Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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帝都イベで深くキャラが掘り下げられたことに際し、お竜さんの台詞を修正しました。


第五夜『願わくば、闇の内でも前のめりにて』-2

 

 

 沖田と並び立つ段蔵は、武器は持たないながら低く構え、戦闘態勢をとる。

「――居士様からの新命を受諾。白斗殿、加勢いたします」

「段蔵……!」

 沖田といえども、二対一では分が悪い。

 しかし段蔵がいてくれるならば、戦闘が可能な数の差はなくなる。

 周囲の炎の影響を受けてしまう以上、真正のサーヴァントのように自由に動き回ることは出来ない。

 だが、その特性は段蔵自身理解している。この場に応じた動きは十分可能だろう。

「段、蔵……?」

「は。私は段蔵ですが……貴女は信長殿の家臣でございましょうか。それでは、そのままで。決して前に出てはなりませぬ」

 加勢した絡繰少女の名前を、ナガレが怪訝そうに口にする。

 その口ぶりからして初対面なのだろうナガレに対し、段蔵はそう判断すると、龍馬たちに向き直る。

「この匂い――龍馬、こいつ、生身だな。“生身のカラクリ”だ」

「そいつは奇天烈。憑依英霊か……なるほど、そういうことだな。まったく、哀れな……」

 何かに感付いたらしい龍馬は、それを些事であると首を振り、剣を抜いた。

 ゆらりとした、不敵な佇まいのお竜は、それでも開戦を今か今かと待っている雰囲気がある。

「暫し待てば、メルト殿たちも参ります。それまで、なんとしても持ち堪えて見せましょう」

「――!」

 メルトが、此方に来ている。

 段蔵から居士への報告により、情報が向こうに渡ったのだろう。

 もうすぐ会える――その歓喜に高揚する気持ちを抑えつける。

 それで油断してしまえば全て終わりだ。

 今はただ、あの二人を全力で迎撃する。

 強力な相手だ。それにまだ、龍馬は宝具を発動した様子はない。

 底を見せていない相手だが、決して負ける訳にはいかない。

「それじゃあ、今度こそ決着だ。真名坂本 龍馬、縫われし業は騎願地獄。さあ、行くぜよお竜さん!」

「合点承知――!」

 前方に盾を展開する。

 拳銃による牽制は、これで十分に防ぐことができる。

 真に警戒するべきは、それに続くお竜の追撃。

 蛇の如く、這うような動きでにじり寄り、軽く手で弾くのみで盾を砕く。

 その拳の一撃をまともに受ければ、ただでは済まない。

 沖田は回避と同時に懐に踏み込み、その腹に剣と突き立てた。

「相変わらず……意味不明に硬いですね」

 その剣は、体を貫くどころか身の内に入り込むことさえない。

「そうだろう。今回はお竜さんも手加減なしだ。油断してたら一瞬で死ぬぞ、お前」

 沖田はさらなる刺突でお竜を押し返し、距離を開ける。

