Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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人は生まれながら誰もが平等って簡単に言えるほど無邪気じゃない
痛むのは一瞬だけ すぐに慣れてしまうわ
そう割り切れた方がずっと楽だった


■■■『逆光』

 

 

 ――安倍 晴明。

 日本における英雄――とりわけキャスタークラスにおいては間違いなく最強だろう。

 都の守護者。神秘殺し。玉藻の前や酒呑童子など、日本屈指の大化生を数多退治に貢献した術者。

「……おう。アイツを見つけてくだすったのはアンタだったのか。頼光サンがいりゃすぐに気付いたんだろうがよ」

 苦々しげに金時は呟く。

 酒呑童子を暴いたことから金時の仕えた将――頼光と清明は面識があるのだろう。

 だが金時とは初対面だったらしい。

「ええ。源 頼光。素晴らしいお人でした。噂に違わぬ神秘殺し。私としたことが、僅か士官を考えてしまいましたよ」

「そうかい。だが結局同じ釜の飯食う間柄にはなれなかったみてぇだな」

「ですねぇ。貴方のような方を見てしまえば、あの方の下にいながら貴方を暴き、払ってしまいかねませんし」

 開いた左目は、最早瞬きすることすらない。

 かつて出会ったどんな者にもなかった類の瞳。

 あれは――見られてはならないものだ。

 全てを見透かされるような、僕たちとは別の次元のもの。

「……テメェ」

「ああすみません。この左目、人を暴いてしまうのですよ。その者の精神性、隠したもの、私の意思によらず全て視えてしまうのです。それが煩わしくて、俗人どもの前では常に閉じていたのです」

 人を見透かす左目――魔眼とは違う、しかし特殊なる視力。

 清明が清明たる所以――

「私としては右目だけでも十分だったんですがね。世界を見通せる千里眼は便利なのですが、人を暴く獣の瞳はええ――どうにもその人間を壊してしまいそうで」

 世界を見渡す、極めて高ランクの千里眼。

 そして、左目は人を見通す獣の瞳――両目に異なる性質を持つ術者、それが、安倍 晴明という英霊――!

「……テメェっつう外道がいながら、なんでアイツは地獄なんざに従ってたんだ」

「アイツ……? ああ、酒呑童子ですか。茨木童子への義理というのが一番じゃないですか? 私はただ従わせただけで、屈辱からの自害は規制していませんから。それに私は外道ではないですよ、人のための正しき――」

「――オーケー。もういい」

 清明の言葉を途中で止めた金時の瞳に宿ったものは、サングラスを介していても理解できた。

「……オレっちはテメェの気持ちは分からねえ。もしかするとそれはオレが知らねえだけで、人様の正しい性質の一つなのかもしれねぇ」

 出現させた斧を、肩に担ぐ。

 冷静を装ってはいるものの、既にその斧からは弾けた雷による火花が散っていた。

「だがよ。生憎だがオレはそういうのは知らねぇ。頼光サンとこで学んだぜ。テメェみてえな奴が、ぶっ飛ばすべきクソ野郎だってなぁ!」

 溜め込まれた雷が爆発する。

「ぶちかませ! 『黄金喰い(ゴールデン・イーター)』ッ!」

 横薙ぎの一撃は、直撃さえすれば高い耐久力を持つサーヴァントでさえ一撃で粉砕せしめただろう。

 そして、命中を証明するような炸裂音も周囲に響いた。

 ――キャットを踏みつける清明は、ただの一歩さえ動いていない。

 その直前に出現した分厚い鎧を身につけた何かが代わりに受けることで、清明は笑みを浮かべたまま佇んでいた。

「いやはや、流石の膂力です。私の将の鎧を一撃で砕くとは……」

『シャドウサーヴァントの反応……!? これは、そのサーヴァントが!?』

「ええその通り。私はこの地で英霊の影を数多召喚しました。そのうちの十二を我が宝具――『天社神道・十二天将(てんしゃしんどう・じゅうにてんしょう)』にて強化しています」

 あの鎧の中身――今消えていったのは、シャドウサーヴァント。

 そして装備していたあの鎧そのものが、清明のもう一つの宝具。

 自身の召喚した使い魔を強化する、キャスターとしては一般的な部類に属するものだが――

「ッ――」

 清明の周囲に現れた、鎧武者たち。

 全て影。だが、驚くべきはその数と魔力。

 数は十一。

 そして――

『魔力反応、通常サーヴァントとほぼ同値、霊基も同等です!』

 言わば清明一人で、十一のサーヴァントを御しているも同じ――!

