Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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今年中に五章くらいは終わりたいという目標があるのでそろそろ速度を上げていきたいです。


第三夜『白に添う花二つ』

 

 

「あんた、相当の馬鹿でしょ」

 しゃがんで、膝に肘をつきつつ投げかけられた鈴鹿の呆れ声の問いに、返す言葉もなかった。

 咄嗟のこととはいえ、やはりサーヴァントを庇うという行動は、彼女たちからすると異常なのかもしれない。

 沖田一人の命を僕の腕一本で助けられたのならば幸運だ。そう自分を納得させていたが、どうやら彼女たちはそうもいかないらしい。

「……応急の措置ではありますが、止血は完了しました。ただ……」

「……ああ。わかってる。ありがとう、ナガレ」

 ナガレに施してもらった医療措置で、どうにか血は止まった。

 袖から断たれた服から、ナガレに見繕ってもらった(信長に強制されたとも言う)着物に着替え、一見ではその異常は気づかれにくくなったと思う。

 しかし、着物の袖を捲れば布で巻かれた腕。「そこから先がない」というのは、違和感の塊だった。

 指を動かす、手首を動かすと脳が信号を送っても、受け取る部位が存在しない。

 目の前に置かれた自分の手。自分から離れた、というだけでここまで不気味に感じるものだとは、思わなかった。

 ――助かったのは、ナガレが超常の術を備えていたがためだ。

 魔術とは違う。カテゴリーとしては、呪術や妖術に近いものだろうか。

「手の代わりは、すぐにはどうにもなりません……時間があれば、用意することも可能なのですが」

「いや、そこまでしてもらう訳にはいかないよ。多分、この特異点を解決した後には、どうにかなる」

 時間があればどうにかなるのか、と驚きつつも、首を振る。

 時代への記述の上書きという形で擬似的な肉体を構成している今はともかく、月に戻れば再生は叶う。

「まあ、なんだ。漢見せるのは良いけどよ、考えなしにやるもんじゃねえぜ?」

「その通り。メルト殿が見れば、なんと言うか……」

 ……確かに、あまりメルトに見られたいものでもない。

 そう考えると、どうにかしてこの腕を繋げられないものかとも思う。

 怒られるだけならばまだしも、怪我とかではなくここまでとなると、何が待っているかわからない。

「……ところで。そろそろ顔を上げてほしいんだけど」

「…………いえ、本っ当に、どうお詫びしていいものか……!」

 腕の違和感以上に、とある要因によってこの空間は非常に居心地の悪いものになっていた。

 床に手をつき、頭を下げる沖田。

 どうやら先程の一件を非常に重く受け止めてしまったらしい。

「僕は気にしてないから……」

「それでも! 腕一本を、私の不覚でなんて……!」

 ――沖田 総司。新撰組一番隊隊長。

 稀代の天才剣士と謳われた彼女だが、生前より重い病を患っていた。

 そしてサーヴァントとなったことで後世のイメージがよりその体質を強調し、強力なデメリットスキルと化しているとか。

 いつ発動するかも知れないそれは、本人にも予兆を悟られず唐突に襲い、あらゆる行動を中断せざるを得なくなる。

 更には急激なステータス低下。平時ならばともかく、先程のような戦いの場では致命的なデメリットだ。

 それが、不幸にもシャドウサーヴァントが最後の攻撃を決めんとするあの局面で発動した。

「飛び込んだ方も馬鹿だが、原因を見りゃこいつの落ち度だ。悪かった。それと、手前を顧みねえでこいつを助けてくれたことには礼を言う」

 土方もまた、小さく頭を下げてきた。

 二人には、借りと思われてしまっているらしい。

 しかし、自分の判断でやったことだ。お詫び、と言われても……。

「――沖田。お主がこ奴の腕になれば良い」

 どうするべきか、と思っていたところに口を挟んだのは、部屋の奥で火縄銃を手入れしていた信長だった。

 囲炉裏の灯りもさほど届かないやや暗がりで、強い眼光を放っている。

「……私が、紫藤さんを?」

「うむ。お主ほどの剣士はわしも今生見たことはない。腕一本の代わりくらい余裕じゃろ。まあ、今しがたのようなことがなければ、じゃが」

 正直なところ、無視できない問題ではあった。