 やはり、あの尋常ではない耐久力をどうにかしなければ、お竜に傷を与えることもままならない。

 だが、有効だと判断できたのは、牛若の持っていた退魔の奥義のみ。

 そして、龍馬たちが決着をつけにきたのであれば、当然彼らだけではないだろう。

 連れてきていないように見せかけて、相手に忍び寄る。例えば――

「――後ろ!」

 振り向くと同時に、その視界を細い何かが走っていった。

 腕を振り上げていた業火の怪物は、僕が見たときには既に体の中ほどから両断されていた。

「不意打ちは忍びの要。当然、対する手法も弁えています」

 腕から伸ばしたワイヤーを引っ込めつつ、段蔵は龍馬に告げた。

 彼女の体に秘められた絡繰。

 現れた敵を何もさせずに斬り裂いたワイヤーも、その一つのようだ。

「まあ、そりゃそうだ。それならやっぱり、数しかないか」

 初めから不意打ちが成功するとは思っていなかったらしい。

 肩を竦めた龍馬の周囲に、数体の不格好な鬼が出現する。

 それだけではない。

 辺りの炎の揺らめき、その奥からも顔を出す、鬼、鬼、鬼――

「……またですか。シャルヴさんいないんですけど……」

 サーヴァントには及ばないとて、彼らは人が相手取るには荷が重い。

 段蔵や沖田が戦うとしても、限界がないならばジリ貧になる。

 ここは一刻も早く龍馬たちを倒すのが得策だろう。

 であれば、あの鬼たちはどうするか。

 ――サーヴァントの不足という数の不利。メルトたちがここに辿り着くまで、耐え凌ぐ手段。

 存在する。サーヴァントの相手は厳しいものの、あの鬼たちならば十分に優勢を取れる。

「沖田、段蔵! 二人は龍馬たちを!」

「紫藤さん……! では鬼たちは――」

「――頼りになる子がいる。あまり長い時間は稼げないけど――!」

 一定の法則に従い、術式を構築していく。

 それは僕が直接使うことは殆どなかった、礼装というカテゴリーに属する。

 自身に負荷をかけることなく、予め決定された術式を紡ぐことが出来る外付けの強化手段。

 僕の言葉を受け、二人は龍馬たちに向かう。

 それと交差するように、鬼たちが此方に向かってくる。

 この事件に際して持ち込んだ――正確には、契約者から借り受けた、切り札の一つ。“彼女”の半身とも呼ぶべき存在。

「――release_mgi(ex, summon, include, 1048)(英霊断片、限定召喚)――」

 魔力に形を与える解放術式に、命令を込める。

 結ばれる、仮の契約。術式は顕現し、限定的な召喚陣となる。

「――ありすの紡ぐ物語(アリス・イン・ワンダーランド)!」

 ――それが、借り受けた術式の名前。

 かけがえのない家族であり、無邪気に月を跳ねまわる二人のウサギ。

 『彼女たちが作り上げたコードキャスト』は、とても大きな力としてこの場に出現した。

 

「こんにちは、おはよう、素敵な貴方。あたし(ありす)あたし(アリス)、貴方の望みはどちらかしら?」

 