「然り。宝具も使えるので、楽しんでいただきたい。皆様のような雑兵の集まりであれば、誰一人退屈はしないでしょう!」

「ッ、全員でいくよ! 合計十二騎とはいえ、負けてられない!」

「ええ――私が術懐を! 補助頼むわよハク!」

「ああ――!」

 キャットは未だ封じられ動けない。

 天国が戦闘に向いたサーヴァントではないならば、戦闘可能なのはアーチャー、アサシン、沖田、清姫、紅閻魔、金時、そして段蔵。

 七騎。数では完全に負けている。

 加えて、僕にミコ、ピエール、光秀にナガレと、戦えない者は多い。

 適格な補助と宝具の使用で、慎重に正確に攻めなければ……!

「アーチャー!」

「チッ……弓兵が白兵戦とはな!」

 両手に銃を持ったアーチャーが、二刀流の影と相対する。

 白と黒、それぞれに刃が付いた銃は剣を相手にすることも可能だが、それでも取り回しには限界がある。

 あの二刀流との差が顕著になる前に仕留めなければ不利になる一方だろう。

「清ちゃん、行くぜ!」

「はい!」

 清姫と紅閻魔は、三人の影を相手にしている。

 紅閻魔はどうやら沖田に勝るとも劣らない剣の腕を持っているようで、複数の剣を相手に的確に立ち回ることで対処している。

 それでも対応し損ねた背後からの一撃を、清姫の炎が防ぐ。

 怯んだ影の首を斬り落とすことで、まずは一騎消滅させた。

「セナちゃん! 補助するよ!」

「――!」

 アサシンはステップを踏むように後退し、相手取る影から離れていく。

 踏んだ地点から広がる波紋。まるでそこが水面であるかのように、魔力で形作られた小魚が飛び出してくる。

 それをピエールが強化。弾丸となり、影を怯ませた。

「くっ……刃がどうにも通らなさそうなんですが!」

「ぶち砕けばいけるぜ。アンタそれで打つの得意だろ?」

「そりゃ斬って駄目なら突くまでですけどね!」

 金時と沖田は、合わせて四騎。

 沖田は鎧の隙間から剣を通し、それでも効き目が悪いと踏んだのか、一か所を突貫する戦法に切り替えた。

 どちらも相手の動きに翻弄されている様子はない。彼らは問題なさそうだ。

「ふ、ふ。私の相手は貴女ですか。いやあ事もあろうに貴女とは」

「その笑いが不愉快よ。散々騙してくれたわね」

「ええ。それが楽しくて楽しくて。同好の士ではないのですか、貴女は」

「やり方が悪辣な上に回りくどいわ。もっとまともな方法を学ぶことね!」

 ――メルトが言える口ではない、とは言わないでおく。

 メルトはその敏捷性を活かし、四方八方から清明を攻め立てる。

 その敏捷を更に強化することで補助するが、有効打にはならない。

 清明が何をしている訳ではない。

 最初に発動された宝具――呪詛の狐がその全てを防いでいるのだ。

「ッ――!」

「メルト!」

 突如として成立した束縛の呪術に合わせ解除術式を起動する。

 戦闘中という、事前の仕掛けも効果を発揮しにくい状況だ。

 ああも狙ったように、メルトの動きを捉えられるのは不自然に過ぎる。

「――宝具か!」

「然り! 我が母の呪詛、『天社神道・葛葉怨起(てんしゃしんどう・くずのはえんぎ)』! 我が母こそが我が術式の代わりを成す! 何を唱える必要も、術具も必要ないのです!」

 キャスターというクラスが有する弱点の一つ、詠唱などの事前準備を抹消する宝具――!

 彼はあまりにも、サーヴァントとして完成されていた。

 術式詠唱から必要な道具までを補う宝具。

 キャスターの手の届かない場所に送り込む使い魔をサーヴァントクラスに強化する宝具。

 そして、操る呪術はその性質から対魔力の効果を受けないとは。

 最上位の英霊を自称するだけある。だが、それでも全能では――

『ハクトさん!』

「ッ!?」

 手が引かれる。

 直後、それまで僕がいた場所に刃が振り下ろされた。

「光秀、すまない……!」

「自分の身にも注意を。まだ影がおりますゆえ」

 ――残っていたシャドウサーヴァントが二体。

 他に比べ魔力量は控えめだが、それでも僕たちにとっては脅威だ。

「天国、君は……」

「……無理ね。精々が囮になれるくらいよ」

「くっ……段蔵……!」

 段蔵は、生身ながらサーヴァントを宿している。

 だが彼女は――放心した様子で、俯いていた。

 拙い、完全に隙を晒している。それを見逃す敵では――!