 どちらが利き腕、と言えるほど、極端に片方が使いやすい訳ではない。

 それでも右手が遣えないというのは、戦闘にも支障が現れる。

 残り一画となった、メルトとの契約の証が失われるよりはまだ良かったと言えるが……。

「……土方さん」

「お前の誠はもう答え出してんだろ。そいつを折ったらそれこそお前じゃねえ」

 沖田の言わんとしていることを、土方は察している。

 己の選択に任せると、遠回しに許可を出した土方に、沖田は噴き出すように笑った。

「なんだよ」

「いえ。いつまで経っても土方さんは土方さんだなって」

「そりゃそうだろ。昨日と今日で変わってたまるか。人間変わろうと思っても変われる奴なんて一握りだ。変わろうと思ってねえ奴が変わる訳がねえ」

 堅牢なる信念。不変にして、不撓不屈の魂。

 きっと土方は、若年であった頃からこうだったのだろう。

 長きに渡り同じ時を過ごしたからこそ、沖田には分かっているようだった。

「という訳で、紫藤さん。貴方さえ良ければ、サーヴァント・セイバー、沖田 総司。この一時、貴方の右腕となりましょう」

「――ああ。よろしく、沖田」

 サーヴァントとしての契約ではない。

 口で交わしただけではあるが、沖田の頼りになる笑みは安心感を持たせる。

「無論、私もお忘れなく。メルト殿と再会するまでは、貴方を何としてでも守り抜かねばなりますまい」

 牛若は相も変わらず、僕に協力してくれる。

 幼いながら、その武芸は達人の遥か上にある。

 両者剣豪と呼べる使い手だ。心配ごとなど、自然と消えてしまうほどに。

「うわ、両手に花。やるじゃんあんた。ハーレム目指してる?」

「無い。断じて」

 素で感心した様子を見せられても困る。

 鈴鹿の苦笑と正反対に、金時は何やら神妙な表情だった。

「……? どうしたんだ?」

「あー……いや、うん。なんつーか、デジャヴっつーの? 他人の気がしねえっていうか」

「ゴールデンも? ヒッジもそうみたいだし、色男ばっかじゃん此処」

「誤解だぜ」

「誤解だ」

「何が悪い」

 否定二名、肯定一名。否定の説得力が急激に落ち、鈴鹿は溜息をついた。

「はれむ……でじゃぶ……南蛮語か。まあ話がついたのなら、早速良いかの? お主に命を出したいのじゃが」

「あ、ああ……すまない、大丈夫だよ」

 微妙な空気を悟ったのか、火縄銃を磨きつつ、信長が口を挟んできた。

 一刻も早くメルトを探しに行きたいが、手がかりは現状何もない。

 であれば、この時代において力を持つ彼女につく形で少しずつ情報を集めていくべきだ。

「うむ。昨晩ナガレがわしの近習から連絡を受け取っての。そ奴らと同じ只人でなき者を発見したとのことじゃ」

 彼女に従う側近――地獄と戦い、なお生き延びた者が、この京で奔走しているらしい。

 その中で、牛若たちのようなサーヴァントを見つけた、と。

「あ奴と合流し、その英霊に協力を取り付けてこい。渋るようなら屈服させよ。それを以て、お主をわしの力になれるもの、と認めてやる」

 時代に敵対する者であれば、生者を捕捉した時点で殺しているだろう。

 それをしないということは、少なくとも「この時代を破壊する英霊」として召喚されたのではない、と見ていい。

 月によって召喚されたサーヴァントか、それとも何らかのイレギュラーによって召喚された存在か。

 どちらにせよ、味方とすることは不可能ではないのだろう。

「場所は――」

「馬を使えばそう掛からぬ。幸い何処もかしこも焼け落ちて遮蔽物もなく、牛若が馬を持っておる。そして牛若も沖田も馬にも劣らぬ瞬足の持ち主。問題はなかろう?」

 ――要するに、とっとと行って戻ってこいと。

「ほれ、善は急げじゃ。はよう行け」

「っとと! わかった。すぐに出発する」

「何を驚いているか。火ィ点いてないじゃろ」

 催促するように銃口を向けてくる信長。

 その威力を発揮できない状態であるとしても、正直心臓に悪い。

 無言の非難に信長は何処吹く風という様子だった。

「……じゃあ、行こう。牛若、沖田」

「御意に」

「はい。お任せください」

「頑張れよ、ホワイト。南無八幡ってな」

 金時の激励や、手を振ってくる鈴鹿の応援を受け、出発する。

 ――この時、僕が抱いていた覚悟は精々が「新たな英霊に会う」くらいだった。

 この時代において、最上位に位置するイレギュラーが待ち受けることなど、悟れる筈もなかった。

 

