケー! ノリが良いじゃねえの兄弟!」

 斧を持つ反対の手で背中をバシバシと叩かれる。十二分に加減してくれているようだが、正直痛い。

 ――と、丁半賭博の進行係である中盆の役割をしていた少女と目が合う。

 黒い着物に黒い髪、ただし、髪は先端にいくにつれ白へと変色している。目元には深い隈の刻まれた、青白い肌色の少女。

 彼女は信長と同じ、人間だ。その存在感は、信長と比べるべくもないが……。

「……君は」

「……」

「む? 良いぞ、名乗っても」

 口を閉ざしていた少女は、信長に許可を受けると、丁寧に一礼した。

「……ナガレ、と申します。織田様に仕えております」

 ナガレ、そう聞いて、やはり思い当たる人物はいない。

 歴史に名を残すことはなかった、信長の配下の一人だろうか。

 彼女とも挨拶を交わす。そして――残るは一人。

 盆茣蓙を囲むことなく、信長の後方に控えていた男性。

 長い白髪の、彫りの深い顔立ちの青年。

 黒地に暗い赤で炎が象られた着物は逆に不自然なほどに彼に似合っている。

「ほれ。お主も名乗らぬか」

「……は」

 僅か、その目が此方に向けられる。

 感情の見えない瞳。炎に晒されながら、熱を帯びない鉄のような印象を受ける。

 その第一印象は、最初の特異点で出会った鉄の忠臣、アグラヴェインを思わせた。

 ――だが、彼の名を聞いた瞬間、思考は真っ白になる。

 何故ならば。

 

「――私は、明智 光秀。信長様の臣下にございます」

 

 ――彼こそ、信長の天下に届かんとした覇道に終点を刻んだ男だったのだから。




新キャラ大勢でお送りしました。
此度のメイン(予定)のノッブ、そしてゴールデンと鈴鹿。
更に二章より続投の牛若。おまけにオリキャラとなるナガレ、そしてミッチーの登場です。よろしくお願いします。
ナガレのイメージとして近いのは某6th。オカルトマニアちゃんやらも入ってます。

さて、ハクは令呪を更に消費。順調にメルトがいないことで冷静さを欠いています。
さあもっと苦しめ。

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