「段蔵――!」

 盾も間に合わない。

 自身が疑いもなく操られていたこと。

 その事実を受け入れられない。清明は最早、彼女を見てすらいない。

 

 

 ――そしてシャドウサーヴァントの凶刃は、人造の体を貫いた。

 

 

 バチリ、と回線の中身が弾け、跳ねた。

 心臓は外れた。それでも、貫通した刃は重傷を物語っていた。

 そこで終わることもなく、もう一騎の槍が今度こそ心臓を貫く。

「――」

 貫かれた孔から、破片が零れ落ちる。

 木と鉄で作られた、人造なる人型。

「……ナガレ……?」

「っ、……束、縛……!」

 信長に仕えていた、記憶なき少女。

 段蔵を庇った彼女は、意識を手放すことなくそう呟き、内に秘められた機能が起動する。

 武器を伝い、シャドウサーヴァントに向かう電流。

 動きを止めることに特化したそれにより、影は武器を手放し制止した。

「……何を……」

「…………思い出して、しまって。恐らくは、あの方が、偽りの名を、捨てたからでしょうね。……事もあろうに、私のような、日陰者の名を、騙るなんて」

 ――ナガレの名?

「――まさか」

「庇わずには、いられなかったのです。だって……貴女は――」

 清明が名を騙っていたこと、それが、ナガレが本来の記憶を失うきっかけだったとでもいうのか。

 それにより、ナガレが負うべき配役が清明に差し替えられ、それを清明は演じていた。

 であれば、ナガレの真の名。真の記憶は――

「――ナガレ様――居士、様――母上――――!」

 その身の何割かを、半端に絡繰へと変えた少女。

 “加藤 段蔵を作り上げた真の奇術師”――果心居士。

 それがナガレの真名だったのだ。

「大丈夫、段蔵。貴女を共に作った風魔のあの人……小太郎様に学びました。その心の臓、貫かれてからが、人の真髄である、と」

 既に生命活動を行うための心臓は破壊された。

 だというのに、心配させまいとナガレは笑う。

 その姿が、砂のように崩れ去り――

「――はっ!」

 シャドウサーヴァントの背後から、声が聞こえてきた。

 動きを止めた影の頭、鎧の隙間に的確に刃を突き立てた少女。

 その着物を脱ぎ棄て、絡繰の四肢を露わにしたナガレ――居士が、そこにいた。

 胸に孔を開けながらも影を討った、もう一人の絡繰少女――!

「小太郎様にお聞きしました。異国の神代、人形操作に端を発する英霊の座。人の身では耐えられぬものゆえ、絶命を約束された際に動くよう作ったのです」

 致命傷は消えないながら、それ以外。動きも、言葉も、別人の如く洗練されている。

 例えるならば、サーヴァント。それも七クラスに該当しない、独特の雰囲気。

機械兵(マシーナリー)、果心居士。参ります、この命、尽きるまで」

 エクストラクラス・マシーナリー。

 聞いたことはない。恐らく、サーヴァントの中でもごく少数が該当するクラスなのだろう。

 自らのステータスに頼らず、自身が作り上げた兵装を操るクラス。

 居士の場合は、己の肉体そのもの。

 魔力を帯びた仕込み刀でもう一人の影の首を切り落とし、段蔵に並び立った。

「段蔵。今の貴女に、記憶はありませんか?」

「……はい。ですが、その体で分かります。私の作りと同じ……貴女は、真として、我が母上です」

「……こそばゆいですね。母親らしいことなんて碌にしていないのに。最後に出来ることさえ、共に戦うだけ」

「それで、構いません。一緒に戦える――それだけで、私は」

「……ありがとう、段蔵。では、始めましょう」

「御意に――!」

 段蔵と居士が跳ぶ。

 段蔵の腕の機銃が、居士が全身に展開した数多の砲口が、影たちに掃射を放つ。

 怯んだ影。アーチャー、金時が一人ずつその援護を得て討伐する。

 段蔵は速度で勝る。

 だが、体に仕込まれた仕掛けの威力は居士が勝る。

 そして共に、相手の死角に忍び込むような特殊な立ち回り。

 忍びの兵法――風魔の系譜。

「ほう! これはこれは!」

「あの子、あんなに戦えたのね……」

 ミコもピエールも感嘆する、二人の動き。

 倒れた影は六を超えた。残りは半数――!

「ッあ!」

「メルト!?」

 呪詛の狐に弾き飛ばされたメルトが此方に戻ってくる。

 二人が加わったとて、大幅に有利を得た訳ではない。

 やはり清明は強敵か――!