 

 拠点としている小屋から牛若の太夫黒に乗って二時間ほどで、指定の場所には着いた。

 途中、天国たちのいた小屋を探したものの、辺りを見渡しても変わらない灼熱地獄。目印らしいものも見つけられなかった。

 そのほか、片手がないことで太夫黒を駆る牛若にしがみ付くことすらままならず、落馬して追走していた沖田に受け止められるという事態をはじめとして色々とあったが、どうにか辿り着いた。

「貴方たちが、信長様の遣いですね?」

 そこにいたのは、炎の地獄を地獄と感じさせないほどに美しい黒髪を伸ばした、一見して女性にも見える少年だった。

「私は森 蘭丸。信長様の近習を務めております」

 その名を聞き、驚愕と共に納得した。

 森 蘭丸。信長に仕えた近習としては有名だろう。

 男とも女ともつかぬ絶世の容姿。

 信長が一際重用し、自慢の宝とまで言いしめた、彼女のかつての忠臣たる森 可成(よしなり)の三男。

 ――そして、彼女と本能寺にて死を共にした忠兵。

「僕は紫藤 白斗。貴方が只人でない者を見つけたと聞き、協力を取り付けに来た」

「牛若丸。白斗殿の護衛として参じました」

「同じく、沖田 総司です」

 此方も名乗ると、蘭丸は頷き微笑みを返してくる。

 ……やはり、その仕草は少女と言われれば納得できる。

 鬼武蔵の異名も名高い勇猛な武将、森 長可(ながよし)も彼の兄弟だが……どうにも、イメージが繋がらなかった。

「蘭丸は、一人で此処に?」

「はい。最早この地獄、誰しもが決死でなくば乗り切れぬものと存じます。私一人の首で超常の一人を信長様の味方につけられれば御の字ですよ」

 ……まだ二十にも満たぬ身で、その精神は達観していた。

 信長の覇道のため、この地獄に身を投じているのだ。

「それでは、手早く事を済ませましょう。貴方の見つけたという英霊は何処に?」

「このすぐ先です。昨日、剣振るう影に襲撃を受けた折、瞬く間に幾本もの矢を放ち、粉砕されました。まさに神業、地獄にも勝ると思われます」

「そこまで……」

 もし、蘭丸の言葉が正しいとすれば、味方につけることが出来れば途轍もなく頼もしい。

 此方にも強力な英霊がいるが、信長の下にいる英霊たちは全員、近距離での戦闘を得意としている。

 矢を使ったとなれば想定されるクラスはアーチャー。此方の不得意を補えるクラスだ。

「その者は昨日から動いていません。私が話をしようとしたものの、取り合ってもらえず……頼めますか」

「ああ。行こう」

 まずは話して、その英霊が善か悪か判断する必要がある。

 蘭丸の指した先、炎を意にも介さず、それは立っていた。

 黒い襤褸切れ。フードで頭も覆った、見ただけでは性別も判然としない姿。

 だが、それ以上に不審な点があった。

「……?」

「白斗殿、どうかしましたか?」

「……サー、ヴァント……?」

 マスターである以上、サーヴァントかどうかの区別はつく。

 それはマスターの役割を担うにおいて、共通して渡される能力だ。

 だがそれを以てして――前方に立つ者の正体は測れなかった。

 サーヴァントであるならばわかる。人間であるならば、サーヴァント以上にわかりやすい。

 その、どちらでもない――――いや、どちらともいえる、これまでに見たことがない異常な存在。

 イレギュラーという枠組みをさらに踏み外したサーヴァント。人としての道が見えなくなるほどに離れてしまった人間。

 どちらであっても、「それでも足りない」というほどに異質な気配。

 記憶を辿る。一番近しいモノとなると、最初の特異点、ブリテンの地で戦った黒竜王か。

 襤褸切れが此方を向く。フードの中の瞳と、視線が合う。

「ッ――――!」

 その眼には、ありとあらゆる苦痛が凝縮されていた。

 人々が一生のうちに担うことになる全ての苦痛。それらを一時に集めてさえ、この眼にはならないだろう。

 血ですら薄いと思えるほど赤黒く染まったそれは、生き地獄を何千年と味わってきたのではというあり得ない想像さえ抱かせるものだった。

 ただ一つ、死だけは感じられない。

 あらゆる苦しみを内包していながらその最高峰のみを秘めていない歪な瞳は、最早潤うこともなく亀裂さえ走っている。

「――――瑞々しい目だ。やはり憎らしいな、生を謳歌する者は」