 手の上に浮かぶように出現した、大きな本。

 開くと同時に飛び出した数多のトランプが鬼たちの動きを止めたうえで、本は僕に問い掛けていた。

「力を貸してほしい、アリス。相手は、あの鬼たちだ」

「まあ、夢に迷える羊さんたちね。いいわ、お兄ちゃん。お姉ちゃんがいないんでしょう? あたし(アリス)が守ってあげる!」

 くるくると回り始める本。

 その頁が切り離され、舞い踊り、炎に、氷に、風に姿を変えていく。

 炎の鬼はそれと異なる性質の炎に焼かれ、氷に包まれ、風に吹き散らされ、その形を崩していく。

 それだけではない。天高くへ飛んでいく頁は、見えなくなったころ、キラキラと輝く星になって落ちてくる。

 特段、威力に秀でた攻撃ではない。だが、この場の誰もが成し得ない広範囲への魔術を、本は踊るように紡ぎあげる。

「これ、は……」

「サーヴァント、なのですか……?」

「当たりだけど外れ。外れだけど当たり。あたし(アリス)あたし(ありす)だけのあたし(アリス)。夢に溢れた童話の世界(ワンダーランド)よ」

 物語を紡ぐように、謎かけをするように語る彼女に、光秀もナガレも疑問の表情をしている。

 そう――彼女はアリス。例外事件の解決から、月で共に暮らすようになった少女――ありすのサーヴァントだ。

 キャスター・ナーサリーライム。

 わらべ歌の具現化である彼女は、召喚者の望み、夢に応じて姿を千変万化させる。

 この本の姿は、ありすにもアリスにもわからないが、恐らくはナーサリーライムの基本ともいうべき姿。

 ありすもアリスも、積極的にこの事件に関わってはいない。

 だが、アリスが自身の霊基を僅か、ありすの術式に注ぎ、二人の礼装を作るという形で、助力してくれていた。

 そのアリスの力の一端は、このように魔本の形を取って現れる。

 この本は力を使用する度にその頁を切り離していく。そのため、力を発動できる時間には限界がある。

 継続して使用できる時間は決して長くはない。

 だが僅かながらも発揮できるサーヴァント相応の力は、鬼の軍勢をいとも容易く制圧した。

「みんな、みんな、転びましょう! リンガ・リンゴ・ローゼス(Ring-a-Ring-o' Roses,)!」

 花弁を乗せた風が、鬼たちに殺到する。

 風にバランスを崩し、足を離した鬼たちは飛ばされる内に花弁へと変わっていく。

 やがてその風は輪の形を取り、僕たちを囲む防壁となった。

「楽しいわ! 楽しいわ! 楽しいわ! お兄ちゃん、もっと遊んでいいかしら?」

「無理はしすぎないで。余力はわかってる?」

「ええもちろん! 次は、あの子たちね!」

 一度起こしたからには、アリスはあくまで子供として振る舞い、無邪気にその力を振るう。

 しかし、それでも彼女は知恵ある存在だ。自身の役割、そして自身の余力は十分に把握しているだろう。

 その上で鬼たちを制圧し、さらに沖田たちの手助けもしてくれるならば、それ以上はない。

「リジー・ボーデン斧取った! リジー・ボーデン気が付いた!」

「お、斧……!?」

 それまでの、幻想的な事象とは真反対の無骨な斧に、ナガレは益々困惑する。

 アリスの詠唱によって生み出されたそれは、回転しながら沖田、段蔵の傍を走り、

「ぬぉっ!?」

「うっ!?」

 龍馬、お竜に直撃こそしないまでも、その肌に傷を刻んでいった。

「お竜さん!」

「おぉ!」

 その一瞬で状況を判断したらしい。

 龍馬の指示でお竜が大きく腕を薙ぎ、沖田と段蔵を二人纏めて吹き飛ばす。

 ダメージにはならないまでも、再び大きく距離が開いた。

「そんな隠し玉があったのか……うん、流石に、これは……」

「まだまだ余裕だろ。何ならお竜さんの逆鱗を突いてもいいぞ」

「いやぁ、それはちょっと……でも……まぁ、そうだな。僕に出来るのは、このくらいか」

 深い傷ではない。だが、基本的に傷というものは負えば負うほど動きを鈍らせ不利になる。

 この戦い始まって最初の目立った傷。

 そして、数を圧倒していた鬼たちを遊ぶように蹴散らせるアリスの参戦を、龍馬は重く見たらしい。

 ――戦況を見渡し、苦々しそうに零れた呟き。そしてその瞬間、龍馬の目が変わった。

「こんな傷なんてことはない。お竜さんの唾つけとけば治るぞ」

「ああ……そうだね。ありがとう」

 龍馬の傷口を一舐めしたお竜に掛けた言葉の声色は、一段低かった。

 あまりにも真剣だった。あまりにも本気だった。

 それまでの彼とは何もかもが違う。

 人の好い性格を押し潰した、もう一つの龍馬の顔。