「はは、これはこれは! 目の前で段蔵を殺せば記憶が戻った時の絶望はなお味わい深いと思ってましたが! こういう結末ですか!」

「貴方は知っていたのですね、安倍 晴明!」

「然り然り然り! 絶望するは段蔵の方でしたねぇ果心居士! 所詮は英霊でもなき人の出来損ない、私には勝てぬ!」

 高らかに吼える清明に、しかし隙はない。

 居士の弾丸は一切通用せず、狐の爪が腕を切り落とす。

「ではここまでです! これが終始踊らされた貴女の母の末路だ、段蔵!」

「――果心、電装――」

 何かをしようとして、しかし間に合わなかった。

 出来た事は、段蔵を軽く押し、その牙から逃れさせただけ。

 自身は避けることもままならず、居士は呪詛に喰われ、跡形もなく消滅した。

「……」

「さて、感想は如何です? 段蔵――母の死の」

 悪辣に絆を破壊し嘲笑う清明に、思わず拳を握りしめる。

 人命は彼にとって、玩具に過ぎない。絆もまた同じ。

「……誇らしいですね。私があのような素晴らしい方に作られたとは」

「――ううん。価値観も壊しておくべきでした。つまらない、ただの一点も与えられない感想ですね」

 居士の最後を、段蔵は確かに見届けた。

 そして段蔵はそれを誇らしいものだと微笑んだ。

 絶望することも、憤慨することもなく、ただ誇りのみが段蔵にはあった。

 居士の遺志を受けた段蔵に、清明はつまらなさそうに鼻を鳴らした。

「やはり記憶は壊さない方が吉でしたか。その点では月の二名の方が傑作でしたねぇ」

「え……?」

「は……?」

 なんてこともなく呟かれたそれは、決して聞き捨てならないことだった。

 清明は僕たちの反応を見て、口角を釣り上げた。

「貴方たちですよ。互いを引き離し、互いを想う度に死へと近付かせる呪い。戯れ程度のものでしたが、あれは実に良かった。どちらの様子も見ていましたが、互いに依存した関係でなければああは苦しみませんねぇ」

 ――――今でこそ、あの呪いの影響はない。

 だが、離れた焦燥や苦しさに付け込んだそれにより、死をも考えた。

 あの言い分では、メルトも同じだったのだ。

 両者に呪いを掛けていた。あの山などではない。恐らくは最初に出会った時点で、既にその術式は成立していたのだ。

『そんな……』

「……貴方。そう――どうやらとことん苦しんで死にたいらしいわね」

「それが出来るなら、是非。次は、そうですね……互いの見える場所で甚振りましょうか。死ぬまで、じわじわと。いつ発狂するか、楽しみでなりませんよ!」

「――――」

 理解できた――決してあの外道とは、分かり合えないと。

 理解できた――決してあの外道を、僕は許せないと。

 僕だけなら何をされても構わない。だが、メルトを笑いながら呪った――そんなこと、許せようもない。

 全力で叩き潰す、そこに思い至る前に。

 自然と、清明を指さしていた。

 何故だろうと、その後に考え、一つ、思い出す。

 彼が言っていたのだ。

 ――――“お前が望む時、怒りに任せて敵を指させばそれでいい。言葉なんていらない。それだけで、お前の敵は悉く滅ぼしてやる”

「何ですか? それは」

 意味のない行為だ。こんなことをしている時間も惜しい。

 手を下ろそうとした瞬間だった。

 

 

 ――二つが、この場に降り立った。

 

 