 その声で、ようやく襤褸切れの中身が男だと分かった。

 ズタズタの喉から絞り出したような、枯れ切った低い声。

 初めて聞いた彼の言葉は、あまりにも強い生への否定と憎悪に満ちていた。

「……紫藤さん、下がって。森さん、貴方は目を瞑っていてください。決して目を合わせないように」

「魑魅魍魎、いやさ邪神の類か。よもや人の型がここまで堕ちられるとは……我がご先祖も、ここまでの邪悪と見えたことはないでしょう」

「そうだろうな。たかが一生でここまでの重苦を味わえるものか。でなければ、僕の悠久は何だったのかという話だ。まあ……末世の地だ。その可能性を考えなかった訳でもないが」

 沖田と牛若は刀を抜き、油断なく構える。

 眼前の男に、二人のサーヴァントは尋常ではない脅威を感じていた。

「……単刀直入に聞きます。貴方はこの時代を救う側か、壊す側か。どちらなのです」

「どちらかといえば、救う側だ。それがどうやら、僕の使命らしい。尤も、辺りの火が僕諸共全て焼き尽くしてくれるならば願ったり叶ったりだが」

 自虐的に、破滅的に、しかし彼は敵ではないことを告げてきた。

 その立場はかなり曖昧だが、少なくとも率先して地獄に加担することはないらしい。

「それなら、力を貸してほしい。僕たちはこの時代を修復するべく戦っている。貴方の使命とも合致すると思う」

「……月の使者か」

 ――此方の素性を話した訳でもないのに、男はそれを看破した。

「……知っているのか?」

「また聞きだがね。手を抜いたな、あの女」

 その、誰に向けられたのでもない呟きには、呆れと僅かな怒りが見え隠れしていた。

「であれば僕はお前の味方であるといえる。必要以上の干渉をするな。お前が望む時、怒りに任せて敵を指させばそれでいい。言葉なんていらない。それだけで、お前の敵は悉く滅ぼしてやる」

 条件付きだが、男は共闘を受け入れてくれた。

 不干渉――それさえ守れば、あらゆる敵を倒す、と。

 ……関わらない、というのはあまり好ましいとは言えない。だが、それが条件というならば、呑むほかないか。

「名前と、英霊であるならばそのクラスを。不干渉とはいえ、それくらい名乗るは礼儀だろう」

 牛若はいまだ警戒を解かず、刀の切っ先を向けつつ男に問う。

 対して、男は一切動じない。ここからならば、やろうと思えば一秒と断たず牛若は男に対し刀を振るえるというのに。

「名前……名前、か。とっくの昔に忘れてしまったな。あえて名乗るとすれば……」

 名前の忘却。

 そんな、到底平常ではいられない事態を、なんでもないように男は口にした。

 そして、しばらく考えるように薄墨の空を見上げて――

「……シャルヴ。真名になぞ意味はない。此処で何を名乗っても結果は同じだ。シャルヴと呼べばいい」

 たった今定めた名を名乗った。

「己を英霊と定義するならば、クラスはアーチャー。少なくとも、僕が僕でいる間は」

 意味の判然としない言葉とともに、男――シャルヴはフードに手をかける。

 その手は焼け焦げるとも、腐っているともつかない悍ましい黒に染まっていた。

 開ききった傷は血を流す機能を忘れ、やはり罅が入っている。

 しかしそれだけ。その罅から肉片が毀れ落ちることもなく、苦痛の証左として刻まれている。

 その手に注目している間に、フードは捲られた。

「――――」

「驚いたか。気にするな。お前が同じ風になることなぞない」

 ところどころが跳ねた髪は血のように赤く、根本に行くにつれ黒くなっている。

 手と同じように、顔も黒く染まり、罅と傷がタトゥーのように痕を残す。

 傷と傷の間にも別のそれが刻まれ、正に余すところなく、痛ましさに埋め尽くされた肌。

 額の罅はひときわ大きい。その罅だけは新しいのか、それとも特別なのか、中心に血色を残していた。

 死さえ生ぬるい。一体、何があれば、こうなるのか。その疑問を察したように、

「想像するな。この世全ての悪に千年浸かったとて、こうはならん」

 考えるだけ無駄なことだと、忠告してきた。




ハクのパーティに沖田と牛若が参戦。
そしてオリキャラ、シャルヴに蘭丸くんの登場です。
シャルヴはそれなりに重要キャラになる予定だったりします。
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