 それは紛れもなく――坂本 龍馬という維新の英雄の、全力の発露だった。

「……龍馬」

「――――宝具を抜くぜよ、お竜さん。行けるがか?」

 息を呑む。

 宝具――追い込まれるよりも前、この状況で、龍馬はその解放を決意した。

 彼らの盾になるように、僕たちとの間に鬼が出現する。

「果心電装……!」

「それっ!」

 対軍の性質を持った攻撃を有する段蔵とアリスが、道を開くべく鬼たちを攻撃する。

 姿が見えた――であれば沖田が一瞬でその距離を詰められる――そう思った時、

「ッ!?」

「なっ!?」

 腕、足、首――体中に何かが絡みつき、体の自由が奪われた。

 絞め折るほどの力はない。だが、それで抵抗の一切が不可能になる、特殊な拘束。

 アリスの魔本も閉じられ、僕以外も全員捕えたのは、お竜から伸びる髪だった。

「安心しろ。これで人は死なん。これでは、な」

 龍馬の背後に佇むお竜は、無表情のまま此方に告げてくる。

 その不明な性質、謎だったものがとある色に明文化されていくことで、理解する。

 サーヴァントではない存在。しかし何らかの理由で、龍馬に付き従う強力な存在。

 この時点で、予想して然るべきだった。

 ――あの少女こそ、龍馬の宝具であると。

「天逆鉾に()われし国津の大蛇(オロチ)。我成すことは我のみぞ知る――」

 お竜の人の形が崩れていく。

 影のように黒く染まったお竜は、その存在を変転させながら魔力を爆発的に増大させていく。

 十秒も経たず、髪の拘束は溶ける。

 そして――

 

「天翔ける――竜が如く!」

 

 ――龍馬を頭に乗せた、巨大な竜が顕現した。

「ッ……」

 その神秘は、英霊をも超越する神代のもの。

 美しく、荘厳で、圧倒的。最上位のサーヴァントをも超えるのではとさえ思うほどに、強大な神威。

 この世界に在るのには、あまりにも完全。

 世界の方が誤っているのではと思える、究極に近い一。

『我はまつろわぬ神、高千穂の、大蛇……!』

 神秘を乗せて反響するお竜の声。

 これこそが、龍馬がライダーたる所以。

 高い騎乗スキルを持って尚乗りこなすことは不可能とされる、竜種に騎乗するライダー――!

「……気を確かに。あれもまた、地獄の一つなのでしょう」

「光秀……」

 その威容を前に、最初に言葉を出したのは、人である光秀だった。

「あれを討伐できなければ、その先にいる者には届かない。貴方は、これまでも同じような敵と戦ったのでしょう」

 ――そうだ。規格外の敵となら、これまで何度も戦ってきた。

 それとなんの違いがあろうか。

 沖田も、段蔵も、ナガレでさえ、その言葉で折れそうな心を縫い止めた。

「そうね、お兄ちゃん。貴方の大っ嫌いな女王様に比べたら、見た目が怖いだけだわ!」

「……あぁ、そうだね」

 なんと適格な激励だろうか。

 そうだ。打倒が不可能だと決まった訳じゃない。

 サーヴァントの宝具である以上、それは必ず打ち破る手段が存在するものだ。

 ただ、圧倒的な力を持つだけ。特殊な護りなどを持ったサーヴァントより、よほどわかりやすい。

 思わず、笑いが零れた。

 どうやら、どうにも僕の周りには、諦めの悪い者が集まるらしい。

 ここに負けは存在しない。誰もかれもが諦めていない。

 それに――

「――間に合ったわね。相変わらず、置かれた状況はとても厄介みたいだけれど」

 俊足を超える疾風がこの場に来るには、十分な時間だった。

 カツン、と音を立てて、僕の目の前にそれは着地する。

 ――たった三日間。

 だが、あまりにも長すぎる時間だった。

 彼女が傍にいないために苦しみ、それは幾度となく僕を苛んだ。

 ゆえに、その声を聴くだけで。

 その姿を目に映すだけで、涙腺が緩んだ。

「お待たせ、ハク。生きていて何よりよ」

「――メルト――――!」

 ようやくの再会に、心の底からその名を叫ぶ。

 片腕だけだが、力の限り抱き締める。

 その、誰より知った華奢さが、何より愛おしい。

 顕妙連が護ってくれてなお、わかった。

 愛するサーヴァント、メルトとの再会で、全身に巻き付いていた呪いが消えていくのを。




ここまで一切姿を見せていなかったキャラの一人、アリスが(第一再臨で)参戦です。
さらに龍馬は宝具解放。
そしてようやくメルトと再会です。五ヶ月ぶりです。時が経つのは早いですね。
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