 一つは、彼方から降りた。

 一つは、この場に出現した。

 誰もかれもが、その異変に動きを止めた。

 あまりに濃密な魔力に、息が詰まる。

 空気が一瞬にして圧倒的な重苦しさに変化し、清明の脅威性が感じられなくなった。

『ッ――――皆さん、今すぐその場を離れてください! 評価不可能――サーヴァントの現界とは違います! これまでに観測した不明反応とも異なる、規格外の現象が……!』

「――――」

 寒気がした。

 なんら、危機感を抱いている訳ではない。

 だが、凄まじい何か。

 この場にいるというのに、どうしようもない不安定さに体が無重力空間にいるような錯覚に囚われる。

『か、観測、切断されます! 皆さ――』

 歪みが最高潮に達し、カズラの通信が切れる。

「……ヤベェな、こりゃ」

「あぁ……感じてるか金ぴか。とびっきりのが来やがるぜ」

 金時と紅閻魔が、降りた二つに得物を向ける。

 二人だけではない。サーヴァント全員が、清明を目から外しその現象を刮目していた。

「……マスター」

「ぬェ!? な、なんだいセナちゃん!? ってかキミから話しかけてきたの初めて――」

「下がって。あれは、私たちとは違う」

「……そうだな。とはいえアレとも異なる、最上位の何か、か」

 この場の誰もより、その二つは圧倒的だった。

 清明が、それまでの外道な笑みを消す。その頬に汗が伝い、ようやく言葉を絞り出した。

「……馬鹿な。神霊、だと?」

 この特異点そのものと匹敵するのではというほどの莫大な魔力。

 否、それですら足りない。もしやそれが内包した魔力は無尽蔵ではないかとすら思えた。

 神霊――清明がその単語を告げたと同時、二つの姿が明らかになった。

 ――一つ。

 脚具を外したメルトと同じくらいの背丈の少女。

 長く、青い髪を後ろで束ねた踊り子。

 レースをあちらこちらに散らした衣装を身に纏い、豪奢にして絢爛な琵琶を携えた姿――完璧なまでの造形を、人は女神というのだろう。

 彼女を背に乗せるのは、荘厳という言葉さえ陳腐だろう白鳥。

 その神秘は充分に神獣クラスだ。

 ――一つ。

 その姿は、知っているようで何処か違った。

 細く骨ばった肉体のあらゆる箇所に傷を刻んだ男。

 傷と傷の間を縫うように走る青い文様。

 罅割れた目はその視線だけで世界をも滅ぼせるのではと思わせる。

「――怒りを受けた。約定に従おう、月の民。此度に限り、お前の敵を討ち滅ぼす」

「……シャルヴ」

 それまでの彼とは、何かが違った。

 確かに彼は相当の強さを持っていた。だが、ここまでの神威を纏っていたわけではない。

「……なんだ」

「……お前が、その敵か」

「なんだ、お前は。なんだそれは! ふざけるな! 己を偽るな! そんな地獄を耐え抜ける者がいてたまるか!」

 清明は、憤怒に顔を歪めていた。

 その左目を自ら抉り潰し、体を震わせていた。

「……愚かな。僕を見たか。紛れもない、それは僕の人生だよ」

「そんな事、が、あって……」

「キハハ。キミには気の毒だけど、真実なんだなぁ、それが。私らの頃は、神様より遥かに人間のがタチ悪かったってこと」

 もう一つの明るい声に、古い記憶を掘り起こされたような感覚を覚えた。

 遥か昔。いや、それは時の概念がある場所だったか。

 ともかく、途方もなく遠い何処かで、その声を聞いたことがあった。

「……お前たちは、一体」

 絞り出すような、震える声だった。

 先程のような笑みは最早浮かべる機能さえ失っているようだった。

 そして、聞いてしまった。

 彼らの正体を、清明は問うてしまった。

「……我らは、天の御遣い。七つの守護者。英霊全ての上に立つ、冠位の一」

 厳かに、低い声で、シャルヴは己の正体を告げた。

 英霊の一つ。しかし、サーヴァントに非ず。

 サーヴァントという規格の、遥か上位に位置する者。

「業腹だが、かの決戦魔術において僕はこの座に据えられた。あらゆる射手の、その頂点に立て、と」

 

 

「――“弓兵”の冠位、グランドアーチャー。真名――スーリヤカンタ」

 

 

「――同じく、“騎兵”の冠位、グランドライダー。真名は言うに及ばないよ、キミには、ね」

 

 

 英霊の中の英霊。七クラスの最上位。

 その他全ての上に立つ、究極の一。

 冠位英霊――グランドサーヴァント。

 英霊召喚については、ムーンセルの管理をする上で理解しているつもりだった。

 だからこそ、この事件に際して各時代への英霊召喚をするシステム――サクラ・ノートを作ることが出来た。

 ゆえに、理解できなかった。

 

 ――冠位の英霊などという最上位の重要性を誇るだろう情報は、月の何処にも無かったのだから。




――破壊神降臨

――■■■降臨


ナガレ改め果心居士はここで退場となります。お疲れ様でした。
オブザーバーに続くオリジナルエクストラクラス・マシーナリーです。
詳しい設定とかはマトリクスにて。

晴明は正統派に邪道を混ぜつつシンプルにキャスターとしての各性能が高い感じ。
左目さえ開けなければ多分優秀です。多分。

そして四章における、これから先に向けた最大のイベント、グランドクラス出現です。
まずは二人。グランドアーチャーとグランドライダーになります。
FGOにおけるグランドクラスとはやや設定が異なっていますが、それも追々。
彼らに関しては、あらゆる自重をかなぐり捨てて作成しました。楽しかったです。
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